2024/10/25 のログ
神樹椎苗 >  
 神様は肩をすくめて首を振った。
 処置無しらしい。
 どうやら猥談じみた話が好きなのは、性格のようだ。

『To:
 なんでもねーです。
 ただ、しいはお前を信頼してます。
 ビジネスパートナーとしても、人間としても』

 そう、珍しく素直に文字に表す暴君であった。

 ――はてさて、少年が思った通り、これで終われば苦労はないのである。
 このまま汚れた包帯だけのほぼ裸で放置は、少年としても座りが悪い事だろう。

『To:
 包帯を包帯を外して、パッドをはがしてください。
 傷も膿も、酷いもんですから、しんどかったらやめていいですから』

 そんなふうに言うくらいには、少年を案じているらしい。
 とはいえ、甘えられるならとことん甘えるのだが。

『To:
 新しいパッドも包帯も、サイドテーブルの引き出しにあります。
 張り替えて、巻きなおしてくれるだけで十分です』

 本当は、傷口の膿を流すなり、ふき取るなりとあるのだが。
 そこまでやらせるのも忍びなく。
 椎苗にしては珍しく遠慮して、最低限のお願いに留まった。

 ただ、背中のパッドを外せば、無数の肉が見えるような裂傷に、切れ味の悪い刃物で切りつけたような歪な切り傷が幾つも現れるだろう。
 そして、身体の前は、子供だとしても色気なんて感じようもない。
 焼けただれた胸部、変色した皮膚――他にも無数の注射痕や、まるでスプーンで皮膚を抉ったかのような、肉がむき出しの傷。
 ありとあらゆる悪意によって傷つけられたような裸体が、少年の前に晒される事になるのだった。
 

蘇芳 那由他 > 神様が匙を投げるって、もう相当なのでは…と、神様の返答代わりの仕草を見て思う凡人。
猥談じみた話をこの雇い主は意外と好むのは一つ学んだけども。

「――あ、ありがとうございます…。」

何か意外と僕の事をこの人は高く評価してくれているのだなぁ、と。
嬉しい反面、そこまでの人間性ではないのだと遠慮がちに思う部分も。
…まぁ、何だ…失望されない程度には今後も頑張ろうとは思った次第で。
さて、これで終わり――な訳はない。既に半ばこの後の展開は凡人でも予測は出来ていた。

「了解です――まぁ、本当にこの手の処置はド素人なので何か指摘があれば遠慮なくお願いします。」

と、そう答えてから…僅かに一息。溜息ではなく、どちらかといえば『覚悟』の深呼吸。

「…けれど、膿を流したり傷口の洗浄とかは平気ですか?
…いや、僕は素人だからそもそも上手く出来ないと思いますが。」

と、彼女が遠慮している部分をズバリ指摘したりしつつ。
ともあれ、包帯とパッドをゴム手袋はきちんと付けたままで外して行こうと。
時々、彼女の方を見て様子を確認するも意外と早く一通り外す事には成功した――が。

「………!!」

流石に、彼女の”全身”の有様を見れば声を失う。恐怖心は無くても普通に驚いたり衝撃を感じたりはするのだ。

(――しっかりしろ蘇芳那由他…目を逸らしちゃ駄目だ。ちゃんと最後までやりきるんだ。)

自分を叱咤激励するように心の中で己を鼓舞する。どれだけの『悪意』の傷跡が目の前に広がっていても。
…目を逸らす事だけはしてはならない。凡人なりにその程度の覚悟は常に持ちたいから。

なので、いきなり立ち上がると壁へと向かって…ゴンッ!!と、頭突きを一発。
いきなりの奇行に神様も彼女も困惑するかもしれないが…今のは自分への戒めだ。
本当なら、拳で自分を殴ろうかと思ったが、ゴム手袋しているし処置中なので。

そして、痛みは堪えつつ、言われた通りにサイドテーブルの引き出しから新しい包帯やパッドを取り出して。

神樹椎苗 >  
 ――ぴろん

『To:
 そーいうところですよ』

 深くは言わない。
 ただ、嬉しいと思ってしまった事だけは隠して。
 ――ぴろん

『To:
 そこまでやると、風呂場まで連れてってもらわねーとですからね。
 一先ず最低限で構わねーですよ。
 どうせ、どれもこれも治らねーですし、悪化もしねー傷ですから』

 なんて少しだけ奇妙な事を伝えつつ――しかし。
 少年の奇行に、流石に椎苗も目は開けて、驚いた顔をしていた。

「――ばかですね」

 そんな、掠れた小さな声が、切なくも嬉しそうに零れた。
 ――ぴろん

『To:
 気にするな、も、むずかしーでしょうが。
 もうどれも六年ほど前の傷です。
 お前が心を痛める事じゃねーですよ。
 なんだかんだで、見ての通り、ぴんぴんしてますからね』

 なんて事を、支えてもらうのを待つようになんとか座っているだけの、疲れ切った状態でのたまう。
 処置自体は難しくない。
 大型のジェルパッドは、本当に小さな背中や胸腹部にしっかりと押し付ければいいし。
 包帯はその上からぐるぐる巻きにすればいいだけである。

 ――ぴろん

『To:
 お前の気持ちは、うれしーですよ』

 そんな文面が、処置中にこっそり送られていたりもしたが。
 

蘇芳 那由他 > (どういうところなんだろう…?)

内心で不思議そうに呟くが、多分聞いても流石に素直に答えてくれない気がしたので聞くのは止めた。
それより処置を最優先。確かに、風呂場とかに連れて行って…と、なると大変だ。
いや、でも体を軽く拭いて膿とか落とすくらい…でも、傷口にかなり沁みそうだし雑菌が入る可能性も…。

「…え?何か言いました?…ともあれ、じゃあ包帯とパッドを付けますね。」

どうやら聞こえていなかったらしく、額にたん瘤は出来て…いないが、ちょっと赤くなっていた。
ともあれ、包帯とジェルパッドを手にベッドサイドまで戻れば処置を再開。

「――ぐったりしてるのに説得力無いですよ椎苗さん。
ともあれ、気にするのは僕の勝手ですし、その傷を見たからといって、僕は貴女に感謝してますしお世話にもなってる事実は変わりませんし、見方も変わりませんしね。」

そこはブレないしブレたくない。ともあれジェルパッドをなるべく痛くないように、ただちゃんとズレたりしないように押し付けて。
そこから、素人手付きだがしっかりと丁寧に包帯を巻き付けて固定。
時々、汗が流れるが慣れていない作業に悪戦苦闘しているのと、何だかんだ我慢しているのだろう。
だが、目は逸らさずに最後まできっちりやり終えていく。

「…よし…これで形にはなってますかね…あと、着替えとかは…。」

寝巻着とかあれば着せるくらいまではきっちり手伝うつもりだけれど。
若干顔色が悪いのは、目を逸らさなかった結果であり――少年なりの意地の代償だ。
それでも、表情や言葉は「僕は全然平気です」とばかりに何時も通りを保ち。

神樹椎苗 >  
 一生懸命に処置を施してくれる少年に、どうしたら感謝の気持ちを抱かないでいられるのだろう。
 椎苗は汗をかきながらも、目をそらさずにいてくれる少年の心強さを感じずにはいられなかった。
 ――ぴろん

『To:
 だから、そーいうところだってんですよ』

 やはり具体的には言わない。
 少年自身に気づいてほしいと思ってしまうのは、少しばかり乙女チックなのだろうか。
 ――ぴろん

『To:
 上出来ですよ。
 着替えは良いです。
 というか、もうかなり限界ですし。
 ただ』

 椎苗は少年の身体に凭れかかり、甘えるように身を寄せた。

『To:
 目が覚めるまで、一緒にいやがれ、です。
 宿泊の許可は、申請済みです』

 そんな一方的な文面を送ると。
 椎苗は直ぐに、少年の腕の中で寝息を立て始めてしまうだろう。
 それだけ、疲労が濃かったのだろう。
 そして少年自身は気づいていないのかもしれないが。
 少年の近くがそれだけ、安心できる場所になっている。
 それは、間違いのない事実だった。
 

蘇芳 那由他 > 凡人は目の前の事にまずは全力集中。目は逸らさないと決めているので、尚更に。
――だから、肝心の自分自身の行動や言動が雇い主さんにどう影響を与えているか理解も出来て無い。

「…はい?そういう所と言われましても…。」

んん?と首を傾げつつも、きちんと素人なりに頑張って処置は終えました。
その辺り、乙女心とかも分からないのもあってかさっぱり分かっていないようだ。

「そうなんですか?流石に体を冷やしたりすると不味い気も……え?」

宿泊許可済み!?何か寮監さんが許可を取ってあるのに意味深に見てきたのはこれが原因…!?
滅茶苦茶気まずかったり戸惑いもあるが、雇い主がそう言うなら仕方ない。

「…分かりました、神様…すいませんが僕だけじゃ手が回らない事もあるのでフォローお願いします。」

と、神様にも会釈をしつつフォローを頼んでおく。これなら少しは安心できる。
ともあれ、既に寝息を立ててしまっている彼女の頭を軽く撫でる。勿論ゴム手袋は外してゴミ箱に捨てた後で。

(…今夜は眠れなくなりそうだなぁ。)

なんて思いつつ、彼女が眠るのを見守りつつ一夜を女子の部屋で過ごす事になるのだった。


――余談、翌日寝不足でややフラフラしていたのはここだけの話。

ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から蘇芳 那由他さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から神樹椎苗さんが去りました。