2024/06/10 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」に先生 手紙さんが現れました。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」に橘壱さんが現れました。
先生 手紙 >  
男子寮……四人部屋……何も起こる筈がなく……

食事と風呂を済ませた男は髪を拭いたタオルを肩にかけ、コーヒーを飲んでいた。三日坊主にはまだ早いのである。習慣にしていこうね。

一方で煙草は習慣化させるな、と方々から言われていなくもない。

橘壱 >  
意外と何も起こらないんだな、これが。
手慣れた手つきで開けた玄関。自分の部屋に帰るのに忌避感などない。
玄関を上がればルームメイトの一人がリラックスタイム。
委員会帰りの少年は何処となくくたびれた顔をしながら、手にぶら下がったトランクを揺らす。

「……アンタ、まだ起きてたんだ。風花とイヴは……いないか。」

もとよりただのルームメイト。お互い何をしようがどうでもいい。
いつものルーチンワーク。このまま風呂でも入って寝るのが少年のいつもの光景。
必要最低限のコミュニケーションで、ルームメイトと余り関わらない。
そう、変わらない流れが行われるはずだったが……。

「……何を飲んでるんだ?」

何処かで変化した心境。
徐ろにルームメイトに尋ねる会話の切り口。

先生 手紙 >  
「おー橘ァ。おっかえりー」

テーブル。椅子の前足を上げて斜めになってバランスを取りながらルームメイトに顔を向け、当たり前の言葉で迎えた。

「最近ちょいと問題抱えててね。雑事そっちのけで色々やってンのよ。今は休憩中。橘も遅い帰りだ。お疲れちゃん」

風紀委員であること。あと常に眉間に皺がってること。手放さないトランク。同居人にも色々あるのだろう。知ってることはそこそこあるがそれはそれ、プライベートの更に深くにはあまり踏み込まないスタンスでシェアは成り立っている――まあ。プライベートの極致たるベッドの中で寝ているイレギュラーもあるが。愛嬌で審査オッケーとしているのであった。

「……ン?コーヒーだよ。橘も飲む?」

傾いた体勢から傾けてみせるカップの中の黒。

橘壱 >  
「……、……ああ、ただいま。」

大体こういう返事は無視をしていた。
ただ、今日は違うらしい。ちゃんと返事を返した。
適当に白衣を脱ぎ捨て、姿勢を崩して席に座るのは相変わらずだ。
片付けも出来ないし、育ちの悪さも相変わらず滲み出ている。

「…………。」

コーヒー。特に変わった飲み物でもない。
無愛想な表情、態度。じっと彼の顔を見ながら沈黙。

「……飲んだほうがいいのか?」

短い人生、引きこもっていたのでそういうコミュニケーションすらわからない。
聞き返すのはどうかと思ったが、黙っているよりはいいとおずおずと訪ねた。
なんだか落ち着きかない。慣れないことをしているせいだ。

「風紀委員じゃよくあることだよ。
 別に僕はずっと現場にいてもいいんだが、そういうわけにもいかないらしい。
 ……いかにも"能天気"そうなアンタが問題(トラブル)、ね。」

そういう風にルームメイトを見ていたらしい。スゴイ・シツレイ。

先生 手紙 >  
返事が返ってきた。驚くべきことだが、驚いてみせることもない。
――薄く笑って、かたんと椅子を戻した。

……と。これは素直に驚いた。飲む飲まないについてではなく、飲んだ方がいいのか。となると、

「ン、ン。味は保証するよ。悩みがあるなら一杯どうぞ

コーヒーポットは都合にして三杯分の液体が保温されていた。君は話をしてもいいし、切り上げて自己に埋没してもいい。コーヒー一杯が対価となる、個人にしか意義のない提案を返した。

「風紀委員はねー。そうだろねェ。あっは、能天気か。いいねソレ。おれへの評価だとするとかなり、イイ」

そう見えているのであれば。見せていられるのであれば。

橘壱 >  
「……何かおかしいか?」

なんだか妙な感じがあったぞ。挨拶を返すのがそんなにおかしいか。
今まで無視して来た実績はあるから、言われたらそれまでなんだが。
そして、このコーヒーは悩みがあるなら、と来たものだ。
実際少年の表情は余り芳しいものではない。悩みならある。
コーヒーポットに目を落としつつ、碧の視線は再び彼の顔を見た。

問題(トラブル)抱えてるのに、人の悩みを聞く余裕があるのか?
 そういうのは、手持ち無沙汰な時に言えよ。そうじゃなくて、一杯もらうよ。」

まったく、と言い返せば顎でポットを差す。
言っといて相手に注がせようとする辺りが育ちの悪さ。
足元にトランクをおけば、ゴトリと重い音がする。

「そういう先生はどうなんだ。能天気だけど抱える問題(トラブル)ってのはさ。」

先生 手紙 >  
「いいや?ちょっと、嬉しいだけだよ」

それだけ。席を立つ。向かうのはキッチンで、もう一つのマグカップを取りに行くのだ。

「橘より長く生きてる。センジョーって苗字の分くらいはね。可愛げのない可愛い後輩の悩みくらいは、荷物になるもンじゃあねえのですよ」

そして、コーヒーを入れに行くことにも不快を示さない。どころか「お砂糖とミルクはどうしますかー?」などと、カフェの店員の真似までする始末。

「……おれの悩みは本職絡み。そのうち風紀の面子にも助けてもらおっかなーどうしよっかなー」

マグカップを手に戻り、橘クンのための一杯を、テーブルで注ぐのでありました。

橘壱 >  
「……ルームメイトとの交流が、そんなに嬉しいか?わからないな、僕には。」

他人に興味を抱くことなく生きてきた。
コミュニケーション自体にそういった嬉しさ、楽しさを見いだせてない少年は訝しげな顔をしてしまう。
興味が出てきたのだって、他人に諭されてほんの少しくらいなんだ。何もかもがよちよち歩きだ。

「名字と生きてる年月は関係ないだろう。可愛げがなくて悪かったな。
 生憎、人に愛想を振る舞うなんて生き方はしてこなかったもんでね。」

他人とは競合相手。常に叩きのめし、蹴落とすもの。
そういう認識だ。いや、"だった"。だから今は、座っている。
とは言え、面と向かって言われるのは癪に障るらしい。唇を尖らせて、仰々しく肩を竦めた。

「本職?アンタ、学園の生徒以外になにかしてるのか?」

確かにあらゆる人材が集まる場所だ。そういうのがあってもおかしくはない。
彼は年上で先輩にあたったはずだが、ルームメイトだからなのか少年の態度が砕けてはいる。
注がれた一杯。黒い液体を一瞥し、僅かな沈黙の後マグカップを手に取る。

「……礼は言ってやる。」

なんともつっけんどんなお礼の仕方だ。

先生 手紙 > 「言葉のキャッチボール、って形容があるだろ?おれはいつでも投げるけど、今までは壁に投げてるようなものだった。一人遊びが気づけば二人で投げ合うことになってた。嬉しいさ」

此方も此方で結構な言い様である。今日までの橘壱は、声をかけども返さない『壁』だったと言っているようなものだ。

「可愛げがなくても可愛いってのがミソだね。それは言い換えれば橘壱のこれまでの人生には余分……あるいは余裕がなかった、とも取れる。もしくは瓶詰の小人でもいい。広がったのは視野か世界かは、おれは知らンけど」

まだそこまで聞いてないし、と。魔術学もちょっと引用しつつ。

「ン?あァ。基本的には生徒だよ。部活もやってない、どこにでも行くタイプの」

応えては。言い回しが妙なお礼の仕方に、喉の奥で笑って自分のコーヒーを飲んだ。うん。これはあくまで、おれ好みの味。

橘壱 >  
「……『壁』ね。まぁ、そうだな。返す気もなかったからな。」

言いえて妙だし実際そうだったから起こりもしなかった。
事実、相部屋も打算的な考え出し、勝手に家事をしてくれる連中で助かってはいる。
コッチも同じようなことを思っていた。"お互い様"だ。

「"おじん臭い"事を言うな。別に余裕がないわけじゃない。興味がない事以外してこなかっただけだ。
 ……視野に関しては、広がったのかも知れない。少しは、"他人"とやらに興味が出てきた。」

「……ほんの少し、だけどね……。」

根本的な考えが変わったわけじゃない。
ただ、唯我独尊と進む前にちょっとした"刺激"が僅かに視野を広げた。
しなかったことを、興味がなかったことに目を向け始めている。良くも悪くも、変化しようとはしていた。
風紀の先輩に言われたというのに、口の悪さはまだ治らない。
ふん、と突っぱねるように鼻を鳴らせばマグカップに口をつける。

…香ばしい香りに、独特の苦み。そりゃそうだ、コーヒーだもん。
基本的に水かジュースだし、こういうのを飲むのは初めてかも知れない。

「…………。」

苦さにちょっと眉間に皺が寄る子ども舌。
マグカップから口を離して、一息。

「ちゃらんぽらんって事か?言っておくけど、変な面倒事は持ってくるなよ。
 イヴや風花は知らないが、僕は余計なことに首を突っ込む気はないからな。」

特に女性トラブルとか勘弁だぞ、とまで付け加えた。一体どんな目で見てるのやら…。

先生 手紙 >  
「……ふゥン?そっかそっか。いい事だぜ、実際。意識にせよ肉体にせよ『伸びしろ』があったンだ、って自覚することはさ。ついでに覚えておけよ少年。コーヒーってのはな、」

おじん臭い、と言われても気にした様子がない。彼の葛藤、広がる興味。その仔細は知らないが、一目見てブラックが口に合っていないことを看破した。

「砂糖をいくつ入れようが、ミルクをどれだけ注ごうが、笑われる飲み物じゃない。笑う奴が三流だ。気にせず入れて、好みの味を探したらいい」

「そそ。風紀を乱さない程度に色々やってる。女の子の扱いでヘマするほど修羅場未経験じゃねえですよ」(?)

……さて。彼の首を突っ込ませるなど、それこそ男の本意ではない。本意ではないのだが、生憎と抱えているブツは風紀委員ならそれなりに邂逅する機会が発生するモノだ。

「……そだなァ。橘がどれだけ知ってるか、知らンのだけれど。知っといた方が、首を突っ込まなくていいかもしれない」」

普段通りではない(イレギュラー)というのなら、男の取った行動だろう。窓を開けて風通しを良くした。ここまでは普通。

そのうえで、公共の場では決して行わないマナー違反――灰皿をテーブルに置いて、煙草を銜えて火を点けた。

橘壱 >  
「……、……これは"伸びしろ"と言うべきなのか?」

実感がわかない。少年の伸びしろとは"実力"だ。人間性ではない。
社会性、人間性においては何もかもが殻被り(ヒヨッコ)な少年。
ただ、それが別にけなされているわけではないことは理解している。
表情は幾分か穏やかにはなってきた。けどまたすぐに眉間に皺が寄った。

「経験はあるのか……本当にやめろよ?イヴとか風花に悪影響だぞ???
 ……彼女いない歴=年齢の僕が言うのもなんだが、普通は経験することでもないだろう……。」

普通にだらしないことだけはわかった。眉間に皺だってよる。
はぁ~、と深い溜め息を吐いた後遠慮なく、と砂糖をいれる。
どぽ、どぽ。一個、二個、三個……思ったより沢山入れる子ども舌。
適当に入れればまたカップに口をつけて傾ける。…うん、まぁ、さっきよりは飲みやすい。
しかし、慣れない味だ。嫌いではないが、なんと表現すべきか。
なんとも言えない表情のまま、灯る火に目を向けた。

「一応未成年なんだけどな、僕。まぁいいけど。」

副流煙とかはどうでもいい。
くゆらせる煙を目で時折追ったりする。

「生憎と知らないことだらけだな。……まぁ、言っといた手前なんだが……、……。」

気まずそうに少し黙り込んだ。
そこには気恥ずかしさもあるし、今までしてこなかったことに対する戸惑いもある。
一呼吸おけば、もう一度対面の彼に真っ直ぐに視線を合わせた。

「……ルームメイトのことくらいは知っとこうと思ったからな。
 別に人間だから、教えたくないことの一つや二つはあるけど、一応同じ屋根の下。
 ……何も知らない同士、というのもなんだか……なんだ。えっと、"よくない"気がした。」

こういうコミュニケーションは取らなかった。
故に言葉が上手く出てこなかったので、よくないという表現。
言い換えれば交流、その知っているかどうかわからない事を聞こうとしている。

「まぁ、アンタが教えてくれるなら聞こうとは思う。」

とは言え、人間すぐには変わらない。
上から目線、無礼は無礼。それなりになんとか歩み寄ろうとしているよちよち歩きコミュニケーション。

先生 手紙 >  
「言うべきだねェ」断言。

「ふーっ……だァからそこンとこは心配しないでいいよ。この寮は『聖域指定』ってヤツだ。あくまでおれの中でね。……ンで伸びしろね。最終的に辿る道が一本だろうが、そこに選択肢があったかどうかで『先』へ……橘に響くように言えば『高み』の到達点が変わる。ニンゲンだからね。――そうしたか、そうせざるを得なかった、かは随分と違う。人間力ってヤツだ」

そこまで言って、続く言葉の意味を咀嚼する。おそらくというより十中八九。彼にはこんな『他愛のない』会話をする余裕を、人生において与えられて来なかったのだろう。だからいま、こうして漸く、始めることにしたのだ。何が起因したかは与り知るところではない。事情通だが全知じゃねえのである。

「……ン。じゃあ、風紀委員の橘壱。ルームメイトの橘壱。どのスタンスで聞くかは任せるけど、内緒にしといてくれると嬉しいな」

細く長い紫煙を吐いた後。

「公安委員会所属なンだよね、ほんとは」

――と。知らない方が互いの為になりかねない、多くが嫌うこの紫煙のような……きな臭さをもって、先ず自分の本来の身分を明かした。

橘壱 >  
聖域指定(サンクチュアリ)……?変なこと言うんだな、アンタは。
 要するにアンタにとって相部屋(ココ)はそんなに居心地が良かったのか?」

少年は今までルームメイトと関わろうとはしなかった。
三人が何していようが興味なしの蚊帳の外に自らいた。
そして今日、今度は自分が輪に入ろうとしている。
そこまで言うほどのものなのか。家族、親愛。そういうものと無縁の少年はアンニュイは面持ちだ。

「…………。」

言われた言葉を幾つか反芻する。そう、それが悩みの原因でもある。
少年自身にこの自覚はない、人間的成長の一歩。
風紀委員の先輩に諭され、自らを省みる程度の善性。
それは少年の目指すものとは"真逆"ではあるが、少年は善性は理解している。
故に、それを『高み』と肯定することも出来ず、つい黙ってしまった。
少年としては、それを成長と未だ呼んでいいか、余裕を持っていると言うべきか、自己判断しかねているのだ。

「……公安委員会、な。」

話すに至った言葉は突拍子もない。それこそ、煙に巻くような事を言う。
公安委員会がどういう組織かはその概要は知っている。
だが、余り興味はない。どうせ、戦うこともない相手だとは思っていたからだ。

「結構秘密裏に動く裏方な印象あるけど……人に正体をバラしてもいいのか?そういうのって。」

先生 手紙 >  
自身の秘密を一つ開示したことで、肩の荷が下りるわけではない。リスクがひとつ増えただけだ。どうして話したか。

「“日常”を、保全できる場所だからねェ」

おれの。橘の。風花の。イヴの。『聖域』という言葉が、過不足なく通る重みをもたせるために、明かした部分もある。

「もうちょい具体例出すかァ。せっかくニンゲンやってンだ。『それしか知らない』は、それが通じない状況下において限りなく脆い。そこを突かれた時、敗北の原因にはなっても、弱さの言い訳にはできねえよな?でも今は違ってきている」はずだ。

「いろんな奴が、いろんなことを出来て、できないを知る。弱みはまァ、見せたく無いのがワリと普通で、でも見せないのと自分の弱さを理解して立ち回るってのは両立できるし――なにより、勿体ないンだよ。きょう橘はコーヒーの味を知った。砂糖を入れたらそこそこ飲めるもンだって知った。知らなくてよかったかどうかは、飲んだ橘だけの価値観だ」

灰を灰皿に。そしてまた銜えて吸う。

「……SS級の怪異が落第街で出てる。一ツは倒したけど元凶じゃないってのがコッチの分析。あそこで完結する異常事態ならこの島の日常だけどさ。表側にまで、出てきかねないのがソレ以外でもいくつか挙がって来てンのよ。……ふーっ」

「バレないに越したことはないね。ただ、橘が歩み寄ってくれた分、おれは君に歩み寄っただけだ」

自分にとってはなんともない、橘が行った気持ちの吐露は――少なく見積もってそのくらいの『重さ』があるのだと、個人的に判断したゆえに。

「だからできたら内緒にしといて、って先に言ったのさ」

橘壱 >  
「…………。」

要するに此処は帰る場所というわけか。
こんな小さくて、騒がしいような場所が、彼にとってはそうらしい。
ふと湧き上がった疑問を、今は口に出さずにはいられなかった。

「そんなに大事なものかな。その、"日常"って奴は。」

別にお互い深いところを知っているわけじゃない。
これから知る機会もあるかもわからない。
それらを踏まえた上で、少年の一言は素朴な疑問だった。
少年が短い17年という人生を如何に暮らしてきたのか、如何に狭い世界で暮らしてきたのかが滲みでた質問だ。
砂糖たっぷりのちょっと淀んだコーヒーを一気に飲み下し、ふぅ、と一息。

「能力の強弱……の、話ではないか。……人間的な強さか?
 まぁ、単純な力の物差しで考えるならわからないでもないが……。」

己の弱さを省みて強さを会得する。努力の過程ではよくあることだ。
でも、彼の言う無知、強弱は単純な武力的話ではない。
人間社会においては重視されるだろう。社会不適合者である少年には、いまいち鮮明さが足りない。
灰皿に落ちる灰を一瞥し、鼻腔を擽る妙なタバコの匂いがやけに記憶に残る。

「強大な怪異っていうのは僕としては魅力的な話だな。
 戦い甲斐のある敵がいてくれたほうが、AF(コイツ)を使う機会も多い。
 ソイツに突いて詳しく聞きたいこともあるけど、その前に……。」

戦いを望む非異能者の少年にとっては、此れ以上無い魅力的な話。
ただ、その前に気になることだってある。訝しげな顔をしながら、彼を見た。

「一々ベラベラと人に話すようなことはしない。ただ、あったんじゃないか?もっとしょうもない秘密とか。」

互いに歩み寄った第一歩としては随分とリスキーだ。
あまりにも不可解。もし、自分の口が軽かったらどうするつもりなんだろうか。

先生 手紙 >  
「大事だね。此処に帰って来て何も起きていない。そんな毎日が在るから、明日も同じにしていたいと思う程度には」

「まァ、橘とこうやってじっくり話す機会が発生したのは嬉しい誤算だ。こういう違いは大歓迎。おれのこと色々言ってきてるし思ってンだろうけど、橘こそ口の悪さが災いして要らン恨み買って持ち込むなよ?」

後半は茶化し半分、本音が半分。ストレートな会話がいいヤツと気に食わないヤツがいるのも人間関係だ。

――そして。

「……橘が知っておいた方がいい情報だろ、怪異と怪人あたりは。ンで、おれが素性を明かさずにこの情報を口にしたところで信じないだろ。それにまァ……橘の変化の起因が何で発生したかは知らンけど、これは教わってなかっただろう『重さ』さ。信用するよ、同居人。偏屈な風紀委員の一年生?」

つまりはそれに尽きる。そして明かした以上、彼の口から万が一漏れてもそれを後悔はしない。何故なら先生手紙が自身で『選んで』『決めた』ことだからだ。

くしゃり、と短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消した。コーヒーを飲む。

うん。冷めても酸味が気にならない、良い味だ。

橘壱 >  
「…………そうか。いや、人の大事にケチつけるほど、僕は野暮じゃない。」

少年が望むもの。少年が生きていた場所。
それらは何処にも、その"日常"にはなかった。
17年間の引きこもり、社会的ブランク。
ろくな家庭環境でもなかった。そういう"日常"だったからこそ、共感出来ない
だがそれを否定しまうのは余りにも卑屈だ。
何を言えばいいかわからないので、少し目を背けてそんな当たり障りのない返事になってしまった。

「……別に、現状迷惑はかけてないはずだ。
 アンタ等に妙な事を持ち込んだりはしていない。僕の問題は当然僕だけで解決しているつもりだよ。」

口の悪さ、態度の悪さ。全て自覚がある。
なんとか矯正しようとしても、一朝一夕で治るものでもない。
その過程で他人に恨みを買われてもどうでもいいし、望むところだ。
そういった問題を持ち込んだことはない。関わらない以上、迷惑もかけない。
そういう関係でいるつもりだったからだ。それが崩れたらどうなるかなんて、思い当たりもしなかった。

そういうコミュニケーション程度、人間関係の想像力が働かない。
余りにも狭い世界、社会性のなさが少年から浮き彫りになっていく。
その一因として、その@信用;@の一言にたじろいだ。
信用?何を。なんとも言えない表情で、視線はまだ反らしたままだ。

「確かに公安の情報なら確実だろうけど、何をもって"信用"に至ったんだ?
 自分で言うのもなんだが、僕はかなり"終わってる方"な人間性らしい。
 それに、アンタ等とは今日この瞬間まで、最低限の会話しかしなかった。」

「……一体僕に、そこまでの言葉を掛ける意味を見出した?」

曲がりなりにも、それが積み重ねにより出来るものだと知っている。
他人に興味がない少年は、そういったものを積み重ねてこなかった。
だからこその疑問、不信感、或いは言われて慣れない事というのがしっくり来る。
警戒する野良犬のようなものだ。犬は静かに答えを待つ。

先生 手紙 >  
「さ、て」

彼の人生は17年。まだまだ子どもだ。だが、その大半をある一点に凝縮して、そうなる環境に置かれたら――人間性構築のモデルケースか、と二本目の煙草を銜えた。出自は知らないがこんな言葉が刺さる――刺さっちまうような環境で育ったンだろう。火を点ける。

「ふーっ……そそ。そンなもんだよ。橘が懸念したのとおれが懸念したの、同じだろ?」

口の悪さか身の軽さか程度の差異しかない。そしてそれがトラブルの元になって此処に来ていない以上、お互いが、お互いらしく処理できているということだ。あくまで現状。保全に努めるならセンジョーくんはきちんといつも通りに〆るべき。

「……そのハコを使う時、相手の強さはひとまず置いといて、どんなヤツが相手だと橘はいい?」

外付けの力だとしても。その行使はこの少年の手に委ねられている。

「性能試験だなンだと理由を付けて暴れるだけが目的だったら、風紀が最適解じゃねえよな?落第街の奥の方で存分にブチ撒ければ一番楽だ。そうしなかったのはどうしてか。学園に入るにあたっての規定かもしれないし、そこに橘の意思は介入してなかったかもしれない――でも、少なくとも今日まで、橘壱は風紀委員として、力の行使をしてきた」

違うかい?と。

ともすれば少年が自覚していないかもしれない善性こそが、信用に足る――彼からすれば大穴にすぎるベットの仕方だ。

紫煙を吐く。

「おれが思うに、だけど。橘は橘が思ってる以上に誠実なニンゲン性を持ってるよ。現に、おれが公安だって知った瞬間に、誰の顔も浮かばなかったンじゃあ、ないのかな」

売るような。知りたがるような。

それが、彼の人間関係の希薄さからくるものであったとしても、だ。