2024/09/16 のログ
ご案内:「常世公園」に緋月さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に神樹椎苗さんが現れました。
緋月 >  
――書生服姿の少女にとって、とある重大だった事件から、暫しの後。
経絡系の問題で入院していた少女だが、以前より軽傷だった事もあり、随分と早い内に退院が許可されていた。

「…………。」

その間に、少女は少しの間、登校の休みを貰い、様々な場所を巡っていた。
何かを追憶するように、あるいは思い出を作るように。
そして――最後に選んだ場所が、此処だった。

「――ふう。」

気が付けば日が傾き、空が黄昏色。
その光景をベンチに座って眺めながら、軽く額に手を翳している。

「……ええ、分かってます。
逃げてたわけではないですから。来るとしたら…もうそろそろかな、とは思ってます。」

ちら、と、左の眼に小さく蒼い炎が灯る。
その焔が揺らめいた後に、また、独り口を開く。

「……ええ、とんでもない真似をしたとは思ってます。
厳しい沙汰や叱責も、避けられないでしょう。

…分かってます、「それ」も、当たり前でしょう。
勿論、覚悟の上です。
だから、せめて最後の猶予位は、何も無しにのんびり過ごしたかったんです。」

ちら、ちら、と、また蒼い炎が揺らめく。

「……容赦がないですね、あなたは。
――確かに、「使徒」としてはもう、失格もいい所でしょう。
今後、あなた達に関わる事を許されるかすら怪しいです。

……でも…それでも、自分の選択を、「愚かな真似」だったと、後悔はしたくはないです。」

その言葉に、目の炎は、す、と消える。
それに何かを感じ取ったように、小さく…どこか、創ったような、微笑を浮かべる。
 

神樹椎苗 >  
 紅い剣は、『死という概念』さえあるものであれば、あらゆるものに死を与えられる。
 そして、『黒き神』の僅かに残った権能の一つは、本来無い物に『死の概念』を与えるというモノ。
 この二つが合わさった時、ありとあらゆるものに死を与える事が出来る。
 そう、たとえ形のない抽象的な概念や法則、現象であっても。

 というわけで。
 立場上、怒らなくてはいけない(・・・・・・・・・・)が起きてしまった椎苗と黒き神は。
 多大なる代償を支払いつつも、独りと一柱は、公園を訪れた。
 なお、『気配』という概念を比喩でなく殺した状態で。

 ゆっくりと、ベンチに腰掛けている『誇らしい』後輩に近づいて。
 その右肩にペタリ、と置くように。
 首筋に触れるように、紅い刃が音もなく置かれた。

「――お別れは済みやがりましたか?」

 もし、後ろを振り返れば、花嫁衣裳のような幼女と、その背後に紫色の炎のようなオーラを噴出させながら腕を組んだ、
 なんだかやけにノリ(・・)の良い、フードと外套を纏った白骨。
 本来表情なんてないはずなのだが、なぜかまさに『怒っているぞ』というような表情に見える――幻覚かな?
 

緋月 >  
「――――。」

ぺたり、と首筋に置かれた紅い刃。そして、後ろからかけられる、声。
気配のないそれに、普段であれば大きく驚きながら振り向くであろうそれらに、
ひょい、と振り向いた書生服姿の少女の顔は……何と言うか、平坦なものだった。
平常心、というには、どこか妙な雰囲気。

「――椎苗さんが来るだろう、とは思ってましたが、
御神までお越しになられるとは、驚きました。

…いえ、それだけ、私のしでかした真似が重大だった、という事なのですね。」

淡々と言葉を紡ぎながら、目を閉じ、そっと頭を下げる。
もしかしたら、ちょっとだけ首に当たった刃が触れて斬れてしまうかもしれない。

「――申し訳ございませんでした。
死は唯一にして絶対、最期に迎えに来たる、親愛なる友。

その理に、真っ向から反する真似をしでかした以上、相応の罰は、覚悟しております。」

す、と、器用に両手を持ち上げる。
同時に、蒼い炎と共に、その手に黒い狼の仮面が現れる。

「……如何なる罰も、叱責も、甘んじて受ける覚悟です。
御神の使徒…継承者の資格の剥奪も、当然の事と思っております。

ただ、一つだけお許し願えるなら。
「このモノ()」は、私の意志に無理やり引き摺られただけ。
私は兎も角、彼のモノには、寛大なご処置を願いたく…。」

す、と、手にした仮面を、献上…あるいは返上するように、捧げ持つ。

神樹椎苗 >  
「――ふむ」

 少女がやったことは、大きな代償の伴う事。
 それを考えればこの不自然なリアクションも仕方ない。

「面白くねーですね」

 そう言いながら、すぅ、っと首を刎ねるように少女の首を赤い刃がすり抜けた。
 その瞬間、少女の支払った代償が『死んだ』。

「さて、これで少しは面白くなりますか」

 はあ、と小さなため息を吐きつつ。
 刀のような形の幅広の片刃剣を肩に担いだ。

「自分のしでかした事の大きさがわかってるなら、まあ良いでしょう。
 しかし、如何なる、と言いましたか」

 片手で軽く考えるように顎に手を当てる幼女。
 その後ろで、相変わらず、腕を組んで仁王立ちしている黒き神。
 少女が思っていたよりも、二者の様子は軽い調子に見えただろう。
 

緋月 >  
「――――っっ!」

刃が首を通る、冷たい感触。
やけに平坦な感情が、死んだ、という思いを抱いた。
…確かに、死は訪れた。己の命に、ではなく、「支払った代償」に、だが。

「っ…は…はぁ……っ…!」

削られていた部分が一気に戻って来た結果、一時的な感情の暴走が起きる。
この場合は――つまり、感じた死の予感への「恐怖」。

「知っていた…のですか…? いえ、あの『司書』が…教えた、のが正解、ですか……。

私の代償」が……「感情」だという事、に…!」

ようやく、息が落ち着いてきた。
まさか、首を断たれて生きているという経験をするとは思っても見なかった。
――確かに、罰には恐怖が伴わなくては、何の意味も無い。
そういう事を考えるなら、「一つを除いた感情のない者」には、効果的とは到底言えないだろう。

「……私に課せられるべき罰であれば…何を下されようと、口答え出来ない立場だとは、分かっています…!

ですが…「あのひと」の現状は、私が無理を通した結果の事です!
責は、私一人にあるのです…!」

……実際は、何が起こるか、恐ろしい事に変わりはない。
だが、それも自分が招いた事だ。
――せめて、累が他に及ばぬよう、必死で嘆願を行うしかない。


(……本当は、あなたとお話が出来なくなるのは、つらいことですけどね…。)

手に持ったままの黒い仮面に、未練がましいと思いつつも、そんな思いがこぼれてしまう。

神樹椎苗 >  
「知らねーですよ。
 ただ、しぃの異能の本文は分析と予測ですからね。
 簡単な計算です」

 そして、少女が『死を間近』にして恐怖を感じたのを確かめれば、満足そうに頷いた。

「そうですねえ、まあ、お前が責を負うのは当然です。
 継承者がやってはいけない事――ただ唯一の教義に反した。
 それがどれだけ『黒き神』を裏切る行為であるかは、わかっているようですし」

 そう言いながら、紅い刃を少女の目の前に突き付ける。

「では、望み通りお前独りに、罰を与えましょう」

 そう言って、椎苗は少女の目の前で剣を払い、空を斬った。
 それは何も知らない者が見れば、何も起きていないに等しい。
 だが、罰を受ける少女は直感するだろう――自分の中の致命的な何かが『死んだ』事に。

「――お前と剣術のあらゆる繋がりを『殺し』ました。
 これでお前は二度と、まともに刀を振る事すらできねーでしょう。
 信じられなければ、やってみるといいですよ」

 そう、本当にどこまでも、大したことではないと言うように。
 徹底的なほどに『軽い調子』で、少女にとっての処刑人は言ってのけた。
 

緋月 >  
「――――。」

振るわれた紅い刃。
そして、何か致命的なものが「絶たれた」という感触。
最後に、止めとも言える白い服の少女からの言葉。

「……。」

ぐ、と、両手を握る。
筋力が衰えた訳ではない。それでも――何か、根本の所で…例えるなら、大樹を支える幹を
叩き切られたような、そんな感触を感じる。

しゅる、と、刀袋から己の半身とも言える愛刀を取り出す。
その柄を軽く握ってみて――すぐに分かった。

(――ああ、これはもう、駄目だ。)

大きく、ため息を吐く。
直ぐに手を放し、刀を袋にしまい直した。

「――黒き御神の使徒の本分を弁えぬ愚か者が、要らぬ死を振り撒かないように、という事ですか。」

諦観交じりに、そう呟く。
答えを期待しての事ではない。
ただの、己への事実への確認だ。
そっと仮面をベンチに置くと、ゆらりと立ち上がり、黒き御神とその使徒たる白い少女に、頭を下げる。

「……寛大なご処置、痛み入ります。
確かに、もう私は刀を振る事は出来ないでしょう。

……ですが、刀を完全に扱えなくなった訳ではない事だけは、最後の御慈悲として受け取ります。」

言いながら、軽く刀を撫ぜる。


「――刀を振るえなくなったなら、最早目指すモノに向かう事も叶わない。
なれば、行くべき道は黄泉路のみ。

…自分で決着を着ける道だけを残して下さった事は、感謝致します。


出来る限り、人の目の届かぬ所で――行方不明扱いになるように、片付けますので。」
 

緋月 >  
そうなれば、行き場はどうしても限られてくる。
一番良いのは、転移荒野辺りか。
あそこは時折恐ろしい怪物が現れる事もあるという。

己の手で決着を着けた後は、其処に現れるモノが跡形もなく
綺麗に残ったモノを掃除してくれる事を願うばかりだ。

――だらだら居残っては、俗世に未練が湧く。
上手く行方不明になれるよう、手早く済ませなくては――
 

神樹椎苗 >  
「何を言ってんですか。
 まだ終わってねーですよ。
 しぃがどうして、こんな絶対絶死の力を扱えるのに、道具扱いで管理されているか、お前には徹底的に味わってもらわなければなりません」

 それは『自死』という道すらも認めない、そういう宣告だ。
 慈悲の欠片もなく、再び刃は振られる。
 その一振りは、この公園とそれ以外との繋がりを『殺した』。

「神器は一つ一つが、使い方を誤れば多大なる被害をもたらしかねない道具です。
 しかし、それらが使い手を自由に選べるよう展示されている理由。
 そして、所有者と継承者に特別な制限がない理由――」

 再び、あまりにも軽い一振り。
 それは少女に存在する『死』という概念そのものを喪失させた。

「――それは、しぃがあらゆる神器、所有者、継承者を、絶対に再起不能に出来るからです」

 ひょい、とベンチの背を乗り越えて、立ち上がった少女の目の前に立つ。

「お前から『死の安寧』を奪いました。
 お前はこれから先なにがあろうと、『死』に至る事はありません。
 ――よかったですね、これでお前は本物の不死身ですよ」

 そうやはり軽い調子で言う。
 それが本当に、なんでもない事のように、ただの作業であると言わんばかりに。
 

緋月 >  
「…成程、つまり私に生き続けて地獄の苦しみを味わえ、と。」

ため息と共に、そう独りごちる。
それは――本当に、地獄の苦しみだろう。

「……椎苗さんは、今、言いましたよね。
『死の安寧』を「殺した」と。

ですが、「老いる事」や「病に苦しむ事」は、奪わなかった。

時々、ふと思う事があるのです。
本当に「不死身」の人間がいると仮定して、その人があくまでも「死なない」だけであるならば、
それはとても恐ろしい事ではないかと。
歳は取るし、病気にも苦しむし、肉体は衰えていく。

――そんな先に待っているのは、どんな地獄の苦しみなのだろうか、と。」

それは、考えるだけでぞっとする無間地獄だ。
最後は肉体も朽ち果てて、意識だけが死ねないまま、何処へも行けずに苦しみ続けるのだろうか。

「――死ぬ事も出来ず、剣を振るう事もできない。
全く、生き恥晒しもいい所です……。」

小さくため息。

そう、剣術を振る事は出来なくなっても、「己の異能」は剣術とは近い所にあるが、実の所「繋がりはない」。
それそのものを殺されるより早く、

己自身に振るう

 

緋月 >  

直後に、片腕、更に直後に、もう片腕。

左は根元からいけたが、利き腕の右は肘の少し上からが限界だった。

「―――――――っっっ!!」

凄まじい痛みが、襲い掛かる。
失血で、意識が遠のく。

――だが、これで「殺される」より先に、「自身へのけじめ」の一つ程度はつけられた。

「なれば最早、この両腕も、不要――!

……これで、もう――わたしは、物理的に…
「斬月」を、使えなくなりました…!

それでも尚、異能を殺すというならば――ご随意に!!」

「死の安寧」を殺す事は、再生能力の付与とイコールではない。

何らかの処置をしなければ、その腕は二度と機能しないだろう。

 

神樹椎苗 >  
「素晴らしい覚悟です。
 個人的にはお前のその覚悟と、気迫――とても好ましいですよ」

 それは、僅かの世辞もない、本当の好意だ。
 椎苗が『使徒の処刑人』でなければ、少女の姿に心を打たれ、剣を退いていただろう。
 けれど、ここにいるのは黒き神の代行者であり、道を誤った使徒の処刑人なのだ。

「己でけじめをつけようとする気概、賞賛に値します。
 ですが――無意味です」

 紅い色が閃を引く。

「言ったはずです。
 しぃは――あらゆるものに『死』を与えると」

 少女が自らのケジメとして落とした両腕が、何事もなかったかのように、正常に戻る。
 それは――一つの行為の『結果そのものを殺す』という本物の神業であった。

「そしてお前は、徹底的に味わう事になると」

 再び振るわれる紅。
 ――少女の異能が『死んだ』。

 ――少女の未来が『死んだ』。

 ――少女の時間が『死んだ』。

「――さあ、これでお前は、不老不死不変の身。
 これから更に、しいが奪うのなら――それは何だと思いますか?」

 そう言いながら、少女の鼻先に、紅い切っ先を突き付けた。
 

緋月 >  

――腕が戻る。
そして、今度こそ「斬月」が殺された。

……ああ、これでもう、私には何の意味もない。

それでも、残る物があるとするなら――


「……答えは、「これ」です!」


鼻先に突き付けられた刃を掴み取り、手が斬れるのも構わず、己の「頭蓋」を突き通さんとする。
剣術が使えなくなろうが――「手にした凶器を頭に突き刺す」程度は可能!
激痛は来るだろうが、白い少女の言葉が本当ならば、この程度で死ぬ事は無い筈。

「五感…記憶…そして、意識――

総てを「殺した」なら――其処に生きる者は…「死なない」だけで「生ける屍」も同然――!

何処へも向かう事の出来ない、救われぬモノ……!」


ざく、と音がしたような気がする。

視界は真っ赤、凄まじい痛みがあるだけで、もう何が何だか、分からない。
 

神樹椎苗 >  
「やはり――しいはお前が好ましいですよ」

 そう言いながら、椎苗は己の頭蓋に刃を突き刺そうとする少女に抗わず、その頭蓋を切り裂いた。
 しかし――すでに変化すら奪われた少女の傷は、瞬時に消滅する。

「しかし、その答えは外れです」

 紅い刃が奪う者それは――

「後輩、お前が教義に背いてまで救ったもの。
 お前が、しぃにここまで奪われる原因になったモノ。
 処刑人は――ソレを『殺す』のです」

 少女の中から、決定的な何かが失われる事となる。
 少女は己が助けた者を明確に思い出す事も出来なくなる。
 そして――

「お前が救った者を、たった今、『眠らせ』ました」

 その言葉を確かめる術は、少女には存在しないだろう――。
 

緋月 >  

傷が無くなっても、「痛み」が失われた訳ではない。
頭蓋を突き刺された苦痛だけは、明確に残る。

――ああ、あれだけの代償を払い、尚且つこれ程の罰を与えられ、
それでも…もう思い出せない、大事な誰かを、救う事は出来なかったのか。

もう、何も、自分には残されていない。

何も、

何も――――


なにも…………………




『――継承者よ、せめて穏やかな別れをしたかったという、貴様の気持ちだけは、

悪くはなかったぞ。』


――最後に残った「つながり」から、誰かの声が聞こえた気がする。

 

埋葬の仮面 >  

次の瞬間。

ベンチに置き去りにされていた、黒い狼の仮面が。

ほんの小さく震え、

まるで飛び出す矢の如き勢いで、白い処刑人の後頭部目掛けてすっ飛んでいく。


『――――これで、別れの時だ。』


その思念だけを最後に残して。

すっ飛んだ仮面は白い処刑人の後頭部を直撃し、

後は力なく、地面へと転がる事になるだろう。