2026/03/02 のログ
神樹椎苗 >  
「いくらでもなまなましー話は事欠かねえですよ。
 ま、仕事ですからね、政治ですよ政治」

 へっ、と鼻で笑うと、顎で、ドレスの山を示した。

「ん?
 しぃですか?
 わりとヤってますよ」

 あっさりと。

「というか、接待でも好みのヤツがいれば、男でも女でも、しぃから誘いますし。
 学園でもまあ、寄ってくる奴らの半分くらいは食ってますから、結構楽しんでますよ。
 お前もフリーなら手を出してもいーんですけどね。
 流石に他人の女まで食おうとは思わねーですし」

 むちゃくちゃ言ってる、駄幼女だった。

「お、練習曲。
 面白そーじゃねーですか。
 なにやってんです?」

 もぞもぞ。
 動きだした飼い主に、白猫が『ぷぅ』と鳴き声を上げながら、ベッドの上へと飛び移った。
 

緋月 >  
「うわぁ…………。」

先程に輪をかけてとんでもない事情が、返事となって返ってきた。
色んな意味で自由奔放である。
あっさり言い切った辺りに逆に嘘の響きが感じられない。
見た目が幼女にしか見えない先輩の餌食になった人数は、果たしてどれ程になるのやら。

(ちょっと、怖くて聞けませんね…。)

思わずそんな思考が巡ってしまう。
顔に出すのは必死になって堪えたが。
それにしても、世の中は様々であると実感せざるを得ないお言葉であった。

(価値観は人それぞれ、と言いますからね。)

ほんのコミュニケーション的なノリで、そういった行為に及ぶ事も、現代では珍しくないのだろうか、などと
思いつつ、改めて姿勢を正し、阮を持ち直す。

「これ一つで充分な…独奏曲、というんですか?
それを自主的な目標にしながら、練習をしてまして。」

こほん、と小さく咳払いをして、弦へと手を添える。
最初に始まるのは、やけに通る弦を弾く音。
ゆっくりとした、その繰り返しから、独奏曲は幕を開ける――。

神樹椎苗 >  
「うわぁ、ってなんですか、うわぁって。
 これでも経験人数なら三桁あるんですが?
 ソンケーされてもいいと思うんですが?」

 とんでもねえことをあっさりというのだった。

「ほう、独奏曲ですか」

 言いながらのっそりと起き上がる。
 一応、代えたばかりの包帯類なので、消毒と薬の匂いしかしないが。
 ところどころには、赤い色や水気が滲んでいた。

「――へえ」

 そして曲を聞き始めれば、面白そうに、にやにやと後輩を眺める。
 やはり想像以上にセンスがある。
 ただ少し気になる事があるとすれば。

「――お前、完璧に弾こうとしてますね?」

 一通り演奏が終わってからの感想は、まず、その一言だった。
 

緋月 >  
曲の始まりは、震わせるような弦の響き。
そして、雨粒が落ちるような小さな音の連なり。
それらが重なり、旋律になる。

それがやがて、少しずつ激しさを増していき。

あるタイミングで、激しく全ての絃がかき鳴らされる。

そこからはまるで場面が切り替わったかのように。
剣と剣がぶつかり合うかのように。
時に静かに、時に激しく。
反する要素が入り混じり合う。

一拍の間を置き、再び静かな連なり。
決着の間の、膠着を思わせるような。

そして、最後の決着が着くような激しさで弦が弾かれ、旋律が紡がれる。
総ての弦が、それを弾く指に呼応するように烈しく、切れ味鋭い音色を響かせ。

最後に、あっけなくも必然のように訪れる決着のように。
独奏曲は、終幕を迎える。

「……ふぅ。」

他者に披露する緊張もあるが、やはりこの曲はひどく集中力を使う。
曲が終われば大きく息を吐き出し、額に軽く浮かんだ汗を拭う。

「……やっぱり、そう聞こえてしまいますか。」

先輩からの指摘には、少しばかりの苦笑の声。
見透かされているな、と、自分でも思ってしまう。

「楽譜頼みで弾いてるから…というのもあるかとは、思ってます。
後は――どうも、好きに弾こうとすると、地が出るというか、滅茶苦茶になってしまいそうで。」

先程まで激しく弦を震わせていた右の手で、軽く中阮のボディを撫ぜる。
独力で学んでいる関係で付いて回る、自分の変な癖を抑えようとしてしまう、軽い無意識である。

神樹椎苗 >  
「いい演奏でしたよ。
 センスもいいですし、なにより聞いてて不快じゃねーです」

 そうやって後輩を褒めつつも。
 少しだけ、どう言葉にしようか考えるように一拍置いて。

「まず一つですが。
 音楽に正解はねーです。
 それこそ、楽譜通りに演奏するのが点数になるコンクールなら別ですが」

 と、前置きしながら。

「音楽は、音を楽しむ趣味です。
 あの紅いやつはともかく――いえ、あの紅いやつも好き勝手やってるみてーですが。
 仕事じゃねーんですから、自分が気持ちよくなるように弾きゃあいいんですよ。
 それが新しい音色を作って、面白くなる、ことも、ありますからね」

 とはいえ、当然基礎が出来てからの話ではある。
 例えば、料理を始めたばかりのヒトが、アレンジをして失敗する、というのと通じるか。

「今はまだ譜面通りに弾く、でいいと思いますが。
 譜面を見ないでも弾けるようになったら、自分の気持ちのいい音を優先して演奏するのもまた一興ですよ。
 しぃなんかは、もう原曲とかしったこっちゃねーって気持ちで弾いてますしね」

 そう言いながらバイオリンの方をちらと見る。
 元は接待の関係でいやいや演奏した楽器だったが、今では辛うじて趣味と言えるものになっていた。
 でなければ、わざわざ気に入った物を買ったりまではしなかっただろう。
 仕事先が用意した物を使っていればよかったのだから。
 

緋月 >  
「音楽に、正解はない…。」

その言葉と、続く言葉――音を楽しむ趣味、という言葉聞いて、ふ、と。
不意に脳裏に思い出されたのは、初めて楽器に触れた、楽器店での出来事。

店員に誘われるまま、阮を手に取り、拙い指運びで途切れ途切れの簡単な曲を紡いだ時の事。
今振り返れば、腕前そのものは散々といって良かったが…あそこには、確かに「楽しさ」があった。
不格好ながらも、自分の手で「音」を「曲」という形に仕上げる、楽しさ。

天井を仰ぎ、ひとつ大きく息をついて。
寝転んだままの少女に向けた顔は、何処か吹っ切れたような微笑。

「椎苗さんの言う通りです、ね。
一番最初に、楽器に触った時の楽しさを…知らない内に、忘れてしまう所でした。」

自分もまだまだ、型に嵌りやすいな、と、小さく頬を掻く。

「気持ちのいい音を優先して、ですか。
戒めなんて堅苦しいものではないですが、忘れないように気を付けておきます。」

ぽろん、と、軽く弦を弾く。
特に意味もなく、戯れに、自分の「気持ちいい」と思う音を弾いてみた、という響き。

神樹椎苗 >  
「ぷすっ」

 小さな笑い声が漏れる。
 本当に生真面目な後輩だ、と思うのだ。

「堅苦しいやつですねえ。
 好き勝手やりゃあいいんですよ、趣味と遊びの内は。
 ま、しぃみたいに仕事になっても好きかってやるヤツも、そこそこいますが」

 どこぞの紅い女性なんかもそうだろう。

「――んふ、いいじゃねえですが。
 今の音は、楽しそうに弾んでましたよ」

 そう、戯れの音を、一番面白そうにほめるのでした。
 

緋月 >  
「あはは…いや、本当に最初の動機は…まあ、あのひとが楽器を演奏してる姿を見たのも
理由のひとつではありますけど、楽器に触って音を出すのが楽しかったから、なんですよ。」

ぽつぽつ、と、きっかけの出来事を明かす。
異邦人街で偶然見かけた、異国情緒に溢れる楽器店。
其処での試し弾きと、内なる友人がやたらと強く推して来た楽器の話。

「――それで、これを買ったんです。
楽器って高いんだなって、文字通り自分の身で痛感しました。」

と、言ってはいるが、声の方は楽しそう。
買った事を後悔など、まるでしていない調子である。

「どうも、肩に力が入ってしまうのがよくないんでしょうか。
肩肘張らず、気の赴くままに…まで、どれだけかかるやら。」

ぽろん、と、柔らかく、しかし今度は少し噛み締めるように、一つずつ弦を震わせる。
自分の楽しい音を模索するような、そんな調子。

神樹椎苗 >  
「単純に真面目なんですよ、お前は。
 ま、そう言うお前にこそ、楽器は丁度いいかもしれませんね」

 色んな曲や色んな音を聞いて、その自由さや音に込められる想いを感じ取る。
 それは真面目過ぎる後輩には、きっといい刺激となるだろうと。

「まあよかったですよ。
 馬鹿の一つ覚え見たいに、剣ばっかり振ってるわけじゃないみてーで。
 いくらか弾けるようになったら、コンサートでも開いてやりましょうか」

 広い舞台にぽん、と放り込まれて、ぷるぷる震えている後輩を想像して、くすくす笑う意地悪な小娘。

「ん、ん~~――はぁ」

 そしてようやく、ゆっくりと体を伸ばして、一息。

「さて。
 せっかくですしお茶にでもしますか。
 島の外にも行ってきたんでしょう。
 ケーキでもつつきながら、土産話の一つくらい、聞かせてもらいましょうか」

 なんて。
 ちゃぶ台の上に頬杖をついて。
 なお、自分で動くつもりはないらしく。
 愉快そうな表情は、はやく準備をしてこい、とばかりに楽し気だった。
 

緋月 >  
「こ、コンサートは、まだまだ早い気がしますけど…!」

ちょっと思いを巡らせて、びし、と軽く固まってしまった。
ステージに立って、観客の前で楽器を演奏してみせる。
何と言うか、今の自分の実力ではおこがましいにも程がある光景だ。
早速先輩の策略に嵌ってしまっている。

「あ、はい。現地と、行き帰りで色々とありました。
まあ、最初は…飛行機というものが、あそこまで落ち着かないものだとは思わなかった、ですけど。」

真っ先に思い出したのは、海と国を超える為に乗った、未知の乗り物の落ち着かなさ。
演奏を終えた、狼の顔を掘り込まれた愛器の弦をそっと緩め、丁寧にケースにしまいこんであげる。

そこから先は、頬杖ついてオーダーを飛ばすお嬢様に、ぱたぱたと駆け回って用意をしたり
お話を聞かせたりと、忙しくも楽しいお茶会に興じる事になるのであった――。

ご案内:「常世寮/女子寮 椎苗の部屋 部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 椎苗の部屋 部屋」から緋月さんが去りました。