2025/09/12 のログ
ご案内:「常世公園」にレイニーさんが現れました。
■■ >  
「━━見ていてくれ、:火花

小さく呟く祈りと共に、短い導火線に火を灯す。

レイニー >  
雨が降る。
世の理に従って、全ての物は上から下へ。
それに抗うようにして天へと伸びた一条の光は、やがて空に花を咲かせた。
数瞬遅れて破裂音が届く。
音に揺すられた臓腑が若干の不快感を訴えこそしたが、気分が害されるような物ではない。
薄灰色の残煙が運ぶ独特な火薬の匂いは、薬莢と硝煙の群れの中に漂っていた物とは似て非なるもの。

「火薬使って作るモンがこれってのは、なんつぅか━━」

良いね、平和で。
呟く声は破裂音に掻き消された。

レイニー >  
上空で爆ぜて散った火の粉は降り注ぐことなく風に流されて何処かへと消えていく。

空に星を打ち上げていたのは小柄な男だった。
簡素な運動用の器具に引っかけた袋いっぱいの花火を、
一つずつ取り出しては火を灯し、空で爆ぜる輝きを傘も差さずに見上げていた。

どんな愉快な奴が在庫処分に勤しんでいるのかと思って数歩そちらに歩みを進めて━━やめる。
何のことはない。はじめの一発の前に男が呟いた言葉を識っただけだ。

泥に塗れて雨に濡れ、しかし男はそれらの全てを意に介していない。
地に膝をつき黙々と火を灯し続けるその光景は、ともすればさながら祈りを捧げる巡礼者のようで。
戯れに空を賑やかしている傾奇者が相手ならいざ知らず、
墓碑に触れて祈りを捧げる者を妨げるほどの無粋は控えるというもの。

これは、恐らく片翼を喪った比翼の鳥の語らいなのだろう。
現世から幽世へ、常ならば繋がる事の無いその二点を繋ぐ為のこれは儀礼なのだ。

あの男の世界に、部外者が立ち入る隙間など無い。
ならばこそ、その終わりを眺めるくらいは許されるだろうかと離れた位置のベンチに腰掛ける。
赦されずとも雨の止むまでは消えやしないのだが。

あれだけ騒がしているのだ。
誰かしらが見咎めるかも知れないが、それは俺のような奴じゃなく人間の役目だろう。

レイニー >  
散発的に、打ち上る花火は未だ品切れとはいかないらしい。

「━━そもそもあれってOKなのか?」

流通しているからには、所かまわずと言わない限りは問題ないのだろうが。
学園の管理しているらしいこの公園が、何処まで個々の自由な活動と利用を受け入れてくれるのかは知らない。
違法か合法か。知らない上でぶっちゃけてしまえば自己判断の領分だろう。

通り一遍の良い子のルールなんてもので括れる程、人間はシンプルでも無い。
ルール違反を咎めるのは、この島であれば風紀委員とやらの役目かも知れないが、
こんな些細な事であればその線引きは当人の良識に委ねても大した問題にはなるまい。
なるようであれば、自治など死んでいるようなものだ。

「俺からすりゃ、止める理由もねぇんだけど……
 ありゃあやりづれぇだろうな」

さっきから打ち上がるペースが急激に落ちて来ていたが、随分と苦戦しているらしい。
なんせ雨中である。気が付けば豪雨だ。
記録的、という冠が付くほどの。

こんな中で花火に勤しむなんてのは馬鹿のやる事だ。

レイニー >  
━━馬鹿のやる事だが、馬鹿になるしかない理由があるのだろう。
今日でなければ、今で無ければならない理由があるのだろう。

「……しょうがねぇなぁ」

此処のところあまり雨が降っていなかったもんで久方ぶりの散歩日和なのだが。
どこぞの誰とも知らない野郎の祈りの為に。

「今日ばかりはお暇しておくか!」

指を一つ鳴らし、どす黒い雨雲と雷雲を連れて(おとこ)()は姿を消す。

常世速報 >  
【怪奇現象!?】
交通網の麻痺と一部地域に避難指示を伴った雷雨がとある瞬間を境に雨雲ごと姿を━━━━

ご案内:「常世公園」からレイニーさんが去りました。