2024/08/27 のログ
■黒面の剣士 >
『――――――。』
少年が仮面の目元をなぞれば、まだ少しの間、猛る炎を吐き出し続けていた仮面であったが、不承不承と
いった感じで牙、もとい炎を収める。
触れた少年にもしかしたら伝わるのかも知れないものは、尊大極まる意志。
具体的には「無礼を言ったが素直に謝ったので許してやる」みたいな感情。
「はぁ…びっくりした……。
すみません、この方、狼の仮面なので……犬と呼ばれたのに腹を立てたのだと思います。
割と尊大な性格みたいですし…。」
はぁ、と安心したような少女の声。
仮面でくぐもっているが、紛れもなく女性の声である。年の頃は十代半ばか後半と言う辺り。
兎も角、落ち着いてくれたことに安堵するような調子の言葉。
「これから…は、流石に甘え続ける訳にもいかないですし、何処かに新しい部屋を借りる事になるかと思います。
あの人の性格なら、気にしなくていいと言ってくれるかもですけど。
――書類については、まあ、頑張ります。」
前向きに頑張るらしい所存。
右も左も分からなかった、この島に着いてからに比べれば、書類の煩雑さ位は許容範囲だ。
頑張ろう。
「――そちらも、やはり御神器の意志が頭か、でなければ精神に響くものですか。
無視出来るのは、ある意味凄いと思います。
私は…事情があって、自分からこの方を求めましたし、そこに思う所はないですけど…。
それでも、こうして「安らぎ」に迎えずにいる霊を実際に見ると、心はざわつきます。」
怯えてしまっている犬の霊に、もう大丈夫だよ、と軽く手招き。
犬の霊は恐る恐る近づいてきて、頭を伸ばされた手に擦り付ける。
「しかし、私を見ている、ですか……本当に、何が目的なのでしょうか。
あ、いえ、気分が悪い訳ではなく、ただ純粋に気になっただけで。」
実際、気にはなる。他の神器が自分を見ている、というのは。
直後、小さく頭に響く意志。尊大な意志が向けられる。
「…分かっていますよ、私が選んだのはあなたですから。
ああ、すみません。何だか、他所に目を向けるとはいい態度だ、みたいな意志を向けられて。」
■芥子風 菖蒲 >
炎は収まったようだ。
どうやら少しは気も落ち着いたらしい。
自然と少年もはにかんだ。
「ありがとう、ごめんね。」
目の前の剣士ではなく、仮面に謝罪と、礼。
誰に対しても変わることはない。死も、神も、人も。
少年は為人、何事にも真っ直ぐ、自分なりに向き合っている。
「ん、大丈夫。オレが悪かったし、気にしてない。
オレの鋏も小煩い時もあるし、個性だと思うよ。」
下手をすれば火傷でも済まない事だ。
少年にとって、それは個性で片付いてしまう問題らしい。
とんとん、と自身の肩を鞘で軽く叩いて頷いた。
「その時はオレも手伝うよ、風紀委員だし。」
人助けはひいては少年の領分だ。
一人よりも二人。地球出身の自分のが色々役に立つことはある。
「そう?せーしん、かは知らないけど夢にも耳元にもずっとなんか言ってくるよ。
煩いけどさ。そういうモンならそれでいいし、オレはコイツと上手くやってる。」
「……と、思う、かな。」
それを個性で片付けてしまうのも、少年の性分だ。
何事にも何者にも真っ直ぐに向き合い、受け入れ、自分なりに向き合っていく。
立場も、種族も、形も、其処に一切の問題はない。
青空は誰の上にも広がっている。だからこそ、隣人程度の存在なのだ。
自らの所有するものも、継承者に非ずとも使いこなし、付き合っていける理由だ。
だからこそ、少年はじっと仮面を…目の前の剣士を見据えている。
ずぃ、と身を寄せれば仮面を、その奥を見ているようだ。
「多分、アンタの事が気になるんだと思う。
オレも気になってる。……なんていうのかな……焦り?」
「なんだか剣呑な雰囲気だったし、いち早く仮面を使いこなしたいみたいだし。
でも、あの犬には優しいみたいだから……なんだか、そこまでして力?とかほしいのかなって。」
「何かあったの?オレ、"先輩"だから力には成れるかも知れないよ。」
■黒面の剣士 >
謝罪の言葉に、黒い狼の仮面はぶす、と軽く蒼炎を噴く。
何と言うか、よく言えば気位が高い。悪く言えば尊大な所が目立つ。
仮面をつけている少女も、小さく苦笑するような声を漏らす。
「うぅむ…私の場合は、其処まで五月蠅くは言ってきませんが。
勿論、呼べば答えてくれますし、こうして力の扱いの訓練にも…
まあ態度は大きいですけど、しっかり付き合ってくれますし。」
夢に出る程騒がしくはない。
そこは相性か、性格か…でなければ、継承の有無か。
いずれにしろ、目の前の少年はそれを然程苦には思っていないように見える。
なので、あまり細かい事は口に出さない事にした。
他の所持者と神器の関係に口出しなど、それこそ余計なお世話に過ぎる。
「焦り…ですか。やはり、分かる方には分かってしまうものですか。」
軽く、頭を振る。
「――詳しい事情は、あまり口に出来ませんが、知人…いえ、「友人」が、「死を捻じ曲げられた存在」に、
なってしまっているのです。
…いや、それも違いますね。初めて会った時には、もうあのひとは既に――。」
ぐ、と、犬の霊を撫でる手とは逆の手を、握り締める。
「――ですから、せめて私が。
思い上がりと言われても、気負い過ぎと言われても…せめて私が、安らかな「最期」に送ってあげたいのです。
風紀委員や、公安委員の手にかかって、怪異として「処理」されてしまう前に。
その為に、早い内にこの御神器の力を使いこなせるように、なりたくて、こうして外出を。
だから、でしょう。焦っているように見られても、仕方ないです。
実際、焦りはあります。どれだけ猶予が残っているかも、分かりませんから。」
たはは、と、深刻さをごまかすように、苦笑する声。
■芥子風 菖蒲 >
それこそのっぴきならない事情があるらしい。
死を捻じ曲げられた存在。
多分死ねないのか、或いはもっと別の事情か。
特別な事情があるからこそ、焦るのだ。
彼女にとってその友人が、大切だからこそだ。
ふぅん、と相槌を打って軽くしゃがみ込む。
犬の霊においで、と手を伸ばす。
「そんな自責するような事じゃないと思うよ。
オレも、鋏を持っていったのも同じ理由。
と言っても、友人じゃないけどね。オレの場合。」
「ソイツは、紛れもない『犯罪者』だったよ。」
既にそれは覚えている人しか覚えていない。
此の島は広い。それこそ全土を震撼させるような事は起きない。
それこそ風のように、起きたことは流れていく。
それは此の一つに過ぎない。犬と戯れながら、少年は語る。
「ダスクスレイ……佐藤四季人を救いたかった。
けど、オレが力及ばず殺してしまったオレは、救えなかった。」
その時には事件を解決した英雄等と言われたが
此方からすれば溜まった話ではない。
どんな事情であれ、結果としてそうなってしまったのは事実だ。
表情一つ変えはしない。苦い現実も受け入れて、見据えているから。
「……ダスクスレイは、新しい"怪物"も生んでしまった。
オレは別の事件を追ってたから、全部後から知ったんだけどさ。
テンタクロウ、藤井先輩のこと。誰かが決着を付けたみたいだけど。
その人に言いたいことあるんだよね。手を煩わせてごめんってさ。」
自らが終わらせた悲劇の残滓さえ、すくい取ることは出来なかった。
悔恨はある。後ろめたい気持ちはある。
後ろ髪を惹かれても、それでもと前を向き続ける。
死さえ背負い、進める強さがあるからこそ囁くのかも知れない。
死神の囁きさえ対等に受け入れて、進んでいく。
死に魅入られず、死と向き合い、死と手を取る。
少年が恐らく使徒になることはないだろう。
それとは全く別の道を進み続けるのだから。
これもまた、少年が見出した死との付き合い方。
答えの一つではあるのだから。
顔を上げると、少しはにかんで彼女を見上げる。
「オレは無責任なことは言えないよ。
ただ、深呼吸。思い上がりとかそういうのじゃなくてさ。
きっと、仮面とは長い付き合いになると思うよ。」
「それこそ取っ掛かりはそれでも、大事してあげてね。
……後は、そう。オレは何か言える立場じゃないけど……。」
「お互い納得できる形にしたいよね。」
せめて同じ道は歩まぬように、と"後輩"に祈るばかりだ。
それこそ"最期"が必要なら、止める権利はない。
此処からは彼女が歩く道だ。自分はそこの通りすがり。
せめて、避けられぬ哀しみなら、その肩の荷位は支えてあげたい。
頼ってくるなら別だけど、そういう話ではないのだから。
■黒面の剣士 >
「――――――」
黒い服の少年の語る言葉に、思わず言葉を失う。
仮面のお陰で、表情が伝わらないであろう事は、幸いだった。
語られた名前には、憶えがある。ふたつとも。
ひとつは間接的、ひとつは直接的に。
ダスクスレイ。斬奪怪盗の通り名で一時常世島を騒がせたという犯罪者。
かの機界魔人についての報道の中で、少しなりだったが触れられていた事を覚えている。
テンタクロウについては言うに及ばない。
何しろ、それを止めたのは――――
「……そう、ですね。
お互い、納得できる形には、したいです。
それが例え――別離であっても。」
言いながら、そっと仮面に手を伸ばし、額を撫ぜるように触れる。
機嫌がよくなったのか、仮面の双眸の炎がゆらりと揺れた。
「はい、それはもう、覚悟を決めた事です。
「あのひと」の件が終わっても、この方とはずっと付き合っていく事になると思います。
きっかけは、そんな形でも…はい、言ってみれば「相方」ですから。
お互い、選んだ事、選ばれた事――後悔がないように、いければいいとは思いますし、努力もします。」
ふ、と、仮面の向こうから、小さく微笑むような声。
「――お休み中の所、お呼び出ししてしまったようで。
その上、話まで聞いて貰って…色々、ありがとうございます。
少し、気持ちが楽になりました。」
その言葉と一緒に、折り目正しく一礼。
手を伸ばされ、少年の元に向かった犬の霊は、そんな二人をきょろきょろと見上げている。
■芥子風 菖蒲 >
その仮面の奥で何を考えているか、どんな表情をしているかまでは知らない。
それを聞くこともしない。そんな無粋な真似をするほど少年は愚かじゃない。
此方に来た犬の霊をよ、と抱きかかえるとそのまま立ち上がる。
「その時は別れであっても、キミが忘れなければ永遠じゃないよ。
思い出の中、っていうのかな。うーん……難しい言葉はわからないけれど。」
「でも、最期まで一緒に生きることは諦めなくてもいいんじゃないかな。
人の覚悟に水を差すのは良くないけど、ワガママの一つ位は許される場所だよ。」
「幽霊だって、珍しくない世界なんだし。」
自分と同じ道は歩んでほしくないが、"それしかない"なら仕方ない。
だけど、足掻く事をやめたらただの停滞だ。
奇跡でも何でも、それを手に入れるために人は深淵に手を伸ばす。
破滅を乗り越えて、大変容すら乗り越えた先が現代になる。
少年はその覚悟は汲み取った。けど、それだけは言わなきゃいけない。
これは、自分のような目にあってほしくない少年なりのワガママなのだから。
「その仮面も、オレの鋏も、きっと使い方次第だよ。
猶予がどれだけあるかは知らないけど……」
その仮面越しに、炎の双眸の向こうに見るだろう。
何故、死の神が、神器が使用者として傍らにあるのか。
腕に抱く犬の霊。それだけではない。
その肩に手を添える妙齢の女性。
作家めいた風貌の女性に、遠巻きに見守る男の影。
そこに斬奪怪盗の影は存在しない。だが、少年の周りには多くの"死"が揺蕩う。
何れ、或るべき場所に皆運ばれて行くのだろう。
それまで共に歩み、共に往く。互いに認知しているのが問題ではない。
大空は平等に誰の頭上にも広がっている。死者もそれは変わらない。
死後の安らぎ、幽世への旅路は、死神と共に。
その旅路を彩るには、安寧の旅路を約束されているのだろう。
「ん、大丈夫。気にしてない。そろそろオレは行くよ。
何にせよ、後悔はしたって、泣いたって、納得できる形になるといいね。」
「……そう言えば、キミの名前は?」
■黒面の剣士 >
「――そうですね。
それが赦されるなら…それは、素晴らしい事、なのでしょう。」
少年と、少年が抱える犬の霊を交互に眺める。
それは、確かに我侭だろうが、素敵な事だとは思う。
だが、それが簡単に通る程、世の中は甘くはない事も、分かっている。
――少年の周りの多数の霊達。
いつか、彼等も行くべき処に向かうのだろうか。
彼等を蒼い炎の眼で見ながら、仮面の少女は軽く外套を翻す。
「――私も、そろそろ帰ります。
押し付けるみたいで済みませんが、その子の事、よろしくお願いしますね。」
少しはリラックスできたらしい、穏やかそうな声。
名前を訊ねられれば、軽く振り向いて蒼い炎の瞳を向け、
「――――この仮面を被っている時は、秘です。
もしご縁があれば、いずれまた会う機会もございましょう。」
その声と共に、たん、と地を蹴る。
まるで野を駆ける狼のように、身軽に駆け去っていく。
ただ、去り際に小さく言葉を残して。
その言葉に従って調べれば、彼の身分ならば、一つの名前に辿り着けるだろう。
■黒面の剣士 >
「――テンタクロウ、否、藤井殿の件については、お気になさらず。
私が己の我儘で、行った事ですので。」
■芥子風 菖蒲 >
「許されるっていうか、どうするかは自分次第だから。」
そもそも許されるとか世の中の道理など少年は重視していない。
自分が納得できる道を進み、自分がしたいことをする。
風紀の道に進んだのも、それに沿っているだけだ。
それが届いたかは知らないけど、せめて道に後悔が無いことを祈るばかりだ。
「え、いいけど……ペット入れたっけ?まぁいいか。」
どうせ見えない人には見えないしなんとかなるだろう。
名前ははぐらかされてしまった。仮面を被っていると秘密らしい。
なんだろう、そういう制約でもあるのかな。
秘密と言われたことを無理に暴こうとは思わないけれど、変なの。
それに最後に残した言葉だけでなんとなくわかった。
去りゆく背中。狼の背を追いながら、あー、なんて変な声も漏れてしまった。
「……恥ずかしがり屋なのかな……?」
だからお面とか付けてたのかな。
なんて見当違いな事を考えながら踵を返した。
一瞥した夜空は、今日も明るい。
「行こうか。」
また道が交われば、会えることもあるだろう。
それは誰に言った言葉かはわからない。
黒衣を風がはためかせ、共に前に進んでいく。
彼女の旅路にも平穏があらんことを、願いながら。
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