2025/01/22 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 『追影切人』の部屋」に追影切人さんが現れました。
ご案内:「常世寮/男子寮 『追影切人』の部屋」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■追影切人 > 第一級監視対象とはいえ学生なので、ちゃんと部屋というものはある。
…で、本日は監視役である同級生兼同僚兼友人が訪問してくる予定になっている。
「……冷静に考えりゃ、別に俺の部屋じゃなくても風紀の本庁の会議室とか適当に抑えてりゃ良かったな…。」
ベッドに寝転がりながら呟く。傍らのオモイカネがアラーム音を鳴らす…そろそろ時間か。
気怠そうに起き上がりつつ、枕元に放り投げていた眼帯を手に取って左目に装着。
「……流石に飲み物くらいは出すか――つか、アイツの飲み物の好みとか知らねぇな、そういや…。」
成程、こんな些細な事も今まで自分は気にも留めていなかったらしい。少し思い知る。
■伊都波 凛霞 >
男子寮、という場所である以上どうしても歩くだけで視線を惹いてしまう。
そんな視線を気にする様子もなくその女子生徒は部屋の前に立ち、インターホンのベルを鳴らす。
「伊都波です」
応答があれば簡潔にそう告げる
右腕には風紀委員の腕章。
仕事で来ている風紀委員だとわかれば視線も引いていく…ことはなかった。
元々視線を集めやすい生徒であるには違いないことに加えて、
訪れる部屋の持ち主が"特別な生徒"であればこそ。
■追影切人 > 「…と、来たか……待ってろ、今開ける!」
正直、これから二人で話す事はまぁあまり楽しい話でもないのは明確で。
けれど、お互いきちんと思う事は吐き出しておかないと前には進めないままだ。
それが動作にも表れていたのか、心なしか何時もよりもちょっと気怠そうに立ち上がって。
裸足でペタペタ歩いて行けばドアをガチャリ、と開けてお出迎え。
「…おぅ、お疲れさん。まぁ取り敢えず入れよ…。」
ローテンションなのは何時もの事として、そういえば部屋に人招いた事あったっけか?
…記憶に無いな、まぁいいか。扉を開いたまま、体を半分ズラして彼女が上がれるスペースを空けようと。
中に上がれば――まぁ、何というか。
年頃の男子…とは思えない、必要最低限の物だけが置いてあるような部屋の内装とご対面となるだろう。
ただ、意外な所があるとすれば小さいながら本棚がある事か…それなりにぎっしり本も収まっている。
■伊都波 凛霞 >
「こんにちわ。追影くんも、元気?」
いつもと変わらない、人懐っこい笑顔。
監視役と監視対象、鞘と刃。
友人関係なんかとは少し違う二人の距離感は独特なもの。
けれど少女は、監視対象である彼の監視役となってからずっと、友人と変わらぬ距離感で接してきた。
それが良かったのか悪かったのか、彼にとってどうだったのか…。
最近は、それを考える機会も増えてきた。
きっとそれは彼も同じで、いつもよりも少しだけダウナーに感じる雰囲気がそう語っている。
言いにくいことが、お互いにあるに違いない。
「お邪魔しまーす。そういえば中に入るのは初めてかな?」
監視対象の私生活をよく知っておくことも監視役としては大事なことかもしれない。
そんなことを考えて、今日は訪問に踏み切ったのだけど、部屋の中は意外とちらかってもいなくて、
彼がどこかぶっきらぼうにも見えるだけで、根は案外繊細なんじゃないかと思ってしまう。
「へぇ~!すっきりしてる! あ、これおみやげ♪」
はい、と手渡すのはドーナツの箱。チョコドーナツの入った、もうお馴染みの品物である。
視線を巡らせれば本がいっぱいの本棚なんかも目に入ったりして、彼の私生活を知る…ちょっと新鮮な感覚である。
■追影切人 > 「元気っつーか…まぁ何時も通りも元気の内に入るならそうなるわな…。」
そっけないような面白みの無い返答だが、ちゃんと会話のキャッチボールは出来ている。
それだけでも昔に比べたら格段の進歩である。未だに対人関係に置いては色々面食らう事も多いとはいえ。
彼女が中に入れば、何かこっちを凝視したりひそひそしてる野郎共に鋭いガンを軽く飛ばしてから扉を閉めた。
…何か変な誤解してやがるなあいつら…。今度顔を突き合せたら念押ししておくか…。
「…つーか、俺の記憶が確かなら…俺が自発的に部屋に招いたのは多分オマエが初じゃねーかな…。」
今でこそ知人友人も多少なり増えたが、それでも部屋に招いた記憶がさっぱり無い。
…偶に嫌がらせで勝手に上がり込んできたかと思えば、余計な食人花を置いて行った奴も居るが。
…何かイラッとしそうなのでそれ以上は思い出さない事にする。
気を取り直して、一先ず彼女の後を追うように部屋に戻――らず、簡易キッチンスペースに移動。
慣れた手付きで湯を沸かし始めつつ、「紅茶とコーヒーあるけどどっちがいい?」と、彼女に問い掛けながら。
「…土産…って。」
嫌な土産をさっき思い出した所だったので、少し身構えそうになるが正体は好物のチョコドーナツでした。
安堵の吐息をそっと漏らしつつ、きちんと「わざわざありがとよ。」と、礼は述べつつ。
ちなみに、本棚は参考書だったりPC関連の本だったり、何かの伝記物だったり統一性が無い。
そして、一番下の段の隅っこの本のタイトルは――
【 美 味 し い お 菓 子 の 作 り 方 】
…であった。どうやら自分でも偶に作っているらしい。
■伊都波 凛霞 >
飾り気のない返事。
それでも面倒くさそうでないだけでもヨシ。
にっこり笑って…部屋の外の視線に向けた鋭い一瞥には、ちょっと困った感じに眉を下げた。
「そうなんだ。確かに、誰か呼ぶならもうちょっと華やかなにしたりするかな?」
シンプルな生活空間。誰かを招くための場所…という、いわゆる色気は感じられない。
くすりと笑いつつ飲み物を淹れてくれると聞けば。
「わ、お茶淹れてくれるの? 嬉しい~♪
それじゃあお言葉に甘えて、お紅茶もらっちゃおうかなっ」
とりあえず吸われるスペースを見つけて、ちょこんと正座。
本棚に視線を戻すと、意外なタイトルを目に入ったりなんかして…。
「お菓子の作り方……追影くん、お菓子とか自作してるの?」
眼を丸くして、思わずキッチンスペースに向けて問いかけたりなんかしてしまった。
■追影切人 > 監視役の彼女も含めて、今、対面している相手と目線を合わせる…最近心掛けている事だ。
もしかしたら、他の連中から見たら当たり前すぎて意識していない事かもしれなくて。
だけど、この男の場合はそれすら出来ていなかったから…日々実践して少しずつ人間になっている。
「…そういうセンスとかねぇからな…一度それっぽい本とか目を通したがさっぱり分からん。」
部屋の内装――インテリアとかに気を遣うくらいなら、別の事に使いたい。
シンプルなのは、元々あまり物を持たない気質もあるが…そういうのに未だに疎いのもあるのだろう。
「…何でそんな嬉しそうなんだ…ただの市販品だぞ…。」
まぁ、いいか…と、思いつつカップを用意しつつお湯が沸いたら先にお湯だけ注いでカップを温めておく。
それから、お湯を一度捨てて再度お湯を入れてからティーバッグを投入。
サイズが丁度いい小皿を蓋代わりにして香りを逃がさずに蒸らす…本で何か覚えた知識だ。
蒸らす時間は紅茶の種類とかで変わってくるので、そこは経験則で判断してから最後にティーバッグを軽く数回振って取り出す。
「…あン?…まぁ、暇な時間がある時に適当に。簡単な物ならそこそこ作れはするぞ。」
別に凄い上手い訳ではないが、初心者レベルは一応脱してはいる。まぁ振る舞う事は殆ど無いが。
そちらにカップを二つ持って戻ってくれば、ソファーとかは残念ながら無いので部屋の中央に座する丸テーブルにカップを二つ置く。
一応、クッションみたいなものはあるので直座りにはならないだろう。
本当はソファーとかの方がいいのかもしれないが、男はこういう感じの方が何となく落ち着くのだ。
■伊都波 凛霞 >
「このままでも小ざっぱりしててキレイだけど、少し寂しい感じはするね。
──え? だって追影くんがお茶いれてくれるんだよ?嬉しいでしょー」
少し離れたところから届く声色は、本当に嬉しそうに弾んだもの。
こんなちょっとしたことでも、お互いの関係性を考えれば特別なものとして受け取っているらしい。
「へぇー……意外~。
わたし、監視役なんだからちゃんとそういうのも知っておかないとダメだね……」
簡単の溜息。
そんな言葉を交わしているうちに、お茶が容易されて、丸テーブルを挟んで二人座ることになる。
「さて…何から話そうか」
いただきます、と淹れてもらった紅茶を口元に近づけながら。
とりあえずは近況で変わったこととかを聞く…だろうか。
■追影切人 > 「…オマエ、そういうの詳しかったりする?アドバイス…の端くれでもいいから、意見ありゃ聞いておきたいんだが。」
別に、聞けたとしてもいきなり部屋の内装とかをがっつり変えたりする事も無いが。
こういうのは、意見を聞くだけでもいざという時の選択肢に繋がるので馬鹿には出来ない。
何事も、参考意見というのは矢張り指針の一つにはなるものだから。
(…マジで嬉しそうにされると、俺としては反応に困るんだけどな…。)
悪い気分では決してないが、どうも…こう、こそばゆい?何かむず痒いというか。
軽く頭を振って気を取り直す。正直きちんと話しておかなければいけない事は幾つかある。
「――そうだな…まず、俺から一つ謝罪させてくれ。」
そう、男の方から切り出したかと思えば真顔できちんと頭を下げた。
「…オマエの妹を危険な目に遭わせた。掠り傷一つ負わせちゃいねぇし、本人からもしかしたら聞いてるかもしれんけど。」
”アレ”の襲撃は想定外――明確に自分を狙ってきたが、結果的に同行していた彼女の妹も巻き込んでしまった。
それでも、その妹の『手助け』もあって無事にお互い無傷で切り抜けられはしたけれど。
■伊都波 凛霞 >
「アドバイスなんて偉そうなことは言えないけど、部屋、って持ち主の色が出るものだから。
この調子で趣味とかが増えていったら、自然と物も増えていくんじゃないかなあ」
あの本棚だって立派な個性。
こうやって彼の意外なところを知るための色がそこにある。
人並みに趣味が増えていったら自然と物が増えていく…なんていうアドバイス。
自然と小綺麗になっているところを考えれば、物が増える一方なんてことにはならなさそうだし。
「そう?」
反応にこまる、なんて言われると小さく首を傾げて。
お客さんにお茶を淹れて、喜んでもらえたら、笑顔でお返し、でいいと思ったけどあっそうか。
もしかしたら、相変わらず笑う…みたいなことは苦手なのかも。
内心、そんなことを思いながら。
彼からの謝罪。
しっかりと頭を下げて見せる様子に、少し慌てる。
「頭なんて下げなくてもいいよぉ…迂闊に風邪引いちゃった私も私だったし。
妹に押し切られたのも、うん…私だし」
実は熱がありつつも出ようとしたのだけれど、結構な剣幕で妹に怒られたのだ。
それで結果として妹が自分の代わりに──元はと言えば自分の体調管理の責任がある。
「だからそのことは気にしないで。妹も無事だったし、言う事無し」
むしろ…。
その前段階…狙われた、襲撃の主。それに関連する話のほうをこそ、聞かなければいけなかった。
「廬山くんから、触りだけは聞いてるけど。
私を通さずにまた、君に命令が直接降りてる、って」
少しだけ、神妙な面持ち…。
■追影切人 > 「…色…つまり個性って事か?…趣味ねぇ…んーー…。」
軽くこめかみに手を当てて隻眼を閉じる。無趣味というか、人並みの趣味が特に無い。
…いや、もしかしてこの場合は菓子作りが趣味になるのか?
何かそれはそれで嫌だな…あくまで暇潰しと小腹を満たす為のものなのだが。
ちなみに、監視役さんの推測通りというか、相変わらず今でも自然体の笑顔が大の苦手だ。
不敵に笑ったり、ハイになって嗤う事はあるが…ごく自然な笑顔を浮かべる事は殆ど無い。
その辺りは、感情をじわじわ学んでいる段階、というのもあるのかもしれないが。
「……まぁ、あの妹…オマエとは別の『強さ』があるようには感じたな。」
強さにも色々あって、姉妹でこうも違うのか…と、思う、兄弟姉妹が居ない男には新鮮な感覚だ。
さて、それはそれとして――来たか。ここからがお話の本題だになる。
「――そう、それが問題だ。いい加減、俺も”上”の連中から直接ってのは嫌気が差してる。
…やってる事は…まぁ、オマエも察してるだろうから省くけどな。それにしても監視役を通さないのは…。」
合間に紅茶を口に運んでから、ゆっくりと一息を零す。
「監視役の意味が無い――前々から、オマエを仲介せずに直接俺に指令が来る傾向はあったがよ。
……で、流石に腹が立ったんでちょいと前にその辺りがっつり抗議してきた。
『汚れ仕事でも何でもやるが、監視役の【伊都波凛霞】にも話を通せ』…ってな。
まぁ、色々あって結構こじれたが……取り敢えず、今、俺が任されてる”仕事”も含めてオマエにきちんと話しておこうと思う。」
いい加減、そろそろ”上”にもきちんと理解させておきたい。
自分は罪人で汚れ仕事もこなす刃であるが、鞘たる監視役の目の届かない事は御免なのだ。
■伊都波 凛霞 >
アドバイスはすぐには噛み砕けないと思う。
きっとそれは自然に、少しずつ自分の中へ溶けていくだろうものだから。
慌てる必要もないことだから、きっとそれで良いのだと思う。
そして、妹の強さに言及されると、少しだけはにかんだように笑う。
自分とは違う性質の、それでもあの子の強さを認めてくれる人がいる。
それが、それなりに自分と近い関係にいる人であることが素直に嬉しいのだった。
───そして。
「──…私を通していない理由も、問題だよね」
一通り彼の言葉を聞いてから、カップを手元にそう言葉を零す。
廬山の言葉をそのまま受け入れることはできないけど、彼は道化のような言葉は使っても、利己的な嘘をつかない人間にも思える。
だから、きっとそうなんだろうと思ってはいたけれど。
「私も抗議の書面は出したんだけど」
二度目の命令が彼に下ったのは、その直後だったのもあって──。
「もし、私が追影くんの監視役として不適格…不足があってそういうことになっているなら──」
力不足だというのなら、これも風紀委員としての仕事である以上は、進退を考える必要がある。
そう、重苦しく、申し訳無さ下に、…僅かに伏し目がちに、口にする。
■追影切人 > 「――廬山の奴はどうせアレだろ…オマエの事を”優しすぎる”とか言ってたんだろ?」
ぽつり、と独り言のようにそんな一言が飛び出す。むしろ彼にもこの前言われた事だ。
確かに、監視役――特に第一級監視対象、という最高位の監視対象となると優しさだけでは務まらない。
(――何処まで行っても、結局俺”達”はそれぞれ【罪人】でしかねぇからな…。)
監視対象制度は忌々しいが、皮肉にもそれがあって命を繋いでいる連中ばかり。
それぞれの思惑や態度はあるにせよ、監視対象制度が無くなれば、少なくとも一級はほぼ全員――…
「…で、だ。俺は正直わかんねぇ。優しさは確かに甘さにも繋がるし、オマエ自身を苦しめる重荷にもなるだろうよ。
――けど、優しい事は駄目な事なのか?…俺は、むしろそれに助けられてるんだけどな。」
伏し目がちに、自身の”不適格”を口にする凛霞を、隻眼でじっと見つめる。
強い視線ではなく、ただ静かに見つめる…ここで目を逸らしてはならない。
「――風紀…監視役としては失格…かもしれねぇが、人間としては立派だろうよ。
勿論、それだけでどうこう出来るほど世の中甘くねぇだろうが、その優しさは――」
誰かを苦しめても、追い込んでも、例え後ろ指を指されても。
「…絶対にオマエが失ってはいけないモンだと思う。
…何か話が逸れてるな。まぁ、要するに――」
男なりに頑張っているが、矢張り上手い言葉選びが苦手なので纏まった意見にならない。
頭を軽く掻きながら、ゆっくりと息を吐いて。
「…オマエ自身の意見を尊重するけど、俺は自分の監視役はオマエ以外は認めない。…前にも言った気がするなこれ。
…だから、”上”にも抗議したし、無茶を通して監視役のオマエに『権限』を一つ認めさせたりもした。」
■伊都波 凛霞 >
「優しいだけ、じゃダメなのは私もちゃんと理解してる。
例えば…夏輝への抹殺命令なんて私は絶対に承諾しなかっただろうし、
今回の件についても少しくらい追影くん本人の意思を汲み取るべき、急がせない話なら…猶予を進言したと思う」
つまるところ、凶刃を凶刃として動かすためには邪魔なんだろう、と。
──でも。
「私は監視対象制度のあり方の本質は、追影くん達を都合の良い武器にすることじゃないと思ってるから───」
だから。
常に彼を"人間"として接してきた
咎人には違いない。それでも人間には違いない。
他の監視役と比較すれば、肩入れのしすぎであったり、問題に思える関係性にも見えたのかもしれない。
けれどそれは、監視対象である彼らを一人の生徒、人として生きる道を創るための、生徒の在るべきだった筈の方針。
自分が思っている以上に彼──追影切人の存在が重かった、あるいは…凶刃として飼っていたかった人間の意思が強かった。
故に、彼の言葉には少し、驚きもした。
自分を気遣うような言葉は不慣れで、彼なりに不格好でも伝えたかったのだろう感情が感じられた。
それだけでも、彼も随分変わってきた。最近はそれが顕著で、監視役として嬉しくもあった。
それが不都合となる"上司"がいた…それがきっと食い違いの原因。
「私だってその気はないけど…風紀委員として上が何かを決定づける時が来たらそれは───……権限?」
言葉途中、権限を認めさせた、という言葉に眼を丸くする。
その反応を見ても、それについて聞いていないことなのは、確かだろう。
■追影切人 > 「――夏輝に関しては――正直殺すつもりで対峙した。仕事だったし”何時もの事”だったからな。
…けど、殺し切れなかった。…思えば、俺が自分の感情をきちんと自覚したのはあの時だ。」
言い訳もしない、本人の意思というならあの時は躊躇なく斬り殺すつもりで戦った。
――けど、殺し切れなかった。あの時、無意識の何処かで殺す事を”拒否”した自分が居たのだろう。
…その結果、【凶刃】も今は名ばかりで実体は折れた刃に過ぎない。
…折れたからこそ、今は『感情のある刃』という矛盾した領域を目指しているのだが。
「――監視対象制度の前身は『犯罪者更生プログラム』…だったらしいぜ。
それが、”上”のどっかの連中の思惑で捻じ曲がったのが現行の監視対象制度だ。」
結果的に、利便性のある『駒』であり『鬼札』の一種としてのポジション。
犯罪者を更生させるのではなく、利便性のある――”法の正義”を通す為の手駒が今の自分たちだ。
(…まぁ、どいつもこいつも腹に一物抱えてるのばかりだけどな。)
「――オマエがきちんと自分で考えて決めた事なら、俺もその場合は従うさ。
…けど、ただ”上”がそう決めたからと言うのは納得できねぇし認めらんねぇな。」
分かってる、ガキそのものみたいな駄々の戯言なのは。
凛霞がきちんと自分の考えで、意志で、決めた事なら男はそれを尊重する。
けど、上に言われるがままに…と、いうのは矢張り心底納得出来ない。どうしようもなく。
「――権限は…そうだな。俺にとっちゃ生命線…命綱みてぇなもん。枷でもあるけどな。」
そう言いつつ、己の首をちょいちょいと示すジェスチャー。そこには何も無いが。
「――俺の【異能抑制装置】の操作権限…ってやつ。
噛み砕いているなら、俺が抑制されている異能のリミッターを最大50%まで解除出来る。
…本来”上”が握っていた権限だが、それをオマエに持たせるのをごり押しした。」
刃の生命線を握るのは鞘じゃないとしっくりこない。
要するに、この男の異能の管理は彼女に完全に任せられるという事に他ならない。
■伊都波 凛霞 >
私はもっと前からそう思ってたけどね。なんて心中に秘めながら、
夏の終わりの一件で感情を自覚したと語る彼を見やる。
「更生プログラム──私は今でもそう思ってるけど。
そもそも私に『凶刃』追影切人の監視役の任が下ったのは、私なら貴方の刃を止められると期待されてのことだもの」
ただ、その"効果"が上の思った以上に、刃を鈍らせてしまった…のかもしれないが。
自分の決めたことなら大人しく従ってやる…なんて言葉を聞けば、少しだけ眉根を寄せて困った顔。
「それは…もちろん理不尽な理由なら上にだって抗議はするけど、
ちゃんとした手順を踏んだ、正当な理由があっての解任だったら従わないわけには……」
生徒主体といえど縦の社会という部分は当然ある。
正しく決められた事項に従わないのは、規範や規則に反すること…。
けれど、それから明かされた、権限という言葉の中身は──少女がより一層驚いた顔をするに足る内容だった。
「異能の解放権限を、私に…?
そ、それはまた…随分重要なこと……そんな無茶通したとは思わなかった……」
思わず片手をこめかみへ。…どんな説得したんだろう、彼…。
「…でも、そんな決定が出るってことは、……監視役として不適格ではないってことなのかな…」
いや、彼がどんなゴネかたをしたかにもよるかもしれないけど。
■追影切人 > 「――俺の刃の切れ味を鈍らせて、丁度いい始末屋っぽくしたかったんだろうよ。
…実際はどうか知らんけど、少なくともそういう意図は少なからずあっただろうな。」
其の為の監視役――結果、彼女を始めとした周囲のお陰で切れ味は鈍った――思った以上に。
そして、今、少しずつ足掻き悩み、時に弱音を零しながら。
別の『刃』になろうとしている――それを快く思わないのが”上”にそこそこ居るのだろう。
「…あぁ、オマエなら絶対そう言うだろうと思ったからな。
上からきちんと許可が下りた権限の譲渡なら、違反も何もねぇよな?」
少しだけ意地悪く笑った。彼女の性格や考え方、気質を全て理解しているなんて事は勿論無いけど。
彼なりにこの監視役さんの事は理解しているつもりで、だから正々堂々異能を管理する権限を分捕ってきた。
「…と、いうかオマエ以外解除出来ねぇようにゴリ押ししまくったんだから、むしろ居てくれないと駄目だろ。」
そもそも、一級監視対象それぞれの異能抑制装置は、出所不明の謎技術の産物だ。
それぞれ専用に調整されている上に、きっちり異能を抑制しているので相当アレな代物だ。
そして、ある意味では生殺与奪を握っているに近しいその権限を、男は躊躇なく『鞘』たる彼女に託した。
…託すために、まぁ上とかなり揉めてゴネて押し通したのだけれども。
(…ペナルティーとかは流石に黙っておくか…。)
そこは心の内に秘めておきつつ、紅茶をまた一口。一先ず――だ。
「取り敢えず、俺の言いたい事は大体言ったつもり。凛霞も俺に言いたい事とか何かあったら今遠慮なく言えよな。」
あとは、今自分が押し付けられている無茶な「仕事」について伝える事が重要、ではあるか。
■伊都波 凛霞 >
切れ味が良すぎる刃。
全てを切り刻んでしまう刃は扱いにも困る。
故に鈍らせる。制御可能なまでに。
───実に都合の良い。身勝手な考えだと思う。
「えっと、それはいい、それはわかったんだけど…」
ちょっとまってね、と考えを整理する時間をもらう。
一監視役、それもかの凶刃を担当する役としては些か重いどころか、重すぎる権限だ。
困る…というわけではない、そういうことならこれからもしっかりと務めなければという責任感もある。
ただ……。
「──一体どんな"交渉"したの?」
じぃ。
少女には珍しい、ちょっと強めに問い詰めるような目つき。
黙っておくか、なんて思った彼の心情を見抜くような、鈍色が見つめる。
そして。
「聞きたいことは当然、現況。
私、今君に与えられてる任務のこと触りしか知らないんだからね?」
監視役がとりあえずでも続行、ということで腑には落ちた様子。いつもどおりの様子と雰囲気にすっかりと戻った。