2024/07/07 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
「レモンクリームのパフェと、ブレンド」
テラス席に座りながら、案内の店員に注文をする。冷たいものが嬉しい暑さだ。
陽射しは青く激しかった。
「…………」
そうして不思議そうに横顔を見つめた後に去っていった店員を見送りもせず。
視線は夕風に揺れる葉に向いた。
柑橘フェアに釣られて足を運んでみたものの、街中を飾る笹はここにもあった。
夏の大三角のうち、ふたつの星を恋人同士に見立てて紡がれた、不自由な恋愛の物語。
そういう時代だったらしい。
■ノーフェイス >
氷が音を立てぬよう、慎重にグラスが置かれた。
『書かれます?』
去ってから手をつけようと思っていたものだから、
店員にむけられた問いには不思議そうな顔をした。
「あぁ」
ぬるい風がまたひとつ。
その笹に吊るされていた、色とりどりの願いを横目に見る。
説話の成立に前後して流行した宮中行事が、今も続いているのだという。
大変容を経て、なお。
そちらに、と示された。テーブルには短冊とペンが添えてある。
「ありがとう」
そう言って見送った。
■ノーフェイス >
髪を後ろに流しつつ、グラスに立てたストローに唇をつける。
きりりとしたいい味だ。どんな配合で淹れているのやら。
アイスで頼んだ記憶がなかった気はするけども、今はこれが嬉しい。
「行く先々で訊かれたら大変だ」
形にせずともに確かなものを。
だから書くことに、あまり意味は見いだせなかったけれども。
「ん」
その時だ。何かに反応して。
テラス、というよりは通りのほうに視線を向けて。
パフェを運んできた店員に、何事かと尋ねられると。
「ひと雨来るよ」
あっち――白く、長い指が、建物の隙間に見える遠い空を見た。
黒雲が、風に揺られて流れてくる。そういう季節だ。
■ノーフェイス >
――嘆きの涙。
この日の夕立は、そうした寓意を持つらしい。
次第に、ざあざあと立て、軒を流れるしずくを間近に酸味の効いたクリームを攻略する。
お行儀の悪いことだが、そうしながら端末で調べていた。
わざわざ取り出すことはない。この時代、このスマートなサングラスにそういう機能があるのです。
先日並んで購入したWISEMAN Mk.IIIのような高性能PCではないが、調べ物には一切不自由しない。
便利になったもんだ。
「あ、これ美味……」
さすがの銘店。こういう作り込みは落第街じゃなかなか味わえない。
雑多な露店やもうちょい大人びた感じのならそういうバーもあるのだけれども。
新鮮なフルーツの流通を安価かつスマートに行えるのは、農業区との連携を密に出来る表舞台の賜物だろう。
■ノーフェイス >
ミルク多めのレモンジェラートの下に。
歯ごたえのよいバタークランチ。
果肉たっぷりのゼリー層にはこれまたレモンの風味が。
ハーブのよく効いたヨーグルトムースに至るまで、飽きさせることはない。
ぽたり。
いつしか止んだ通り雨。
ペンを立てると、立ち上がる。
泣きたければいくらでも泣けばいい。
空を晴らすためならば。
ミルキーウェイの踏破を目指し、愛の略奪に挑む者はそう考えた。
それから長い年が経ち、遠い過去となった説話。
社会構築、利益と自由と。そこに愛の叛逆があったのかもと思うのは、
すこしばかりセンチメンタリズムに浸りすぎかもしれないが。
「ごちそうさま」
新たに緋色の短冊がひとつ、揺れる。
■無記名の短冊 >
紅は園生にうえてもかくれなし
ご案内:「カフェテラス「橘」」からノーフェイスさんが去りました。