2024/09/17 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「―――――」

瞬きひとつせず。
頬杖ついて、眼の前で起こっている事象をみつめていた。
彫像のように身じろぎしないその様子は、この存在が生物であるか疑わしくなるほど。
それほどの集中で見つめているものだから、つい。

『お客様』
「―――――」
『あの、お客様』
「―――――」
『だいじょう』
「まだはじまらないの?」

急に視線を上げてきたその客に、店員はびくりと肩を竦めた。
その貌の造作に、見上げられて――

『少々お待ちくださいませ……』

足早に、店員がバックヤードのほうに向かってしまった。

ノーフェイス >  
(Valley)に……)

恋に落ちた、かのような物言いに聴こえるが。
その顔立ちに魅入られた、というわけではない――()だ。

(ちょっと悪いコトしたかも)

緊張と不安を呼び起こしてしまったらしい。
苦笑して、背もたれに身を預けた。ぐっと伸びをする。

『大変申し訳ございません。御厨(みくりや)が代わります』
「ああ、どうも」

見知った店員だ。確か四年生。信用できる。

「新人ちゃんをいたぶるつもりはなかったんだけど」
『存じております』
「ついでにあの子の連絡先とか聞けない?」
『取り扱っておりません』

ノーフェイス >  
『それにしても、珍しいですね。いつもブレンドでしょう』
「この前同席した美女が楽しんでてね。羨ましくなったんだ」

首をかしいで、流血色の髪が肩に流れる。

「出来れば眼の前(ライブドローイング)で、と思ってね」
『どうしてあの子に?』
「可愛かったから」

ため息を吐かれた。

『ご注文は』

ノーフェイス >  
自分の、満面の笑顔を指さしてみせた。

『似顔絵を?』
「まさか」

肩を震わせてから、頬杖をついた。

「描けるものかよ」
『なんなんですかあなた』
を」
『ネコマニャンでよろしいですか?』
「待って待って」

いまにもエスプレッソに垂らされようとするミルクに、さすがに制止した。

ノーフェイス >  
「一輪の薔薇(バラ)を」

少しだけ涼しい風が吹く午後に、不意に足が向いた楽しみ。

『ご注文はそのようにお願いいたします』
「つぎからは善処する」

――ぽたり。
褐色の世界に、白い光が落とされた。

「白薔薇になるのかな――紅くならない?」
『いまからは、なりませんかね』

やがて生まれゆく、愛らしいラテアートを、瞬きひとつせず見守っていた。

「"あなた色に染まる"――らしいよ」

ご案内:「カフェテラス「橘」」からノーフェイスさんが去りました。