2024/09/17 のログ
神樹椎苗 >  
「――おっぷ」

 ガツン、と。
 仮面が椎苗の頭を強打し、椎苗からは変な声が漏れるだろう。

「――まったく、お前がそこまで自我を得るとは思いもしなかったですよ。
 でもまぁ――こういうのはほんとに『悪くねえ』です」

 そう言って、少女の目の前で再び刃を振り上げ――

「さあ、これが『処刑人』が奪う最後のモノです」

 ――振り下ろす。
 

神樹椎苗 >  
 ――その直後、少女は何事もなかったかのように、公園のベンチに座り。
 その隣には、何事もなかったかのように、ソフトクリームを食べる白い幼女が居る。

「――いい『悪夢』は見れましたか?」

 そう言う幼女と少女の間に、白骨の顔が割り込む。
 なにもない空洞の眼窩の中に紫の炎が揺らめき、確かに少女へ視線が向けられていた。
 その視線は――確かに慈愛が満ちていただろう。

 少女の膝の上には、綺麗なままの仮面が少女の両手に包まれて乗っている。
 ソレもまた、困惑しているかのようで。

 ――結局のところ。
 処刑人の与えた罰は、少女だけでなく神器への物でもあり。
 その罰は、仮面が少女を救おうとした時点で、不要の物となった。
 互いに大事な物を失うという、恐れと畏れ。
 それを与えたのなら、処刑人の役目は終わりだった。
 

緋月 >  
「ぇ……ぁ………?」

まだ、あの紅い刃を自分の頭に突き刺した苦痛が消え切っていないのか、呆けたような声を出すのが精一杯だった。

悪夢。

今まで見ていたのが、悪夢だと。

「あく、む……ゆめ……?」


そんな筈はない。あれ程、実に迫り、痛みまで伴う悪夢があるものか。
――恐らく、発生した「全ての事象」を「殺した」のだろう。
殺された事象は……「なかった事」と同じ事。

そして、目の前には暢気そうにソフトクリームを食べている白い少女と、自分と彼女の間に立つ、
黒き御神の顔が見えるだけだ。

「――――。」

刀袋越しに、刀の柄を握る。
――さっきとは違う、親しんだ感覚があるだけだ。

「……。」

指先で、「斬月」を放ってみる。
向けた先の己の手の甲には容易くかすり傷が現れ、血を流し、塞がる事も無い。

「……ぁ…」

手に載っている、短い間だが、親しんだ仮面(相棒)へと、視線を落とす。

その仮面に、ぽたり、と、涙が落ちる。

 

緋月 >  

「どうして……」

「どうして、私なんかを助けようとしたんですか…!」

「私は、もうあなたには相応しくない、使徒として失格の者なのに!
あなたは黙ってれば、黙って……静かにしてればよかったのに………


こんなの……

さよならの準備は、しっかりしてたのに……

別れにくく、なるじゃないですか………


う、あ…ああああああ――――――

わぁあああああああああ―――――――ん……!」

 

埋葬の仮面 >  
涙は、止まらない。

落ちる滴は、仮面を濡らし、
まるで仮面もまた、泣いているように見えた。

仮面は、何も語らない――――。
 

神樹椎苗 >  
「お前は使徒としても、一人の信者としても失格です。
 善か悪か、その基準を教義に照らせば、お前の行いは悪行です。
 ですが――」

 椎苗はふ、と微笑み。

「――しぃも、神も、その『行い』を好ましいと思っちまったんですよ」

 だから、罰は与えても、それは一時的な物で十分だった。
 なにせ、たった一つの教義を定めた神が、その教義に反した行いを好ましいと肯定してしまったのだから、一体、誰が何を罰せるというのか。
 だからこそ少女に与えるものは、椎苗と黒き神の間で最初から決まっていた。

「お前がこの一時に経験したこと。
 喪失と別れ、そして死と恐怖。
 それを身をもって味わい、『死を想う』事の大切さと困難さを知る事。
 それが、お前に定めた、今回の罰です」

 そう椎苗が言えば、白骨の腕が少女の頭に伸び、優しく撫でるだろう。

『吾が教えは唯一であるが――絶対ではない。
 そして吾がトモガラを目的のために利用した事、それは罰せられるべき。
 だが人間は、時として我儘であってよいのだ。
 それを省みた時、胸を張って誇れるのであれば――その行いは決して、間違いではない(・・・・・・・)のだからな』

 そう言って、白骨は涙を流す少女をただただ撫でる。
 血も肉も無いはずの硬い骨は、どこか体温を持っているようでもあり。

「――ま、継承者としては失格ですし、神器も返還してもらいますが。
 いつでも会いに来ると良いでしょう。
 そして、『死を想う』信徒の一人として再び歩むのであれば、いつでも歓迎しますよ」

 そう、あまりにも甘く、優しすぎる『御神』の行いに、椎苗は苦笑を浮かべるのだ。
 

緋月 >  
「っっ…うぅっ…うぁ、あぁぁぁっ……!」

――白い少女から、代償は死んだ、とは言われたが。
最も「肝心」な代償だけは、殺されていなかったらしい。

「悲しみ」が、止まらない。
短くも共に過ごし、己の無理に答えてくれた、相棒との避け得ぬ別れの悲しみが、止まらない。

――ああ、それでも、「それ以外」を殺してくれたのは、本当に良かった。
今は悲しみが一番爆発しているだけで、それに沈み切らずに、話を聞く事が、出来る。

「すみません…御神よ…!
後悔はしていないとは言え…私は、共にあるモノに、行ってはならぬ事の
片割れを担がせてしまいました…!

ごめんなさい…ごめんなさい…っ……!」

これ以上、仮面が涙で濡れないよう、胸の中に描き抱きながら、悲しみのままに、
懺悔とも謝罪ともつかない言葉を吐き出す。

やがて、涙が少しでも収まれば、しゃくりあげながら、二人に向かうように、掻き抱いた仮面を、
ゆっくりと差し出す。

「――お言葉、賜りました。

埋葬の仮面と、その継承者の資格、確かに返還、致します…!」


「またいつか…『死を想う』事の大切さを、本当に理解した時に……

いいえ、例え声が届かなくても……"友達"に会いに来る事を、お許し下さった事…
心より、感謝いたします……!」
 

神樹椎苗 >  
『――よいのだ。
 汝はまだ幼き人の子だ。
 悟るには早すぎる。
 悩み、苦しみ――そして多くの喜びと悲しみを経験し、ゆっくりと歩んでゆけばよい』

 涙する少女に、白骨はただ温かく見守り、優しく触れるのみ。
 その言葉も行いも、『死』を冠するにはあまりにも優しすぎただろう。

「――ええ、確かに『預かりましょう』。
 しいも、このお人好しの神も、お前を迎えられた事を喜ばしく――そして、裏切られた事を、誇らしく思います」

 椎苗は笑いながら片手で仮面を受け取り、その仮面を指先で弾いた。

「それと、一つ勘違いしてます。
 いつでも話に来ればいいでしょう――こいつはもう、お前をただの継承者として以上に想ってるみてーですから。
 だんまりなのは、出来上がったばかりの自我がコントロールしきれねーからでしょう」

 やれやれ、と肩をすくめる椎苗と。
 その椎苗の中から、どこか面白そうに、嬉しそうに笑っている温和な女性のような意思を感じ取れるだろう。
 少女はけして、資格を失ったわけではない。
 神も、また神器たちも、少女をすでによき『隣人』として迎え入れているのだから。
 

緋月 >  
ああ、あたたかい。
触れられるのが、骨だけの手とは思えないほどに、あたたかい。
かけられる言葉も、あたたかい。

悲しみだけが爆発しているせいか、涙が止まらない。
懺悔せねばいけないという思いが、止まらない。

そんな事を、口にしたい訳じゃないのに。

白い少女にも、黒き御神にも……「友達」にも、感謝の気持ちを、伝えたいのに。

泣きながら、頷くしか出来ない。
そんな自分が、もどかしい。
――そんな代償を大事な友に「背負わせてしまった」事が、本当に、悲しい。

「あ、あり、あぁぁ…う、あぁぁぁ………!」

ああ、簡単な五文字の言葉すら満足に紡げない。
――永遠の別れでもないと、白い少女が言ってくれているのに。

ああ、かなしいなぁ。
涙も出ない程、泣き晴らせば、この悲しみも、少しは晴れるのだろうか――。
 

埋葬の仮面 >  
『………我等が神、そして神の御使いよ。
往こう。あの大層な建物の、寂れた一角へ、帰りましょうぞ。

――継承者が、何時の日かまた、我を求める時まで、一時の休みに就こう。
我も、継承者にも、今は休みの時が要る。

継承者は――好きなだけ、泣かせて置こうぞ。
悲しみ(代償)」は、流す涙が拭ってくれるであろう。』

はっきりとした思念が、黒き神と、白き使徒に届く。
その思念からは――僅かな寂しさが、感じられるだけだった。


『――また何時の日か、『死を想う』事を胸に立つべき時が来たら。

その時は、共に往こうぞ――我が継承者よ。』

その思念を最後に残し、仮面は静かに沈黙する。
まるで涙を見せようとせぬかのように。
 

「斬魔刀」 >  

――仮面の思念に、まるで答えるかのように。

少女が外套の下に背負う、武骨な片刃の大剣が、かちり、と小さく音を鳴らす。

まるで、その間は己に任せろ、とでも、言うかのような。
思念とも、感情ともつかぬ、小さく奇妙な波動と共に。

それが届いても、白い少女にも黒き神にも、悪しき影響は全く及ぼされないだろう。
 

神樹椎苗 >  
「たっぷり泣きやがれです。
 ――我等は黒き神の使者。
 別れに慣れちまったら、その資格もなくなっちまいますからね『後輩』」

 椎苗は大事な『後輩』の様子に満足げにしながら、立ち上がる。

「はあ――まったく。
 崇める神とは言え、付き合わされる使徒の身にもなってほしーもんです。
 代償を支払い過ぎましたよ、ほんとに」

 笑いながら文句を言えば。

『そう言うな、吾が親愛なる娘よ。
 一時とは言え、捧げられた信仰に吾は応えただけであろう』

「バカ言いやがれってんです。
 それで手に入れた僅かな力を、こうやって使ってんですから、足し引きマイナスじゃねーですか。
 あの気狂い教員に初等教育でも学んで来たらどーです」

『――むう、すまぬ』

 白骨が、フードの上から頭を掻く。
 信者と神という関係にしては、あまりにも気安く――暖かな関りだろう。
 そして、『後輩』はすでにそこに、迎え入れられている。

 ――仮面の別れの言葉を笑って聞いて。
 三者は共に、泣き崩れる少女へと、そしてそこに寄り添う護り刀へ。

『――吾等が友に、安寧と楽園の祝福があらんことを』

 そう告げて、神とその輩は黒い霧と共に去って行くのだった。
 

緋月 >  
――『先輩』に許されたのなら、もう、遠慮はしなくていいだろう。

今は泣こう、涙が枯れるまで、泣いてしまおう。


既に日が落ちた公園の片隅に、少女の泣く声が暫しの間、響き続ける。

ようやく涙が止まれば、足取りは拙いが、今は帰るべき処へ。

何時の日か、また共に在る時が来るのなら、それに恥じる事がないように。

『先輩』にも、『御神』にも、胸を張っていられるように。

泣き明かしたなら、休んでしまおう。もう、日も落ちてしまっている。


「――安寧と、楽園の祝福に、届ける身でありますように。」

そう小さく唱え、書生服姿の少女は、帰路へと歩き出す。


背負った大剣の重さが、今は別れる事になった友への気持ちを、少しだけ慰めてくれたような、
そんな気がした。
 

ご案内:「常世公園」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から緋月さんが去りました。