学生街の中にある大きめの公園。「常世公園」と名付けられている。
普通の公園にありそうなものは基本的に存在する。遊具なども存在している。
遊具のほかに自動販売機、池などもあり、住民の憩いの場となっている。
参加者(0):ROM(1)
Time:17:54:54 更新
ご案内:「常世公園」からサロゥさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から緋月さんが去りました。
■サロゥ > 女は走っていた。
少女の視界から外れるまでは早足だったが、視界から離れてからは全力疾走でどこかへと向かっていた。
何かに追われている訳でも、監視されている訳でもない。
懐のオモイカネにはGPSが仕込まれており、それがある限り逃走に意味はない。
女が足を止めた場所は、とある路地裏。
学生街の中でも人通りが特に少ない場所。
とはいえ学生街であり、監視カメラは設置されている。
女は監視カメラに背を向け、首元に手を当てる。
再び首元が沸騰し、ぼこぼこと膨れ上がる。
長い髪とマフラーに隠れ、監視カメラの死角となった場所で体の再構築を繰り返す。
「――――――――」
異常な音色が鳴り続ける。
沸騰した首と下あごは止まることなく沸騰を続ける。
そのたびに音色も変化し、次第に整った音へと変化していく。
始めは法則性もない雑多な音色ばかりであった筈だが―――
「ああああああああああ」
―――いつの間にか、甲高い女性の声のような音へ変化していた。
楽器の仕組みを基に、人間の声を再現したのだ。
次いで女は上あごをも変形させ始めた。
そして変形は次第に頭部全体へと広がっていき―――――
数時間後、不審に思った生徒が直接見に来るまで、女はそこで変形を続けていた。
様子を見に来た生徒は失神し、女は風紀委員会に捕縛された。
■緋月 >
「あ、いえ、こちらこそご丁寧に。」
つられてこちらも礼をひとつ。
そして、突然の別れの挨拶と、明らかな早足には少し呆気にとられた雰囲気。
「――夜、日が落ちるのは早いですから、帰り道は気を付けてくださいね。」
そんな言葉を、足早に去る後ろ姿へとかけるのが精一杯であった。
一人となれば、うーん、と軽く首を傾げ。
「……急用か何かでしょうか。
上手い事、此処に馴染めるようになるといいんですが。」
そんな事をぼやきながら、少し冷えて来た空気に外套を羽織り直し、書生服姿の少女も
中阮の弦を少し緩め、ケースにそっとしまい込む。
そろそろと帰り支度をしよう、と言う所であった。
そのまま、何事も無ければ中阮の入った楽器ケースを背負って、少女もまた公園を後にするつもりのようだ。
■サロゥ > 「よろしくおねがいします。緋月様」
そう口にし、45度の礼を返す。
片足を後ろに向けようとしたところで何かを思い出したように止まる。
「失礼させていただきます。邪魔をしてしまい申し訳ございませんでした。
それと改めてありがとうございました」
後ろに向けかけた片足を少女に向けて改めて礼をする。
そして、少女の返事を待つことなく、早足で去っていく。
女を追うような何かがある訳でもないが、明らかな早足でその場を離脱した。
■緋月 >
「うーん…まあ、相当人間離れしてらっしゃるようなので、仕方ないと言えば仕方ない…んでしょうか…。」
発音ひとつで此処まで難儀している程、人間離れした相手は初めてである。
向こうにしてみれば、こちらの方が常識から離れている存在に見える…のかも知れない、が。
ともあれ、無事に授業を受けられればよいのだが。
「あ、これはご丁寧にどうも。
私は緋月と言います。よろしくお願いします、サロゥさん。」
座ったままで少しお行儀が悪いが、下手に立って手にしている中阮を滑らせて落とすのはよろしくない。
ベンチに座ったまま、こちらも一礼を返す書生服姿の少女であった。
■サロゥ > 「分かりました。ありがとうございます。
学園の先生方に確認してみます」
異常な音を何度も鳴らす合間に返事を返す。
そして更に何度か異常な音を鳴らす。
法則性のない雑多な音を何度か鳴らした後、諦めたのか首から手を放した。
「人間を驚かせないコミュニケーションは難しいです」
無機質な感情の乗った声で首を傾げた。
首を立て、少女を見据えて口を開く。
「様々なことを教えていただきありがとうございます。
私の名前はサロゥです。あなたの名前を教えていただけませんか?」
■緋月 >
「ああ…確かに、それはそうですね…。」
解剖、と訊けばまた少し引き攣った声と表情。
それをやるのは下手をすれば命を奪う事に繋がる。刀を持っている自分も、下手に誰かを斬ったりしないか、
随分と手荒な確認を受ける事になった事を思い出した。
少々人間離れした感はあるものの、機械じみた喋り方であればまだ他者を驚かせることは少ないのだろうが。
何かいい手立てがあったかな、とうーんと唸り、軽く姿勢を変える度に、手にした中阮のヘッドの
狼の顔の彫刻が、まるで威嚇するように軽く揺れる。
「………やっぱり、学園の授業でしょうか。」
出て来た結論は、ある意味常識的な内容。
「生物学…の授業が、一番近い分野になるんでしたっけ…。
私は履修していないですが、確かCG…コンピューターグラフィック、というのでしたか?
骨格などをを精密に模した立体画像を使用する授業があるそうですから、
そちらを受講するか、担当の先生に人体についての講義をお願いして了承が貰えるか、ですかね…。
それまでは、あまり、その音の出し方は…知らない方だと相当驚くと思いますから。」
驚くというレベルで済めばいいのだが。
そう出かけた言葉は飲み込んでおいた。
■サロゥ > 女は、再び静かに説明を聞いていた。
先程と同じ反応を繰り返し、説明を終えてから一息待って口を開く。
「分かりました。ありがとうございます。
模倣の為に別の方法を探したいのですがこの島では人間の解剖は秩序に反すると聞かされています。
秩序を逸脱しない範囲で何か良い手段はないでしょうか」
そう尋ねながら、自分の喉に手を当て、再び喉と下あごを沸騰させる。
沸騰していても尋ねる声色は変わらない。
ただ、沸騰が収まったあとに開いた口から漏れた音は、中阮の音色からはかけ離れた外れた音。
そして再び沸騰させる。
少女が喋り始めたとしても、その繰り返しは止まらない。
沸騰が止まったらまた口を開き、異常な音色を短く漏らした。
■緋月 >
「あ、いえ、不快と言う訳では…聊かびっくりはしましたが。」
これは嘘ではない。不快とまでは感じなかった。驚きはしたが。
そうして、女性…の姿をした存在の言葉から、凡その理解は得られる回答が貰えた。
つまり、人間として振る舞えるようになるための試行錯誤の最中という事、だろうか。
書生服姿の少女は、概ねそう結論した。
であれば、簡単なアドバイス位は出来る。
「……事情は大まかですが分かりました。
であれば…少なくとも、「これ」や、これに似たものは、発声器官の参考には、ならないかな…と。」
少し言葉を選びながら、訥々と声をかける。
「これは…楽器といって、人間の身体では出せないような音を出す為の品物です。
音楽――まあ、色々な音の組み合わせで、様々な表現を行うのですが、その演奏に用いる為の道具で。
これ以外にも沢山種類がありますけど、基本的に人間の喉からは出せない音を出す為の道具になります。」
つまり、元々人の身体が出せない音を出す為に作られたので、その音の模倣は人間離れの証明になってしまう事だ、と。
■サロゥ > 「分かりました。ありがとうございます」
少女の返答に、先ほどと同じ言葉を返す。
同じなのは言葉だけではない。抑揚も音量も間も同じだ。
コピーペーストされたような返答だ。
「気にしないでください。私は人間ではありません」
少女の問いに、変わらず無機質な返答で応じる。
「人間ではありませんが人間に近づけるように模倣している最中です。
先程の試みはその一環です」
楽器へと視線を傾けて続ける。
「そちらの道具の仕組みを模倣することで人間の発声器官の再現を試みようとしたのです。
不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
息継ぎ無しで一息に言い切る。
そして、ゆっくりと腰を曲げて頭を下げた。約45度の最敬礼の姿勢だ。
■緋月 >
「いえ、大した事では…。」
浮世離れした人だな~…と思いつつ、謝礼の言葉にはそう返す。
自分も大概だろうとは思っていたが、何と言うか……人らしさというものがどこか希薄というか。
視線についても嫌でも気が付く。何処か、まるで機械じみた動きで、こちらの説明や示した楽器の部位を
観察――そう、観察、という言葉がこれ程近いものだとは思わない視線の雰囲気であった。
(失礼だな、とは思いますけど…。)
と、そんな事を考えた所で、唐突に言葉をかけられる。
「はい? 何を――――」
其処まで口にして、思わず絶句してしまった。
当たり前であろう。普通、人間の首や下顎は、あんな風には…あんな形には、膨らまない。
流石にその様を見て、相手が「人外」だという結論に到達しない程、書生服姿の少女も鈍くはなかった。
そうして、その喉から放たれた音は、自身が演奏していた中阮のそれと同じ――弦楽器の音。
うん、間違いない。普通の人間ではない。普通の人間は通常、喉から弦楽器の音を出せない。
自分の知り合いである音楽家にやってみてと言っても、ほぼ確実に答えは「無理」だろう。
「――――あ、はい…再現は、出来てます。同じ音だと、思います。」
少しだけ掠れた声での返答。
表情も、ちょっとだけ引き攣っているかも知れない。確かめる方法はないが。
「……ただ、普通、人間には、その音は喉からは出せないですね…。
……ええと、無礼だと思いますが、あなた、人間ではありませんね?」
少し気まずげに、そう訊ねてみる。
■サロゥ > 少女が説明を始めると、女はその手を引っ込める。
そして、静かに説明を聞き始めた。
時折説明に合わせて頷き「はい」と相槌を打ってはいたが、それ以外には殆ど何も口にしなかった。
自然な呼吸と呼吸や瞬きは途切れることなく繰り返され、時折爪先や指先が微妙に動く。
ありふれた人間らしい動作だが、視線だけが異常な挙動を見せていた。
少女の指が動くと、追従して視線が動く。
弦が振えると、目まぐるしく視線が動き回る。
弦から接続部、胴体、三日月形の孔、そして空中へと視線が移動していく。
それを指の位置を変える度に繰り返していた。
「分かりました。ありがとうございます」
少女の説明が終わって一息置いてから、感謝を述べる。
そして再度一息置いて。
「見てもらえませんか」
そう口にし、自分の手を首元に添えた直後、女の首と下あごが沸騰するように膨らみ始めた。
マフラーに覆われた上からでも分かるほどの膨張だが、10秒程で何事もなく収まる。
収まった直後女が口を開くと。
「―――――――――」
音がした。
先程少女が鳴らしてみせた中阮の音色が、口から流れていた。
両者の音色の美しさは雲泥の差であるにしろ、その音は間違いなく先ほど少女が鳴らした中阮の音色であった。
「再現出来ていましたか?」
一通り鳴らしたあと、機械音声のような声で改めて少女に尋ねた。
■緋月 >
ふぅ、とひと段落した所で、ふと気が付くと視界に入ったのは一人の女性。
こちらへの接近の仕方に何処か無遠慮と言えるような雰囲気があるが、殺気の類は感じられないので、
特に警戒もなかったのだが。
「――あ、はい、こんにちは…?」
どこか不自然さを感じる声。何と言うべきか、機械的な声、と言った方が良いのだろうか。
そして突然こちらに向けられたのは、これまた唐突な質問。
(楽器を知らない方なのでしょうか…。)
自分も楽器からは縁遠い人生であったが、質問の内容からして楽器というものを知らない、ような気がする。
まあ、常世島は広いのだ。そういった所から来る方がいてもおかしくはないだろう。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、教本に載っていた中阮の仕組みを素早く思い出す。
「ええと…これが鳴る仕組み、ですよね。私もあまり詳しくはないですが…。」
最初にそう前置き。姿勢を整えた際に軽く動いた中阮のヘッド部分、真正面を向く狼の顔の彫刻が軽く揺れる。
「えっと…まずこの、弦を弾くと、この…胴体に繋がってる部分に、弦の振動が伝わります。
その振動が、胴体の中――この丸い所で反響して、最後に――」
ここ、と、琴杆…ギターでいうネックに当たる部分を挟み込む形で胴体に空いている三日月型の二つの孔を指す。
「ここから、反響した音が出てきて、音が鳴るそうです。
私も楽器は始めてからそれほど長くないのですけど。」
言いながら左手を琴杆の上を滑らせて弦を抑えながら、右手で軽く弾く。
押さえた場所が胴体に近くなる程、音が高くなっていく。
「こうして、弦を押さえる場所を変えて、音の高さを変えます。
こっちに動かすと、どんどん高くなっていきます。」
演奏家、と言える程ではないが、練習を重ねて慣れた手つきである。
■サロゥ > 寒空の公園に現れたのは少しばかし不自然な、しかしありふれた容姿の女。
人型の異邦人などに貸し出される制服を着用し、その肉体は見る限り人のものだ。
ただ人の目には、普通の人間として映るだろう。
女は何かを探す様にうろついていた。
健全に潤う眼球を動かしながら、何かに引き寄せられるように書生服姿の少女の視界内に入り込む。
少女の視界に入ったということは、女の視界にも入ったということだ。
少女の方を見つめ、自然な瞬きをしながら少女の方へと迷わず歩み寄る。
何かを構える様子はない。魔術の類の気配もない。無手で襲おうという訳でもない。
少女、というよりはその手に握られた楽器を見たまま距離を詰めていく。
そして少女の散歩前で止まれば、楽器を指さしながらマフラーで隠された口元を動かした。
「こんにちは。それはどういう仕組みで音が鳴っているのですか?」
喉の震えを伴わないその声は、旧式の合成音声のような声である。
不自然さが微かに残る、無機質な感情の乗った女性の合成音声。