2024/07/15 のログ
夜合 音夢 >  
「私は、そんな大した人間じゃないよ。
 自分の負うべき責任から逃げてきちゃったから」

自分のことを訊かれれば、どこか遠い目をして呟いた。
グラスの中で溶けた氷がカランと音を立てる。

「……まぁ、あなたがどう思うかはあなたの自由。
 特別なにかを意識しなくても、今まで通りでいいと思うよ」

その自己満足が結果として誰かを助けているのなら。
巡り巡って、いつか彼自身を助けることに繋がるだろうから。
ちょっと聞きかじった程度の少女に言えることなんて、それほど多くはない。

「……苦そう。ココア飲む?」

ブラックの味に顔を顰める様子を見て、なんの気なしにグラスを差し出した。

橘壱 >  
責任から逃れてきたと彼女は言った。
何処を見ているかわからない目線は、後悔なのか、それとも────。
まだ、壱少年は人と漸くコミュニケーションを取り始めたばかりだ。
17年間、社会と関わってこなかったブランクは非常に大きかった。
前途多難で、未だ手探りだ。失敗することだって多い。

「……、……だったら、そうだな。」

レンズの奥で、真っ直ぐな碧の視線が彼女を見据える。

「その責任がどういうものかはわからないけど、逃げることは悪い事じゃないと思う。
 僕だって、此の生きてる17年間は引きこもりだったからね。他人のせいにしたって、逃げてきたことには変わりない。」

「……けど、何時か向き合わなきゃ行けない時がある。今は僕がその時になってる。
 正直結構、大変だなって思うよ。社会と、人と向き合のは、一人じゃ出来ることは限られてるって……。」

それは、ゲームの世界の玉座に居座り、現実から逃げてきたからこそ言える言葉だ。
それまで目を背けていたもの。たった今歩み始めた先はその皺寄せだ。
何もかもが不器用な少年には厳しいものばかりだ。だけど、多くの人に支えられた。

「だから、もし先輩がそうなったら"僕もいます"。
 頼りない後輩かもしれませんけど、一人で思いなら、僕も支えます。」

だったら、今こそ、誰かのためになるべきなんだ
こうして多くの人々と漸く向き合い、支えられてきた。
彼女だって例外じゃない。だからこそ、今度は自分の番。
その時が来ようと、そうでなくても、一人の後輩として支える。
きっとそれは、少年の根っこに根付いた善性なのだろう。
言われたことをすぐに言えるほどには、少年は多くの人に支えられてきた。
力強い言葉と視線は、何よりも強い決意の証。

「まぁ、僕以外にも頼りがいのある人はいるかもしれないですけどね。
 ……ん、いいんすか?まぁ、じゃあ、お言葉に甘えて……。」

そう言われるとちょっと軽く会釈して拝借。
無防備にも、何気なしに口をつけてしまった。甘い。

夜合 音夢 >  
「―――――」

少年の言葉に、物憂げな表情から目を丸くして。
しばらく噛み締めたのち、ふっと柔和に表情を崩した。
彼の口からそんな言葉が出てくるなんて意外なようで、そうでもない。
だって、初めて会った時も興味無さげな素振りをしつつ、なんだかんだ邪険にせず話を聞いてくれた。
不器用な"共犯者"らしい、不器用な寄り添い方。
以前よりも真っ直ぐな言葉で伝えることができているのは周りの影響だろうか。

「……そう、だね。いつかは向き合わなくちゃいけない。
 ルームシェアだって、本当はするべきじゃなかったのかもしれないけど」

何も知らない人々を巻き込んでしまうのは避けたいことだ。
それでも繋がりを求めてしまった。普通の女の子(同室のあの子)みたいに学校生活を過ごしてみたかった。
誰かのために動く時が来るとすれば、それはきっと、そんな日常を守るため。

「橘くんが一緒なら、心強いよ。すごく」

だから、その時はよろしく―――そう言って、心からの笑みを浮かべた。

「残り全部、飲んじゃっていいよ。
 ……思ったより甘かった」

いくら女子と言えど、そこまで甘党というわけでもない。
体よく押し付けたつもりで、間接なんちゃらだとかは全く思い至らなかった。
ほんのりビターなココアを塗り潰す勢いで溶け込んだ生クリームが強烈な甘みを醸し出している。

橘壱 >  
「……それを言うと、僕もそうかも知れない。
 初めは体よく利用とか考えてたくらいだからさ。」

「けど、今は良かったと思ってる。」

そう言えるほどには、ルームメイトとの繋がりは少年にとってのプラスだった。
そんなものは鬱陶しいだけだと思っていたけど、そうじゃなかった。
きっと、何時か迷惑をかけることはある。けど、なるべくそうしない。
たった今、頂点を目指す理由。戦う理由がほんの少しだけ変わったのかも知れない

「そう言ってくれるなら、僕もありがたい、かな。」

初めて正面から、こうして誰かに頼られた気もする。
……悪くない気持ちだ。なんだか、胸の奥がくすぐったい。
ちょっと照れ臭くはにかんでは、頬を掻いた。
気づいたら随分と口調も先輩ようから普段通りになっていた。

「……そんなにかな?まぁ、確かに甘い。
 クリーム乗せすぎじゃないか?次からは気をつけ……、……。」

そう言うからには全部頂こう、勿体ない。
たしかに強烈な甘みではあるが、引きこもりオタクの味覚にはちょうどいい。
ぐびぐびとブラックよりも軽快に飲んでいる時に、気づいてしまった

「──────……。」

そう、此れは今しがた彼女が飲んでいた容器。
つまり、そう、これは関節──────…。

「…ッ!?」

バンッ!
思わず容器を机に叩きつけて口元を抑えた。
目を白黒させて、その頬は真っ赤になっている。
17歳のオタク、過剰反応しがち。なんならちょっと顔から湯気出ている。
童貞だもんね、仕方ないね。

夜合 音夢 >  
「あ、やっと前の喋り方に戻った」

仮にも先輩後輩なのだし、自分を省みた結果として口調を改めていたのだろう。
自分は別に前の気安い感じで全然よかったので、少しからかうような笑みを浮かべて。

「……? どうかした?」

などと微笑ましく思っていると、突然キョドり始めた。
やっぱり甘すぎたのかな? なんて考えながら首を傾げている。

橘壱 >  
少年が童貞(※重要)であるがゆえに此の反応は実際オーバーでもあっただろう。
ドクン、ドクン、と高鳴る胸に過剰な意識と自分の気持ち悪さがごちゃまぜだ。
なんで彼女はそんな平気そうなんだ。無関心にも程があるだろう。
正直顔もあげれない。今、どんな顔をしているのかも見れはしない。

「あ、い、いや……。」

上ずった声のまま懐からそろりと出したのはお釣りがごっそり出るタイプのお札。
ゆるりと立ち上がり、トランクを手に取り踵を返した。

「と、とりあえず僕は此れでッ!!し、失礼ッ!!」

不意に声を荒げて逃げるようにその場を後にした。
忘れたタブレット端末はそのままに、お釣りはきっと彼女の懐へ入ってしまうだろう。
残されたココアくんは、ほんの少し残っていた。

夜合 音夢 >  
「あ………行っちゃった」

挙動不審の理由を訊く前に立ち去っていってしまった。
同年代の男子と接する経験が皆無に等しい音夢には童貞の心がわからなかったらしい。
取り残されたタブレット端末とお札を前に呆気に取られている。

「……まぁ、次会った時に訊けばいいか」

忘れ物も届けなくてはならないし、と端末を手に取って。
僅かに残ったココアを飲み干して(躊躇なし)お会計に向かう。
お釣りは、レシートに包んで端末と一緒に保管しておくことにした。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から夜合 音夢さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から橘壱さんが去りました。