2025/11/19 のログ
ご案内:「常世公園」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
「少し、寒くなってきましたね…。」
小さくぼやきながら、公園のベンチのひとつ、木の枝が日陰になるような配置になっている席へと
歩みを進める、外套に書生服姿の少女。
その背には、ひょうたんを思わせるような形の黒い楽器ケース。
ベンチに腰を下ろすと、はふ、と息を吐く。
昼間であるが、少しばかり肌にくる気温だ。
「そろそろ、マフラーや手袋の季節、でしょうか。」
そんな事を独りごちながら、ケースを開くと、取り出したのは大事にしまわれていた中阮。
自分の部屋は防音処理はされているのだが、それでもやはり気になるものは気になるものであり、
さりとて練習用のスペースなどというものの知識がある訳でもなく。
已む無く、公園の一角を借りて練習、というわけである。
最も、これから冷えて来る季節柄、外での練習も厳しくなるだろうが。
「温度の変化で楽器を傷めないように気をつけないといけませんね…。」
折角高いお金を出して手に入れた楽器、それも自身の内の友人が気に入っている代物である。
しっかり手入れもして、長く使い続けたいものだ。
そんな事を呟きながら、緩めていた弦を小さく鳴らしながら少しずつ絞めていき、音程を確かめる。
最初の内は中々苦労したが、今では正しい音程に合わせる事もあまり苦労はしなくなってきた。
これも経験の賜物だろうか、と考えつつも、しっかり調律を完了。
そのまま一つ二つ音を試しに鳴らしてから、練習に入る姿勢だ。
■緋月 >
左の手指で弦を抑えながら、右の手指で震わせるように連続で弦を弾く。
自分で挑戦してみて理解した事だが、中々に難しい。
普段刀を握ったり、あるいは無手での訓練で使うものとは全く違う手や腕の動かし方をするのだ。
一時、熱が入り過ぎて危うく手首を傷めそうになったりもした。
そんな事になったら他の訓練にも差し障りが出るので、休む事の大事さというものを楽器の練習でも思い知ったのだが。
「――――――」
弦を弾く速度と強さを、少しずつ変えていく。
最初の内は何処か侘しさを感じさせる所のあった旋律が、少しずつ、しかし力強く激しいものへと変わっていく。
弦の震えが生み出す音は、幽かな響きからはっきりとした響きへ、まるで剣が舞い、打ち合うような調べへと。
以前に練習していた曲とは違う、静けさと力強さがくっきりと分かれる曲。
何処か、性に合うというか、琴線に触れるものがある調べだった。
ご案内:「常世公園」にサロゥさんが現れました。
■サロゥ > 寒空の公園に現れたのは少しばかし不自然な、しかしありふれた容姿の女。
人型の異邦人などに貸し出される制服を着用し、その肉体は見る限り人のものだ。
ただ人の目には、普通の人間として映るだろう。
女は何かを探す様にうろついていた。
健全に潤う眼球を動かしながら、何かに引き寄せられるように書生服姿の少女の視界内に入り込む。
少女の視界に入ったということは、女の視界にも入ったということだ。
少女の方を見つめ、自然な瞬きをしながら少女の方へと迷わず歩み寄る。
何かを構える様子はない。魔術の類の気配もない。無手で襲おうという訳でもない。
少女、というよりはその手に握られた楽器を見たまま距離を詰めていく。
そして少女の散歩前で止まれば、楽器を指さしながらマフラーで隠された口元を動かした。
「こんにちは。それはどういう仕組みで音が鳴っているのですか?」
喉の震えを伴わないその声は、旧式の合成音声のような声である。
不自然さが微かに残る、無機質な感情の乗った女性の合成音声。
■緋月 >
ふぅ、とひと段落した所で、ふと気が付くと視界に入ったのは一人の女性。
こちらへの接近の仕方に何処か無遠慮と言えるような雰囲気があるが、殺気の類は感じられないので、
特に警戒もなかったのだが。
「――あ、はい、こんにちは…?」
どこか不自然さを感じる声。何と言うべきか、機械的な声、と言った方が良いのだろうか。
そして突然こちらに向けられたのは、これまた唐突な質問。
(楽器を知らない方なのでしょうか…。)
自分も楽器からは縁遠い人生であったが、質問の内容からして楽器というものを知らない、ような気がする。
まあ、常世島は広いのだ。そういった所から来る方がいてもおかしくはないだろう。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、教本に載っていた中阮の仕組みを素早く思い出す。
「ええと…これが鳴る仕組み、ですよね。私もあまり詳しくはないですが…。」
最初にそう前置き。姿勢を整えた際に軽く動いた中阮のヘッド部分、真正面を向く狼の顔の彫刻が軽く揺れる。
「えっと…まずこの、弦を弾くと、この…胴体に繋がってる部分に、弦の振動が伝わります。
その振動が、胴体の中――この丸い所で反響して、最後に――」
ここ、と、琴杆…ギターでいうネックに当たる部分を挟み込む形で胴体に空いている三日月型の二つの孔を指す。
「ここから、反響した音が出てきて、音が鳴るそうです。
私も楽器は始めてからそれほど長くないのですけど。」
言いながら左手を琴杆の上を滑らせて弦を抑えながら、右手で軽く弾く。
押さえた場所が胴体に近くなる程、音が高くなっていく。
「こうして、弦を押さえる場所を変えて、音の高さを変えます。
こっちに動かすと、どんどん高くなっていきます。」
演奏家、と言える程ではないが、練習を重ねて慣れた手つきである。
■サロゥ > 少女が説明を始めると、女はその手を引っ込める。
そして、静かに説明を聞き始めた。
時折説明に合わせて頷き「はい」と相槌を打ってはいたが、それ以外には殆ど何も口にしなかった。
自然な呼吸と呼吸や瞬きは途切れることなく繰り返され、時折爪先や指先が微妙に動く。
ありふれた人間らしい動作だが、視線だけが異常な挙動を見せていた。
少女の指が動くと、追従して視線が動く。
弦が振えると、目まぐるしく視線が動き回る。
弦から接続部、胴体、三日月形の孔、そして空中へと視線が移動していく。
それを指の位置を変える度に繰り返していた。
「分かりました。ありがとうございます」
少女の説明が終わって一息置いてから、感謝を述べる。
そして再度一息置いて。
「見てもらえませんか」
そう口にし、自分の手を首元に添えた直後、女の首と下あごが沸騰するように膨らみ始めた。
マフラーに覆われた上からでも分かるほどの膨張だが、10秒程で何事もなく収まる。
収まった直後女が口を開くと。
「―――――――――」
音がした。
先程少女が鳴らしてみせた中阮の音色が、口から流れていた。
両者の音色の美しさは雲泥の差であるにしろ、その音は間違いなく先ほど少女が鳴らした中阮の音色であった。
「再現出来ていましたか?」
一通り鳴らしたあと、機械音声のような声で改めて少女に尋ねた。
■緋月 >
「いえ、大した事では…。」
浮世離れした人だな~…と思いつつ、謝礼の言葉にはそう返す。
自分も大概だろうとは思っていたが、何と言うか……人らしさというものがどこか希薄というか。
視線についても嫌でも気が付く。何処か、まるで機械じみた動きで、こちらの説明や示した楽器の部位を
観察――そう、観察、という言葉がこれ程近いものだとは思わない視線の雰囲気であった。
(失礼だな、とは思いますけど…。)
と、そんな事を考えた所で、唐突に言葉をかけられる。
「はい? 何を――――」
其処まで口にして、思わず絶句してしまった。
当たり前であろう。普通、人間の首や下顎は、あんな風には…あんな形には、膨らまない。
流石にその様を見て、相手が「人外」だという結論に到達しない程、書生服姿の少女も鈍くはなかった。
そうして、その喉から放たれた音は、自身が演奏していた中阮のそれと同じ――弦楽器の音。
うん、間違いない。普通の人間ではない。普通の人間は通常、喉から弦楽器の音を出せない。
自分の知り合いである音楽家にやってみてと言っても、ほぼ確実に答えは「無理」だろう。
「――――あ、はい…再現は、出来てます。同じ音だと、思います。」
少しだけ掠れた声での返答。
表情も、ちょっとだけ引き攣っているかも知れない。確かめる方法はないが。
「……ただ、普通、人間には、その音は喉からは出せないですね…。
……ええと、無礼だと思いますが、あなた、人間ではありませんね?」
少し気まずげに、そう訊ねてみる。