2024/09/29 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
今日は、買い物にやってきた。
姉がファンな、音楽家のCD。

「えーと、ノーフェイス、ノーフェイス……」

どこにあるんだろ、と呟きながら。
はるばる、家の近くではなく、ここまでやってきたのはプレゼントをしたくて。

夜に話をしたときは、元気が無さそうだった。
きっと明るく振る舞おうと昨日はしてくれたけれど、なんだかぎこちなく取り繕うようだったし、少しでも元気を出してほしい。

「ノーフェイス、ノーフェイス」

ぶつぶつぶつ。
姉が、テンション高かった日を思い出す。
こっそり、教えて貰ったのが大ファンの人に会えたということだった。

まるで呪文のように呟きながら、広いショップ内をうろうろうろ。

伊都波 悠薇 >  
果たして、そのアーティストのものはあるのか、あまりこの界隈に知見が広くない自分にはわからない。
から、足で探しに来ているわけだけれど。

客「あ、あったあった。これ」

声が聞こえて、そっちに向かってみて覗く。

違った……

しょぼん、肩を落とした。

「あればいいけどなぁ」

ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」に血色の髪の女さんが現れました。
血色の髪の女 >  
「なにかお探し?」

不意に背後から声をかけたのは、男か女か曖昧な声域の声。
いやに目を引く髪と瞳と顔立ちか、モノトーンの格好に身を包み。
薄いシェードのサングラスの奥から好奇の目が注ぐ。

「新譜のコーナーはあっちだケド」

違う?と、白く長い指が指が示したのは、さっきまで少女がいたところ。
悍ましいほど整った顔だ。その顔に、整の印象を得るか、負の印象を得るか。
如何に傾くか。

伊都波 悠薇 >  
「ノーフェイスノーフェイス……」


ぶつぶつ。

考え事をしながら、そういえば、昨日姉が言っていた。
大事な人が犯人だったと。

ーー犯人、か。

普通じゃないと自分も思う。
姉が、理由はなんであれ、追いかけた人。
いいなと思ってしまうのは、なんとも普通じゃない。
じゃあ、犯罪者になればいいのかといわれるとそんなわけはなくて、ただ、気持ちとしていいな、と思うだけだ。

「……ない、かなぁ」

そも、販売していないのかもしれないし、作っていないのかもしれない。

「本屋さんでもよってかえろうかな」 

探してみることに価値があった。
そう思うことにして。

移動しようと思った矢先だった。

「ひゃだばい!?」

声をかけられて、変な声が出た。
ぴーん、と身体が伸びた。

でも、なんか聞いたことがあるような?

(び、美人だ!?)

思ったのはまず、そこ。
なんか、不思議と『初対面のような気がしなくて』。

「あ、えと、その。ノーフェイス、のCD を探してて」

知っているのは名前だけ。
だから、『気づかず』。

自然とそう、返した。
本当は見ず知らずの人に、つい。

血色の髪の女 >  
「すっ……」

げぇ!とまで口に出さなかった自分を褒めたい。
振り向いた彼女の――顔立ちもそうだが――圧倒される戦闘力に思わず息を呑んだ。
あまりにも、あまりに過ぎる。手に余る。おとなしそうな顔とのギャップがまた――
……首筋にずきっと痛みが走ったので煩悩を祓っておく。危ない危ない。

「あー」

名前を出されると、細顎に手を当てながら、知ってる知ってると言いたげに視線が上に動いた。

「……フフフ。キミ、普段あんまりCDとか買わない娘?」

と、微笑みながらに問うた。
CD――大変容より数十年、デジタルデータの高度化によって隅に追いやられている文化だ。
言ってみれば、マイナーな媒体。買いに来る奴は、基本詳しい。

「そいつの歌は、ネットで配信されてるはずだケド。
 あえて実媒体で欲しがったのは……身近なとこにファンがいる、とか」

あんまり楽しそうに見ていた感じもしなかった。
お、めっけもん。棚からちょっと古い感じのCDを引っ張り出しながら。

伊都波 悠薇 >  
目についたのは、包帯。
首。大丈夫かな、と思いながら、前髪を整えて、目線を隠す。

「あ、えと。はい。姉が大ファンで、私も何回か曲を聞かせて貰ってるんですけど、その、上手で素敵だなと思うんですが……姉がいうには、音楽はまだお子ちゃま耳、といい、ますか」

緊張してうまく口が動かない。
久々だ。完全の初対面……ぼ、ぼっちには、レベルが高い。

「……えと、音楽、好きなんですか?」

手に取った古いCD。古いものに手を出す=音楽好きの、印象だ。
もどもど、どもりながら質問。

血色の髪の女 >  
どうやら大ファンのお姉さんがいるらしい。会いたいなあ是非にも。
ひどく嬉しいので、むずむずと口角が上がりかけるのを必死に耐えて余裕面を作った。

「ん……じゃあ、その素敵だな、ってとこ大事にして。
 感覚でいいんだよ。なんとなくで。色んなの取っ払った一番奥の奥で。
 聴いて欲し……聴けばいいと思うかな!
 ……不法入島者だ、って話だからねー。店頭にCDはならんでないんだよ、確か」

裏面確かめ、これ買うか……と籠へイン。

「……お誕生日?それともケンカしちゃった?」

妹から、姉へ。
それも学生の時分で、贈ろう、っていうのは少し特別な感じがする。
視線だけをついと横に動かして、すこし間をあけて問うてみた。

「んー。……どうだろ。間違いなく嫌いではないし好きなんだけど。
 あえて好きだというには、身近すぎるのかもね。
 キミにはある?そういうもの。……あ、好きなもの、でもいいケド」

伊都波 悠薇 >  
「そういう意味なら、私も、ノーフェイス……ーーさんのこと好きかも知れないです」

音楽に深い人なら、呼び捨てしたら失礼かもしれない。もしかしたら、目の前の女性も好き、かもしれないし。
だから、さん、を付けることにした。もちろん、曲の話。
思い出した曲に、頬が緩み、少し、首を左右に揺らしてリズムを取る。
覗く、左目。泣き黒子。

「並んでない、ですか。

あ、いえ。最近、嫌なことというか元気がないことがあったみたいで元気だしてほしかったので、そのプレゼントに。」

並んでないときくと、がっくり。
見るだけでわかるくらい、肩を落とした。
そう、なんだ。不法……

「あ、えと、本をよく読みます。身近、なのは……ないかも、です。生活、人生の一部、みたいなのは」

ついつい。話してしまう。

血色の髪の女 >  
「そぉー?
 ……イイんじゃない。そこにいるワケじゃないんだ。
 敬称で呼ばわるよか、曲にまっすぐ向き合ってくれるコトが、音楽家への敬意になると思う」

ノーフェイスで、いいんじゃなぁい?なぜか嬉しそうにそう促すのだ。
そんなふうに、気軽に呼びかけた。微笑ましげにその様子を見る。

「あー。……そっか。いろいろ起こるもんね。普通にしてても。
 フフフ。いいね、仲良し姉妹だ。それじゃあ、元気づけられるコト……そぉだな……」

ロック聴いてる、きっと明るそうな女の子。
それに対して、地味でおとなしめな妹さん。
すこし考える。なにかできることはないかな……と。

「本。どんなの?文学的な……物語とか……漫画(カートゥン)
 ボクもけっこう読むぜ。詩集に学術、さいきんは裁判録なんか。
 ……ってことは、日頃。(コトバ)には親しんでるわけか……」

うーん、と考えて。

「お姉さんのこと、好き?」

不意に水を向けてみた。わかりきったことかもしれないが、改めて。

伊都波 悠薇 >  
「そういうもの、なんですか?」

そうなんだろうか、と思い、先達の言うことは大事だ。
様子を見守られているのに気付くと、慌てて前髪を手で整えて顔を隠した。

ぱしゃり、かけられた『言葉ーみずー』に目をぱちくりとして。
隠れた視線からでもわかる、満面の笑み。

「はい。自慢の姉です。今までも、これからも」

そして、本の話になると目を輝かせた。

「あ、えと全般的に好きなん、ですけど。その、最近は小説が、好きで、その」

一瞬躊躇ったあと。

「ど、同性同士の恋愛もの、とか」

ホントは、言わないべきことなのだけれど。なんでか、滑らかに口が動いた。

血色の髪の女 >  
「可愛いお顔、隠したらもったいないと思うケド。 
 特にココ、大人びててとってもセクシーだ。……撮っときゃよかったかも」

ちょんちょん。自分の左の目元に指を当てた。
まあ他に大人びててセクシーなところが視界から外れてくれないんだけども。

「……そうだよね」

姉妹ってそういうもの。……なのだろう。
場違いに優しい微笑みで頷いて、
じゃあ――と言いかけたところで。

「…………」

きょとん。
少し驚いたように目を丸くした。思わずやっちゃった感を駆り立てる一瞬の間。
のあとに。

「禁断の愛。……ってほど、今時分、禁忌でもないケド。
 フフフ、なあに。どういうトコに惹かれるの?
 悪いコトへの憧れか、それともそういう関係に憧れが?
 ……ぶっちゃけたハナシ、すきな女性(ヒト)がいるだとか」

そっと肩を組んで、顔を寄せる。マイナー棚の近くでの、ひそひそ内緒話。

「胸を炙る殺し文句、ぞっとするような愛の告白、いっぱい綴ってあるヤツだ?」

伊都波 悠薇 >  
「きゃわ!?」

びくぅんと、小動物ばりに跳ねた。
言われることは最近多い。慣れてきたこともとある後輩のおかげで、言えなくもない。
が、初対面は話が違う。
そんなことないと、首を左右にぶんぶん。

「あ、いや聞かなかったことにーー」

一瞬の間のあとに、肩を寄せられる。
ち、ちかーー!? かお、よ!?

……色々脳内で妄想が暴れるが、その間僅か2秒。

「あ、いや。好きなひとがいるわけとかでは、ないんですけど。なんでかその、男子にはいまは興味が浮かばず、その」

理由があるとすれば。

「男性との恋愛より、内面的な描写がやはり多いというか、葛藤が美味しいといいますか、男性の恋愛感のがっとするぐっとしたところも素敵だと思うんですが、女性の内面的な些細な些細な、所作や感じかたに良さを見出だしたといいますか…………だ、男性同士はそれはそれで、ギャップが美しくて…………」

つらつらつら、あまりの至近距離に混乱しながらオタク並みの早口。

伊都波 悠薇 >   
愛の、と言われると顔を真っ赤にして。
シューっと湯気を出しながら耳まであかくして。

こくり。

今告白されたのでないかというくらい、はずかしげにうなずいた。

血色の髪の女 >  
「わかるわかる。社会からの目線を気にしたり……相手から拒まれちゃうんじゃないか、って思い悩んで。
 友達同士から発展したがる欲望が、関係の崩壊を恐れてもたついちゃったり。
 それが両片思いの状況で危うい均衡を保ってるところに第三の存在が現れたりすんだ。
 男のなかの女っていうのかな、湿っぽいところなんて、むしろ男性作家が書くから……………、」

真っ赤になってしまうところに、にまーって笑ってしまう。
ずいぶんとまあ、大人びたものに親しんでいるようだ。

濡れ場(ラブシーン)なんかも多かったりするよねー、そういう作品()
 おすすめあったら教えてよ。古いのでよかったらボクもいくらかあるからさ」

なになに、とオモイカネ8を取り出しながら、メモってみようとしつつ。

「――作品。 曲も、小説も。そこに記録されれば、ずっとそこにあるんだ。
 音楽家がラリってしまっても、作家が書けなくなって終わってしまっても。
 ……聴く側、読む側が変わってしまっても。
 残しておけば、それは変わらず在り続けるし」

不意に、声の調子を変えて、間近でそんなようなこと。

「直接伝えづらかったりすることを、そうやって伝えるアーティストも珍しくない。
 ……キミも学生手帳、持ってるだろ?出してみ」

と、指をちょいちょいと動かして。
なにかを思いついたようである。

伊都波 悠薇 >  
「わ」

まさか同意を貰えると思ってなかったのか、こくこくこくと、綴れる言葉に赤べこのように頷いた。

笑われると、正気に戻り、前髪で隠れているにも関わらず目線をすいーと横にスライド。

「あ、えと、あの……まぁ。その、はい。でもそこの、描写がちゃんと、ある作品のほうが、好み、です」

気持ちと、行動の流れが、みて取れていいなと思う。性欲、とは別で。気持ちに正直なところが良いと思うのだ。
しかして、その言葉だけを聞くとスケベです、と公言しただけ。

「……? え、あ、はい」

なんだろ、今の、声ーー?
なにか、思うことがと思った矢先、提案されて、それを出した。

血色の髪の女 >  
録音機能(レコーダー)

指を立てて。

「残念なコトにCDはなかったケド、でもキミには伝えたい想いがあるワケだ。
 だったら、いまここで。お姉さんへのメッセージを吹き込んでみよう」

提案したのは、なんとも場違いかつ短絡的なもの。
であるかもしれないが、それを馬鹿にしたふうはなく。
微笑んではいるが、大真面目な風で。

「殺し文句や、愛の告白みたいなコトも。
 その場に本人がいなければ、言えちゃったりするんだし」

ほらほら、録音機能開いて、とせっつきながら。

「……なにが起こるかわかんない世の中だからさ。
 お姉さんのことが大好きだから、元気出して欲しいって伝えとくの大事だし。
 いまこのとき、間違いなくそう想っていたキミがいたんだと。
 そういう記録残しとくの、けっこう大事だったりして。
 人間って、けっこう忘れたり、歪めちゃったりするからね」

どう?と問うてみる。
残らなければ、それがなんだったのか、そのときどう思っていたのか。
覚えていても過剰に美化したり、その逆をしたりする。
作品のように残るモノ。変わらぬ(コトバ)を録ろう、と。

伊都波 悠薇 > 「え」

提案されると、確かにと思う反面。
だいたい伝えていないだろうかとも思う。

でも、いないからこそ言える、言葉。

「む、難しそう、です」

文才はないし、うまく伝えるものがあるように思えず。そもそも、あらゆる面において姉より才能がないから。

「……お、お手本!」

でも、なんだか無碍にするのは嫌で。

「あの、お手本して、くれませんかっ」

録音させてください、なんて。
どうしてか、お願い、していた。

血色の髪の女 >  
「えー。無理に飾らなくたっていいのに」

自信がない調子に、楽しそうにきゃらきゃらと笑った。
しょうがないなあと録音ボタンに手を伸ばして、

「まっすぐ伝えれば――……」

口を噤んだ。

「…………、」

――大好きな姉に、まっすぐ、気持ちを伝える。
満足に顔すら見れずに。ただ美化された思い出があるばかりの。

……噤まれた唇が、再び微笑みの像を結び、

「……フフフ。お手本見せたらいよいよやらなきゃだぜ?」

退路を断っていいのかなあ?なんて。
肩組んだまま乗り出して。感度十分の最新式マイクに唇を近づけて。
画面にそっと指先を触れた。

「――お姉さん。元気出してっ。
 最高の公演(ライヴ)でキミを待ってる。Catch up soon(ちかいうちに)
 アナタのノーフェイスより、愛と感謝を込めて!
 ……ほーら、キミの番だよ妹ちゃん?」

録音データは、地続きだ。一個のファイルにふたりぶん。
ぽんぽんと背中を叩いて、彼女の想いを促した。 

伊都波 悠薇 >  
「…………?」

一瞬の、間。
さっきとは違う、間だった。

でも、すぐに笑顔になった、後の言葉に目をぱちくりとして。

「…………え?」

ノーフェイス? このひとが?
ーーーぽぇ?

なんて、思っているうちに録音がそのまま差し出される。
慌てて、喋らなきゃって。

喋らなきゃ、って。

頑張れは、もう言った。
負けないでとも、言った。
いつもいつも、そう、押しやっている。

でも。

「……どんなに!」

声が上擦った。
緊張して、1発録りだからこそのアクシデント。

「時が経っても、帰ってきてね。ずっと、家で待ってるから。おかえりっていうから。

だから、絶対帰ってきてね。傍に、いるから」

見送る、だけじゃなくて。
これはきっと、顔を見たら、言えないから。
自信が、なくて。

泣きそうな声が出てしまったけれど優しく言いきった。

「えと……」

どうだったろうかと、至近距離にいる人を、見た。

血色の髪の女 >  
そして、指が録音停止をタップした。
音声データは、最新式のマイクと内蔵イコライザーで余さず。
その声も想いも、上ずってしまったミスもしっかり記録している。
これから何があろうと、誰がどう変わろうと、消さない限りは残る。
デジタルデータは転送も容易だ。CDと違い、どこか頼りない形であるものの。

「…………」

見られると、数秒、じっと視線を合わせて。
これまたちょっと、不安を煽る間ながらに。

「ん」

にひ、と笑って両手でサムズアップ。上出来です!
そこから、ぽんぽん、と肩を叩いて体を離した。
きっと大変な仕事をしているお姉さんなんだろう。
帰ってきてという言葉に勇気がいるほど。
……でもいま、勇気をふりしぼったのだから。

「キミだけの(コトバ)。胸を張っていいんだよ。
 ……ボクのも、聴いてくれてありがと。Peace out(じゃーね)!」

なんてひらひら。お会計のほうに向かうのだ。うん、良い拾い物だった。

ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」から血色の髪の女さんが去りました。
伊都波 悠薇 >  
「あ……」

ふわり、突然現れて。
突然去っていく。まるで、春風のよう。
今の季節とは、また別の。

「はい。『また』、ノーフェイス」

さん、は付けなくていいって言われたから。
手を振って見送る。
ぽつんと、残されて、でも彼女が置いていってくれたのは笑顔だったから。

「ファンに、なっちゃったかも」

大事にしよう。『私も』。

そう思いながら、自分も帰路につく。

自分が知ってる、ノーフェイスの曲を口ずさみながら。

ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」から伊都波 悠薇さんが去りました。