2024/12/09 のログ
ご案内:「常世公園」に緋月さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に挟道 明臣さんが現れました。
緋月 >  
日が傾き始めた時間帯、常世公園。
ベンチのひとつに腰を下ろしている小柄な影がひとつ。

「…………。」

暗い赤色の外套(マント)に書生服姿の少女だった。
その表情は――怒り、とまではいかないものの、それでも何処か刺々しいものがある。

《――盟友よ、まだ怒っておるのか。》

己の内から、少し呆れたような、宥めるような声。

『……怒っていません。』
《嘘が下手だな。我と精神が繋がっている以上、感情は筒抜けだぞ。》
『分かってるならいちいち言わないで下さい。』
《…あ奴が何の考えも無しに捕まる訳がないだろう。
其処の所は斟酌してやれ。》
『知りません。何も言わないで勝手に連行されたバカの事なんて知りません。』

――声には出さないが、己の内に在る友とは、時間に余裕が出来ている時には
ここ暫く、こんなやりとりの繰り返しであった。
もしかするまでもなく、この心境の原因となった人物の事を全く以て許していない。
 

挟道 明臣 >  
(……あれか)

ベンチに腰掛ける小さな影。
調べて知った外見以上にどこか小さく見えたが、
書生服に赤のマントという服装を見るからに、間違いではないだろう。

わざとらしいくらいに砂利を跳ね上げるようにして公園内を歩く。
真っ直ぐに、少女のかけるベンチへ向かう。

「落ち込んでる所に悪いんだが……緋月って子は君であってるか?」

誰と話すというでもなく、考え込むような姿の少女に声をかけ、
そして気づく。
形を持たないうっすらとした幻影。
ただ、その色は他に類を見ないほどの鮮烈な赤。

「……ノーフェイスが捕まるまで座ってたのもそこか。
 アイツの紹介で君を探してた、挟道 明臣ってもんだ」

この姿恰好、表の街では名乗らなければ不審者も良い所だ。
怪しくはあっても怖くはないぞと両手を挙げてアピールしてみる。

緋月 >  
「――――はい?」

声をかけられれば、すぐに「外」へと注意が向く。
「対話」を繰り返していたお陰もあって、意識が内へと向き過ぎる事なく「対話」が可能なレベルに
到達していた――つまり、声をかけられれば反応も出来るし、余程上手く不意を突かれなければ
不意打ちを受けるような愚も起こらない。

「確かに、私は緋月ですが……。」

と、其処まで言葉を返した所で、「その人」の呼び名を聞いた途端、みるみる形相が変わっていく。
落ち込む――どころか、明らかに不機嫌を通り越して怒り心頭の顔だ。

「…………知りません。
人の気も知らないで笑顔で連行されてったバカの事なんて知りません。
精々風紀委員の皆さんに絞られてればいいんです。」

……相当にお冠だ。「事の次第と経緯」については全く知らず、「捕縛」の知らせを、
それも恐らくはメディア越しで受け取った事が原因だろう。

《……盟友よ、少し待て。》
『うるさいです。今話し中で、』
《少し頭を冷やせ。あ奴の言伝に、「キョードー」という名前があっただろう。》
『………あ。』
《思い出したか。》

恐らく、白衣の男からすればほんの数秒程度にも満たない、精神でのやり取り。
それが終わった途端、お冠だった表情は、ため息一つと共に少しだけ穏やかになる。

「……失礼しました。
あの馬鹿」から、名前だけは聞いてます。
「自分に何かあったら、挟道という男を頼れ」――と。」

無礼に対して軽く頭を下げて謝りつつ、そう言葉を続ける。
オモイカネ8を軽く弄り、証明になるであろうメッセージを見せて。
 

挟道 明臣 >  
「あの馬鹿と来た、いや至極もっともな表現なんだが。
 ヒトに頼み事だけしておいて何してくれてんだか」

相手の表情が無ければくつくつと笑いもしただろう。
大概の悪さ(イタズラ)はしてきていたがヘマをして捕まったという事もあるまい
その時の映像を見れば一目瞭然。

「アイツの中では決めた事だったのか、突然の事だったのかは知らんが、
どうあれ、誰かに頼ってでも大切に思う奴がいるならそんな事をしでかすなとは思う」

俺に話を持ち掛けていた時点で、定まった事ではあったのかも知れないが。
とはいえ、だ。
第二方舟の件で姿を見たという理由を除いて、この少女の事をあの紅いのは特別視していた。
であるなら、相手の心境も案じてやるくらいの事はしてくれというものである。

「いや、説明不足が過ぎるあの馬鹿が悪い。
 アイツからは有事の際はと頼まれていたから、
 飯を食えてて眠れているなら、ひとまずは安心なんだが……
 眠れない程の苛立ちがあるならサンドバッグくらいにはなれるか」

言ってみて思ったがこの激昂具合だと吐き出し足りない言葉ではなく
拳が飛んできてもおかしくはないか。

緋月 >  
「大丈夫です。殺傷沙汰に巻き込まれた訳でもなし、バカみたいな笑いを晒して捕まっただけですから。
毎食しっかり食べられてますし、睡眠も存分に摂れてます。

いつになるかは知りませんけど、出所してきたときに存分に殴ってやります。
それこそ泣きたくなるまで、顔を。」

前言撤回、表情は多少落ち着きを取り戻していたがお怒りはまだ収まっていなかった。
このままでは、問題の人物が出所してきた直後、顔面負傷で今度は病院に搬送される事になるだろう。

「――――それで、」

居住まいを正し、必要ならば、と自身の隣のベンチの空きを軽く示す。
長話なら、立ったままは辛かろうという振りだった。

「あの馬鹿からは、困った時に頼れと言伝を受けていましたが、まさか
そちら様の方から現れるとは、考えていませんでした。

何か、あの馬鹿に伝言でも頼まれた……訳、ないですよね。
今のお話を聞いてる限りだと。」

ふう、とため息一つ。説明不足という言葉や文脈の方で、自分への伝言を
預かって来た、という訳ではなさそうだという所が強そうだとは思う。
となれば、他に考えられる筋は、

「あの馬鹿が捕まったから、代わりに連絡先の交換…か、
他に何か、私に用事がある、と見て良いですか?」

と言う所。
こちら二つは推測にしか過ぎないが、筋としてはありか、と見る書生服姿の少女である。

挟道 明臣 >  
「……顔、顔かぁ」

顔だよなぁ。
静かに、しかし確実に込められた怒りが最後に満ちていた。
もしかしなくても塀の中がアイツが無事でいられる最後の場所かも知れない。

「アイツから受けた依頼は君の……無事の確認と維持。
 だから君が健やかな生活と、それを害する物が無ければ依頼完遂って訳だ。
 どうか元気にアイツを殴るまでこのままで居てくれ。
 不便や不都合、調達の用が要るなら好きに使ってくれて構わない」

正確には面倒を見てくれ、との事だったが。
そのもの言いを素直に伝えるのは火に油を注ぐような物だろう。

「━━どっちも正解……って所かな」

折角開けてもらった席だ、断る理由も無く隣に腰掛ける。
冬場の冷気にあてられたそのベンチの温度に、思考が冷やされて
少女に心臓の件を伝えるべきか、僅かに悩んだが……告げる。

「君に用がある。
 というよりも、ポーラ・スーの縁者である君を差し置いて
 部外者の俺が用向きを果たすのが、嫌でね。
 望んだ物になる保証は無いが、手遅れになった結末だけを君に届けるのは俺が嫌なんだ」

ポケットから携帯端末(輸入品)を取り出し、写真のフォルダをスクロール。
自らかけたセキュリティを開錠し、一枚の写真を見せる。
「……心臓だ。
どこぞの研究施設から掻っ攫ってきた、彼女のね」

緋月 >  
「…そうですか。」

「依頼」の内容を聞けば、その返事と共に一つ頷く。
軽く、確かめるように右手を開き、握る。

「それなら心配は今の所ご無用です。
先も言った通り、三食しっかり食べて睡眠もしっかり摂ってます。
――今の所、不審な気配も感じませんし。
「以前の騒動」は…生憎、私は事後に事の次第を聞いただけですから。」

もしかしたら、また別のルートで目を付けられている可能性も……否定は、出来ない。
だが、少なくとも不審な気配や視線を感じた覚えは、今までない。
害を加えようとする者がいるかと言われれば…今の所、ない、と考えて良いだろう。

「あーちゃん先生の……?
一体、それはどういう――――」

その言葉は、端末から見せられたひとつの画像と、続く言葉によって止められる事になった。

今、何と言った?
心臓、と。
誰の?
――彼女の。
それは、つまり。

「………は。」

空気が抜けるような声。

「これ……先生の、ですか…。」

少し、震える声。
首だけになってしまった「先生」の姿と、「先輩」に見せられた「先生」を助けようと必死な女性の姿。
それらが、走馬灯のように、脳裏を走る。

「――それじゃ、これが、あれば……。」
 

挟道 明臣 >
「あぁ、君の言うあーちゃん先生てのがポーラを指すなら、その通り。
 今は別所で保管しているが、彼女の物だ」

それを証明する手段を持っている訳では無い。
あの施設(第二方舟)で目の当たりにしたデータと、経験だけが証人だ。

「知っているかもしれないが、彼女の身体はどうにも随分特殊らしくてね」

そう言い、別で開いていた自分宛てのメッセージの切り抜きを見せる。



挟道 明臣 >
「彼女が、ホシノモリアルカという名で呼ばれて、
実験を受けていた頃、同じ境遇にあった女性からの文だ」

あの方舟の中で出会った女、焔城 鳴火。
彼女もこの島の教員ではあるが、緋月との関連は聞かされていないか。

「これがあれば、彼女を助けられるかも知れない
 ただ━━目覚めるのが誰かは、俺にも分からない」

上手くいって、目覚めたとしても75%だ。
そんな確率で眼前の少女の知るポーラとは異なる人格で目覚める。
こんなものはギャンブルなんてもんじゃない。

「書かれている通り、病室に安置されている頭の傍にこれを持って行くように頼まれちゃいる。
 だから、連絡を受けた時点で病院まで持って行っちまえばそれで仕舞だったんだが、
 ただ、君の知らない所で終えたくなかった。

 望みの薄い希望を見せるのは、あまり好きでは無いんだがな」

酷な事を押し付けている。
余計な心労をかけるだけかも知れない。
それでも、ポーラを思い怒り猛ったという彼女の喪失を、無視できなかった。

緋月 >  
「――――ええ、知って、います。
先生が……頭だけになった現場を、私も見ました、から…。」

ぎゅ、と両手を強く握り締める。
それこそ、爪が掌に食い込んで血が流れそうな程に。
その位の痛みがなければ――「先輩」に諭されたとはいえ、「あの光景」を
思い出して、冷静でいられないというのがあった。

「……その人の話も聞いてます、あの馬鹿から。
直接、会ってはいないですけど……その人が、先生を生かす為に、必死になっていたのも。
「先輩」の伝手で、見せて貰いました。」

詳しい事は伏せて置く。
何しろあまりに荒唐無稽なお話だ。
信じて貰えるか分からない話で横道に逸れるより、事実確認とこれからどうするかに絞った方が良い。

……「先輩」のお陰で、思ったよりも精神に波風立てずに、物事を受け止められた。

「つまり、「身体」が助かっても、「人格」までは分からない、と。
そう、受け取っても良いんですね。」

確認を取る。
単純に計算して、1/4。
絶望的とは言えないが、それでもお世辞にも「高い」とは言えない可能性だ。

「………これを見せて、事情を私に話して下さって。
それはつまり、「最後の一押し」は私の決断次第だ、と受け取っても良いのですね。」

大きく息を吐いてから、確認を取るように訊ねる。
それが事実であれば、答えは一つだ。
 

緋月 >  

「やります。私が、運びます。
例え目を覚ますのが「先生」でなくても……それでも、「命は繋がる」んです。

返って来るものがあるとしたら、それだけで…充分です。」

 

挟道 明臣 >  
「あぁ、アイツから鳴火の事も聞いてたか。
 本来その馬鹿には根本を叩く時に手を借りようと思ってたんだが……」

みなまで言うまい、想像以上の馬鹿をしでかしてくれただけのいつもの事。
異能を明確に使えば、当時の事も明らかにはなろう。
しかし、外に売り出す為にも大事な時期、その上で本人が決めてそう振舞ったのなら
それを掘り返すのは野暮だろう。 
アイツはアイツのルールで動いている。

「その通りに受け取ってくれ、医療の領分を越えた事をやってるんだろうし、
 確証は無いが今回の件で一番の適任者が治療した上での判断だ、そこは信用してくれ」

何も知らせないまま、病院に運び込めばそれこそ治療はスムーズに終えられただろう。
あるいは、治療自体が失敗に終わる可能性もゼロではない。

「……強いな、君は」

殆ど聞こえないような小さな声で、そう呟いた。

酷い決断を迫っている自覚はある。
選択肢などほとんどないのだから、意地悪だと嫌われても構いやしない。
あぁノーフェイスお前今なにしてんだ。この目を、顔を見てないって絶対後でぶつくさ言うだろお前。
この子は、逃げないよ。

「それなら、後日には君の住まいでも貸金庫でも何処にでも届けよう。
 施術する奴にもその事は伝えておくさ」

緋月 >  
「――ありがとうございます。」

問題の物件の譲渡と施術への根回しの言葉を承諾の返事と取り、書生服姿の少女は向き直りつつ頭を下げる。
となると、少し問題が。

「届け先、ですか。
私の住居、少し事情があって…色々、そういうのが大変かもなんですよね…。
万妖邸、と言えばご理解頂けますか?」

あのアパートは、色々と厄介が多い。
特に部屋の配置が変わってしまうのが問題だ。
部屋の名前を知らなければ、そのまま迷ってしまう事になる。
――いや、逆に言えば部屋の名前を知ってさえいれば、万一目をつけられても
撒く事が上手く行くかもしれないか、と独り言じみて口に出す。

「…それで、問題の品は、取り扱いの注意点みたいなものはありますか?
特になければ…私の足であれば、その日のうちにでも病院まで走って運べますが。」

誇張ではなく、それ位は可能だという自覚はある。
こういう時、公共の交通機関に頼らなくてよいというのは助かるものだ。

挟道 明臣 >  
「万妖邸……あぁ、あの異界じみた所か。
 そいつは確かに厄介だな」

家賃の安さも含めて、ワケありの連中に紹介した事が無い訳でもない。
どちらかというと、真っ当なただの"人間”向けではない物件だが。

「物自体は小さいが維持装置を含めるとリュックサック一つ埋めるくらいのサイズでな。
 その都合もあって重量はあるんだが、揺らしたり振った程度じゃ中身に影響は出ないようになってる」

温度や内部の保存液の管理も全てが機械ひとつで完結している都合上、
ちょっとしない荷物になる。

「……確かに、日取りは速い方が良いか。
 此処までだと20分って所だな。
 最速で持ってこさせると多少目立つが、その速さで走ったらどっちにしろ目立つのに変わりは無い。
 どちらにせよ、執刀医の方にあんまり猶予が無いし、ここまで持ってくるか」

言いつつ、端末を操作する。
宅配用のドローンに似せて作った、個人用の配達機だ。
スタンバイ状態に異常はない、ピックアップの指定を行えば今日にでも渡せる状態にはあった。

緋月 >  
「リュックサック…背負い用の鞄ですね。
それが一つ埋まる。揺らしたり振ったり程度で、中身に影響はでない――。」

白衣の男性が話す注意事項を反芻しながら、内に呼び掛ける。

『朔。』
《――落ち着いたようだな。何用だ、盟友よ。》
『此処から病院までの距離は私の頭から読み取れますよね。』
《ああ、問題はない。》
『では済みませんが、私の代わりに病院に向かう最適な道順の想定、頼みます。
条件については今言われた通り。大事な品が此処まで来るのに、20分。』
《…無茶を言う。少し掛かるぞ。》
『ありがとうございます。』

脳内で素早く対話を行い、「友」に最適なルートの選定を頼む。
場合によってはリアルタイムで、ルートの修正なども行う事になるかも知れない。

「では、此処で受け取って、直ぐに運びます。どうせこれから特に用事もないのですし。
お手数をおかけしますが、よろしく頼みます。道順は――出来るだけ安全かつ速い道を、今考えているので。」

主にそれを任せた友に、だが。
ともあれ、時間まで待つ事になる。その間に、ルート選定も概ね終わるだろう。

挟道 明臣 >  
「あぁ。手配は今しがた終えたし、時期に来るだろう」

見た目は完全にフードデリバリーのソレ。
幅と高さの都合がよかったのもあるが、最悪背負って持ち運ぶことを想定はしていたのが良い方に出た。

「安全かつ速い道ってのが通常の道路の事を指してねぇってのだけは分かるな……」

ある程度のマッピングは脳内でできているのだろうが、それを最短距離で突っ切るとなると話も変わろう。
『今日にでも、緋月って子が心臓を届けに向かう事になる』
経緯やそれが誰かを事細かに伝えるというよりは、事実だけを伝える業務的な文面。
そんな短文での連絡を鳴火に入れつつ、少女の思案する様子を眺める。
考え込んでいるという素振りではない。

「……考えごとの邪魔にならなければ、で良いんだが。
 ポーラって教師は君にとってどんな人だった。
 必死になって命をかけてでも助けたいって奴がいたから付き合ってるだけでな、
 実のところ、俺はその人の事は知らない」

羽織った薄手の白衣の襟を引っ張り、改めてその身分を示して見せる。

「立場ありきじゃないけど、なるべく知っておきたいんだ、色んな科学者だとかの蔑ろにしてきた物を、
 それを大事に思ってる人の視点で、さ」

緋月 >  
「それは助かります。重ね重ね…ありがとうございます。」

もうひとつ礼。
これなら、思った以上に早く届けられそうだ。
と、そこへ質問が。

「先生が、私にとってどんな人か…ですか?」

また、唐突な質問…という訳でもない。
知らない相手の事を知っておきたい。それは、当たり前の考え方だと言っていいだろう。

「そう、ですね――先生との最初の出会いは…はっきり言ってしまうと、最悪でした。
何しろ、正体を隠して辻斬り紛いに斬りかかって来られたんですから。」

最初の出会いから紐解く。過去の思い出を、巡り始める。

「その当時…まだ私は、此処の正式な生徒ではなくて。
ある風紀委員の方の部屋に、居候させて貰っていました。
――そう、あの時期は通り魔の話題で持ち切りで、私も巻き込まれた時期でしたっけ。

…"機界魔人"、と言えば、分かりますか?」

あの最後の戦いから、思えば随分時間が経った気がする。
そんな長い時間を、此処で過ごしたのだと実感する程に。

挟道 明臣 >  
「……は? 辻斬り?
 ポーラの話だよな!?」

おい、初等教育担当員。
流石に想定外だぞ。

「機界魔人……テンタクロウの事か。
 直接かかわったことじゃあないが、あれだけ噂にもなればな」

常々事件の絶えないこの島でも、多くの被害者を出した件ともなれば覚えている事も多い。
時間と共に少しずつ風化していくものではあれども、だ。

「あの騒ぎが落ち着いてからもう、半年か?
 今は万妖邸に住んでいるなら、居候は仕舞いか。
 寂しいんじゃあねぇの?」

誰かと共に過ごす事。
家に帰りついた時に誰かが居る温かさ。
長らく忘れたままのそれだが、その大切さは未だに他には代えられない物だった事を覚えている。

緋月 >  
「はい、能面で素顔を隠して。本気で殺されるかと思いました。」

さらっと。あの時の事が、今となっては懐かしい。

「次に会った時に、その理由は先生本人から教えて貰いました。
入学の申請を出していた私が、反射的に人を斬るような危険人物ではないか、という見極めの為に、と。
仕事8割、残りの2割は…単純な、私への興味だそうで。

その時、私は……もう話してしまっていいでしょう。
あの機界魔人となっていた方との「最後の戦い」で、少し無茶をし過ぎて…入院していました。
そのお見舞いに来たのが、二度目だったんです。
機界魔人の捕縛に、風紀委員どころかまだ学生にもなっていなかった人間が関わったのは、
色々と問題がある、という事で…まあ、裏工作、という奴です。

――この生徒手帳(端末)も、その時に頂いたもので。」

知らぬ者には驚愕かも知れない。
表向き、かの機界魔人は風紀委員によって捕縛された事になっている。
その真実は――この少女との戦いの末の投降であるという事は、風紀委員以外には漏れてはいない事だ。

「ええ、入学も決まりましたし、いつまでも居候は流石に。
独り暮らしではありますけど――今生の別れでもないのです。会おうと思えば会えますから。」

そう言いながら、過去の共同生活を思い出す。
かつての居候先のあの人には、随分と心配をかける事が多かったな、と思い出しながら。