2024/06/20 のログ
焔城鳴火 >  
「肉じゃがね、後で一緒に買い物にでも行くか。
 近くに安くて品ぞろえが良い店あるのよ」

 居住区のとあるドラッグストアである。
 良心的価格に、豊富な品揃え、なおかつ広々とした店内。
 経営している店長夫妻もまた、人柄がよく、この島に来たばかりの頃からよくしてもらっているのだ。
 まあ、常連となってからよく遭遇する、傷だらけの子供が気になる所ではあるが。
 ――閑話休題。

「そうね、ぶっちゃけなさすぎる。
 なんなら今日泊って行きなさいよ、補習授業してやるから。
 それと、私の講義か、シャルトリーズのおチビ先生の講義取りなさい。
 あのおチビ先生、ちんちくりんだけど、尊敬できる教師だから」

 そんな話をちょっとだけ真面目なトーンでして、少しばかり危機感を与えるような言い回しを。
 そして本題へ――

 ――少女(生徒)の話を、鳴火は静かに、真剣に聞く。
 アルコールを傾けながら、ではあったが、その目はどこか視点が定まらないかのように濁っていた。

「――お前は、本当に恵まれて育ったのね」

 全部、黙って聞いた後に。
 鳴火から出たのはその一言だった。

「黒羽瑠音――誇りなさい。
 あんたの『心根』を育ててくれた家族を、友人を、世界を。
 それは――焔城鳴火(『鳳凰』)がなによりも誇りたかった、輝くもの(原初の火)よ」

 ぼんやりと、どこか遠くへと向けた視線には何も映っていない。
 ただ、淡い緋色が――燃え尽きた緋色が、濁った色で世界を見ているだけ。

「私は――きっと、『怪人』(向こう側)に近いんでしょうね。
 辛うじて、こっち側に留まっていられているだけで」

 いつの間にか、缶は空っぽになっていた。
 イラついたように、それを窓際の空き瓶に投げつける。
 カツン、と音が響いた。

「――あんたはいい女になるわよ。
 この、くそしみったれたセンセイが保証してやるわ」

 そう言いながら笑ったけれど、それは、明らかに自分を嘲るような歪んだ笑みだった。
 

黒羽 瑠音 >   
「あ、いいですね、そういうお店、今ピックアップしてるんです、今後役に立つでしょうし」
「ルームメイトの友達にもお料理作ってあげたりしてみたいなって、きっと楽しいでしょうし」

ふふ、と笑って、目を瞬かせる、初めて入ったスーパーの品ぞろえを見た時のワクワク感
あれは中々のものだよね、まぁ一番気になるのはお菓子コーナーだけど……

「あ、あはは…お、お手柔らかに」
「シャルトリーズ先生、ですか?覚えておきます」

やはり断れなかった、こういう時の私の防御力はほぼ0である、押しに弱すぎない私?
焔城先生の言葉を聞いて、こくこくと頷いて頭のメモ帳につける

「……」

私が思った以上に、いや、そうきっと心のどこかでそう期待していた以上に真剣に話を聞いてくれた、そう感じた

「ふぅ…… はい、勿論、私が此処に来た理由も、きっとそれに恥じないようにですから」

そういって、すっと手を伸ばして、先生の手に自身の片手を重ねて、きゅっと握ろうとする
私、ちょっとだけ体温高め何だよね、この時期だと熱くないかな、なんてどうでもいい事を思った
先生の語る言葉は所々知らない熱と意味が込められていて、それが先生の事情何だろうと理解できる
私はそれを知らない、今後も、知らない可能性が高いだろう
なら、出来ることは何か?決まってるよね、父さん

「なら、先生もちょっとだけ誇ってください」
私が話すに足ると感じたのは、焔城先生だからなんですから」
「そして、今後もっと誇れる生徒になるよう、頑張りますね!」

びしっ、とサムズアップをする
今目の前にいる先生に対する心を、素直に伝える事が、私に出来る事なのだ

焔城鳴火 >  
「――っ」

 手に触れた温度に驚いた。
 咄嗟に、振り払ってしまいそうになる。
 けれどその温かさは。

「――ばーか。
 十年早い、生娘が」

 Spes desperatio aeternum est.(その日を摘もうとした雛鳥を思い出させた)

「まだ羽も生え揃ってないピヨちゃんが、生意気なこと言ってんじゃないの。
 あんたに心配されるほど、まだ、踏み外しちゃいないわよ」

 そう言いながら、どこか力なく笑う。
 自分の足元を見れば、そこはいつも――灰に埋もれている。

「まあ――私が見た夢は、あんたよりもクソ生意気な弟子に託したし。
 教師として、お前に期待するのも悪くはない、か。
 ハッ――笑える」

 そう言って、少女の額に左手を伸ばして――ぴん、と額を撥ねた。

「『瑠音』、あんたには、良い才能があるわよ。
 『普通』って言う、最高の才能がね」

 それからそっと、少女に重ねられた手を返して、優しく包むように握った。
 その手は、意外と硬く、ゴツゴツとしていた事だろう。
 女性らしい手ではなく、格闘家の手だ。
 

黒羽 瑠音 >   
「むっ、まぁ確かに10年後は私もきっとナイスバディに……うん、多分、母さんくらいには…」

脳内の母さんの体形を思い出す、勝てるかな……嫌勝ってみせる、うぉおおお!!

「もー、心配なんかじゃないですー、私が思ったことをいっただけですー!」
「ていうかお弟子さんなんていたんですね、先生のお弟子さんかぁ、中々―― いたっ!」

焔城先生の事は尊敬できると思うけれど、弟子ってなると大変そうだなぁ、と思った瞬間にデコピンを受ける
軽く額をさすりながら浴びせられる言葉に、思わずきょとん、として

「……それって才能ですか?うーん、……おぉ、凄い、先生の手って何だか強そうですね」

そういえば格闘技の話とかしたなぁ、と思い出す
私の手は最近料理の練習中にちょっと指を切った以外はすべすべで、ちょっと子供っぽいかもしれない

「まぁ、先生がそう言うならそう思っておきます……って、そうだ、先生先生!」

「普通っていうなら、ちょっと思い出したことがあるんですけど~~」
「私、魔術は一応使えるみたいです、何かが得意って感じじゃないですけど……浅く広く?」

此処まで話して、もう一つの報告を思い出してにへらと笑う

「私の異能の研究の一環で素質がある属性?って奴を調べてみたんですけど」
「調べた限りの属性では、才能0のものは無かったそうです、逆に素質が高い!って言えるようなのもなかったんですけど…」

研究員さんと一緒に調べた結果を伝えながら、握られたごつごつとした手の中で少し指を動かして、むにむにとしてみたり

焔城鳴火 >  
「居るわよ、弟子。
 本物の天才、当時最年少の女子プロ総合格闘家。
 もう十年は前の話だけどね」

 当時を思い出す。
 あの時、道を踏み外しそうになっていた鳴火を止めたのも、一人の少女だった。

「――『普通』であることは才能よ、間違いなくね。
 強そうじゃなくて強いの、リングの上でならだけど。
 これでもテレビで取材受けた事だってあんのよ?」

 医者になる前は、女子格闘技界ではそれなりに有名だったのだ。
 今となっては、男女混合ですら活躍している弟子の方が有名だが。

「あー、はいはい、なになに」

 聞いて聞いて、とばかりに懐いてくる雛鳥に苦笑しながら、話を聞いて。
 む、と少しだけ眉をしかめた。

「――あんたそれ」

 どうしたものか、と一瞬悩む。
 その結果は間違いなく『天才』(異常)の数値だ。
 ただ、それに本人が気づいていない――それは、非常に危険な『才能』だ。

「――瑠音、あんた、魔術の師匠とか決まってるの?
 あとは、そうね、弟子入りしたいとか、特定の系統に進みたいとか、そういう指針のようなものとか」

 少しだけ、少女と戯れていた手に力が籠った。
 それは――ほんの少しの恐れだったかもしれない。
 

黒羽 瑠音 >   
「へ~~って事は、今は現役バリバリのトッププロ、って感じですか?名前聞いたら知ってるかも……」

ほぇ~と思わず声が漏れる

「あはは、じゃあ何時か、先生の試合の動画とか見せてくださいよ、ちょっと興味あります」

脳内で先生の戦う姿を想像するけれど、びっくりするほど良く似合っていた、うーん、強い

「うーん、研究員さんは慎重に選んだ方がいい、って言ってましたね」
「後、あくまで『使う素質』があるだけだから、低い素質だと道具を使えば最低限使えるかも、くらいのものだって」
「だから勉強するにしてもある程度絞った方がいいとは思ってますね、ある程度素質の高いものとか……」

「ちらっと見た限りだと金、とか、闇とか…がちょっとだけ数値としては高い感じでした」

眉をしかめる先生に対して、まぁ、そうだよねえ、と思う
異能だけじゃなくて、魔術の素質もこんな何とも言えない感じ何だもの

「私の魔術の素質が、異能に関わっているかどうかを調べるためのものだったんですけど」
「之だと逆に何も絞り込めなくて、関係があるかどうかは現状判断できないみたいです」

うーん、とちょっと私も真似をして眉をしかめてみる、手に少し力が籠って
何となく、私もきゅっと強めに握り返した

焔城鳴火 >  
「福園ミシェル、今は――あいつももうすぐ二十歳か」

 ――メイカ、わたしは絶対に折れないから
 ――燃え尽きても、何度でも、燃え上がって見せる

 今も頻繁に連絡を取ってくる愛弟子が鳴火に魅せた『爆熱』(かがやき)は、今も鮮烈に記憶に残っている。

「あー、私の試合ねえ。
 多分Ttubeとかに転がってると思うけど。
 リングネームとかも特になかったし」

 本名そのままでリングに上がっていたため、医者になった時は随分と業界から声が掛かったものだ。
 恐らく、検索すれば素人でもCMや何かで聞いたことのあるような興行に参加していた動画などが見つかるだろう。

「慎重に選んだ方がいい、ってのには私も同意見ね。
 ――瑠音、よく聞きなさい」

 少女の手をしっかり握って、真剣に、淡い緋色が少女を見つめる。

「あんたは一つ、大きな誤解をしてる。
 あんたのソレは、『才能が無いものがない』んじゃない。
 ――『あらゆる才能がある』のよ」

 それは、0と1の違いではなく――

「お前は、望めばどんな魔術の才能も伸ばす事が出来る。
 それはゼロではないけど――間違いなく稀有な、黒羽瑠音の『才能』よ」

 それは、0と∞の違いなのだ。

「だからこそ、よく考えなさい。
 間違っても、独学で何とかしようとしないで。
 その才能は――」

 ――あまりにも危険すぎる。

「――腐らせるには惜しいわ」

 そう言ってから、少し逡巡するような表情を見せた後。

「瑠音、あんたにその気があるなら、魔術を、それも少し特別で、誰かの役に立てる魔術を教えてくれるヤツを紹介してやれる。
 教えてもらわないにしても、魔術と向き合うためのイロハくらいは面倒見てくれる、そんなやつよ。
 会ってみる気はある?」

 そう、どこか剣呑そうにたずねた。
 

黒羽 瑠音 >   
「ふむむ… っていうかまだ10代何ですねその人も!?」

わっかいなぁ~~どんな人なんだろう

「へぇ、じゃあ調べてみようかな、簡単に見つかるかもしれないですし」

こくこくと頷いて自分の中のToDoリストに並べる

「…… 才能……ふぅ、む」
「そういうものなんですね、正直、余り実感はないですけど」
「いろんなものを試せる、っていうのはちょっと嬉しくはなりましたけどね」

さっきと似ている、真剣な瞳の先生を見つめ返して、うぅん、と小さく唸る
言っている事は分かる気がする、魔術も才能と、そして努力が大事なんだろう
最低限の素質があるならどう生まれるか選べるに等しい、それだけでも恵まれているのは何となく分かる

「先生の紹介してくれる魔術の使い手……ですか」

ほぉぅ、と声を漏らし、私は目を瞬かせる、興味はある、あるけれど……

「じゃあ、取りあえず連絡先だけ教えてもらっていいですか?」
「多分、私は先生がそういうならそのまま聞いちゃうと思いますし、実際今もそんな気分何ですけど」
「……だからこそ、選ぶ時間は多めに取ろうかなって」

「ほら、結構私勢いで決めがちですし?先生が其処まで言ってくれるなら簡単に決めるのは……」
「それこそ勿体ないなって、あ、勿論独学でどうこう何て怖い事はしませんよ?研究員さんにも怒られそうですし」

手をぶんぶん、と振りながら、ぐーぱーと握る
この流れで先生の紹介してくれた人に直ぐあったら、私、二つ返事でその人についていきそうで
それはそれで、多分良い選択なんだろうけれど……もっと、いろんな選択も考えてみたいのだ

焔城鳴火 >  
「そうね、はじめて会った時は、七歳だったかしら」

 その時は鳴火もまた、十代の小娘でしかなかったわけだが。

「――ま、才能なんて実感ないのが普通じゃないの?
 そいつにとっては、それが『当たり前』の事なんだから。
 少なくとも、私の周りの天才共はそういう奴らだったわ」

 どうして『できない』のかがわからない。
 そういう人間に囲まれて生きてきた鳴火には、馴染みのある感覚だった。

「ん――、よろしい。
 ちょっと私も、驚いて急ぎ過ぎたわね」

 ――正しくは、焦りから、だったが。

「まあ、あくまで、あんたの進む方向の参考程度にって話よ。
 あいつはアイツで、問題がない訳じゃないし」

 そう言いながらモニターの下にあるテレビラックから、アナログなメモ用紙を取り出して。
 『風花優希』と名前を書き、その下に学年と連絡先を書いた。

「私に紹介されたって言えば、話は通じると思うわ。
 後はコイツと――あんたがたっぷり悩んで決めればいい。
 コイツも急かすような奴じゃないから、とりあえず、魔術を学ぶ心構えを聞くくらいでもいいかもね」

 そう言いながら、メモ帳を差し出して。

「――さ、て。
 随分と長話しちゃったわね。
 ちょっと、飲み物取ってくるわ」

 そう言って、鳴火は立ち上がると冷蔵庫に向かう。
 少女から自分の顔を見られなくなって――

 ――鳴火の顔は、激情を押し殺すように歪んでいた。
 

黒羽 瑠音 >   
「七歳かぁ……私何してたっけ」

年齢2分の1の頃の私、うーん大したことしてなかった気がする

「そういうもの何ですかね?私の場合今まで使ったこともないですし当たり前、って認識もないんですけど」
「私の周りの天才……あ、本を開いて特定の頁を開くのがすっごい得意な子とかいたなぁ」
「後、自分は魔術の天才、って言ってた人とこっちで出会いましたし……」

何回やっても誤差数ページである、別名しおり要らず

「あはは、私もちょっと吃驚しちゃったかも」
「ふむふむ、風花優希さん、かぁ、了解です」

ごそそ、とメモを仕舞いながら名前を確認する、先生もだけど、何だか綺麗な名前だなぁ、と思った

「そうですね、他にも魔術について知ってる知り合い、実は何人かいて……」
「その人にも会えたら聞いてみようって思ってます、後は、やっぱり私がどんな魔術を使いたいか……」
「イメージって奴があったほうがいいでしょうし、色々調べてみようかなって」

とはいえ、才能があるにしろなんにしろ、一歩目を踏み出せないという事はなさそうなのが幸いだった
お茶を取りに行く先生の背中を見送りながら、もきゅ、と少し冷えてきたおつまみを口に放り込むのだ

焔城鳴火 >  
 冷蔵庫から、一升瓶を取り出して、一気に呷った。
 半分ほど一気飲みしたが――酔えるわけがない。

「そうねえ、イメージはあった方がいいか。
 ちょっと一つだけ見せてやってもいいかもね」

 自称魔術の天才、鳴火の記憶にも居たが、まさか同一人物ではないだろう。
 などと思いつつ、一升瓶、日本酒『微少年』日本酒度+20を持って来ながら。
 クローゼットを開けて、中の小物入れから、小さな獣の爪を取り出す。

「――ほらこれ、確かこの前、見たわよね?」

 そう言いながら、テーブルの上に投げ転がす。
 魔道具と言っていたわりに、あまりにも雑な扱いだった。
 

黒羽 瑠音 >   
「おぉおう」

豪快にお酒を一気に煽る先生を見て思わず声が漏れる、って今日こんなのばっかだな私っ

「飲みすぎには注意……なーんて、今更かもしれませんけど、美味しいんですか?それ」
「え、いいんですか?興味ありますっ」

お酒の味というものに興味が無いわけではないけれど、見せてあげる、という言葉に思わず声が昂る
そういって出てきたのは予想通り、以前に見たあの魔道具というやつだった

「確か、お友達が作ってくださってるんでしたっけ?」

前の会話を思い出しつつ、あらためてしげしげと投げ転がされたそれを見つめる
改めてみても、ちょっと風変わりなお守り、って感じだ

焔城鳴火 >  
「んー?
 酒はまあ――人によるんじゃない」

 十代の頃から飲み始めてこの方、美味いと感じた事は一度もない。
 そして、酔えたことも、一度すら。

「別にいいわよ。
 また作らせればいいだけだし」

 そもそも、この爪――『凶風』(まがつかぜ)は、普通に使うにはあまりにも危険で、扱いに困って余らせてるくらいなのだ。

「そ、腐れ縁の『天才』どもがね。
 その中でも、魔術が得意な二人が作ってくれんのよ」

 よ、っという掛け声と共に座り直すと。
 獣の爪を手の平に載せた。

「――渇望し、祝福せよ『凶風』(まがつかぜ)

 そう鳴火が唱えると、鳴火の手のひらの上に、目に見えるように風が渦巻き、小さな竜巻を作った。

「いーい、絶対に触るんじゃないわよ」

 そう言いながら、鳴火は先ほど投げ捨てた空き缶を、その竜巻に真上から落とした。

 ――空き缶は、まるでミキサーに入れたかのように粉微塵に粉砕された。

「――とまあ、こんな感じ。
 これで最低出力なもんだから、使いどころが無くて困んのよね」

 そのまま竜巻を握りつぶすように、手を握る。
 再び開いた手の平には、完全に塵となったアルミが積もっていた。

「戦闘用の魔術、なんてのはこんなもんよ。
 簡単に――ヒト殺しになれる。
 だから、半端に学んだらダメなのよ」

 手に握った塵を、ビニール袋に入れてきっちりと口を縛って、ゴミ袋行きにする。
 床に転がっていたウェットティッシュで手を綺麗に拭って、それもまたゴミ袋へ放り込まれた。
 

黒羽 瑠音 >   
「まぁ、それは成人してのお楽しみにしておきます、えへへ」

父さんの晩酌にコーラで付き合ったくらいしか私のお酒経験はないのであった

「素敵なお友達ですね、それで…… ほぉおぉ…」

先生の手のひらに出来る竜巻に感嘆?の声を上げる私
空から落とされる空き缶が潰れる有様

「すっご……」
「空き缶がこんなに……捨てる時に足で潰すのとは比べ物にならないですね」

思わず声が漏れて変な例えをしてしまう、というかアルミの塵なんて初めて見たなぁ、こんなになるんだ

「……」

何となく、先生の言葉回しの方向性が分かった気がした
私に対して心配してくれる……というより、もっと単純に
私がそうして傷つく或いは傷つける事を恐れているような……そんな気がした

「それは私に限らず、ですよね?」
「魔術に限らず、何だって付け焼刃は良くない事ですから、気を付けます」
「戦闘用……もいいけど、正直使う機会がないっていうか無い方がいいでしょうし」
「もし覚えられるなら浮いたり光をだしたりとか、便利そうなやつは使ってみたいですけどね~」

口元に指をあてて笑いかける
自衛以上の、誰かを不必要に傷つけるような力は元々望んでないけれど

「それに何でも使えるかもしれない、っていっても、体も時間も一つしかないっていうか」
「魔術以外にもしたい事は沢山ありますしね~3年生までにどれだけできるか……」
「そーいう意味では今から悩ましいかも?」

こてり、と首を傾げつつ、改めてしげしげと魔道具を見るのである

焔城鳴火 >  
「――護身用にこんなもんを渡してくるヤツらが、素敵な友達かは疑問だけど」

 ゴミを片付けている間の沈黙で、少女が鳴火の言葉の意味を理解したように感じた。
 そして少女の言葉に――

「ハ――」

 おかしそうに息を漏らして、口元を歪めた。

「そうね、そんな、手品に使えるくらいので丁度いいんでしょうね。
 それくらいの方が、ああ、よほど気楽で、楽しいわ、きっと」

 そしてまた、半分ほど残っている日本酒をラッパ飲みして。

「――はあ~。
 安心しなさい、別に四年で卒業しなくちゃいけないわけじゃないし、卒業しないからって叩きだされるわけじゃない。
 あんたが満足いくまで学んで、悩んで、楽しんで、まあ、運がよけりゃ恋でもして――ゆっくり大人になればいい」

 そう言った時の鳴火の表情は、もしかしたらこの日一番、嬉しそうだったかもしれない。
 そして、テーブルに転がった魔道具ではなく、枕元にあった一枚の亀の甲羅を少女に差し出した。

「これ、あんたにやるわ。
 よっぽど変な使い方しなくちゃ、誰かを傷つける事は絶対にないから。
 あくまでも護身用の、非常用ね」

 それは『戮仙』(りくせん)という物騒な名前の魔道具だったが。
 鳴火が最も信頼していて――優しい力だと知っている魔道具だった。
 

黒羽 瑠音 >   
「あはは、迂闊に使うとかじょー防衛になっちゃいますねえこれだと」
「でもほら、先生ならうまく使ってくれると思ってるみたいな、信頼の証の可能性も……あるかも?」

確かに私が之をあの時使ってたら酷い事になってただろうなぁ、と色々思い出したりしつつ
笑う先生に、思わずこてりと首を傾げた

「手品、好きですよ、マジックショーって皆驚いて、わらって、楽しそうにしてますもん」
「ふふ、差し当たって年末のかくし芸くらいの事は出来るようになりたいかも、何て思ってたりはしますね?」

「あ、そうでした… いや、こっちの学年制度って奴、未だになれなくて……普通に私よりずっと年上の生徒の人とかもいますし」
「そのうち慣れるんでしょうけど、ん、ふふ、勿論、全部やりたいし、やってみせます」
「それまでご指導ご鞭撻、お願いしますね、先生?」

そういって笑いかけるのと、亀の甲羅を貰うのはほぼ同時だった

「……甲羅、ん、すべすべしてる……いいんですか?私、大事にしちゃいますよ?」

何ていいながらも、私はもう貰う気まんまんである、最近、貰ってばっかりな気がするけれど
何時かお返しできたらなぁ、なんて、先生の何処か優しくなった気がする瞳を見て思うのだ

焔城鳴火 >  
「隠し芸くらいの事が出来るようになったら、そうねえ。
 歓楽街にあるって言う、高級寿司屋で、好きなだけ食べさせてあげるわよ」

 なんて笑いながら言っている様子は、やっと、楽しそうにしているように見えるだろう。

「指導も鞭撻も、当然するつもりよ、仕事だし。
 さしあたっては――ま、今夜は泊まり込みってことで」

 人相悪く、口元を歪めて笑うとどことなく凶悪に見えるのだが。
 それが楽しそうな笑みであるのは、間違いないのである。
 そうは見えないのだが、見えないのだが!

「ばーか、ただのお守りじゃないんだから、大事にし過ぎるんじゃないわよ。
 そいつは、『戮仙』(りくせん)っていう、私の知る限り、誰よりも優しくて、いつも誰かを慈しんでいた女の異能を再現した道具なの」

 そう話す鳴火の表情は、どこか力みが抜けて、とても穏やかに見えるだろうか。

「使う時は、ソレを手に持って、『四象方陣』(ししょうほうじん)と唱えてから、『戮仙』(りくせん)って呼びなさい。
 そうすればあんたと、あんたが守りたいと思ったものを、一度だけ『絶対に』守ってくれる」

 その『絶対』には程度こそあるが――少女の能力に関係なく、必ず一定の効力を発揮するだろう。
 それは、身を護るドーム状の障壁を作り、障壁の中のモノを癒す魔道具。
 誰よりも優しく、愛が深かった、『彼女』の異能そのもの。
 それは鳴火が心から信頼し、愛した――親友の力だった。
 

黒羽 瑠音 >   
「あ、その言葉忘れないでくださいね?回らないお寿司屋とかあこがれちゃうな~~」

そんな先生を見て、ちょっとだけほっとする……って、私がほっとするのもどうなんだろうか、これ
まぁいっか、楽しそうな先生を見ていると、私も嬉しいもんね

「あ、そうだ、肉じゃがですもんね、私も手伝えるところは手伝いますよ!」

腕まくりをする私である、そういえば他にも教えてもらう事が今日あった気がするけど……
ま、その時になったら思い出すか(ピコーン)

「ししょうほうじん…… 」

使い方を教わりながら、にぎにぎと改めて甲羅のような魔道具を見る
そうすると、なんとなーく厳かな気持ちになって、きゅっと握りながら

「よろしくね」

何て小さくお祈りするように呟いた

「なら、使う事がないように祈っておきたいですね、そんな状況にならないのが一番でしょうし」
「勿論―― その時がもし来たら、躊躇わないようにはしますけど」

「じゃ、お買い物行きましょうよ先生!荷物持ちはお任せくださいっ」

ぴしっ、と額に手を当てて今日一番の笑みを浮かべる
この穏やかな空気の中でのお買い物とお料理は、きっと楽しいものになるだろうから

焔城鳴火 >  
「別に回転ずしと大差ないけど。
 あんまり期待しすぎて、がっかりしてもしらないわよ」

 寿司職人に怒られそうなことを言う味音痴。
 ――いや、味覚の中の痛覚が死んでるだけであって、辛さ以外はかなり繊細に使い分けられるのだが!

「く、くくっ――そうそう、肉じゃがね。
 せっかくだから、料理の基本くらいは教えてやるわ」

 すっかり補習授業(いみしん)の事を忘れている様子に、また可笑しそうに笑い声が零れる。
 少女と居るとなぜか、燃え尽きたものにまた、熱が宿るような心地がした。

「本来は私しか使えないもんだけど、今、限定解除(リリース)したから、困った時は迷わず使いなさい。
 そう、まずは扱う事に躊躇わない事。
 『恐れ』と『畏れ』は違うんだからね」

 その言葉の、微妙なニュアンスに少女は気づけるだろうか。
 しかしきっと、気づけずとも伝わるだろうと、どこか鳴火は確信していた。
 なにせ――

「ん、あー、そうね。
 一応クルマは出せないから、歩きよ。
 それでも10分くらいだし、構わないわね?」

 そう言って、再び鳴火は立ちあがり――同時に残った日本酒を全て飲み切って、テーブルに勢いよく一升瓶を置いた。

「それじゃ、行きましょうか」

 そう言って、鳴火は慕ってくれる生徒を連れて、夕飯とついでに夜食と、翌日の分の食料と、追加のお酒を買いに行った。

 ――なお。

 お泊りの補習授業(個人レッスン)は、性知識に乏しい子からすると、少々どころでなく、過激な内容になった事だろう。
 なにせ、歯に衣着せないどころか、実践、体験、上等な教師なのである。
 どんな一晩になったか――どれだけ騒いでも、このアパート、防音耐震性能だけはやたらと高いのだった――。
 

黒羽 瑠音 >   
「私は期待で胸も味も膨らませられるタイプなのでっ」

ふふん、と自慢にならない事で胸を張る

「かしこみかしこみ~ってやつは私も大事にしてますよっ」

この前の神社での出会いを思い出して、ふにゃ、と笑みが浮かんできた
後で先生にも、あの時のお話をしてあげよう、なんて思って

「いや、流石にお酒飲んで運転しそうになったら私も止めますって」
「よーし、レッツゴー、ですね!」

大きく拳を振り上げて、先生との買い物に出るのであった
勿論、その道中も、料理も楽しいものだったんだけど……

……その後の『お勉強』については、正直暫く思い出したくない気がする
先生に対するイメージが、二転三転、四転する一日だったのは間違いない
尊敬、尊敬できる、できるんだけどなぁ……!!

ご案内:「職員寮 第四アパート」から黒羽 瑠音さんが去りました。
ご案内:「職員寮 第四アパート」から焔城鳴火さんが去りました。