2024/06/18 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に緋月さんが現れました。
■緋月 > 「………。」
難しい顔をしながら、書生服姿の少女が洗濯物の整理をしている。
女子寮の一室ではあるが、彼女の部屋という訳ではない。
現在、彼女を引き取ってくれている風紀委員の女生徒の部屋――言ってみれば、居候先である。
「……おかしい。」
整理を終えた所で、小さく呟く。
最後に彼女と顔を合わせて、1日近く経つ筈だが、帰宅どころか連絡すらつかない。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に桜 緋彩さんが現れました。
■緋月 > 居候先の主である女生徒は、自分から見ても真面目な方だと思う。
故に、帰りが遅くなる時は何某かの連絡が入っているのが今までの常だった。
今回は、それがない。
「…………。」
仕事が遅くなっているのだろうか、と最初は考えたが、時間が経つにつれて嫌な予感が増す。
彼女は、風紀委員の一員である。
それは即ち、この都市の治安維持に関わる立場であるという事。
その事実と、自身の身に過去に起こった出来事が、不吉に重なる。
■緋月 > 「――テンタクロウ。」
かつて自身も戦いになった、鉄腕の怪人。
話題に上る事も多い、その影が脳裏を過ぎる。
「思い過ごしなら、いいのですが――――。」
姿勢を正して正座し直し、精神を落ち着かせる為、調息を行う。
――緋彩さんは、決して弱い方ではない。
最悪の事態には、至っていないだろう。
不安を吐き出すように、大きく息を整える。
■桜 緋彩 >
「ただいま戻りました」
部屋の玄関を開け、いつも通りのテンションで家主の帰宅。
「いやぁ、火傷と怪我の治療で病院に行っていたのですが、スマホが壊れてしまいまして。
連絡出来ず、申し訳ない」
しかし、その姿はいつも通りではない。
袖が肘のあたりから焼け落ちている胴着。
両腕には包帯がぐるぐるに巻かれているし、頭にも同じように包帯が巻かれている。
それ以外は汚れているぐらいではあるが、明らかにボロボロと言う感じ。
■緋月 > 「!」
良く聞く声が、玄関から聞こえて来た。
まるでいつもの調子。
「緋彩さん、おかえりなさいませ――――」
振りむいて出迎えようとして――
「――っ!?」
同居人の姿に、ひゅ、と小さく息を飲む。
「酷い怪我ではありませぬか! 腕に、頭も…!」
思わず言葉遣いが変化してしまう。
大慌てで駆け寄り、怪我の様子を確かめようとするだろう。
腕の負傷次第では手を貸さなくてはいけないかも知れない。
■桜 緋彩 >
「いえいえ、大丈夫ですよ。
病院で診て貰いましたから」
へら、と笑って大丈夫、と。
頭も腕も、患部は包帯でしっかり覆われていて見えないだろう。
とは言え病院で診てもらった本当だし、命に別状があるわけでもない。
腕を動かしたら痛む程度。
「連絡もなく、心配をおかけいたしました。
もうしわけない」
玄関先で深々と頭を下げる。
■緋月 > 「そんな…謝る事などありませぬ!
兎に角、今は大事を取って下さい。
診て貰ったとはいえ、大事を取るに越した事はございません!」
手を取る――訳にはいかないので、身振りで頭を上げるように促す。
とりあえず、ボロボロの道着から着替えなくてはいけないだろうと、整え終わった衣類の方に大急ぎ。
居候とは言え、勝手に取り出すのは気が引けるが、今はそんな場合ではない。
出来るだけ着替えやすそうな部屋着を探して運んでくる。
「着替えを持ってきました。
腕は…うむぅ、着替え、手伝った方がよろしいですか?」
■桜 緋彩 >
「いやぁ、見た目ばかり大げさでそこまで大したことはないのですが……」
頭を上げ、走って行った彼女に続いて部屋に上がろう。
とりあえず刀を腰から抜いて壁に立て掛ける。
「もう少し早く帰ってくるつもりだったのですが。
帰り際、先輩に捕まってしまいまして」
先日、無断でテンタクロウとやり合った件は、当然ながら風紀にバレていた。
風紀としてではなく、非番中に自分からケンカを吹っかけに行ったこと。
戦闘中にわざわざ風紀から遠ざけて取り逃がしたこと。
その辺をしこたま怒られて今に至る。
着替えは自分で出来ますよ、と胴着を脱いで部屋着に着替えて。
いつもよりはぎこちなかったりたまに顔を歪めたりはするが、やはり日常生活には問題はない。
■緋月 > 「大した事がなくても、粗雑に扱えば傷は残りまする。
もう少し身体を厭うて下され。」
叱るというよりは心配が先に立つ調子。
刀を遣う者にとって、腕は生命線だ。
傷がおかしな治り方をして、前と同じに刀を振るえなくなれば、当然リハビリ、最悪刀の使い方を変えなくてはいけない。
「先輩に…そんな有様だったのに、ですか?
それは少々、無体では――。」
怪我人を捕まえて何かしらの叱責か釘刺しというのは、普通は考えられない。
それが風紀――秩序を守る者なら猶更だ。
普通であれば怪我の治療を優先させる筈。叱るのは後からでも可能だ。
己の基準に当てはめるのはどうかとは思うが、自分ならそうする。
「――まさか、」
風紀委員がナーバスになりそうな手合い。
そんな存在は、ひとつしか思い浮かばない。
「……あの、鉄腕の怪人絡み、ですか。」
確証はない。半分はカマかけだ。
■桜 緋彩 >
「ははは、肝に銘じておきます」
確かに一理ある。
困った様な顔で謝りながら、素直に従っておいた。
「まぁ、勝手をしたのは私ですから。
叱られるのは当然でしょう――」
むしろこの怪我だから早めに済んだと言うのもある。
五体万全であればきっと今頃はまだ反省文とか報告書とかを書かされていただろう。
なんせ、
「――相手がそれでありましたから」
機界魔人テンタクロウ。
今風紀が総力を挙げて追いかけている敵。
それに単騎で、しかも風紀の立場を忘れて立ち合いに行ったのだから。
■緋月 > 「――――――。」
考え得る答えでは、あった。
だが、自身の身近にいる知人がいざ事を交え、本人は軽いと言いつつもこうして怪我をしたというのは、
――少々、いや、随分と、堪える。
「………申し訳、ございませぬ。」
思わず、謝罪の声が漏れる。
「思い上がりとは、重々承知しています。
緋彩さんや、風紀委員の皆様の体面を潰しかねない、とも。」
それでも、言わずにはおられない。
「……あの時。奴に最初に遇った時。
時間を稼いで事を有耶無耶にするべきではなかった。
例え危険と思われる事になったとしても、あの場で奴を斬るべきだった…!」
ぞわ、と、剣気が漏れる。
「そうすれば、緋彩さんもこんな事に遇わず、他に奴に傷つけられた方も――!」
■桜 緋彩 >
「――そうですね。
それは思い上がりです」
さらりと、軽い口調で。
「関係の無い人が襲われたのは奴が人を襲うからです。
私が怪我をしたのは私が未熟だったからです」
確かに、彼女がテンタクロウを斬って捨てていればそれ以降の被害はなかったかもしれない。
自分がこうして勝手にケンカしに行って怪我をすることも無かったかもしれない。
その代わり、彼女が犯罪者になっていただろうけれど。
「法を犯す事を迷わず選択出来るようになってはいけない。
それは修羅の道です。
まして、その理由を他人に背負わせるなど、尚更です」
誰かのために斬る、等思い上がりも甚だしい。
斬るならせめて自分のために斬るべきだ。
「それに、むしろ斬らなかったことを感謝していますよ」
彼女に笑顔を向けて。
「あなたが斬らなかったから、私はアレと立ち合えた。
アレが未だ健在でなかったら、アレと剣を交えることなどなかったのですから」
魔人に悪魔と評された狂気が僅かに漏れる。
■緋月 > 道理であった。
どこまでも、目の前の彼女が語る事は、道理である。
彼奴が人を襲うから、己の目の届かない所で関りの無い誰かが傷つく。
彼女が怪我をしたのは――おそらくは、お叱りを受けたという点から考えて、
職務を外れて彼奴に挑み、怪我を負わずに勝利できる程に達していなかったから。
人を斬る事は、法を犯す事だ。里を出る前に、言われた事だ。
それを迷いなく選び、その理由を他人のせいにする事は、酷く道から外れた事だ。
「……すみません、少し、頭に血が上ってしまいました。」
しゅる、と萎むように剣気が霧散する。
そして、まるで愉しむかの如き語り口調に対しては、
「…緋彩さんは、あやつと刃を交えて、楽しかった…ですか?」
おずおずと、そう訊ねる。
垣間見せる狂気には、怯える事もない。
己も心の裡に、非なるとはいえ似たモノを抱えているから。
■桜 緋彩 >
剣気が霧散した様子に、にっこりと笑顔を見せて。
楽しかったか、と言う問いかけに対しては、少し考える様子を見せる。
「そう、ですね。
楽しかった――ええ、はい。
楽しかったです」
何か含むところがあるような。
明らかに過去形ではっきりと断言。
「まぁ、もう私は関わるつもりはありませんが。
獣との立ち合いは一度で充分です。
なにより、自分の命をすり潰して戦うものに興味はありませんから」
一度で満足だ、と言うかのよう。
■緋月 > 「もう、関わらない、ですか――?」
過去形で敢えてはっきりと言い切った様子。
それに、一度で充分とまで。
更に聞き逃せなかった事がもう一点。
「命を、磨り潰して…それは、いったい――。」
まさか、と嫌な予感がする。
自分が戦った時には、そんな兆候はまるで見えなかったが――
「――もしやあやつは、もう長くないという事ですか!?」
どういう事だろう。もしも彼女の言葉がその通りだというならば、あの怪人は正しく命を削っているという事か。
どういう訳だろう。
捨て置けばいい筈。
そうすれば奴は勝手に力尽きて、この街の脅威は一つ、勝手に減る事になる。
なのに、なんだ――
「――――――。」
何だろう、この焦燥感は。取りこぼしてはならぬモノを取りこぼしそうな、そんな気持ちは。
■桜 緋彩 >
「はい。
まぁ風紀の職務としては引き続き警戒はしますが、個人的にはもう満足ですね」
少なくとも立ち合いを望むことはない。
自分がしたいのは、練り上げた技と力をぶつけ合う立ち合いだ。
文字通り命を懸けた潰し合いは望んでいない。
「詳しいことはわかりません。
ただ、何かしら寿命の前借のような雰囲気は感じましたね」
あの時彼が何をしていたのかはわからない。
ただ、それに近いことはしていたのではないか。
そんな空気を感じた。
「――これは私の推測ですが。
アレは風紀に恨みを――少し違うか。
もう少し捻くれた……風紀に対する失望のようなものを感じましたよ」
彼の最後の言葉。
風紀にはこうあって欲しいと願う様な言葉。
それだけは少し引っかかっている。
■緋月 > 「寿命の前借り…。」
考えられる点はいくつかある。
特殊な練気術。それこそ、自身の命を圧縮して力に変えるような。
だが、奴は機械仕掛けの怪人。
中身が人間であるならば――禁制の薬の類の方が現実的か。
「風紀――風紀委員に対する失望、という事ですよね…。
いや、もしかしたら風紀委員会という組織そのものへの…?」
少しおかしなものを感じる。
夜な夜な人を襲う通り魔ならば、風紀委員は邪魔者。
疎んで障害物扱いするならまだしも、失望というのは筋が通らない。失望は期待あっての感情だ。
(――もしや。)
素直に、思った事を口に出してみる事にした。
「緋彩さん。不躾な質問だとは思いますが。
もしかして、あの鉄腕の怪人は…対立という事でなく、風紀委員と何某か関りのある、あるいはあった者では?」
風紀委員としての彼女が、もしかしたら何かを掴んでいるかも知れないと思いつつ。
■桜 緋彩 >
風紀と関係がある人物ではないか。
彼女の問いに少し困ったような顔。
「――まぁ、はい。
正直なところを言えば、私もそれを疑ってはいます」
勿論確定した情報ではない。
けれどもその疑いは強いだろう。
風紀委員的にはあまり情報を彼女に漏らしたくはなかったけれど。
「だとすれば、つまるところアレとのいざこざは風紀の内輪揉め、と言うことになってしまう。
……あまり人には言わないようにしてくださいね」
彼が風紀の何に不満を持っているのかは知らないが、だとすればそう言うことになるだろう。
これが外部にバレれば割と面倒くさいことになる。
はぁ、と深く溜息。
■緋月 > 「あ、確かに形の上ではそういう事になってしまいますね…。
すみません、言い辛い事を。勿論、余人に言いふらすような真似はしません。」
疑惑の段階とは言え、風紀委員である彼女から部外者である自分には言い辛い事だろう。
申し訳ない反面、現役の風紀委員からの推論を貰えたのは正直に言えば有難い事だった。
(――でも、まだだ。まだ――足りない。)
まだ、届かない。
ほんの少し、輪郭が見えただけだ。
頭の中で理性が警告を発する。
これはこの街の治安に関わる事。治安維持の組織の領分だ。
それを踏み越える価値があるのか、と。
心に、問いかける。己の心に。
―目指すべき自分の姿がある……キミの語るそれは、かなり、確かだ。
それに対して、自分が劣り、欠けた、醜い者だと自覚している。
心にたしかな飢えを感じながらも、それに身を任せずに、逃げずに。―
先日の声が、脳裏に再生される。
今の己は、その通りに在っているか。
――――否。
「緋彩さん、」
このままではだめだ、
「あの怪人の件について、もっと詳しそうな方の心当たりは、ありませんか?」
このままでは――「奴」を「理解する」事無く、取りこぼしてしまう。
それは、己の理想から、遠ざかる行いではないか?
■桜 緋彩 >
「心当たり、ですか」
正直なところ、彼に対して自身が何かを知っているわけではない。
そもそも彼が本当に風紀に関係しているのかどうかもわからないし、関係していたとしてそれが誰なのかもわからない。
「そうですね、この人なら何か知っているんじゃないかと言う人は知っています」
ただ、それを知っていそうな人は知っている。
自分よりも遥かに知り合いが多く、人を見ている人。
「けれど流石にそれは教えられませんね。
この学園の生徒でも無ければ、風紀委員でもない緋月どのには、尚更」
だがそれを目の前の彼女には伝えられない。
そんなに職務に忠実な風紀委員ではないけれど、そこの線引きは間違えられない。
少し困ったような笑顔。
■緋月 > 「そうですか。それはやむを得ない事でしょう。
緋彩さんも風紀委員です、組織の規律はありますでしょうから。」
少なくとも、「心当たり」はある、という事だ。
そしてそれを教えられないなら、取る道は一つ。
「心当たりがあるか否か、それだけ教えて頂ければ充分です。
其処から先は、己の足で確かめます。」
強請るに非ず。己の手で勝ち取るべし。
決意の固まった目で、す、と部屋の窓から外の景色を一瞥する。
その宣言の意味する処は、つまり――――
■桜 緋彩 >
「申し訳ありません」
頭を下げる。
「――そう言えば。
懇親会で食べたアイスは美味しかったですか?」
頭を上げたかと思えば、唐突に話題を変える。
「あのアイス、持ってきてくれたのは伊都波凛霞さんですよ。
今度、お礼を言っておいてくださいね」
立ち上がり、台所へ向かう。
流石にお腹が空いた。
「いいですね?
凛霞さんにちゃんとお礼を言っておくように」
彼女の名前をもう一度告げ、念を押す。
不自然なほどに。