2026/02/27 のログ
■兎隠 悠真 > 自販機といっても、スイーツそのものが売っているわけではない。
ずらりと並ぶ色とりどりのプラ製チケット…そしてその下にいろいろ書いてある。
『パンケーキ小』『パンケーキ大』
『ウインナー3本』『バター(トッピング)』『ベリー(トッピング)』
『期間限定:紅ショウガ』『期間限定:黒蜜黄な粉』
さらに下に目をやる。購入ボタンの下に、めちゃめちゃデカい文字で
以下の文言が荒々しく記されていた。
『※※※※※※※※注意※※※※※※※
当店のパンケーキは通常のお店の3倍あります!!!!!
初めての方は小を選択してください!!!!』
『トッピングは席についてからお伺いします!!!!』
「スゲー。」
さすがにびっくりした。 こんなにいっぱい!マークがあるってことは、
きっとちゃんとお店のいうことを守れない人たちがいるのだろう。
死ぬほどビックリマークついてるし。
「…。」
少し考える。自分だってバカではないし無謀ではない。
いきなりお店に迷惑をかけるのも失礼だ。
お店のルールをきちんと守ってこそ、お客さんと店員は良好な関係であるはずだ。
「えい。」
パンケーキ小。バター。黒蜜黄な粉。
まあこんな感じだろう。
お金を入れると、からからと音を立ててプラ製のチケットが自販機から吐き出される。
それをもってちょうど空いた席に移動し、カウンターに置いた。
その時、一瞬お店の客たちがこちらを見た。
視線を感じたのだ。 何かいけなかったのだろうか。
それとも……オレがかわいいから!?
中学生の自意識では、自分を見る目に憐憫が込められていたことに気づけなかったのだ。
■兎隠 悠真 > 小さくジャズが流れる店内には、
料理をする音、そしてお客さんが一生懸命ケーキを食べる音、
そして時々嗚咽が聞こえる。
『手ぇ…手が動かねえよお…!!』
『食べるんだろ!!食べて…試験受かるんだろ!!
ドカ食い平然部の!!行くんだろ甲子園!!』
『でもお…俺、血糖値がビキビキになってんのがわかるんだあ…。
眼ぇ開けてられねえよ…』
『血糖値スパイクなだけだ!!しっかりしろ、手を動かせ…!!』
『あと何口だぁ、あと何口残っ……』
『しっかりしろ!!おい!!』
戦争かな? 悠真はちょっとビビった。
そうしてそわそわする時間を過ごすことしばらく…。
頭にタオルを巻いた店長がこちらを見て口を開いた。
『トッピングは』
「えーと……。」
デスグルメを読む。
「カタ、クリーム、メープル抜き。」
回りのお客さんがざわついた。
(カタでクリーム、メープル抜き……?
つまりよく焼きでしっかりした食べ応えとなったパンケーキを、
クリームのみで流し込む算段なのか?
バターのオイル感と塩味だけではパンケーキの量に負けてしまう、自殺行為に等しい!
いや……しかしバターのほかに黒蜜黄な粉もトッピングしている…。
甘さと液体感はメープルに劣るが、なにしろ黄な粉の風味がいい。
しかし黄な粉だってお腹を膨らませるというデメリットがあるんだ…。
まさか、もしかしたらこの子は…”慣れている”のかもしれない…!!)
■兎隠 悠真 > そして『敵』がやってくる。
目の前にどかんとおかれたパンケーキは、分厚い。
それが5段。
全体が黒と黄色、そして白に彩られているのは、
クリームと黒蜜、黄な粉なのだろう。
じゃあ、とお皿に手をかけたところで、
店員さんに制止される。
店員さんの手には、アイスをすくうやつ。
お玉のような形にレバーがついてる、アレだ。
そこにみっちりと詰まっているのは…バター!!!
「お”お”ッ?!」
どん。 脂の塊のはずなのだが、その数百倍の質量がある…。
そんな印象をもって、バター塊がパンケーキの上に”着弾”する。
『パンケーキ小、クリームマシメープル抜き、
バターと黒蜜黄な粉トッピングお待ち。
…行ってらっしゃい!』
「あ、あざす」
若干呆然としながらそれを受け取る。
両手で持っているのに…お皿が重たかった。
何とか自分の前に置き、端末で写真を撮る。
ついでにパンケーキと一緒に自撮りもしちゃう。
これからパンケーキ食べちゃいまーす!な感じである。
回りのお客さんたちは、悲しそうな目で悠真を眺めていた。
かわいそうに。今からあの子は胃袋をパンケーキに散々に蹂躙されて、
食べることへの愛情を粉々に破壊されて、沈痛な面持ちでお店を去ることになるんだ…そういった目であった。
■兎隠 悠真 > 十数分後…結論からいうと悠真は勝った。
中学生は無限の胃袋を持っているのである。
ましてや男児たるや。
中学生のボーイ数人がご飯を食べることになったとき、
唐揚げ1キロ、ご飯一升が消滅したという話を聞いたことはないだろうか。
これは紛れもない事実であり、悠真も例外ではないのだった。
「ふはー!おいしかったー!ごちそうさまでした!」
両手をぱしっと合わせて頭を下げる。
『…あっした!』
店員さんの御礼、そしてお客さんたちの拍手。
『いいもん見せてもらったよ』
『お嬢ちゃんやるね。この黒ウーロン茶はサービスだ、持ってきな』
『すげえな…途中から、俺ぁ目ぇがかすんで…眠くて…』
『血糖値スパイクだぞ!!』
「えへへー! どうもどうもー! ありがとうございまーす!」
お客さんの歓声?に元気よくポーズをとってから、入口に立ち…
くるりと180度向き直って、店員さんとお客さんに頭を下げてお店を出る。
でもちょっと帰りの足取りは重たかった。
お腹いっぱいだから。 黒ウーロン茶を飲みながら、
腹ごなしに適当なお店を眺めて回る。
中学生の好奇心はまだまだ尽きることがないのであった。
ご案内:「スイーツ処『クリ次郎』」から兎隠 悠真さんが去りました。