2024/10/15 のログ
ご案内:「商店街」にリリィさんが現れました。
ご案内:「商店街」に武知一実さんが現れました。
■リリィ >
すったかすったかばいんばいーん♪
茶封筒を手に下手くそなスキップで商店街に訪れた本日のポンコツ淫魔。
――まあ、当然こけますよね。
最早形式美ってなもんで、そりゃもう見事なフォームで宙を舞っての顔面ダイヴ。
膝を曲げて両手は前に真っ直ぐ伸ばし……伸ばし?
「お、お給料っ!」
がばっと身体を起こして叫ぶ。
地面をスライドした茶封筒は、少年の足許で謀ったかのように止まるだろうか。
■武知一実 >
何だそのオノマトペ。
今日は選択制の授業が軒並み自習となったので、早めに下校して商店街でもぶらつくかと思っていたオレだったが。
凡そスキップらしくない擬音が見えそうな程に浮かれ切っている見覚えのある看護士服を見つけ、声を掛けるか否か悩んでいたところ。
看護士が見事にスッ転んだ。ああ、前もああやってコケてたのか。
妙に冷静に納得しつつ、足元へと滑って来た茶封筒を拾う。
……何だか妙に馴染みのあるサイズだ。そう、日雇いバイトの終わりに渡されるような……
「お給料ね……ちゃんと働けたんだな、アンタ」
やっぱりか、と思いつつ茶封筒をリリィへと差し出す。
いや、まだ中身が現金と決まったわけじゃないけれど。もしかしたら「肩たたき券」とかかも知れねえけど。
■リリィ >
「かずみん様!」
揺れる所為でバランスがとれねぇんだ……とポンコツは言い訳をする余裕もなく、消えた茶封筒の行く末を見る。
ご機嫌だった顔が半泣きに、半泣きだった顔が喜色に輝く。
コロコロと表情が変じるが、最終的には笑顔で立ち上がり土埃を払って差し出された封筒を受け取った。
「えへん! ……ん?あれ?ナチュラルにディスられてませんか?」
ばいんっ!と胸を張った直後に瞳を丸めるが、まあまあまあ、今日の(も?)ポンコツは機嫌が好いので細かいことは気にしない。
封筒の口を開いて軽く中身を確認して安堵の息を吐いた後、
少年の姿へ視線を定める。少しの思案。
「かずみん様はこれからご帰宅ですか?
もしこの後お暇でしたら、お買い物に付き合っていただけたらな、なんて。」
学園に通う為、諸々の買い出しに向かうところであるということ、
出来れば先達たる少年の助言がほしいこと。
小首を傾げ、窺うように説明をば。
■武知一実 >
「よう、リリィ」
元気そうだな、と茶封筒を渡してその様子を窺う。
良かった、転んだまま起き上がれませんパターンかと一瞬懸念が過ぎったが、杞憂で済んだ。
「んな事ねえよ、純然たる心からの感想だ」
ディスるも何も、公園のブランコにハマってるか、公園の地面で倒れ伏してる姿しか見ていない。
そんな奴がどうして真っ当に働けると思えるのか。ディスじゃなくて正当な評価だ、これは。
封筒の中身を確認してから、こちらを見据えて何やら思案しているリリィを怪訝そうな顔で見返すオレ。
はたから見れば特異な光景に見えなくもないが、何だろう……オレもう、ちょっと慣れて来た気がする。
「え?……ああ、ちょっと寄り道してから帰ろうかと思ってたとこだが。
暇は暇だし、別に構いやしねえが。何買うつもりだ?」
一体どういう風の吹き回しか。ブランコから身動き取れなかった奴が、商店街で買い物だなんて。
そこはかとなく心配になって来たので、了承しつつ目的の真意を問う。
■リリィ >
尚、当然腹の虫くんは鳴いているが、ポンコツ淫魔の様子を見るに日常の範囲内らしい。
はしゃぎすぎなければまだイケる。まだ、イケる。
「そうですか?? ならいいんですけど……。」
なんとなく引っ掛かるような気がしているようで、喉に小骨が刺さってるみたいな微妙な顔をしているが、どうせすぐに忘れる。ポンコツだから。
というか実際、次の瞬間にはわすれた。
何を、と言われてパァっと前髪の下の瞳がLDEライトばりに輝く。
「やったぁ!ええとですね、学園に通うにあたって必要なものを一通り買いたくて!
具体的に言うと、制服と筆記用具と鞄……ですかね?」
後何か必要なモノあったっけ……。指折り数えて斜め上を見る。
申請時に教えてもらった気がするけどポンのコツなのですっぽ抜けててもおかしくない。
■武知一実 >
腹の虫の声は聞こえないフリをした。いや、実際この時間オレも腹減ってるし。
初対面の時ほど蒸かしてなければ、後で何か食べ物買ってやるか、くらいにしか思わない。
前回の吸精の後に何かあったかは知らないが、やっぱり腹持ちが違うんだろうか……と考察してしまう。
「おうよ、気にすんな気にすんな」
どうせこの印象を覆す様な出来事なんてそうそう起こりはすまいよ。
と、半ば自信満々に思っている間に、思ったより早く気にしない事にしたらしいリリィに、一周回って尊敬の念すら抱く。
……こんな風に生きれたら楽しそうだな、ホントによ……。
「学校に通うにあたって? ああ、申請して許可下りたのか。
てことは、半年遅れくらいで同級生になるんだな……オレの方が半年先輩だ、そういう事なら良いの見繕ってやんよ」
つーかオレが転入してからもう半年も経つのか。
時が経つのって早いもんだ……と、感傷的になってる場合じゃない。
学生生活セットの調達なら、オレも記憶に新しい。ここはひとつ先輩風を吹かせるのも良いだろう。
「とりあえず……そのカッコでうろついてたら人目引くし、制服から……だな」
ほぼ一張羅の様に看護士服に身を包んでる気がする。本職の看護士よりも着てるんじゃねえかって思える程だ。
他に服持ってなかったんだな、やっぱり。
■リリィ >
少年がポンコツ淫魔の生態について考えを巡らせている間、
当のポンコツ淫魔は肉屋から漂ってくる揚げ物臭に気を取られていたりするのは内緒。
平時は兎にも角にも腹へポンコツ。
のほほーんとしてる。のほほーん。頭に生えてるのは角でなく花かもしらんといった風。
「はい!近々初登校ですよー!
といっても、身分欲しさなのであまり真面目に通うかどうかは……ですが。」
正しくは通っている暇があるかどうかといったところか。
ひたすらに食費を稼ぐだけの日々が待ち受けている可能性に内心ひっそりと震えているが、今は気にしないことにする。
未来のことは未来のポンコツ淫魔がなんとか……してくれるのだろうか??
「よろしくお願いします、かずみん先輩。」
兎角、ひゅるりと吹く秋風の中に先輩めいたそれが混じると、ふふ、と口許を緩めてわらう。
「そうですね。
支給品という手もあったんですが、尻尾は兎も角、有事の時に翼出す用の機構が欲しくて。」
借り物のナース服。よくよく見ると背中に繕い痕を見つけられるかもしれない。
先日盛大にビリッとやってしこたま怒られた記憶は新しい。
その時のことを思い出してしまって顔を少しだけ歪めるが、気を取り直して商店街の中を進んでいこう。
確か、教えてもらった制服屋はこっち……いやあっちだっけ?
もしかしたらそっちだったかも……。うろちょろ……うろちょろ……。
■武知一実 >
ふーむ、と鼻をひくつかせながら辺りを気にするリリィを見つつ、思案する。
いつ見ても淫魔じゃなくて淫魔っぽいハムスターか何かに見えてくる。
だが、いくら淫魔と称するには如何せんのほほんとし過ぎているきらいがあっても、間違いなく淫魔だって事は身を以て知っている。
そこで一つ思案していた事があるが、まあそれは今話す事でもねえか。
「身分欲しさでも十分じゃねえか?
籍があるのと無いのとじゃ大違いだしな。けどまあ、通える時に通っといた方が良いとは思うけどよ」
就労の為にこの島での身分が必要、とは聞いていたから真面目に通わないかもとの言には、まあ納得する。
ただ、せっかくなら、という気持ちも無くはない。 学食とか購買とか案内したら面白そうだし。
……ふむ、食費が嵩むから働きたいって事なんだろうが、うーむ。
「おうよ、オレぁまだ1年だから先輩と呼ばれるにはちと早い気もすっけどな」
任せとけ、と大仰に頷いて。
「翼……角と尻尾だけじゃなくて、翼もあんのか。
まあハ……淫魔だもんな、翼くらいあるか」
普段は見ないところをみると、仕舞ってるんだろう。
そういう事ならオーダーメイドする方が良いに決まってる。
さて、直近の目的も決まったところで、いざ制服屋に―――
――――今日中に辿り着ける気がしねえ!
「どこ行きてえんだアンタは!
ああもう、こっちだこっち! 食い物の匂いに釣られんな!」
早くも見てられなくなったオレ、ふらふらと道を逸れていくリリィの手首を引っ掴んで軌道を修正。
というか、このまま引き摺ってく方が早いな。周囲の奇異の視線がちょっと痛いが無視だ無視。
と、リリィを半ば引き摺りながら歩くこと10分ほど。服屋の前に辿り着く。
■リリィ >
両手で茶封筒をしっかり持って、うろちょろしつつものんびりとした足取り。
「できる限り通いたい気持ちはあるんですけどね。
楽しそうですし、知識はあった方がいい――とも思いますし。」
無知は罪なりとは言わねども。
それに、学び舎で友人らと交友を深めるってのも、青春ぽくて憧れる。
雑談まじりに商店街を進む中、
「もうすぐハロウィンですね。」て語るポンコツ淫魔こそが現状コスプレめいた格好。
はてさてこれがどうなることやら。
頷く少年はほんのりと得意げにも見える気がして、眦を和ませる。
「ハ……??
ありますよー。いつもは隠しているんです。
角も尻尾も同じように消せるんですけど、結構疲れるから一番邪魔な翼だけとりあえず、って感じですね。」
ハとは??と首を傾げて不思議そうな顔。
省エネモードらしいポンコツ淫魔。尻尾がゆらりゆらりと揺れている。
「せ、制服売ってるとこですよぉ!
……この時間帯の商店街って誘惑多すぎると思いませんか?」
唇を尖らせながら応ずるが、どうしても意識は食べ物の方へ向くらしい。
痺れを切らした少年の助力の下、件の店へ。道中はきっとぴいぴい鳴いていたに違いない。
「ここがあの女のハウスね……。」※ 言いたいだけ。
ぴいぴいしてた自分は一瞬で忘却し、仁王立ちて店の前。
格好つけてなんか言っているが、口が耐え切れずにやついている。
「早速行きましょう入りましょう!わーい!」
先程までとは打って変わって、今度はポンコツ淫魔が少年の背を押して促す番。
ドアベル鳴らして入店したら、ずらりと並ぶディスプレイに目を丸くした。
「おぉ……結構デザインは自由な感じなんですね。」
セーラー、ブレザー、学ランは勿論、
軍服っぽかったり騎士服っぽかったりファンタジーめいたデザインのものも見つかった。
■武知一実 >
初めての買い物みてえな雰囲気の淫魔に、危うく絆されかける。
いやいや、油断すんなオレ。何がどうなるか分からねえんだからな。油断ダメ、絶対。
「アンタの食事問題さえ解決すりゃ、学校に通う余裕も出来る……んだよな?」
まあ食に限った話じゃないだろうが、この淫魔の当面の問題は食費が占める割合が大きいだろう。
それさえどうにかなれば、多少の余裕も出来るのだろうか。
そんな雑談をしながら商店街を進んで行けば、ちらほらともう間近に迫ったハロウィンの装飾が目立ち始める。
そう言えば、ハロウィンもこの島に来て初めて経験する催事な気がする。研究施設時代には、そういった時季のイベント無かったし。
もう既にコスプレ感満載なリリィに相槌を打ちつつ、ハロウィン当日へと少し思いを馳せる。
「消してるのも疲れるのかよ……
じゃあ文字通り羽を伸ばせる時も必要って事だな」
危うくハムスターって言いかけた、あっぶねえ。
けれどまあ、一度そう見えてしまうとずっとそう見えちまうもんだ。
やたら主張の強い胸も、見様によっては頬袋に見えなくも……ない……かなぁ?
「淫魔が他のモンに、こと誘惑においてで負けんじゃねえよ。
……専売とはいかなくとも、その道のプロだろうが」
思えば誘惑に完敗してる姿しか見てねえな……
ぴいぴい鳴いてるハムスターを引っ張りながら、思わず遠い目になるオレだった。
「………オレを帰して…」(一字違い)
仁王立ちして何言ってんだコイツ、と横目でリリィを見つつ嘆息を溢す。
まあそんなオレのことなど意に介していない様子で、背を押して入店を促してくるリリィ。いや、お前の為に来たんだからな???
「まあな、そもそも制服に関しての校則はだいぶ緩い。
オレだって上着の下にパーカー着てるくらいだし。 だから翼が出せる様になってても問題にはならねえだろ」
て、待てよ? 今更だけど翼って……背中の皮膚から、生える、って認識で良いんだよな?
つーことは、制服だけじゃなくてブラウスから何から上に着るもんは全部翼対応させなきゃならんのでは?
■リリィ >
「そうですね、住居に関しては堅磐寮に入ろうと思ってますから。
そういえばかずみん様のお家は?」
性別関係なし、家賃はほぼ無料という破格の待遇。学生ってすごい。
衣は贅沢を言わなければいいし、住は寮暮らしで解決。問題は食だけだが、如何せんそこが如何にもこうにも。
語る内にふと浮かんだ疑問はそのまま少年へ。
何かと苦労している様子の少年なので、彼も寮暮らしだろうかとぼんやり考えながら問う。
「あるものをないようにするんですからそりゃ疲れますよぉ。
んー……例えば水泳の授業とかで、ずーっとお腹凹ませてるのとか大変でしょう?あんなイメージです。」
ハとは???
微妙に圧を背負いつつも言及はない。
乳に養分を溜めているとしたら、すぐさま消費してぺったんこになっている筈である。
故にポンコツ淫魔はハムスターでなく淫魔である。Q.E.D.
「ぐうの音も出ない正論パンチですね!?」
あまりにも鋭いツッコミに慄いた。
そのくせノるところはノるのだから、
「実はかずみん様って、結構……いえ、かなり愉快なお方ですよね。」
というのがポンコツ淫魔の所感であった。嬉しそうである。
制服談義に花を咲かせつディスプレイを見てまわる。
性差どころか様々な種族にも対応できるよう幅広いラインナップ。
「うーん……ゆくゆくは高性能なものに乗り換えるとしても、
今は最低限シャツの背中に切れ込みが入ってる一番安価なタイプにしておくのが無難でしょうか。」
ブレザーは極力脱ぐ方向で考えている。両方切れ込み入ってたら隙間風がさみぃんだ。
背中の切れ込み以外は極々平凡なシャツと紺のプリーツスカート。赤いネクタイのセットの前に立つ。
■武知一実 >
「あァ? オレは学生街の安アパート。
オレ以外の入居者なんてほっとんど見掛けない様なオンボロだけどな」
学生寮に入るって事も考えなくもなかったが、その場合室内外問わず絶縁加工して貰わないと、うっかり寮全体のブレーカーを落としかねない。
だからちょっと寮からは離れたところに住んでいる。堅磐からはそこそこ近かったっけ。
うーむ、食……コイツの食糧事情なあ……。
「別に、ンなことした事ねえから分からねえよ」
そもそも水に入らねえ。一歩間違えれば大惨事待ったなしなので。
まあその辺の事情を知る由もないリリィには、伝わるかどうか謎だが。多分伝わらねえんじゃねえか。
淫ハムスター魔からの圧力をしれっと受け流す。
うん、やっぱり頬袋に見立てるのは無理があったよな、反省するわ。
「そこはしっかりして貰わんとこないだのオレが不憫だろうが!」
食の誘惑に負ける淫魔の術に嵌ったオレが浮かばれねえんだ。
未だって草葉の陰から泣いてるし、もういっそ面と向かって泣きたくなる。オレの為にも負けてくれんなよリリィ……。
「!?」
愉快が服着て角尻尾生やして乳揺らしてるような奴に愉快な人と思われてるのオレ!?
どこで訴訟すれば良いんだ!? 徹底的にヤるぞコラァ!?
……おっと、ちょっと漏電した。落ち着け落ち着けオレ。ビークール。
奴も悪気があって言った訳じゃ無さそうだし、何だか嬉しそうだし、過剰に反応しないでおこう。
「まあ、有翼……背中に羽根が生えてる連中なんかが着るのを試してみたら良いんじゃねえか?
ただ、着てる間は翼出しっぱにしてねえとただ背中に穴空いただけのシャツになるんだよな……」
おあつらえ向きに試着室もある。
どうせなら幾つか試してみたらどうだ、とリリィを促してみる。
■リリィ >
「あれ、寮じゃないんですね。」
はたりと丸くした目を瞬く。
少年の事情を知らぬポンコツ淫魔は唯々に不思議そう。
そんな薄いイエローの瞳に映るのは、何やら思案に耽る少年の姿なのだろうか。
「えぇ!?完璧な例えだと思ったのに……!
もしやかずみん様、ご自分のお身体によっぽど自信が……!?」
ざわわっ!と戦慄の気配。
半歩身を引いて仰け反っても見せた。驚いてますを体現している。
なんか挟まっとるて。
というツッコミが出来ないもどかしさは空調に浚われ消えてった。
その代わり、いつかの話題になれば顔を赤くする自称ポンコツ淫魔。
「あ、あれは! どちらかというとかずみん様が誘惑してきたんじゃないですかぁ!
わ、わた、わたしが本気を出したらも~それはそれはすんごい……ん、です、から……。」
言葉尻がか細く消えていく。お察し。
真っ赤な顔でもごもごしていると、少年の方から刹那の音。静電気――よりもそれはハッキリ聞こえたように思う。
から、びっくりして思わずそちらを振り向いたのだとか。
「な、何事ですか?
……ええと、えと、はい、そうですね、取り敢えず試着してみます。
どれが似合うか見てくださいね!」
きょときょとしながらも幾つか手にして試着室の方へ。
中に入るとすぐに衣擦れの音が洩れて聞こえるだろうが、然程時間もかからない。ナース服しか着てないんでね。
ということで、程なくカーテンは開かれる。
一段目はセーラー服。コスプレ感がすごい。冬場は別にアウターを買わねばならない。
二段目は学ラン。何故。なんとなくです。コスプレ感。
三段目はワンピースタイプ。赤い細身のリボン。コスプレ感。お淑やかそう。
と、ここまでは順調だったんだけれども、
――カーテンが半分ほど開いて、ひょこりとポンコツ淫魔が顔を覗かせる。
「かずみん様、あの、ネクタイの付け方、わかりますか……?」
手には装着前のネクタイが握られていた。
■武知一実 >
「まあな。寮の方は相部屋になったりすることもあっからよ」
一人で気楽に過ごすなら、やっぱり自分で賃貸アパート探す方が良い。
この事に関してだけは、未だに後悔はしていない。快適快適。
それに、周囲に他の住人の気配も無いのでダチが来てバカ騒ぎしても怒られねえし、夜分に門限を気にせず外を出歩ける。
だから、まあ……
「定期的にリリィが精気吸いに来ても、特に問題ねえっちゃねえんだよなァ……」
うーむ、後はそれを本人がどう思うか、だ。
「あン? 別に人に見られて恥ずかしくは無い程度にはな」
ムキムキではないけど、別に弛んでるわけでも無い。
バイト生活の賜物だと思う。後は単純に体動かしたい時にめっちゃ動かすからか。
そんなに意外だろうか……ああ、パーカー着てるから体型分かんねえのか。
いつぞやの話になったら途端に大人しくなったなコイツ。
「オレがぁ? だからそんな覚えはねえって言ったろ。
まあ、顔立ちもスタイルも良いし、時々可愛く見える時もあるからな、あながち見栄張っての嘘ってわけでも無さそうだ」
もっと自信持て。さすがにオレも淫魔との誘惑勝負で勝った男になるのはちょっと遠慮してえんだよ。
漏れた電気はオレが冷静さを取り戻せばすぐに納まる。
ちょっとだけ髪がぶわーってなるだけだ。ぶわーって。
「あ?気にすんな
おう、行って来い行って来い、ちゃんと見定めてやるからよ」
看護士服が似合ってないわけじゃねえんだから、何着ても似合いそうな気はするが。
試着室へと消えたリリィをぼんやり待ちつつ……って早ェなオイ。
セーラー服、学ラン、ワンピース……何で揃いも揃ってコスプレ感てんこ盛りなんだよ。
似合いはするけども、よ。それで翼出したら完全にコスプレなんだよ。
というツッコミをグッと堪えて、おー似合う似合うと賞賛を送る。ま、似合ってない訳じゃないからな。
と、そんな風に即席淫魔ファッションショーに付き合っていたのだが。
「あ?ネクタイ?
……結び方が分からねえのに持って入るんじゃねえよ、ったく」
バイト先の制服で何度か着けてるから分かるぞ、と頷いてカーテンへと寄っていく。
説明で解るか?オレが着けてやった方が早いか?
■リリィ >
「ああー……なるほど、それは考えてませんでした。相部屋かぁ……。」
世話好き(と、ポンコツ淫魔は思っている)の少年だが、流石に寛ぐときは一人がいいのか。
そんなことを頭の端で思いつつ、相部屋となった時のことを考える。
堅磐寮なら常世寮より確立は低そうだけど、万が一にでも人と相部屋になったとき、果たしてポンコツ淫魔は我慢できるのか。
そもそもポンコツ淫魔と相部屋とか、常時腹の音がBGMになるので苦情が酷そうである。
「そ……れ、は…………もしかして、誘惑してます?」
洩れ出たような呟きに、ぐっと言葉を呑んでジト目。
これも無自覚だっていうのなら、余程ポンコツ淫魔より淫魔らしい小悪魔さではあるまいか。
どうやら身体に自信もある様子。
あれ、もしかして冗談じゃなく負けているのでは……? ざわ・・・ざわ・・・。
「かわっ……さ、さらっと言いますねぇ!?
んんんっ、まあ、あの、えと、……うぅ……。」
何かしら言い返そうとしても言葉が出てこない様子。
ぐむぐむと無意味に結んだ唇を波打たせる。もしかしなくても、負けてる。
気にするなと言われたので、真っ赤な顔で頷いて試着室に引っ込んだのだった。
さてさてそうして制服ショータイム。
軒並みコスプレ感があるのは恐らくボディラインの所為。
セーラー服とかワンピースタイプのものはぼいんにありがちの太っちょに見えるシルエット。
鏡を見てぬん……て顔をしていたんだけれども、ポンコツ淫魔顔負けの少年は都度褒めてくれるからすぐに上機嫌になる現金仕様。
「できると思ったんですもん。」
ぶーたれながらも、そろりとカーテンの陰から出てくる。
ネクタイを少年に手渡して、髪を纏めて持ち上げてるポンコツ淫魔は着けてもらう気満々らしい。
若干恥ずかしそうなのは、胸がパツパツな所為でシャツの打ち合わせの隙間から谷間とかそゆのがチラチラと覗いているから。
リボンでなくネクタイを選んでいる理由はそれを隠すためである。
大きめサイズを着ればいいんじゃない?っていうと、これ以上大きいサイズになると袖の長さがね……。
■武知一実 >
「ま、異邦人なら種族的特徴がとかで前以て話通しとけば一人部屋宛がってくれるんじゃねえか?」
オレん時はそういうとこまで頭回んなかったから、部屋探ししたけど。
とはいえやっぱり今の部屋は気が楽だ。
ついでに元がボロだからちょっと気を抜いて漏電させて畳みとか焦がしても元から焦げ跡だらけで気にならねえし。
「あ?何でだよ。
吸精の方が腹持ちが良いってんなら、定期的にしといた方が食費も抑えれて学校行く暇も出来るんじゃねえかって話だ。」
何処をどうしたら誘惑してる事になんのか。
そもそもンな事してオレに何か利があんのか。
ジト目で見られればジト目で見返すしかない。アンタのためを考えてんだぞ、と。
「事実を隠したり誤魔化したりする必要もねえだろ」
何言ってんだコイツ、と思わなくもない。
可愛く見えるときは可愛い、それは間違い無いのでオレとしちゃそのまんま言っただけなんだが。
試着室に引っ込んだリリィを見送った後も、何となく腑に落ちねえオレだった。
開催されたプチファッションショー。
出て来る時は納得いってなさそうな顔のリリィが何故か得意げになって引っ込むのを繰り返し見るだけの時間。
いや、楽しそうで何よりだが。最終的に決めるのはリリィ自身なんだぞ。
「だったらリボンとかにしとけば良いんじゃねえか……?」
別に無理してネクタイ結わう必要は―――あったわこれ。
カーテンの陰から姿を現すリリィの格好を見て、ああー、と納得する。
いや、何つーか……オレには上手く形容できる語彙が無い状態を見せられている。ボタンとボタンの間から見える肌色は、確かにリボンだと隠せねえなこれ……
……で、オレがネクタイ結わうのね、この状況を面前にして。
いや、良いけどさ……さすがに、ちょっと、気恥ずかしい……
と、後退したくなる気持ちを抑え、オレはリリィの首にネクタイを掛ける。
「まずこう掛けて……片方を眺めに取ったら交差させて、指背押さえたらくるっと巻き付けて……」
ぺしん。
手順を説明しながら実演していたら、図らずもネクタイでリリィの胸を叩いてしまった。
わ、わざとじゃねえよ!?