2024/12/10 のログ
■挟道 明臣 >
「反射的に人を斬る生徒がまずいから計画的に人に切りかかるのが教師なのか……」
十人十色、この島の教員もかなりレパートリーがあるがかなりピーキーな例だと思いたい。
「最後の戦いって事は……あー、なるほど、それで興味、ね。
正規に学生として認可される前ならまぁ、大っぴらには歓迎はできないわな。
実際のところがどうかってのはともかくとして」
良くも悪くも、センセーショナルな事件は人を動かす。
人を傷つけ、人を変え、人の縁を為す。
ダスクスレイの件から、いやもっと前からか。
全部、地続きなのだろう。
「入学してからも、ポーラとは親交は続いたわけか。
斬った斬られたで縁ができるってのは俺には分かんねぇ所だけど」
話を聞いている限りは、無事に独り立ちした生徒として今は生活している、と。
あの扇動者と繋がりがあるあたりただのお嬢さんでは無いとは思っていたが。
■緋月 >
「はい。なので、あの「最後の事件」の前日に、私の入学手続きは既に済んでいました。
"そういう事"になっています。」
政治的判断、という奴が一番近いかも知れない。
兎も角、そうする事で色々こじれる事を防いでいたのである。
「ええ、先生にはそれからも……本当に色々、お世話になってました。
本当に、沢山……。
だから、あの日…先生が、突然倒れた時は、本当に、ショックでした。
先生から、事情を聞いた時も……首から下が、神さまのものと取り替えらてたという事、
「ポーラ先生」が、「星護有瑠華」というヒトの、粉々の意識を継ぎ接ぎして出来た存在だ、と…。
……「方舟」の件に関わる決意をしたのも…先生が、道具か何かみたいに
扱われるのが…私が、我慢ならなかったんです。
『顔も知らない誰かの都合で、知人や友人や大事な人…それに大事な先生を、
ただの道具か何かのように扱われて終わるのは』。
言ってしまえば、エゴみたいな、身勝手なものです。」
これを口にするのは、何度目だろう。
口にしなくては、伝わらないものがある。
「エゴ」を忘れない為に、己の内の譲ってはならない一線を、敢えて口にして、決意を確かめる。
己は正義の味方でも何でもない。
エゴで動く者に、その目的に、エゴで以て否定を叩き付ける。
ただそれだけの、一個人だ。
■挟道 明臣 >
「そこの手配は都合の良いように仕上がった訳だ」
この島の法も、システムもそこら中に穴は見つかる。
俺みたいな部外者が潜り込んでるって事実もある。
それでも、自浄作用と合わせて上手く繋ぎ合わせて成り立っているのだろう。
「━━良いじゃねぇの、エゴで動いたって」
道具のように扱われるのが我慢ならなかった、その言葉は自身の信条と重なる所があったから。
「俺だってこの件に関しちゃ部外者だし、
研究者連中の掲げる使命だとか神様だとか、そんなもん心底どうでも良い。
それでも━━あいつらのやり方と踏みにじって来たモンがただ許せないから一枚噛んでる」
発端は、所長の無茶ぶりによる視察に過ぎなかったと言えど。
そこで見聞きした全てを、忘れる事などできはしない。
「世間的に正しいかどうかなんてのは、二の次だ。
俺が君に頼んでる件だって、法に照らせばなんかの禁則事項に触れても可笑しくない。
でも、後悔したくないんだよ、もうさ」
取り返しのつかない所に、あまりにも多くの物を置いてきてしまったから。
「だから、身勝手だが巻き込ませてもらう。
君の大切な人を、与り知らない所で終わらせない為にそれが正しいと、思ったからな。」
そうして言い切る頃には、空の奥から小さな点が飛来する。
12枚のファンで浮力を得ていた業務用のソレは、公園の敷地上で静止すると緩やかに降下を始める。
■緋月 >
「……ありがとうございます。
そう言って貰えると…これが、正しい道かどうかは、分かりませんが、
「自分が納得できる道」を歩いていると、感じる事が出来る。
私は、私自身が納得出来る、自分が信じられる道を歩いていると。」
正義とか、悪とか。
そんな事はどうでもいい。
ただ、後悔の無い――自分が信じられる道を、歩いていたい。
白衣の男性の言葉に、書生服姿の少女はそう答える。
そして、何かが回転する、風を切る独特な音に目を向ければ、多数の風車で浮き上がっている機械が、
こちらに向けて降りて来るのが見える。
(――あれが、先生の。)
運んできたモノを届けた結果がどうなるか。
それは、誰にも――恐らくは「先輩」にも「黒き御神」にも、分からない事だろう。
あるいは、自身に痛みを伴う結末が引き寄せられるかも知れない。
(――でも、それでもいい。何も出来ずに、取りこぼすよりは――!)
それを届ける事。その結果、如何なる意識が目覚めるか。
その「未知」という恐れがあって尚――「それを無事に届ける事」は、
最も「納得」出来て、「信じられる」道であると、己の心は訴えている。
「――あれを、届ければいいのですね。」
最後の確認。
引き渡しが終わったならば、後は走るだけだ。
■挟道 明臣 >
「あぁ、コイツの中にシリンダーが入ってる。
そのまま、病室に張り付いてるヒヨコみたいな頭した女に渡してくれ」
保護材の簡易ロックを暗証番号で開ければ、配達用のバッグが顔を出す。
「俺も後からバイクで追う。
妙な奴が来ても病室の方には近寄らせないようにするさ」
そうして、引き渡す物は手渡された。
「何かあれば連絡はこっちに送ってくれ、現地で鳴火に言ってくれても構わないが、
このアドレスの方が直接見れるから」
そう言って、最至近の端末にアドレスを転送する。
後は向こう側のオモイカネ8で受諾すれば如何様にもできるだろう。
■緋月 >
「分かりました。…少し待ってください。」
ちょっと手こずりながら…これでも最初の頃よりは遥かにスムーズになったのだが、
転送されたアドレスを受信し、受け取る。
しっかり登録された事を確かめ、うん、と一つ頷く。
「……確かに、受け取りました。
これを、病室に居る人に…ですね。」
ヒヨコみたいな頭とはまた何とも。
取り合えず、それだけ特徴的ならばすぐに分かる事だろう。
受け取ったバッグをしっかりと背負い、外套をかける。
隠す事もない…のかも知れないが、何しろモノがモノだ。念の為、という奴である。
(重い。)
物理的な重さ以上の何かが、背負う背中に圧しかかるような気持だった。
あるいは責任、あるいは命運。そういったものの、重み。
『――朔、どうですか?』
《凡その経路は選定出来た。我が指示を出す。》
『よろしくお願いします。』
《…済まぬな、せめて俊足の権能が残っていたら助けになれたろうに。》
『無いものねだりはやめましょう。道案内を受け持ってくれるだけで十分です。』
精神でのやり取りをシンプルに済ませると、
(――縮地法、起動。)
独特の呼吸音と同時に、足が軽く、速くなる感覚が満ちる。
これなら、背負ったモノを気にかけながら走っても、並の車などよりは速く着けるだろう。
「――それでは、また病院で。
お先に失礼します…!」
小さく頭を下げ、白衣の男性にそう挨拶すると、一瞬の溜め。
直後、たん、と地を蹴り、書生服姿の少女はまるで風にでも乗ったかのような勢いで、
軽々と走り出し――その姿はたちまち公園から消えていった。
■挟道 明臣 >
「━━おう」
地を蹴る少女に短く返した言葉は、届いたかどうか。
発した頃には既に姿は遠く、瞬きの間には消えてしまった。
言いつつ、胸ポケットに入れた物に手を伸ばす。
「元気でいいね……ってあぁ。煙草辞めたんだった」
誰かを見送る時の癖は、もう何年たっても消えないらしい。
右手に触れたのは、主治医にやるつもりでいれたラムネ菓子。
「さて、黒い義体の人影……だったか」
少女に見せなかった、文面の続き。
それが阻害しに来るのであれば、それを止める為に。
黒いバイクが低く唸る。少女とは異なる経路で病院へと向かう姿も、沈みゆく陽の陰に消えていった。
ご案内:「常世公園」から緋月さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から挟道 明臣さんが去りました。