2025/11/20 のログ
サロゥ > 「分かりました。ありがとうございます」

少女の返答に、先ほどと同じ言葉を返す。
同じなのは言葉だけではない。抑揚も音量も間も同じだ。
コピーペーストされたような返答だ。

「気にしないでください。私は人間ではありません」

少女の問いに、変わらず無機質な返答で応じる。

「人間ではありませんが人間に近づけるように模倣している最中です。
先程の試みはその一環です」

楽器へと視線を傾けて続ける。

「そちらの道具の仕組みを模倣することで人間の発声器官の再現を試みようとしたのです。
不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」

息継ぎ無しで一息に言い切る。
そして、ゆっくりと腰を曲げて頭を下げた。約45度の最敬礼の姿勢だ。

緋月 >  
「あ、いえ、不快と言う訳では…聊かびっくりはしましたが。」

これは嘘ではない。不快とまでは感じなかった。驚きはしたが。
そうして、女性…の姿をした存在の言葉から、凡その理解は得られる回答が貰えた。
つまり、人間として振る舞えるようになるための試行錯誤の最中という事、だろうか。
書生服姿の少女は、概ねそう結論した。
であれば、簡単なアドバイス位は出来る。

「……事情は大まかですが分かりました。
であれば…少なくとも、「これ」や、これに似たものは、発声器官の参考には、ならないかな…と。」

少し言葉を選びながら、訥々と声をかける。

「これは…楽器といって、人間の身体では出せないような音を出す為の品物です。
音楽――まあ、色々な音の組み合わせで、様々な表現を行うのですが、その演奏に用いる為の道具で。
これ以外にも沢山種類がありますけど、基本的に人間の喉からは出せない音を出す為の道具になります。」

つまり、元々人の身体が出せない音を出す為に作られたので、その音の模倣は人間離れの証明になってしまう事だ、と。

サロゥ > 女は、再び静かに説明を聞いていた。
先程と同じ反応を繰り返し、説明を終えてから一息待って口を開く。

「分かりました。ありがとうございます。
模倣の為に別の方法を探したいのですがこの島では人間の解剖は秩序に反すると聞かされています。
秩序を逸脱しない範囲で何か良い手段はないでしょうか」

そう尋ねながら、自分の喉に手を当て、再び喉と下あごを沸騰させる。
沸騰していても尋ねる声色は変わらない。
ただ、沸騰が収まったあとに開いた口から漏れた音は、中阮の音色からはかけ離れた外れた音。

そして再び沸騰させる。
少女が喋り始めたとしても、その繰り返しは止まらない。
沸騰が止まったらまた口を開き、異常な音色を短く漏らした。

緋月 >  
「ああ…確かに、それはそうですね…。」

解剖、と訊けばまた少し引き攣った声と表情。
それをやるのは下手をすれば命を奪う事に繋がる。刀を持っている自分も、下手に誰かを斬ったりしないか、
随分と手荒な確認を受ける事になった事を思い出した。
少々人間離れした感はあるものの、機械じみた喋り方であればまだ他者を驚かせることは少ないのだろうが。
何かいい手立てがあったかな、とうーんと唸り、軽く姿勢を変える度に、手にした中阮のヘッドの
狼の顔の彫刻が、まるで威嚇するように軽く揺れる。

「………やっぱり、学園の授業でしょうか。」

出て来た結論は、ある意味常識的な内容。

「生物学…の授業が、一番近い分野になるんでしたっけ…。
私は履修していないですが、確かCG…コンピューターグラフィック、というのでしたか?
骨格などをを精密に模した立体画像を使用する授業があるそうですから、
そちらを受講するか、担当の先生に人体についての講義をお願いして了承が貰えるか、ですかね…。

それまでは、あまり、その音の出し方は…知らない方だと相当驚くと思いますから。」

驚くというレベルで済めばいいのだが。
そう出かけた言葉は飲み込んでおいた。

サロゥ > 「分かりました。ありがとうございます。
学園の先生方に確認してみます」

異常な音を何度も鳴らす合間に返事を返す。
そして更に何度か異常な音を鳴らす。
法則性のない雑多な音を何度か鳴らした後、諦めたのか首から手を放した。

「人間を驚かせないコミュニケーションは難しいです」

無機質な感情の乗った声で首を傾げた。
首を立て、少女を見据えて口を開く。

「様々なことを教えていただきありがとうございます。
私の名前はサロゥです。あなたの名前を教えていただけませんか?」

緋月 >  
「うーん…まあ、相当人間離れしてらっしゃるようなので、仕方ないと言えば仕方ない…んでしょうか…。」

発音ひとつで此処まで難儀している程、人間離れした相手は初めてである。
向こうにしてみれば、こちらの方が常識から離れている存在に見える…のかも知れない、が。
ともあれ、無事に授業を受けられればよいのだが。

「あ、これはご丁寧にどうも。
私は緋月と言います。よろしくお願いします、サロゥさん。」

座ったままで少しお行儀が悪いが、下手に立って手にしている中阮を滑らせて落とすのはよろしくない。
ベンチに座ったまま、こちらも一礼を返す書生服姿の少女であった。

サロゥ > 「よろしくおねがいします。緋月様」

そう口にし、45度の礼を返す。
片足を後ろに向けようとしたところで何かを思い出したように止まる。

「失礼させていただきます。邪魔をしてしまい申し訳ございませんでした。
それと改めてありがとうございました」

後ろに向けかけた片足を少女に向けて改めて礼をする。
そして、少女の返事を待つことなく、早足で去っていく。
女を追うような何かがある訳でもないが、明らかな早足でその場を離脱した。

緋月 >  
「あ、いえ、こちらこそご丁寧に。」

つられてこちらも礼をひとつ。
そして、突然の別れの挨拶と、明らかな早足には少し呆気にとられた雰囲気。

「――夜、日が落ちるのは早いですから、帰り道は気を付けてくださいね。」

そんな言葉を、足早に去る後ろ姿へとかけるのが精一杯であった。
一人となれば、うーん、と軽く首を傾げ。

「……急用か何かでしょうか。
上手い事、此処に馴染めるようになるといいんですが。」

そんな事をぼやきながら、少し冷えて来た空気に外套を羽織り直し、書生服姿の少女も
中阮の弦を少し緩め、ケースにそっとしまい込む。
そろそろと帰り支度をしよう、と言う所であった。

そのまま、何事も無ければ中阮の入った楽器ケースを背負って、少女もまた公園を後にするつもりのようだ。

サロゥ > 女は走っていた。
少女の視界から外れるまでは早足だったが、視界から離れてからは全力疾走でどこかへと向かっていた。
何かに追われている訳でも、監視されている訳でもない。
懐のオモイカネにはGPSが仕込まれており、それがある限り逃走に意味はない。

女が足を止めた場所は、とある路地裏。
学生街の中でも人通りが特に少ない場所。
とはいえ学生街であり、監視カメラは設置されている。

女は監視カメラに背を向け、首元に手を当てる。
再び首元が沸騰し、ぼこぼこと膨れ上がる。
長い髪とマフラーに隠れ、監視カメラの死角となった場所で体の再構築を繰り返す。

「――――――――」

異常な音色が鳴り続ける。
沸騰した首と下あごは止まることなく沸騰を続ける。
そのたびに音色も変化し、次第に整った音へと変化していく。

始めは法則性もない雑多な音色ばかりであった筈だが―――

「ああああああああああ」

―――いつの間にか、甲高い女性の声のような音へ変化していた。
楽器の仕組みを基に、人間の声を再現したのだ。
次いで女は上あごをも変形させ始めた。
そして変形は次第に頭部全体へと広がっていき―――――



数時間後、不審に思った生徒が直接見に来るまで、女はそこで変形を続けていた。
様子を見に来た生徒は失神し、女は風紀委員会に捕縛された。

ご案内:「常世公園」から緋月さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からサロゥさんが去りました。