東方三神山の一つ、「瀛洲(えいしゅう)」の名を頂く大古書店街。
学生街の中にありながら、異彩を放つ区域である。
常世学園の草創期から存在するとされ、経過年数に関わらずやけに古びた外観の店が大通りを含め、路地などに密集する。
古今東西の様々な書籍が集まる「書海」であり、学術書から魔導書、一般書、コミック、ダイムノベル、パルプ・マガジンなど扱われる書籍のジャンルに際限はない。
また、時折「異界」の書物も売りに出されることがある。
非常に価値の高い稀覯本なども取り扱われており、「禁書」の類のものも密かに取引がされているという噂がある。
一度迷い込めば抜け出すには時間のかかるような書籍の混沌の地。
学生街にある「古書店街」の大通りを中心として、幾つもの路地が伸びており、そのどこにも古書店が存在する。
印象としては雑多な街といえるだろう。
週末には古本祭りが行われ、安価に書籍が購入できる。
『万物の運行表(スキーム)』という、白と黒の頁から成る、未来過去現在の三世を記した予言書めいた書物などが流れたという噂が定期的に起こるが、どれもこれも眉唾な噂である。
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Time:23:03:10 更新
ご案内:「古書店街「瀛洲」」からギジンさんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から橘壱さんが去りました。
■橘壱 >
好きなものしか見ていない。
意外とそういうものなのかも知れない。
好きなものだけ見て生きていけるなら、
それこそ、本当に楽しい人生なんだろう。
けど、どうだろうか。彼女は本当に、楽しいのか。
「……僕はただ、現状と向き合いつつ
自分の夢にひたむきになっているだけですよ。
そう言う割には、審美眼は鍛えてそうですけどね。」
……いや、いきなり聞くことじゃない。
思ったことを口に出すと良くないのは、
この前の食事の時に学んだことだ。
はにかみ笑顔のまま、一瞬硬直。
ちょっとやましいことを考えた思春期。
いかんいかん、と軽く首を振った。
「確かに、外でも中でも仕事に勉学。
大変だけどやり甲斐はあります。
せっかく選んでも貰ったんだし、ちゃんと読みますよ。」
「ええ、勿論。またお願いします。」
いつの間にか雨音は聞こえない。
去っていく背中を見ながら、軽く手をふった。
「なんだか不思議な人だったな……。
似たようなタイプはいたけど、人間性は違う。
……なんだか、またふらっと出会いそうな気もするな。」
そうして脳裏によぎる、知り合いの姿。
彼女とはある意味真逆の似たようないけ好かない奴。
そう言えば同じように、本当に何も知らない。
知る余裕もなかったとは言え、何も。
「……帰るか。」
ともかく、雨は止んだ。
自分も帰ろう。そして、読もう。
新たな出会いの1ページをめくり、
必ず感想を伝えるために。
■ギジン >
「そうでしたか」
まるで鏡を見ているかのような気分になった。
変わっていくこと。変わらないもの。
それらを天秤に乗せた時の傾きを、まるで自分のように感じていた。
「それなら良かった」
「僕の目なんて好きなものしか見ていないので」
「押し付けがましくなかったなら何よりです」
トランクに入れる時、スキマから見えた機構をちら、と見る。
「風紀委員というのも気苦労が絶えないでしょう」
「たまにはゆっくり読書でもして自分を慰めてあげてください」
いつの間にか。外では雨が止んでいた。
水たまりへと一歩踏み出す。
「それでは僕はこれで」
「また会えたら本の感想を教えてください」
そう言って虹のかからない夕暮れを。
雑踏に向けて歩きだしていった。
■橘壱 >
"人を見る目がある"。
それこそ苦い顔をした。
余りにも自分には不似合いな言葉だ。
「お上手ですね。けど、すみません。
こう見えてコミュ障で、友達も最近出来たばかり。
ちょっと前までは……そう、"荒れてた"もので。
それこそ、他人を見る余裕こそ無いような人間ですよ。」
こうして自然と会話しているのも、
周りの人間の刺激により変わった結果だ。
成長か退化かはさておき、前よりは生きやすい。
少なくとも、こうして新しい出会いに恵まれた。
答えとしては、充分な気もする。
差し出された本のタイトルは、
『銀河ヒッチハイク・ガイド』
妙なタイトルらしいお話のようだ。
それでいて、世界観、ジャンルに向き合い
作家の作風とマッチさせたもの、らしい。
「アナタこそ人を見る目があるんじゃないですか?
なんとなくだけど、本当にその目は全部見ているようだ。
SFなんて、僕の中では特に好きなジャンルですよ。」
それこそ本当に見透かされたのかも。
なんて、冗談めかし言えば釣られるようにレジへ。
そして、釣られるようについ買ってしまった。
オタク、こういうのやりがち。
でも、後悔は無い。久しぶりの紙媒体だ。
「実利に適った、面白いゲームですよ。
気にしませんよ、此れ位。僕も出会いましたしね。」
先程買った本を見せつけるように揺らし、
トランクの中へと優しく入れる。
ちゃんと見た目通りの機能はある。
これがテクノロジーの最先端だ。
■ギジン >
彼が選んだ本を手に取る。
表面を撫でて、背表紙のあらすじを読んでみる。
「面白そうですね、きっと僕好みです」
「僕と違って人を見る目があるようですね、橘くんは」
ふふ、と笑って悲劇を描いた本を手に取ったまま本棚を見る。
たっぷり2分30秒、無言で本棚を眺めてから。
「──これはどうですか?」
『銀河ヒッチハイク・ガイド』を手に取り、差し出した。
新約本だし、新しい表紙だし。
これも新刊と言って差し障りないだろう。
「少しバカバカしくて、それでいてSFというジャンルに真摯な…」
「とても良い本ですよ、かなり前に映画化もされていますね」
そう言って本を渡すと、自分は車輪の下をレジに持っていき。
「カバーはいりませんけれど、ビニール袋はつけてください」
そう言って購入した。
「とまぁ、次に読む本に困った時に人にこのゲームを持ちかけると」
「思いも寄らない本を手に取る機会に恵まれるというわけですね」
利用しました、ごめんなさいと続けて。
■橘壱 >
彼女が歩を進める姿を目で追った。
なんというか、歩き方からも雰囲気、
っていうんだろうか。何か漂ってくる。
こういうの、小さい頃に出会ったら色々歪められそうだ。
そんなちょっと邪な考えがよぎったが、軽く頭を振って消しといた。
「自己紹介でダメって言うのは、どうかと思いますけどね。
少なくとも物知りな感じはとても好感は持てますけどね、僕は。」
大体こういうのはマジか謙遜かの二択。
出来れば後者だとは思いたい。
はにかみ笑顔を浮かべて、指さした先を見やる。
「面白そうですね。それじゃあ、僕から。」
トランクを揺らして彼女の隣へと移動した。
本棚、と言ってもすごい量だ。
電子書籍派には圧巻と言っていい。
にしても、好きそうな作品か。
うーん、と顎に指を添えて思案顔。
今日あったばかりの人間だ。
どうやってもフィーリングにしか成り得ない。
彼女の好きそうなもの。なんだろう。
こうやって興味をもたせる手法なのか。
眺める本は真新しさに、古いものまで、
目を滑らせればそれこそ本当に選り取り見取り。
余り時間をかけるのも失礼だし、
此処は直感勝負といこう。
そう思い、少年が人差し指が一冊背をなぞる。
「『車輪の下』……えっと……。」
聞いたこと無いタイトルだ。
タブレット端末で検索すると、
簡単に引っかかる。大変容前の文学本。
主人公が周囲の期待と軋轢に耐えれず、
その転落するさまを描いた悲劇の物語。
成る程、知らないわけだ。古い本だし。
ただ、ちょっと初対面にはミステイクだったかも。
「別に先輩をそういうのが好きだって決めつけたわけではないので……。」
言い訳っぽく、苦笑いで付け足した。
■ギジン >
「それはそうです」
フフ、と笑って今度は本棚に歩を進めた。
学生に人気があるのはファンタジーだろうか。
それとも恋愛小説か。
「僕は基本的にダメな先輩なのでお気になさらず」
本棚を眺めながら少しずつ顔の角度を変える。
ダイムノヴェルみたいな奇品だけに頼っているわけではなく、
この店はなかなか品揃えがいい。
「橘くん、雨も止まないことですしひとつゲームをしませんか?」
「お互いのことをよく知らないほうが面白いゲームです」
本棚を指して。
「ルールはこの新刊の本棚から“相手の好きそうな本”を1冊選ぶだけです」
「勝ち負けすらない、ただの暇潰しですが」
「どうです? やってみませんか」
雨が街を打ち付ける音の中、口の端を持ち上げて微笑んだ。
■橘壱 >
「……人に迷惑を掛けない範囲でね???」
ちょっと意地の悪い返事には、
何とも言えない表情で頬を掻いた。
此の感じ、わかっていていったんだろう。
食えない人っていうのは、こういうのかも知れない。
「先輩でしたか。どうぞ、宜しく。」
成る程、言われると先輩っぽい。
年齢種族問わない学園だが、
此の物言えぬ雰囲気には"ぽさ"があった。
偏にその文章たちは、味があった。
多分これが昔の創作って奴なんだろう。
噂では此の本屋には、様々な本が集まる。
都市伝説程度の話だが、"妙なもの"まで紛れ込むとか。
パチクリと碧の両目を瞬きすれば、一息吐いて窓を見やる。
「紙媒体って言うのも、趣ありますね。
僕は基本、なんでも電子書籍だから、結構新鮮です。」
「……成る程、わかりやすい。
でも、そうですよね。一部のマニアじゃなきゃ、そんなもんだ。」
自分みたいな振り切ったオタクとか、
それこそ熱狂的なファンじゃなければ"全て"
なんていうのは膨大過ぎる量だったりもする。
熱量があるならともかく、無いなら過ぎたものは"億劫"なのだ。
「そうですね。通り雨かと思ったんだけどな……。」
意外と結構降っている。
まだ止む気配はない。こういう時に限ってしつこいんだな。
■ギジン >
「それはどうも」
「悪趣味な本も読みますけれどね」
少々意地悪な混ぜっ返しをした直後に。
手のひらを見せて敵対する意志はないアピール。
初対面の相手にするには、少々馴れ馴れしかったかも知れない。
「僕は三年の西岡深冬です、よろしくお願いします橘くん」
視線に沿って自分も目次の部分を見る。
開いた新聞の上から覗き込むように。
「古いアメリカの単語ばかりでしたね、別にかぶれているわけでもないのですが」
首を左右に振る。
「乱読家なのでなんでも読みます」
「好きな本は好きな作品が掲載されている本です」
「昨日はSFを読みましたよ」
ダイムノヴェルも、結局好きな作品が載っていなければ買わない。
そんな感じで生きている。
「雨、止みませんね」
■橘壱 >
「いいことじゃないかな。
要するに熱中できる物があるってことでしょ?
それだけキミが、本が好きってことなんだろうし。
好きっていうのは、余程悪趣味で無ければ誇るべきだと思うけどな。」
余程の悪趣味でなければ、
それは人生を彩る花のようなもの。
味気ない人生よりは余程生きやすい。
ろくでもない人生でも、時分が今此処に入れるのは、
外でもないそんな熱中できるものがあったからだ。
ちょっと気取った言い回しになったかな。
なんて、ちょっと得意げに笑みを浮かべてみる。
……なんだか見られているような気もする。
いや、対面してるんだから当たり前なのだが、
そうではなく、腹の底を見透かされているような
得体のしれない妙な感覚だ。考えすぎか?
「そっか。……名前、聞いてもいいかな。
僕は壱。一年生の橘壱。キミは?」
一旦自己紹介だ。
もしかしたら、何処かであったことあるのかも。
妙なことを考えながら、視線も目次をなぞっていく。
「媒体と言うか、文字自体に時代を感じるなぁ。
多分、そういうのも込みでのモノなんだろうけど。」
電子書籍が当たり前な現代っ子の感想。
「ニッケルオデオン……マッキーズポート……
何処かで聞いたことあるような……なんだっけな……?」
一応オタク、色々履修はする。
その過程で、古い作品には触れたりするのだ。
けど、なんだっけな。うーん、と唸りながら記憶を辿った。
「たまにいるけどね、大変容前のクラシックマニア。
キミもそういうのが好きだったりするのかい?」
■ギジン >
「没趣味ですが本だけは飽きずに読めているので」
そして彼が風紀委員と名乗ると。
線と線がつながった。
そうか、あの大荷物の中身は。
でも、彼の名前を知ったところで僕には何の意味もない。
運命の螺旋を前に僕は無力なのだから。
「僕は本が好きなただの女学生ですよ」
クスリ、と左右対称の笑みを浮かべた。
そして新聞を開くと、目次の部分に目を通した。
本来ならテレビの番組表でもあろう部分に。
「僕が好きな作品はこの号では休載のようです」
「『マッキーズポート』素朴だけど情感たっぷりに描かれる物語だったのですが」
「アメリカで一番最初に作られた映画館『ニッケルオデオン』での騒動を描いたストーリーです」
「ニッケル……5セントで見られる殿堂」
「作者の方は随分と大変容前の古い資料に目を通しているみたいです」
■橘壱 >
「予報は所詮予報って所か。全く……。
顔なじみってことは、結構来てる?本がお好きとか……あ、はい。」
どうも、ありがとうございます。
と、ちゃんと店主にも会釈した。律儀。
「一応風紀委員ではあるので、肌見放さずって奴ですよ。
人を見る目って言っても、それこそ未来予知がなけりゃそんなもんじゃないかな。」
「"人は見かけによらない"……って、日本じゃいうからさ。
そういうキミは、なんだか不思議な雰囲気を出してるよね。
なんというか、こう、"大物感"……?どっしりしてる。」
一目みただけその人の全てがわかればコミュニケーションに難儀はしない。
そういう少年も彼女の姿をじ、と見ていた。
恐らく学生、島民だとは思うけど、不思議な感じだ。
なんというか、吸い込まれる魅力があった。
とらえどころがない感じというか、なんとなく知り合いに似ている。
「(いや、ノーフェイスよりは清楚だな。)」
容赦なく知り合いをディスった。
とは言え、仮にも女性。見過ぎは良くない。
自然と視線を広げられた紙へと落とす。
「ズバリ、大衆向けの娯楽雑誌みたいな感じか。
その手の本は余り読まないけど、面白いのかい?」
言い方からして発祥には歴史がありそうだ。
それこそ、大昔レベルかもしれない。
ちょっと興味が湧いてきた。どんな話があるんだろう。
■ギジン >
「そうでしたか……島の天気はなかなか読めませんね」
「いえ、いえ。店の顔馴染みのただの客です」
柿田くんにも礼を言っておいた。
気遣ったのは実際、彼なのだから。
「島の学生で、それは仕事道具でしたか、失礼」
「僕はあまり人を見る目はないようですね」
折り畳まれた新聞がたくさん並んでいるようにも見える奇妙な本棚。
そこから一つ、ダイムノヴェルを取り出して。
「ダイムノヴェル。新聞形式の小説集と言うところでしょうか」
「かつてアメリカでは1ダイム、10セントで売られていたことから名前がついていますね」
「さすがに現代の物価だと330円です」
新聞を広げて見る。
雨の香りに、インクのフレーバーが混じった。
どうやらこれは新作らしい。
「玉石混交で面白いですよ」
そう言って薄く笑った。
■橘壱 >
「天気予報じゃ晴れだった気もするんだけどな。
お気遣いどうも。……あれ、もしかしてお店の人?」
店員っぽい人を顎で使うような物言いだぞ。
もしかしてお店の偉い人なんだろうか。
そう思いながら受け取ったタオルで頭を、顔を軽く拭いた。
カチャリ、と眼鏡を掛け直し改めて一息。
「生憎と、在学中の学生です。
トランクは仕事道具みたいなもんです。」
確かに技術的には旅行にお誂え向きの場所かもしれない。
学園体験位の感覚でそういうのが式典委員会がやっていたような。
自然と視線は、彼女が戻した本をなぞった。
「……それは?」
なんという本なんだろうか。
興味本位の質問だ。