2024/12/26 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
扶桑百貨店の宝飾品店。
基本的に高額な物ばかりであり、十代が中心になっているこの島では、比較的需要の少ない希少な店とも言えるだろう。
当然、学生は相当に稼いでいなければ冷やかしばかり、教員や職員ら大人でも、ここで直接買い物をする居住者はすくない、
しかし、そんなところにトンデモなく場違いな男が――!
■杉本久遠 >
――完全に体育会系の体型!
――まさに部活終わりとでもいうようなジャージの上下!
――その大柄な体が背負っているのは、間違い様もなくスポーツバッグ!
――そう!
知る人ぞ知る長期在学者、スポーツに青春を捧げた男。
杉本久遠である――!
■杉本久遠 >
お前場違いだろ、とか。
ここにあるのは指輪であってリングじゃないぞ、とか。
言いたい事は沢山ある事だろう。
私もそう思う。
ああ、ほら、店員たちからも警備員からもがっつりと注目されている!
――だがしかし!
そんなものはまるで気にならないのである。
なぜかって?
この男が杉本久遠であるからだ!
■杉本久遠 >
(むう――弱ったなあ)
目の前の、特殊な超強化ガラスに守られたショーケースの中には、様々な宝飾品がいっぱいだ。
そのどれもが人目を惹くような、素晴らしい美しさで、右往左往して目移りしてしまうようなものばかりである。
こうした装飾品に全く縁のなかった久遠としては、なにから考えて何を基準に選べばいいかもわかったものじゃない。
――が、こういう時に救いの手がやってくるのもまた、杉本久遠という人間なのである。
『――あれっ、どうしたんですか杉本先輩。
随分と珍しい所でお会いしましたね』
そう声を掛けてきたのは、地毛が明るい色の、小柄な女子だった。
まあ、久遠からすれば大抵の女子は小柄になってしまうのだが。
「おおっ、櫻井じゃないか。
なんだ、やっぱりここの業界にしたんだなあ」
『えへへ、はい。
やっぱり宝石もアクセも好きなので。
その節は本当にお世話になりました』
そう言って、櫻井と呼ばれた少女は、姿勢の良く整ったお辞儀をした。
■杉本久遠 >
「だはは、気にするなって。
後輩の進路相談なんて、十年以上も在学してれば、それなりにやってきてるしな。
お前が好きな事を仕事に出来てて、オレは嬉しいぞ?」
『へへ、ありがとうございます!
――それで、先輩はどうしてまたこんなところに?」
と、まあ。
親しい入学時から後輩として面倒を見ている相手にすら、意図が分からないというありさまである。
『あ、もしかして、お母さんにブレゼントとかですか?』
少女はこれだ! と思って勿論、正解を狙いに行ったのだが。
久遠は申し訳なさそうに、不正解だとゆるゆる首を振るしかなかった。
『え、ええ――それじゃあ、永遠っちへの?
先輩たちの仲がいいのは知ってますけど、流石に妹さんに高級ジュエリーはどうかな、って――」
そして今度は完璧な勘違いをされて、半歩引かれてしまう。
――どうやら、恥を偲んで腹をくくるしかないらしい。
幸いにも、この櫻井という少女は非常に口も堅く、信用も於ける相手だ。
「実は――婚約指輪を探していてな」
「――へっ?
指輪って、誰と、誰のです?」
「――オレと、婚約者の」
「ああ、なるほど――?」
それから恐らく、たっぷり五分近く、沈黙が続いたのだった。
■杉本久遠 >
『――――ええええぇぇぇぇぇぇッ!?』
そんな驚愕の声がフロアに響くまで早かった。
『ちょっとチーフ、あんまり大きな声出すとまたオーナーに怒られますよ』
どうやら、この明るく楽しい少女は、チーフスタッフにまでなっていたらしい。
そして小さな声。
『――ちょっと先輩、どんな人なんですぁ!』
そう聞いてくる少女に、苦笑しながら写真を見せると、目を丸くして驚いていた。
『うっわぁ、すっごい美人じゃないですか!
それで、クリスマスに婚約指輪?
うわぁ、うわぁ~!』
「そんなわけでさ、彼女に似合う物を探してたんだが、こうも色々あると困ってしまってな」
なるほど、と少女は考えてから、ショーケースの中をざっと見て。
『これか、これか、この辺りとかどうですか?
婚約者さんがもう、とっても美人さんですし、そんなに飾り気な人じゃなさそうですから。
デザインも装飾もシンプルなのがいいかなと』
「ほほう。
どれどれ――」
そう言われて候補に挙がったのは、小さなダイヤモンドを複数ちりばめた物と、ダイヤが一つ嵌めこまれた物と、本当にシンプルな白金のリング。
「――たしかに、どれもよさそうだなあ。
それじゃあどれかにし」
そう言おうとして、値段がようやく目に入り、あんぐりと口が開いた。
久遠は伊達に長い時間この島で生活していない。
それなり以上にお金自体は持っているのだが――それでも大分思い切る必要があるものだった。
「――ん、んっ!
よし。
櫻井、改めてこれを頼む」
そうして久遠は、一組のリングを選ぶ。
そして、その結果がどうなるのかは――また、愛しい人との時間を過ごすときに明らかになるのだろう。
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から杉本久遠さんが去りました。