2024/08/26 のログ
ご案内:「常世公園」に黒面の剣士さんが現れました。
黒面の剣士 >  
夜も更けた常世公園。
その中を、音もなく行く人影が一つ。

暗い色のマントに書生服姿の、狼を象った黒い仮面のやや小柄な人影。
足音もなく、静かに公園の中を歩む。
まるで、何かを探すかのように視線を巡らせつつ。

時折、その瞳と思しき箇所から、青白い炎のような光がちらりと揺らめく。
 

黒面の剣士 >  
ふと、その黒い面が、何かを捉えたように一点を見つめる。
両目から、青白い炎のような光が揺らめく。

そこには、「何もいない」。
普通の者には、そう見える。

だが、黒い仮面の人影には「それ」が見えていた。
霊視が可能な人間にも、同様に目にする事が可能であろう。

そこには、座ったままの姿勢で何かを待っているような、青白く揺らめく、一匹の犬の霊の姿。
 

黒面の剣士 >  
「……。」

頭の中で、思念が響く。呆れるような態度の思念。

「…分かってますよ、自己満足だという事位は。
それでも、見てしまったんですから、仕方ないでしょう。」

小さな声で、その思念に答える。
傍から見ると独り言を呟く変質者だが、こんな格好でこの遅い時間を歩いているだけで既に変質者だ。
今更気にする事でもない。

――黒い仮面の人影は、座ったままの犬の霊に向かい、歩を進める。
そして、その傍にしゃがみ込むと、そっと犬の霊に手を伸ばし、頭を撫でるように動かす。

ふい、と、それに気が付いたかのように、犬の霊が仮面の人影に首を向ける。
害を見せるようではない様子のためか、軽く首を傾げたようにも見えた。
 

ご案内:「常世公園」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
耳元でざわつく声がする。
その言葉は人には理解してはいけないものだ。
人成らざるもの、死の囁き。常人で在れば気色悪さに身の毛がよだつ。
それを直に聞く少年はただ、顔をしかめて夜道を歩くだけ。

「ウルサいなァ……行けばいいんだろう?」

悉くもそれは悍ましい同居人である。
自らが所有する、内包している死の象徴。
少年はそのようなものを精神力で御する。
決して継承、それに属するものに殉ずることもない。
力を見定められた者。本人に自覚があるかはさておき
そんな迷惑な同居人の声に従い、歩を進めたのは常世公園。
そこには人がいた。黒い狼のような仮面の人。
女性みたいだ。足元の"影"は、青空にも映っている。

「…………。」

何をしているんだろうか。
いや、何かするんだろうか。
目をぱちくり瞬きしつつ、迷いなく公園へと踏み入れた。

「ねぇ、何してるの?犬好き?」

そしてその背中に、ちょっとズレた問いかけが飛んでくる。

黒面の剣士 >  
「――――。」

犬の霊の頭を撫でながら、内なる者との対話を続ける。
返って来るのは、やはり尊大な雰囲気の、遠回しな否定の言葉。

(…分かってます。これも、結局は自己満足です。
でも、放って置いていいものでもないでしょう。
――――ええ、それ位試したとして、問題は――)

と、其処へ、突然かけられる声。
背後から。気付かなかった――いや、犬の霊に気を取られ過ぎていた。

「――――っ!」

場合によっては直ぐにこの場を離れなくてはいけないか、と思いながら、腰の刀袋の紐に手を掛けつつ
振り返れば、そこには――――


(! ……この、感触…間違い、ない!)

黒い服で固めた姿に、黒い拵えの刀を担いだ若者。
歳は、自身と同じくらいか。
だが、それ以上に、己が魂の内からの声と、感じられる感触が、目の前の少年が「同輩」であると
強烈に教えて来る。

「………ええ、まあ。好きですよ、犬。
……こんな時間に、こんな場所を散歩とは、変わったご趣味ですね――――

――”先輩”。」

その言葉が意味する処は、黒い服の少年ならば分かる筈だろう。
何しろ、「同質のモノ」を実体化させて身に着けているのだから。
 

芥子風 菖蒲 >  
犬が好き。そんな解答が返ってくるとうん、と静かに口元が緩む。

「可愛いよね、犬。
 オレは猫も好き。風紀の本庁に日向ぼっこしてるんだ。たまり場?みたいな。」

あのぽわぽわしたあの子と一緒に戯れる猫の群れ。
今でもたまにお邪魔しては猫の使いっ走りしたりと悪くない毎日だ。
何事もない朗らかな日常を動物たちは彩ってくれる。
足元の子は"変わってる"けど犬は犬。
昨今、幽霊とか精霊も珍しくはない。
少年にとっては、"変わってる"程度の範疇に収まるのだ。

「そうかな?オレ、風紀委員だから此の時間も出歩いたりするけどね。
 今日は非番だから確かに珍しいかも。……先輩……?」

不思議そうに首を傾げる。
風紀委員は秩序機構。24時間交代体勢。
夜更けや夜明けも巡回することはそう珍しい事じゃない。
先輩、と呼ばれるとぱちくりとまばたき。
顎に指を添えて、んー、と思案を巡らせる。

「じゃあ、アンタは一年生なんだ。
 オレはついこの間二年になったけど、先輩かぁ……。」

「なんだか、ヘンな感じ。ていうか、オレのこと知ってるの?
 あ、オレ。菖蒲。芥子風 菖蒲(けしかぜ あやめ)。」

ついにそういう立場になった。
感慨深いような、くすぐったい感じだ。
何はともあれ自己紹介。付けてる仮面は当然認知している。
認知しているけど、"先輩"なんて言われたらそういう返事が返ってくる。

黒面の剣士 >  
「――――ええ、まあ。
厳密に言えば、ついこの間、生徒として登録されたばかりです。
そういう意味で、私は「後輩」になりますが。」

結構ズレた返答が返って来た。もしかしてこの人、天然であろうか。
そう思いつつ、とりあえず話は合わせて置く。

「ああ、風紀委員。
それは、見回りお疲れ様です…と、非番でしたか、これは失礼。」

確かに、同居している方も夜が遅い事が稀にある。
主に事務仕事の類では、と思う事もあるが。
風紀委員というのは、存外に大変な仕事なのだな、と改めて実感。

そして、知ってるのかと問われれば、改めてそちらに相貌を向ける。

「――知っているというか、「つい今しがた」、気が付きました。

あなたも、「御神器」の所持者――なのでしょう。
「この人」が教えてくれてますし、私の方でも分かります。
だから、先輩。間違ってはいないでしょう?」

こつ、と、エジプト風の造形の黒い狼の仮面を軽く指差す。
同時に、その双眸に、青白い炎が灯る。

――埋葬の仮面。死者を観測するものである、死神の神器のひとつ。

芥子風 菖蒲 >  
「そうなんだ。ようこそ常世学園へ……っていうのは、ヘンか。
 何処から来たの?オレは本土から。それとも何処か別の場所?」

どうやらあながち間違いではないらしい。
此のご時世、国どころか門の向こうから誰かが訪れる時代だ。
出身地が国ではなく、なんだが凄いとこにもなる時代。
彼女は何処から来たんだろう。他人への興味は尽きない所。

「うん、休み。"同居人"が騒がしいから連れてこられたけど……。」

凡そ彼女の付けているその仮面だろう。
彼女の言葉通り、内包された鋏と同類のもの。
多分、彼女(しいな)がまたあーだこーだ何かしたのかも知れない。
じぃ、と青空の双眸が燃ゆる青白い炎を見据える。

「所持者?ああ、うん。あの鋏?うん。そうだけど。
 多分、(ソイツ)がアンタの顔を見たがってた……んだと思う。」

おくびに出すこともせずしれっと頷いた。
さしたる剣呑さもなくさも当然のように答える。
が、その後何処となく迷惑そうに眉をひそめた。

「さっきまで耳元で煩かったのに、急に対面すると黙るしさ。
 いい迷惑だよ……オレ、夜中に起こされたモン。ちょっと眠かったんだけどなぁ……。」

ぐっすり夢の中を起こしてくれた死の囁き。
夢の中で一悶着があったがそれはおいといて、ちょっと眠そう。
言った傍からくぁ…と小さくあくびして軽く伸び。

「その仮面……犬?やっぱり犬好きなんだ。」

※狼である。

黒面の剣士 >  
「その言い回しに従うなら、「別の場所」からです。
こちらの言葉で言うなら、「異邦人」が正しいのでしょうか。
今は、少しご縁があって、風紀委員を務めてらっしゃる方のお部屋に居候させて貰っています。」

とはいえ、もうすぐ夏休みも終わる。
自分もそれからは生徒として活動しなくてはいけなくなるだろう。
そろそろ、働き口と新しい住居を探しておく必要があるだろうか、と考えつつ。

「成程、そういう事だったのですか。
……多分、私にもいくらかの責任はありますね。安眠妨害については申し訳ありません。
事情があって…早い内に、この方の力を把握して、使えるようになっておかないといけなくて。」

つまり、夜間外出も特訓の一環だったらしい。
叩き起こされてしまった「先輩」には、迷惑もいい所だったろうけど。
そこは流石に自分が悪かったと思う。

「顔を見たかった…というのは、私が「継承者」、だからでしょうか。
誓いを立てて、かの御神へ信仰を捧げましたので。
流石に、それが理由かは分かりませんが。」

軽く首を傾げる。
しかし、「鋏」――とは、また剣呑な。
随分と、攻撃的な雰囲気がする。

と、「犬」という言葉を聞いた途端に、仮面の双眸の炎が一挙に激しさを増し、牙のように蒼い炎を噴き出す。
同時に内側から伝わるのは、凄まじい激昂の感情。

「あ、ああっ、すみません、落ち着いて…!
あちらの方々に悪気はないのですから!」

あわあわ、と猛烈に蒼い炎を噴き出す仮面の意志を宥めすかそうとする。
犬扱いされた事が相当気に食わなかったようで、その感情は少年の方まで届くかも知れない。

尚、突然の出来事に犬の霊は凄い勢いでおびえていた。

芥子風 菖蒲 >  
「そうなんだ。これからも同居するの?
 そうじゃないなら、申請とか色々した?
 生活委員会にさ。結構色々書かないといけないから面倒だよね。」

寮の申請から生活周りまで何かあれば大抵の事は融通してくれる。
特に異邦人ともなればその辺りの保護も手厚かったりする。
ただし、その代わり書類の要求数は相応のもの。
地球人の自分ですら辟易するんだ。
もし、彼女が同じ立場ならちょっと同乗する。

「別に気にしてないし、アンタが責任を感じることでもないよ。
 本当は無視くらい出来るけど、後で"拗ねる"と面倒くさいし。
 今はなんか黙ってるっていうか、アンタを見てるっぽいけどね。」

さしたる問題性はそこにはない。
それが如何なるものか理解している。
理解した上でその関係性は"気兼ねない"雰囲気を持っていた。
縁もつれ合う悪友。随分と仲が良いらしい。
その理由は何なのか。彼女の言葉には小首をかしげる。

「え、知らない。なんかコイツがウルサいから来ただけ。」

実際適当だった。理由の一つも聞いちゃいないぞコイツ。
そんな中、犬という単語に燃え盛る炎。
彼女の激情……というよりは仮面の激情か。
何か気に入らなかったらしい。何なんだろう。
まさか、"犬"扱いが気に入らなかったとは思うまい。
不思議そうにしながらも、表情一つ変えることはない。
そこには怯えも驚きもなく、ただそっと手を伸ばす。
形としてはそっち、彼女の頬に手を添え、その仮面の目元を親指がなぞった。
暖かく、朗らかな少年の手。夜の青空が、激情を映す。

「──────ごめん、落ち着いて。気に触ったなら、謝るよ。」

静かで、透き通るような空の声音。
純一無雑。雑念も無く、死も、少女(ひと)も、霊も。
耳朶に染みるは朗らかで、穏やかなもの。
その素直さが少年を構築するものの一つ。
かつて、傀儡であれど人の羨望を集めた存在。
何に対しても常に目を背けず、青空は包み込み。
継承者ならずとも、所有者であれど、内包する"死"とそういられる理由がそこにはあった。