2025/01/16 のログ
伊都波 悠薇 >
ーーぜんっぜん、気づいてなかった

そういえばこの前も似たようなことがあった気がする。

「え、あ、はい。いとわはるか、です。よろしくお願いします。大神さん」

自己紹介を返した後。
気まずい、沈黙。

「……えと、見回り、ですか?」

大神 璃士 >  
「ああ。」

短く肯定。軽く視線を動かしながら、続けて口を開く。

「……何かあれば、雑用が舞い込んで来るからな。
今日は偶々、それが見廻りだった。
本当なら、刑事部辺りの方が、服装で威圧感を与えなくていいんだろうが。」

と、ぼやきのような言葉。
少し考えて、また言葉を続ける。

「鍛錬じゃないなら……趣味か。」

この男も大概、会話が上手いとはいえない。

伊都波 悠薇 >
「あ、そうなんですか」

会話が続かない。
気まずい沈黙ふたたび。

「そ、そうですね。趣味、みたいなものです。な、なんとなく、初めてみようかなってつい最近」

寡黙、なタイプなんだろうかと思いつつ。

「えと、大神さんは、なにかご趣味は?」

お見合いみたいな質問になってしまった。

大神 璃士 >  
「趣味、か……そうか。」

返答には、少し考え込むような反応。
言葉を考えるように、ぽつぽつと言葉を口にする。

「――俺には、今一つ良く分からない。
いや、そういう事柄が大事だ…という実感が持てていないのかも知れない。

興味があって、始める事が出来たなら、大事にするといい。
そうでないと、精神が枯れていく…かも知れない。」

趣味を訊かれると、少し間を置いて答え。

「特にはない。暇があれば訓練施設で鍛錬をしているが…趣味というには、殺伐とし過ぎている。」

趣味が大事という実感が持てていない、という言葉らしく、色気どころか若者らしさもない答え。
趣味を楽しむ余裕がない、というよりは、枯れてしまっている、という方が適切なのか。

伊都波 悠薇 >
「あ、えと、そう、なんですね」

ないと、返されると、話題が尽きてしまった。
まずい、とはいえ自分もつい最近までは趣味は読書だったし……

「た、鍛練、って何かの武道をしてるんです?」

大神 璃士 >  
「武道、か。……似たようなものでは、ある。」

少し、考え込むように。
滑りのよろしくない口が、少し重くなる。

「……父親から教わった、名もない殺しの技だ。
委員の業務の際に、力を入れ過ぎて殺さないように、加減が出来るようにしておかないといけない。

真っ当な武術使いからすれば、顔を顰められるだろう。」

それを誇る事はなく、かといって卑下する事も無く。
ただ、事実だけを口にするような。

「伊都波――だとややこしいか。名前でもいいか?」

一度そう訊いて置き、

「最近始めた、にしては、体幹やバランスが取れているように見えた。
身体を動かすのは、得意な方か。」

踊りの類については門外漢なので、単純にそう感じた事を口に。

伊都波 悠薇 >
思ったのと違う返答がきた。
はて、と不思議そうにして。

「なにかいけないものなんですか、それ」

殺しの技、だとか。
そういうのは、特別。

「大神さんが加減できるなら問題ない気がしますけど」

気にする人は気にするのかな、と。
姉みたいな才覚があって、そこに突出したら大変、だろうけれど。

コントロールできてるのなら問題ないように思える。

「あ、どうぞ。

いや、えと、そうでもないです。基本だけ、って感じです」

大神 璃士 >  
「――――。」

ジャージ姿の少女から返って来た言葉には、また少し考えるような沈黙。
少し言葉を選び、また返事を紡ぐ。

「……風紀委員をやっていると、時々疑問を感じる事がある。
平気で誰かを食い物にして悪びれない奴、嘘ばかりを吐いて自分さえよければ平気で命でも奪う奴。
そんな、人間を見ていると――時々、風紀委員として良くない考えに捕まりそうになる。」

もっと根本、己の血の源流(ルーツ)から響いて来る声。

「――そんな「ニンゲン」を、守る価値は、あるのか、と。

悪い癖だ。」

既に何度も繰り返した事であるのだろう。
悪い癖と切って捨てて、業務に打ち込む事が出来る位には。
そう言う意味では、コントロールは出来ている、と言える。

「基本で、か。
――もっと、上手く動かせるようになるといい、な。

踊りは良く分からないが、誰かを楽しませたり、安らがせたりする事が出来るのは、良い事だ。」

それは、恐らく己の動かす身体の扱い方よりも、異なる価値のあるものだろうから。

伊都波 悠薇 >
「大神さんは、強いんですね」

だから、誰かを守るとかそんなことを考えられる。
まるで、姉のよう。

「……そういうところが見えてしまうと、そんな気持ちになるのもわかりますよ」

悩むのもきっと、彼が優しいからだろう。
そうしないのも、きっと。

でも。

「善とか、悪とか、関係あるんでしょうか」

そんなことを考えて、守ってない。
少なくとも自分は。

風紀委員として、あらざるかもしれないけれど。

「守りたい人を守ればいいと思います。

守れる総量は決まってますよ。だから」

立ち上がり。

「そんな、概念で大事なものを取り零すくらいなら、そんなこと気にしない、って、私は思ってますよ」

参考程度に。
自分の在り方を。

ーー私ぐらいじゃ、参考にならないかもさはれないし。
きっと大神さんもわかってるだろうから

肌寒くなってきた。

「はい。上手くなれたら嬉しいですね

それじゃ、大神さん。私はこれで」

立ち上がり頭を下げて、帰り道ーー

ご案内:「常世公園」から伊都波 悠薇さんが去りました。
大神 璃士 >  
「……守りたい人を、守れば、か……。」

守れる総量は決まっている。
個人がどれだけ足掻いた所で、確かに限界と言うものは存在する。
ジャージ姿の少女の言葉は、ひとつの真理だった。

レザージャケットのポケットに突っ込んでいた、黒いレザーグローブを嵌めた手を取り出し、握り締め、開く。
レザー特有の、締まるような音が小さく響いた。

「――参考になる。
俺なりに、少し考えてみる事にする。」

そう返事を返し、帰り道に就く用意をする少女にはこちらも軽く手を上げて挨拶。

「冷える季節だ、風邪をひかないように気を付けた方がいい。

俺も、見廻りに戻る。――じゃあな、ハルカ。」

そう声をかけて、すれ違うように、反対方向へ。
黒いジャケットの男は、ひとつの知見を得て、学生街へと見回りに戻っていくのだった。

ご案内:「常世公園」から大神 璃士さんが去りました。