2024/10/16 のログ
■リリィ >
「! で、ですね!お願いしてみます。」
コクコクと頷き脳内メモ。これは忘れないようにしなければ。
うっかり相部屋の人に手を出してトラブルなんて想像しただけで顔色が青くなる。
無理そうなら少年にオンボロアパートを紹介してもらおう。
と、腹の中で皮算用しているとかいないとか。
「あのですねぇ! わたしのお腹がすく度に傷つけてたら酷いことになりますよ?
かといって、前回はお腹がすくあまりついうっかりしてしまいましたが、く、口で吸うのだって、
ああいうのはあの、その、ふつうひとは深い仲の方々がすることで……って、なんでわたしが説いてるんです!?」
この少年の倫理観どうなっとんねん、とポンコツは思った――。
が、ぷりぷりするけど強くは出れぬ。何故ならばそう、少年には一切利のない善意での申し出であるからして。
ひっそりとポンコツ淫魔は頭を抱えるのであった。
「かずみん様ってお年頃の羞恥心とかないんですか?」
あんまりにしれっとしてるからつい失礼な疑問が口からぽろり。
人生何周目?って、いつか訊ねた言葉が再度胸の内に浮かんだ。
「リボンはちょっと……。」
もごもごした理由は後にすぐ判明した。
谷間で恥ずかしがる淫魔とは? 違うんです、ハムスターじゃないんです、淫魔なんです。信じてください。
まあ、情緒バグってる少年ならばさして気にしないだろう、と、思いきや
谷間には狼狽えるのか……と、恥ずかしいやら解せぬやら。
否、今は少年の手元をよく見て手順を覚えることに集中せねば、と、目線を下に。
胸から下は見えないが、胸の上ならよく見える。
よくよく観察し、真面目に学んでいる最中、
ぺしん。
「……、え、と、……す、すみません、今のところもう一回お願いします……。」
大丈夫だ、わざとだなんて微塵もおもっちゃいない。
が、しかし、其方に気をとられて手元を見るのが疎かになってしまった。
リトライを願ったりしつつも、なんだかんだ無事にネクタイを結び終えることは出来る……かなぁ……?
■武知一実 >
「ああ、多分通ると思うぜ。
何かしら事情がある奴が入る寮って感じもあるし」
男子寮でも女子寮でも上手くない事情を抱えた生徒用の寮。
そんなイメージが強い。別に、それが悪いとは思わねえし、ちゃんと受け皿を用意してんだな、と感心すら覚えている。
だから、リリィが堅磐寮を選んでいた事は、多少は認めてやりたい気持ちがある。
いや、深い考えとか全く無く選んでる可能性も無いでもねえが……
「オレに聞くなよ……
オレぁただ、リリィの経済的負担が少しでも軽くなって、学園生活を楽しめたら良い、ってただそれだけだ。
その為に一肌脱ぐくらい、訳無ぇって思ってるんだぜ?
別に今更普通を気取るつもりもねえし、それでアンタが楽になるってんなら、オレぁ構いやしねえんだ。
……まあ、嫌ってんなら忘れてくれ、結局はアンタの自由だしな」
何を懸命に説いてるのか分からん。
必要だから必要な事をする、それだけのこったろうに。
けどまあ、口付けに関しては確かにリリィの言うことも一理あるかもしれん……けどもう、いっぺんやっちまってる事だしなぁ……。
「あァ? オレを何だと思ってんだ、そりゃ人前で素っ裸になるとかそう言うことは出来ねえぞ?」
年頃の羞恥心……って、具体的に、どういう……?
そもそも他の奴らが何を恥ずかしがって、何が平気なのかとか気にした事も無かったな……
「ああ、分かった。確かにこりゃネクタイの方が良いわな」
オレだって隠した方が良いと思う。絶対。
とはいえその隠す為のネクタイを人に結ばせるのはどうなんだ……?
手元を見る以上どうしても視界には入って来るし、これこそさんざリリィの言ってた“誘惑”なのでは……?
そんな事を考えていた所為なのか、リリィの集中を途絶えさせてしまった。
いや、違うんだ。自分でやる時は今ので胸に当たるなんてことねえんだ。本当だぞ。
「ああ、悪い……じゃあもう一回な。
ここを、こう巻い……てッ。ふぅ。
そんで指で押さえたら、後は下から首元に出来てる輪をくぐらせて、巻き付けた時に出来た輪にくぐらせ……」
シュルゥ。
ネクタイとシャツが擦れる音がした。
図らずも今度はネクタイで撫で上げる形になってしまったらしい。
……ここまで来たらあとは自分で最初からやれねえかなあ!?
■リリィ >
少年にはタイミングがなかったので告げてはいないが、このポンコツ淫魔、無性というか両性というか、どちらにでもなれるというのが堅磐を選んだ理由。
ともあれ、お墨付きをもらって安堵しつ。
「知ってはいましたが、あまりにもお人好しが過ぎて段々心配になってきました。
嫌ってわけではぜんぜんないですし、むしろ有り難すぎて涙が出てくるんですが……
せめてこう、なにか対価を求めてください。無償で頂くのは心苦しいですし、悪魔的にもちょっと……。」
苦いものを噛んだかの如く表情が歪む。
正直言うと、少年の申し出は助かる。此方から土下座して懇願するレベルで有り難い申し出だ。
しかし、おいそれと差し出していいものでもない。言うなれば悪魔憑きになるようなものだ。
ポンコツ淫魔に出来ることは数少なくとも、定期的に吸精が叶うならば多少それも幅広くなる、はず、だし。たぶん。おそらく。きっと。
「いえ、そういうことではなくてですね?
というか、かずみん様の恥ずかしいポイントってそこなんだ……。」
真顔のツッコミと、それを追う小声の呟き。
なれば谷間は確かに少年的羞恥ポイントなのかもしれない。
今更ながら悪いお願いをしてしまったと申し訳なく思うも、時既にオスシ。
緊張と羞恥は伝播する。
ネクタイを結ぶ手はもしかしたらその片鱗を鼓動に知るかもしれないが、さて。
そんなことよりも、気を取り直して集中――
「ッひ、ぅ、」
していたのが仇になる。
肩が跳ね、声が上擦る……のを、辛うじて唇を噛んで耐えた。
耐えたが、その代わり顔が真っ赤だし若干泣きそう。淫魔とは?
「あっ、あ、あと、あとは、わかります、から……っえと、
くぐらせて、こう……きゅっとして、固定して……後ろも……こう、ですよねっ!」
慌てて髪の毛を持ち上げていた手を少年の手へ重ね、崩さないように結びかけのネクタイを受け取る。
拙い手付きは元々だが、指先が若干震えてるので余計にまごつく。が、殆ど完成している状態なので問題はない。
結び目を整えて「どうですか?」と出来上がりを見てもらおう。
■武知一実 >
「リリィに心配されるんじゃオレもまだまだだな。
対価……言われてみりゃ、確かにそうだ。
こないだも結局ツケにさせた訳だし、んー……」
リリィの言うことも一理ある。というか、ほぼ正論だ。
オレとしてはリリィが楽しく学園生活を送ってくれれば良いんだが、それで納得して貰えない気はするしな……。
「なら、こうしよう。
薄々感付いてるかもしれねえが、オレは性欲とかそういうもんにどうも疎いんだ。
けど、こないだアンタの吸精を受けた時に、少しずつ感覚的に解って来たような気がしてな。
だから……オレがちゃんと自分の性欲を把握するのを、手伝って欲しい。
……じゃ、ちょっと無理筋か……?」
ぶっちゃけ自信は無い。けれど、今オレがひねり出せる精一杯ではある。
それを納得してくれるかどうかはリリィに懸かってるし、もし別案をと言われたらどうにかして考えてはみるところだが。
「違うのかよ。
……何だよ、普通人前に肌を晒すのは恥ずかしいもんだろ?」
とはいえ上半身くらいなら見られても恥ずかしくない辺り、性差は出ると思うが。
他に、となると……ああ、肌を晒されるのも何だか気恥ずかしいな。
ああ、だから今のリリィに対して居心地の悪さを感じてるのか。
「……ッ、わ、悪ぃ」
不可抗力だ不可抗力。
思わず釣られて赤面しちまってる気がする、何だか顔が熱い。
「お、おう。そう、そうだな。それで合ってる。
お、覚えたか?今度は一人で出来るよな?」
まごつく手付きでリリィがネクタイを結んで整えるのを確かめて、何度も繰り返し頷く。
そんなわけでボタン間の露出は隠されたわけだが、ネクタイというワンポイントのお陰で自然と視線が誘導される。
改めてみるとホントパツパツだわ……よく詰め込めたな。
あと注意点があるとすれば、下着は色の濃いものをしてると透けるから気を付けろ、って事くらい。まあ、意外にもリリィは問題無さそう……?
■リリィ >
「あまりにもナメられてて遺憾の意を表明したいところですが、
わたしも自分が醜態ばかり晒している自覚はあるので、ぐぅ……!」
自覚があるので、せめてぐぅの音だけ出しておいた。
悲しすぎる。
目が若干死んだが、しかし、少年が何やら思いついたようなので現世へと帰還し背筋を伸ばして傾聴の姿勢。
「ふむぅ? 確かに、何やら変わったリアクションをするなぁとは思っていましたが。
性欲に疎い……疎いだけで、ないわけではないんですね。或いはそれを確認したい、のでしょうか。
世の中にはアセクシャルという、所謂無性愛者と呼ばれる方々もいらっしゃいますが。」
出会ってから今までの出来事を思い返しながら、真面目な顔して考察。
薄いイエローの瞳が少年を見つめる。
年頃の少年だ。その辺りの悩みは深刻だろう。となれば、
「わかりました。
それならわたしの吸精もお手伝いの一環ということになりますし、その条件で手を打ちましょう。」
これならば少年が嫌になれば「もうわかったからいい」とでも言えば打ち切ることも心理的にも容易だろう。
ということで、負担にならない程度に今後のことをお願いすることに。
まあ、年頃の羞恥心どうのに関しては……性欲というより恋愛観の話になりそうなので今は言及するのは止める。
そっと生温かい目で少年を見るだけにしておく。にこ……。
「い、いえ、わたしの方こそすみません……。」
打って変わってもごもごし出すのは仕方がないったら仕方がない。
が、釣られてだったとしても、顔を赤くしているのを見れば先の話題もそう無理がある話ではないように思えた。
と、無理矢理羞恥を理性で上塗りすることで落ち着くべく努める。
どうにかネクタイを結び終えて、OKも貰って安堵した。
「あの、あんまりそこを凝視されると、ちょっと、あの、恥ずかしいといいますか、」
明らか下心がある視線とは違う分、変に意識してしまうというか、変に意識している自分の方が恥ずかしいというか。
兎も角、OKも出たことで首を捻って後ろを確認。
「ちょっと翼出してみますね、少しだけ離れててください。」
最低限の広さの試着室から出て髪を前に寄せてから翼を解放。
角と同じ色味をした、蝙蝠めく飛膜の翼がもこりと生える。シャツの切れ目辺りは伸縮性もあって、付け根が多少窮屈だが問題はなさげ。
「ん。大丈夫そうです。安いし制服はこれにしようかな。」
確認を終えたら試着室へ引っ込む。
少し時間がかかるのは、中でネクタイの結び方を復習していたからだ。
再びカーテンが開いて出てきたポンコツ淫魔は既に翼を消していつも通りの角と尻尾だけのスタイル。
「買ってきますね!」
跳ねるようにして会計の方へ。シャツは数枚買っておく。靴下とか細々したのもひっそりと。
戻ってきた淫魔はそりゃもうニッコニコのぺっかぺかであった。笑顔が輝いている。
「えへへー。私物ってはじめてです。学園に通う為のものとはいえ、嬉しいものですね!」
■武知一実 >
「自覚、あったのか……」
醜態というほど醜態でも無い気はするが。
……いや、でも……醜態か?一般的に言えば醜態……だな?
……うん、悪い、やっぱフォロー出来ねえわ。
「無い訳ではない、と、思う。
いや、知識としては分かってんだ、けど、実感が伴わねえと言うか……
クラスで同級生がグラビア見て騒いでんのも、ふーん、としか思えなかったっつーか……
無性愛者……とか、そういうのとはまた違うと思うんだよな、いや、あくまでそう思いたいってだけかもしれねえが」
例えはちょっとマイルドにした。
実際のところ、誰々の胸がデカいとか、そういう話に気が乗らなかった、とかそういう話。
淫魔とはいえリリィの性格上、そこまで明け透けに言われても戸惑うだけかもしれねえし。
とはいえ、納得はして貰えたようで何より。
しかし結構勇気要るもんだな、こういう話すんのって。
「ああ、サンキューな。
ま、リリィは楽しく学生生活を送る事を考えててくれりゃ良い、オレの悩みはオレが何とかすっからさ」
少なくとも、何かしらの進展を得られると思いたい。
吸精の時のあのゾワゾワする感じ……もっと突き詰めてみねえと。
そんな事を考えていたら、何だか生温かい目で見られている気がした。
え、ちょっとなんだよ。何だか分からねえけどだいぶイラっとすんぞそれ。
「自分でやる時はどうやっても宙を切るだけだから……
ま、何にせよこれで覚えて貰えたんならオレも頑張った甲斐があったってもんだわ」
リリィ同様に無理矢理理性を動員して何事も無かったかのように笑う。耳がまだちょっと熱い。
何故だかリリィの顔を見ることが出来ず、誤魔化す様にネクタイ……を見てたわけだが。
「えっ、あ、ああ。そりゃそうだよな、悪い……!
よくボタン止められたな、とちょっと感心しちまってた」
慌てて視線を上げる。そもそもネクタイが合うかどうかが目的じゃなかったはずだ。
背を向けるリリィに言われた通りに、少し離れて様子を窺う。
すぐに、背中の切れ目から蝙蝠のそれに似た翼が現れた。
……ホントに翼もあったんだ、正直今まで半信半疑だったわ。
「ああ、大丈夫みてえだな、良かった良かった。
にしても翼か……空飛べるって言ってたのも、納得だわ」
べ、別に羨ましくなんかねえぞ。空くらい、いつかオレだって飛べる……ように……ならねえよ、うん。
制服を決めたリリィが、再び試着室のカーテンを閉ざし再び出て来るまでの間、オレも冬物の上着を検分しておく。
……最近めっきり朝夕涼しくなったしな、厚手のパーカーでも窮屈にならねえような上着が欲しいよな。
と、少ししてリリィが試着室から出て来た。
会計をしに行くという言葉に頷き、その背を見送る。
……うん、やっぱり露出が少ない方が安心すると言うか。
会計を終え戻って来たリリィは、はじめてのおつかいを大成功で終えた子供の様な顔をしていた。
「まあ、その気持ちは分からんでもないわ。 オレも、初めて自分のもんを自分で買った時は嬉しかったもんよ。
……そいじゃ、このまま鞄と筆記用具か。見に行こうぜ」
■リリィ >
「さすがに泣きますよ?」
スン……。
チベットスナギツネみたいな顔になっているが、冗談である。半分くらいは。
泣くほど悲しくなんて……ないやい……。
「実感……、」
と、いうことはつまり、成る程所謂チェリーボーイというやつか。流石に口にはせねども、理解したとばかりに小さく頷く。
それにしたって年頃なのだから、処理したりなんだりと実感を伴うこともあるのではないか。
はたまた何か事情があるのか。一先ずこの場では思案を巡らせる程度に留めるが。
「いえ、決めたからにはきちんとお手伝いします。
かずみん様が思っている以上に、糧を得ることが出来る、っていうのは、わたしにはすごく大きいことなんですよ。」
その辺りも追々説明していくとして、今はふんすと気合と決意を表明する力強い吐息をひとつ。
このポンコツ淫魔が張り切った場合――どうなるのかは、今後のお楽しみ。
「まあ、そうですよね、えぇ、わかってますとも。
でもおかげさまでしっかりばっちり目に焼き付け……ましたから!」
この後試着室で復習もしたし大丈夫。きっと。大丈夫なはず。
「ああー……大きめのサイズを選んでますからね。
ただ、思いっきり背中逸らしたらボタン弾けちゃうかもしれないので、気をつけなくちゃ。」
大きいは大きいで難儀なものだ。どうせ性別をどうこうできるならそこら辺も調整できればいいのに。
唇を尖らせて内心不満を零していれば、視線を上げた少年と目が合うか。
反射みたいににこって笑ってから翼のチェックに向かったのだろう。
「ふふーん、どうです? 淫魔っぽい?」
少年の反応にご満悦といった風に胸を……張りかけて止める。
試着の服のボタンを万一にでも弾けさすわけにはいかない。
そんなこんなで多少時間がかかったから、アウターを見る隙も十分にあっただろう。
出てきた時に目撃した少年の目線を辿って「買うんですか?」なんて訊ねたりもしたかもしれない。
そうして制服の購入を済ませた後。
「お買い物って楽しいですね。かずみん様の初めての私物はなんだったんです?」
楽しげに雑談を交わしながら少年の言葉に促されて店の外。
十月も半ば、時折吹く風はひんやりしているが、楽しい買い物にテンションも体温もあがっているから気にならない。
それに乗って香るおいしそうな匂いも今は心惹かれる様子もなく。
ただ、「文房具屋さんってこっちでしたっけ?」とやはり道順はあやふやなので、また少年に先導してもらうことになるだろうか。
筆記用具や鞄以外にも、少年がおすすめするものがあったら迷わず購入する心算。
そうしてたっぷりと時間をかけて済ませたらいい加減互いのお腹も不平不満を零しているだろうから、お礼も兼ねて、本当にちょっとしたものだけれども、あったかくて美味しいものを御馳走させていただいたことだろう。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
■武知一実 >
「こんなとこで泣くな……いや、さすがに冗談だとは思うが」
さすがに店の中で泣くのは子供だけで頼む。
それに良い年した淫魔が服屋で泣く姿と言うのは、なかなか想像し難いものがある。
「ま、詳しい事は買い物終わった後にでも、な?」
ある種の契約を結んだのだから、隠し事は無しにしたい。
いや、元々隠すつもりなんて更々無かったけども。話す必要が無いと思っていただけで。
……何だか変な方向に理解を得られている気もするが、まあ間違った理解じゃないだろうから今はスルーだ。
「そういうもんなのか……
ま、自分の事ながら気長にやってく心算だからよ、リリィの方が気負ってるなんて事にはならねえようにな?」
ちょっと頼もしく見えてしまったが、コイツは公園のブランコにハマる淫魔である。
まあ、空回り過ぎるってことは無いだろうけれど、暴走はしない様に見張っておきたいところだな。
「おう、そりゃ良かった。
ま、もし分かんなくなったら聞いてくれよ」
オレの方も不本意ながら目に焼き付いてる事は否定しない。
振り払おうと軽く頭を振って、念仏を唱える様にネクタイの結び方の手順を再度思い浮かべる。
「そうなのか。
まあ、男でも胸筋鍛えすぎるとボタンが飛ぶって言うしな。
あ、万一飛ばした時は言ってくれよ、裁縫も出来るからよ。ボタン付けくらい余裕余裕」
一人暮らしには何かとスキルが求められるもの。
だからと言って安易にボタンを飛ばさないで欲しいが。
百歩譲って出来ればすぐ対応できるときに飛ばして欲しいが。
「淫魔っぽい……と聞かれても、オレは淫魔の実物はリリィしか知らねえんだっつの。
アンタが自分が淫魔だって言う限り、オレはアンタを淫魔のスタンダードとして見るからな」
淫魔っぽいかどうかは分からないが、翼が生えた事で一層異種族感は増した気がする。
なるほど、人間とは異なるんだなあ、と今更ながら感心したり。
アウターも近い内に買いたいが、今日は持ち合わせがそんなに無い。
次のバイト次第だなあ、とリリィに答える。その時は一人で買いに来るのか、はたまた。
「そうかい、そりゃ良かった。 初めて買ったもの……ええと、確かパーカーとボディバッグ。どっちもまだ家にあったはず」
なんせまだ半年も近くしか経っていない。特別物を大事にする性分って訳でもないが、そんなにすぐには駄目にしねえさ。
来る時以上にテンションの上がったリリィと共に店を出れば、さて次はと歩き出す。
……すぐにキョロキョロし始めたリリィをまたしても引きずるように案内し、文房具、鞄とその他雑貨などを見て回って。
その後、リリィに押し切られる形で食事を奢って貰ったのだった。
……まあ、これからの事を考えれば今日くらいは奢って貰うのも悪くはない、かな。
ご案内:「商店街」からリリィさんが去りました。
ご案内:「商店街」から武知一実さんが去りました。