2024/05/30 のログ
黒條 紬 >
黒條は警戒態勢の青年に気づいているのか居ないのか、ヒールの音を鳴らしながら
彼の居るスペースに到着したのであった。
「あー、ここじゃなかった……じゃあこっちでしたか……」
小さな、小さな呟き声。
それは異能を展開していなければ聞こえていなかったかもしれない声。
続いて、ヒール音はジャスパーに近づいていく。
そして。
遂に棚の向こう側――遂にジャスパーの居る列までやって来れば。
ぱあっ、と明るくも何処か緩い笑顔を浮かべる黒條。
そうして。
そのきらきらと輝かんばかりの熱い視線は丁度、ジャスパーへ――
否、彼が立っているすぐ後ろのコーナーへ注がれていた。
『動物写真コーナー』。天井から吊り下げられた案内板には、そう書かれている。
さて、コーナーへ足を踏み入れようとした黒條であったが、
そこで店主の視線に気づく。
運命とは、残酷なものである。
そう、彼が下手に緊張して――崇高な使命を全うする為に気配を殺してまで――
固まっていなければ。
そして、店主の不思議な視線が彼に向いてさえいなければ。
ジャスパーは彼女にとって、ただの一背景に過ぎぬ存在だったというのに。
一瞥すらくれることなく、
ただそこに居る『人』という認識で終わっていたであろうに。
黒條の視線は、店主の視線を受けて、今ジャスパーに向いてしまったのである。
そうして、彼女は柔らかな唇にすっ、と。
白く細い指を当てて、遂に青年へ問いかけたのであった。
黒條 紬 >
「……あのー、どうしました? 体調が悪いんですか?」
心底、心配そうな表情が瞳の奥底からひしひしと伝わってくるかもしれない。
ジャスパーの方へ一歩近づいて、黒條は小首を傾げる。
――時に人に訪れる運命とは、数奇なものである。
それは、グラビア本を手に取った青年にも、等しく訪れるものである。
ジャスパー > 終わった―――――
近づいてくることはわかった。だから、逃げることも出来ただろう
しかし悲しいかな。蔵書は数あれど、この店はそれほど広くはなかった
女子から逃げるように動いてしまうと、店外に近づいてしまい、万引きと疑われかねない
だからもう、相手がこちらに来た時点でこの勝負は詰んでいた
血の気が引き、頭の中に浮かぶのは絶望という文字
これから俺は、一生…学園生活を蔑まれながら過ごすのだ
さようならお父さんお母さん。もっと親孝行しておけばよかった…
片手で持っているから、もちろんグラビア本の表紙くらいは少女からは見えるだろうが…
かけられたのは、予想外の言葉
「は……っ、あ、えと、あの……っ」
(や、やべーーーー!!か、かわいい……!滅茶苦茶良い匂いする!!
例えるなら天上に咲いた一輪の可憐な蒼い花弁、ツートンワンピースから覗く素肌が全男子を狂わせる
そのBeautiful violetの瞳で見つめられたら俺の心はもうバーニングソウル…!しかもスタイルもばつ…ぐん…!これは、……満点です……。
いや違う!そうじゃない!)
言葉にもならない言葉を出してから、たっぷり10秒ほど固まる
そしてようやく思考が追いつき、かけられた言葉をじっくり考える
頭の中でアラートが鳴っているが、まだ"詰み"ではない
逆転の手は、残されている――!
「あ、あーー…い、いやあ、お腹が急に痛くなっちゃってサ
でも、心配されるほどのものでもないから大丈夫!俺たまーにこうなるから!ちょっと胃腸が弱いんだよね~~!」
さりげなく、表紙を隠すようにお宝を自分の後ろに持ってくる
見つけられていなければ追及はない…はず、だ!
「だ、だからぁ…
え、えーっと、君も何か本を探しに来たりしたりしてるんだろ?俺に構わず探すと良いよ!
せっかくお宝がたくさんあるところなんだからさ!」
割と言葉がおかしくなりつつ…はっきりわかるほど脂汗をだらだらかきながら、精一杯のさわやかスマイルで心配ないことをアピールする
今世紀最大の笑顔が出来たと思う。果たして、相手の反応は―――?
黒條 紬 >
「は、はぁ……それは大変ですね……」
黒條 紬は、思考する。
―――
――
―
――なーんか、怪しいですねぇ、このヒト。
委員会柄、腹に一物ある人間の所作というものは、飽きるほどに見慣れている。
故に、この青年が何かを隠していて、私に嘘をついているのは分かっていた。
そういえば、近頃この古書店で、万引きが横行していると聞いた覚えがある。
その犯人は、金髪の青年であったと報告も受けている。
――……眼前確認。うん、一致。
いや、しかし決めつけるのは良くない。
それは、性に合わない。
――ちょっと、『仕掛けて』みますか。
―
――
―――
思考、一旦終了。
「でも、それなら丁度良かったです! 先程、保健課の方に寄ってきましてね、
腹痛によく効く魔力を込めたタブレット、貰ってきたばかりなんですよ~!」
そう口にして、カバンの中からタブレットの入った透明のケースを取り出し、
しゃかしゃかと振って青年の前に出してみせた。
「保健課の先生のお墨付きです。よろしければ、一粒どうぞ?
舌の上に乗せれば、すぐ溶けますから。
私もよくお腹が痛くなってしまうので、お世話になってるんです~」
黒條は黒條で、満面の笑みで。
それはもう、心配そうに眉を下げたまま、無垢な笑みを見せるのであった。
ジャスパー > すれ違う思考を、誰も感知できない
神に誓って万引きなどしていないが、誰かと一致してしまったらしい。馬鹿野郎!!
お前らのせいでお宝発掘場所がなくなるんだぞ!
そんなことに思い至るはずもなく、今度は少年が少し困惑する番だった
「え、あ?いや、もう治……、いえ、いただきます!!!!あ、すいません………」
(腹痛なんて嘘だけど、優しいし……こんな笑顔で言われたら俺は猛毒でも飲むよ…
ん?そういえばちょっと見た事ある気がするな、この人…)
あまり関わり合いはなかったが、こうしてじっくり対面するとなんだか見覚えがある気がしてくる
気のせいかもしれない。恋かもしれない
吐き出しかけた言葉を呑み込んで、お宝は隠したまま、片手でタブレットを受け取ろうと
大声を出した影響で店主に睨まれたため、ぺこぺこと謝っておく
そして止められないなら、ためらいなく飲む。ごくん
どんな効果があるかわからないが、何であっても少年は飲むことだろう
黒條 紬 >
「良いんですよ、お気になさらず」
タブレットを飲み込んだところで、何の変化も起きはしないだろう。
それは薬でもなんでもない、ただのラムネ菓子だからだ。
腹痛が嘘らしいことは見抜いていた黒條が仕掛けた、『もう少しだけお話する』為の
きっかけだ。
ジャスパーが飲みかけた言葉を聞いて、黒條の不信感は一段階上がったのだったが。
そんな折。
カバンの中の端末が震えた。
「あ、ちょっとすみませんね」
カバンの端末を手に取り、流れてきた文章を読む黒條。
その内容は、古書店で万引きを繰り返していた金髪の男を追跡し、遂に確保したという
後輩からの連絡であった。
――なるほど、万引き犯ではない、と。
一瞬でも疑ってしまったことに申し訳無さを覚えつつ。
それでも、気になる青年の動き。慌てぶり。
委員会柄、どうしても気になって仕方がない。
そういえば、先ほどから隠している本が気になる。
タブレットを口に入れる時も、ずっと隠していたその本。
案内板に目をやれば――『動物写真コーナー』。
その棚には、小さなハムスターの写真集『ぷにぷに♡ふれんず』なる本が
何冊か置かれていた。『ぼくたちをあいしてほしいぷに~♡』などと、
ちょっとだけ心が痒くなるようなハムスターの台詞が表紙を飾っている。
他にも、可愛い動物の本が沢山。
もしや。
「えーっと、もしかして……そういう本、お好きなんですか……?」
少し眼前の相手に聞くのを申し訳なく思いつつも、
はっきりさせておきたい気持ちが勝ったらしかった。
黒條は、ジャスパーが本を隠している方の腕を見やりながら、そう問いかける。
あまり、年頃の男子にこのようなことを言うのもどうかと思うが、思うが……。
「ぜ、全然……良いと思いますよ、その……えーと、そういうの――」
つんつん、と人差し指でつつき合う仕草。
黒條 紬 >
「――私もめちゃくちゃ興味ありますしっ!」
とん、と胸を叩いて、少しだけ力強く言い放った。
ジャスパー > 「――――――――――」
薬にしては妙に爽やかなタブレットを味わう
たとえ苦くてもこんな美人から貰ったものを軽々にかみ砕くなんて紳士のやることではない
焦り顔から一転、菩薩のような表情で端末で何かしている相手をよそにタブレットを味わいつくした
心なしか、活力がみなぎる気がする。今ならなんでもできそうだ
美人から与えられるものはいつでも男に元気をくれる
しかし、そんな癒しの時間も長くは続かなかった…
「は、え?」
呆けていたため、彼女の視線を追うことができなかった影響で…またも愚かな勇者は早とちりをする
(バレ……!?し、しまった…!もしかして、透視系の能力の持ち主…!?
俺にタブレットを飲ませたのはその発動条件か…!?)
再度、ぶわあ…っと脂汗が全身に浮かぶ
透視などは超能力等にも分類されることがある中々メジャー寄りな能力…と少年は認識している
できるだけ隠していたにも関わらずあっさりとバレたことからそういった能力かとIQ200の頭脳が叩きだす
(ということは、最初から疑われていて…この美人は女子側の密偵…?
ほわほわしている雰囲気は嘘だったのか!ジョニー!!心の奥底では俺を咎めようと…!)
手汗でお宝が濡れていないか心配だ
ただ、今はそれどころではない。
お宝は後で乾かせばいいが、証拠をはっきりと見せるわけにはいかない
現物を確保されてしまえば終わりだ
(どうする…。保健体育の参考書と言い張るか…
いや、透視持ち相手にそんなことをしても無駄――……)
ジャスパー > 「は?」
(は?)
ジャスパー > (今なんて言った?私も興味ある?
こんな美人が、こういうお宝本に…?ま、まさか、これは――――)
詰みどころか、もしや、これは…最高のチャンスなのでは
そう。都市伝説として語り継がれ、男子全員の憧れと言っても過言ではない――
ジャスパー > >
エロに理解のある女子!!
ジャスパー > (き、ききききき来たか!?これ、来てるよな!?運命!ディスティニー!
ここであったが百年目!違う!ぜ、ぜひ…お近づきにならなくては!!
大丈夫だ。相手はもう…恥ずかしい事だろうに、カミングアウトしてくれたんだ。
俺がなにを恐れることがある。男が廃るぞ、ジャスパー!…扉は、既に開かれているじゃないか)
相手の言葉から、この間数秒の思考
そして、全てを振り切った笑顔で口を開く
「お~~!そ、それは…ごほん、偶然だね。そう、恥ずかしながら俺も大好きで、サ
ついつい目が無くてこんな奥地まで来てしまったぜ
普段お目にかかれないブツがたくさんあるからね…。
俺が買うからさ、良かったら、この後一緒にこっそり見るかい?
ここで開くのはマナー違反だろ?」
理解があるとわかれば、ノリは男子と同じでいいと判断してしまう悲しき生き物
実際はすれ違っているというのに、とてもいい笑顔で…ごしごしと手をズボンでぬぐってから、タブレットを受け取った手で握手を申し入れる
いくら同志とはいえ、店の中でグラビア本鑑賞をするのは迷惑だ
なら、きっちり購入してから、奇跡のような女神とお宝を共有しようと提案してみる
黒條 紬 >
「そんな、全然恥ずかしがることじゃないですよ~……!
好きなものは好き、それでいいじゃないですか……ねっ!
私も同志に会えて、とっても嬉しいですよっ」
ぐっ、と拳を握る黒條。
動物のことになるとかなりの熱意を持つ黒條もまた、理解者に恵まれぬ女ではあった。
それ故、同志と見ればすっかりポンコツモードである。
「ええ、ぜひぜひ。私もその本を前に見かけて、気になってはいたので……
共に語り合いましょう……!
でも、ただで見せて貰うなんて悪いので……
そうですね、これは借りにしておきましょう。
必要とあらば一肌脱ぎますので!
困った際はぜひ頼ってくださいね。えーと……?」
先ほどまで汗びっしょりだった手を嫌がる素振りはなく、
黒條は快く握手に応じた。そうして相手の名を呼ぼうとして、
まだ名前を聞いていなかったことに気づき、少し言葉を詰まらせる。
小首を傾げて、眼の前の青年が名乗るのを待っているようだ。
ジャスパー > >
「そそそ、そーだよなっ、生物として当然の欲求だよな~
本当、これを馬鹿にするヤツはどうかしてるぜ!
あ、もちろん俺も何でも手伝っちゃうからな!頼りにしてくれよ~」
テンションが上がって過激なことを言いつつ握手する
(や、やわらけ~~~!これが、女子……!!
こんな子がエロに理解があるなんて…世界は広いぜ。Thank you god…)
感激しつつ、相手が言葉を詰まらせたのを見てああ、と思い至る
アラームが鳴っていたりそれどころではなかったため自己紹介をすっかり忘れていた
「俺、ジャスパー。ジャスパー・エヴァンズ!二年生!よろしくぅ!
あ、あーついでに、君の名前も聞いていいかい?」
握手を解いた後、び、と自分を指して自己紹介する
後は相手の名前を聞いて――お宝を手に入れるだけだ
とっくに警戒も解けて、隠しているお宝を体の横に持ってくる
黒條 紬 >
「ジャスパーさんですね。
私は、黒條 紬って言います。風紀委員の、同じく2年生です。
よろしくお願いしますねっ。同じ動物好き同志――」
握手が解ける。
そうして、すっかり警戒の解けたジャスパーが取り出した本を見て。
「――えっ……」
目に飛び込む写真は、ふわふわぷにぷにのハムスターなどではなかった。
ぎこちない首の動きで、もう片方の棚を見る。
そこに並ぶ、セクシーなグラビアの数々。
「ーーーーッ!!」
急激に赤くなる顔。黒條は今、自分の勘違いをはっきりと自覚したのである!
この黒條 紬、油断していると何処までもポンコツなのであった。
「……あ、うっ……え……」
そうして、本棚とジャスパーの手にした本を交互に見て、固まること数秒。
かっと赤くなった顔を伏せたまま。
「……え~~~っと、あの、その……勘違いでした!
ほんとにご、ごめんなさい~~ッ!!!」
すーっと申し訳無さそうに視線を逸らした後。
黒條は、全力で謝罪しながら凄まじい勢いで駆け出した!
ジャスパー > 「ツムギかあ、素敵な名前だ…。よろしくぅ!」
爽やかに挨拶をした
これからの学園生活はバラ色だ!
そんな期待と共に、レジに持っていこうとしたところ…
「え、えええええ!ちょ、つ、つむぎちゃん!?
か、かむばーっく!!」
いきなり同志がどこかへ逃げかえってしまった
初心者だったのか?確かに初心者にこのお宝はキワドすぎたかもしれない
だが、諦めるわけにはいかない
ソッコーで老店主からお宝を買い取り、追いかける!
「待って!このお宝一緒に見ようぜーー!!」
興奮のあまり、勘違いということを訂正する暇もなかった
遅れたとはいえ追いかけるが、そこは一般男子
先に駆けだした女子に追いつけるはずもなく…
(……今度はもう少しソフトなお宝を持ってくるか…)
と、その場は思いつつ、諦めた。
夜、もしかして俺が間違っていたのか…?と思い至るのは別のお話
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から黒條 紬さんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」からジャスパーさんが去りました。