2025/09/14 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に青霧在さんが現れました。
■青霧在 > ここ数日、常に見られている。
気のせいであってほしいが、残念ながら事実である。
「土日休んだのなんていつぶりだ……?」
日曜の店内は昼過ぎでもまだ賑わっている。
相席をお願いするかもしれないと伝えられるほどに。
卓上のメニューを手に取りながら、窓の外のあるものへと視線を向ける。
直視だけはしないようにと注意しながら眺めた先には、黄色くて小柄な―――
「周りには見えてない……んだよな」
―――レインコートの怪異。
少し曇っているが、雨は降っていない。
にもかかわらず、あの日以来あの怪異に付きまとわれている。
対策は施されているし、あと数日もすれば見えなくなると言う。
それでも交信に繋がる行為は控えるようにと強く言われている。
直視してしまう前に視線をメニューへと向け、注文する品を選び始める。
候補は絞ってある。どれにしようか。
■青霧在 > 厄介なことに、彼方から視線を合わせに来ることがある。
彼方からこれ以上近づくことが出来ないようで、此方から近づいてくるように仕向けているのだろう。
幸い視線の扱いには長けている。そう簡単に引っかかることはない。
……と言いたいが、一度だけ危ない瞬間があった。
「たまには……」
ピザはあまり注文しないが、たまには良いのでないだろうか。
経緯を考えると喜べないが、極めて稀な大型連休の折り返しだ。
意味がある行為ではないが、少し特別な気分に浸るのも良いだろう。
「ダブルチーズピザと、それから―――」
店員を呼んで注文を伝える。
注文内容はダブルチーズピザとシーフードサラダ。
注文を確認した店員が去っていく。
……その去り際が妙にスローモーションに感じられる。
僅か一秒にも満たない時間が引き延ばされ、引き伸ばされた時間の中で有り得ない筈のものが視界に写り込む。
「!?!!!!?」
声なき悲鳴を堪えながら、慌てて視線を前方に向ける。
そこに居たのは、レインコートの怪異。
水滴が滴る音が聞こえる。店内は人に溢れ、数多の話声で騒がしいというのに、その音は異常に鮮明に脳裏に響いてくる。
まさかと思い外を見れば、降っている。
微かに、目を凝らさなければ分からない程度だが。
雨が、降っている。
降水確率0%の筈だというのに、確かに雨が降っていた。
まずい。
■青霧在 > 祭祀の術者が言うには、俺についているのは怪異の残滓のようなものらしい。
しかしながらその性質や権能は本体と変わらないという。
だから、雨が降り始めたことで本領を発揮してきたということだ。
店内には当然雨など降っていない。
にもかかわらず、怪異のレインコートは雨に晒されていた。
滴っても滴っても、雨がそのレインコートを濡らす。
青霧の方にモザイクに覆われた顔を向けながら、ゆらゆらと上半身を揺らしていた。
「逆にこっちが安全になったな……」
通路と反対側の窓から外の雨を眺める。
先程まで怪異が居た外には何も居ない。複数体に分裂するようなことはないようだ。
視線を逸らしていても、怪異の気配は消えない。
水滴を滴らせながら此方を見ている感覚が背中を撫でる。
(相変わらず……悪意とかそういうのがない……!)
気持ち悪い感覚だ。
つい振り向いてしまいそうになるが、振り向けば次は無いだろう。
周囲の客は何とも無さそうにしている。
やはり、この怪異の姿は周囲から見えていない。
俺に触れていれば見えるようになるとは言われたが、ここで誰かに触れられることはないだろう。
■青霧在 > 背中を撫でる感覚が頭や掌へと波及していく。
悪寒も嫌悪もなく、親しみすら覚えてしまいそうな程に優しい。
しかしながら、直接触れに来ない辺りこれ以上は近づけないのだろう。
窓から見る限り、雨足が強まる気配はない。
降水確率0%から生じた霧雨だ。所詮降っているだけということだ。
(これ以上降り始めたら……考えたくないな)
祈る日が再びこようとは。祈ることは二度とないと思っていた。
暗い空模様を眺めながら一刻も早く晴れるよう、これ以上雨足が強まらないようにと祈る。
そんな祈りが通じたのか、雨が少し弱まった様な気がする。
相変わらず空は暗いが、降る前もこんな調子だった。
―――そう、思ったのだが。
降り注ぐ雨の勢いが突如強まる。
あの日程ではないが、明らかに雨足は強まり、目を凝らさずとも降り注ぐ様が見えるようになった。
(まずい―――)
そう思ったのと同時、強まる雨と共に背後の気配が強まる。
否、近づいてきている。
ぱしゃん、ぱしゃん。
水たまりを踏むような軽い足音が耳元に届く。
空調の効いた店内にもかかわらず、妙に湿度の高いような感覚。
レインコートの怪異が青霧のすぐそばに迫っていた。
■レインコートの怪異 > 「あーそぼっ」
■青霧在 > 明るく幼い声と共にレインコートの怪異の手が迫る。
見ずとも感じ取れる。
すぐそばにいる。
テーブル席のソファに上ってきているようだ。
その手から逃れようと少し奥に詰める。
気休め程度でしかなく、迫る手から逃れることは適わない。
異能を使って逃れることも考えたが、無駄だと直感で理解出来る。
だからと言って代替案が浮かぶわけでもない。
怪異の手が肩に触れようとした時、赤い光が小さく弾け、怪異の手を跳ね除けた。
小さな手はその衝撃で爆ぜ、解けてしまう。
祭祀局の術者が施した術だ。
回数には制限があるが、護ってくれると言っていた。
術が無事発動したことに安堵するが、状況が改善した訳ではない。
怪異が再び手を伸ばす。
そして再び弾かれる。
その間、ひたすら外を見て祈る事しか出来なかった。
いや、もう一つ出来たことがある。それは、不注意を後悔することだった。
これが終わったら、大人しく保護を申し出よう。
問題ないと宣って出歩こうとせず、結界の中で安静にする。
(だから、止んでくれ…!)
術が怪異の手をはじく音が聞こえる度に、焦りが強まっていく。
既に5回は弾かれている。あと何回もつか―――