2024/06/30 のログ
武知 一実 >  
「売って来るから買ってるだけで、売られなかったら喧嘩しないっすよ。
 風紀にも毎回そう言ってんだけどなあ……」

残念ながら毎回ほとんど理解は得られない。
いい加減お互いに耳にタコが出来るんじゃないかって気もするが、生憎向こうは毎回同じ生徒がお説教するわけじゃないからな。

「へぇ……スンマセン、入学したばかりなんで昔学校に居た人とかあんま知らないっす。
 ま、勉強も居残りやら追試やらを受けない様にはしてくつもりすよ。
 数学は……まあ、まだ分かる範囲なんで大丈夫っすけど……分かんなくなったら龍宮先生に聞きに行けば良いんすか?」

先生がブラシで洗うのを見ながら、その辺りはそう洗うのかと理解していく。
部位に応じて道具も変える必要があるのは何となく解ってたけど、実際見ると感心してしまう。

「電装系は避けて……カウルとタンクとシート、っと。りょっす」

確かその3つはそれぞれこの辺り、と目星をつけて洗っていく。
さすがに先生を真似てウンコ座りしてたら届かねえんで立つけど。

龍宮 鋼 >  
「売ろうが買おうが、どっちにしろオマエの意志でケンカしてんだろ?
 自分のケンカを人のせいにするようなだっせェ真似してんじゃねェよ」

売られたケンカも自分から売ったケンカも、ケンカはケンカだ。
どうせケンカをするなら堂々とケンカしろ、とまたしても教師らしからぬセリフ。

「あァそうか……まァそりゃそうだわな……。
 おう聞け聞け。
 わかるまで教えてやんよ」

昔の人は知らない、と言われてちょっと寂しそうな顔。
時代の流れってやだなァ、なんてしんみり。
その後の聞いていいですか、という声には肯定を返しておく。
自分だってわからないことはわかるまで教えてもらった。

「――うっし、まァこんなもんか。
 流すぞー」

立ち上がり、バケツにブラシを投げ込む。
再びホースを手に取り、蛇口をひねって水を出す。
そして彼の返事を聞かずにバイクに水をかけ始める。
離れるのが遅れたならば思い切り水がかかるだろう。

武知 一実 >  
「それはそっすけど……なんか納得いかねえっつーか。
 まあ、やることは変わんねえんで別に良いんすけど」

別に喧嘩することに引け目を持ったことは無いし、これからも無いだろう。
ただ一緒くたに悪者扱いされるのが納得いかないってだけだ。
売られた喧嘩買ってるだけでそれ以外でも素行に問題がある様に思われるのは心外極まりないってだけ。

「その辺詳しい先輩とかも居るんかもしんないし。
 まだオレも交友関係そんな広い訳じゃねえんで、いずれ知る事もあるかもしんないっすね、昔の先生のこと。
 ……じゃ、分んなくなった時は聞きに来るんで」

今も学校に残ってる人ならともかく、卒業したり死んだりした人の事を知ってもな、という気持ちはある。
まあ龍宮先生はこうして存命で島に居る訳だから、その過去を知っといて損することは無いだろうけども。

「いまいちこれで良いのか分ら……
 ――え、ちょっと待って先生。早えって」

せめてオレが離れてから水を出して欲しいんだけど!?
スポンジを放り出して離れるよりも早くホースからの水が飛んでくる。
バイクに当たり跳ねた水をしこたま……と言うほどではないが、ある程度は引っ被る羽目になった。

龍宮 鋼 >  
「ケンカするってのァそう言うこったよ。
 次から覚悟してケンカするこったな」

風紀委員からすれば売った方も買った方も変わらない。
煩わしいと思うならケンカは買わなければいいし、ケンカがしたいなら受け入れるしかない。
彼の気持ちは理解出来るからこそ、やめろとは言わない。

「まぁ落第街たむろしてる不良共なら知ってんじゃねェのか?
 なんか伝説扱いされてるらしいからよ。
 おゥ、待っとるわ」

自分としてはあまり伝説と持ち上げて欲しくはないのだけれど、自分のやったことなので仕方がない。
まぁ数年前の話なので、誰も知らないと言うことはないだろう。
多分。

「ハッハァ!!
 良かったなァ涼しいだろォよ!!」

バシャバシャとバイクに水を掛けながら大笑い。

武知 一実 >  
「……そっすね。
 まあ、そんなわけで風紀からああだこうだ言われんのは喧嘩関係の事だけに留めたいんで、無免とか絶対にやらねえんで」

そもそも何でこの話になったのか思い出しつつ。
免許がどうのこうのって話だったよーな……であれば、この着地で合ってるよな?
喧嘩はともかく、無免許運転は絶対にしないと改めて誓う結果になったのは良し。

「落第街……あんま行かないんすよね。伝説かあ……何か尾ひれとかついて膨れてそうっすけど。
 そうやって話が残ってるかもってことは、先生も強かったんすか、喧嘩」

わざわざ出向いて聞き込むよりは本人の口から聞く方が早い気がした。
先生という立場上、そういう話はしない方が良いってんなら無理に聞き出すつもりは無えけど。

「ああクソっ……この後買い物行こうと思ってたのに。
 どーせなら先生も涼しく……いや、やっぱいいっす」

思わずバケツを拾い上げてから、そっと戻した。
中に洗剤入ってるからってのもあるけど、パーカーのオレと違って先生は濡らしたら拙そうだ。

龍宮 鋼 >  
「そうしとけ。
 悪いこたァしねェに限る」

さんざっぱら悪いことをやってきたからこその言葉。
少しは教師らしいこともした方が良いだろうし。

「まァ行かねェ方がいいとこではあるがな。
 なんだ、気になんのか?」

強かったのか、と問われ、ニヤリと笑う。
蛇口の捻り水を止め、ホースをその辺に放り投げて。

「ガードして踏ん張っとけ」

右拳を前に突き出す。
彼がガードすればそこにその拳を軽く触れさせる。
そのまま右足で地面を少し強めに叩けば、ズドン、と彼の腕に衝撃が加わるだろう。
踏ん張っても尚、後ろに一メートルほどよろける程度の衝撃。

武知 一実 >  
「言われなくともそーしてるつもりっす」

喧嘩以外に校則を破るつもりは無い。
……とは言い切りたいものの、まだ校則を全部把握してるわけじゃない。
もしかしたら知らずの内に違反してる事もあるかもしれない……。

「絶対喧嘩になる……のはまあ良いとして、どうも辛気臭いんすよね落第街(あそこ)
 ……まあ、気にならないと言えば嘘になるっすね」

これまで喧嘩してきた中でオレが強いと思えたのは一人の先輩だけだ。
けれどこの島には他にも強い奴らが居ると話には聞くし、そんな島内でも治安の悪い落第街で伝説になるほどなら興味も湧く。

「……っす」

先生に促されるままに体の前で腕を立ててガードし、足に力を籠めて踏ん張る。
話半分じゃないか、とか相手は先生だから生徒に加減するだろう、とかそんな考えは捨ててガードに専念すれば。

「……ぐッ!!」

腕を強烈な衝撃が襲い、踏ん張ってもなお後退を余儀なくされた。
……ハァ、なるほど。これで喧嘩してたんじゃ伝説にもなるだろうな。
衝撃で痺れる腕を振りながらオレは納得せざるを得なかった。

龍宮 鋼 >  
「クハ、よく耐えたじゃねェか」

正直ぶっとばす、とまでは言わないが、衝撃で倒れてもおかしくないぐらいの力は込めたつもりだった。
しかし彼は多少後退するぐらいで耐えて見せた。
ケンカ慣れしていると言うのは伊達じゃなさそうだ。

「こォいうのがゴロゴロしてっからな、あそこにゃ。
 真っ当に暮らしてェなら近寄らねェのが一番だよ」

学生時代は落第街を根城にしていたとはいえ、死にそうになったのは一度や二度ではない。
血反吐を吐いて文字通り命懸けで過ごすところだ。
行かないのが一番いい。

「おら、コレ使って身体拭いとけ。
 服はこの暑さだ、歩いてりゃ乾くだろうよ」

持ってきていたタオルを一つ彼に放る。
もう一枚はバイクの拭き上げに。

武知 一実 >  
「何も知らずに食らってたら吹っ飛んでたっすよ」

油断も慢心も全部捨ててガードに徹したからこそ耐えられたようなもん。
前に一発受けたら何発もまとめた様な衝撃を食らった事はあったが、今回のは一発が尋常じゃなく重い。

「そうっすか……まあ、用もなく近寄るつもりは無いっすけど。
 にしても重い一発だったっすね……昔何かしてたんすか、武術とか」

実際に受けてみて、素人が喧嘩して身に付く様なもんじゃなさそうな気がした。
例によって話せる事じゃないなら無理に聞くつもりも無い、軽口の一つだとでも思って貰えりゃ良い。
放られたタオルで頭と顔を拭きながら聞いてるから、是が非でも聞きたいわけじゃ無いのは先生にも伝わるだろうか。

龍宮 鋼 >  
「あ?
 やってねェよんなもん。
 我流だ我流」

丁寧にバイクを拭き上げながら適当に答える。
タオルの入らないところはエアダスターで水滴を吹き飛ばしたりしている。

「しこたまケンカして折れた腕でぶん殴って血ィ吐きながらブッ叩いて。
 弱けりゃ死ぬだけだからな。
 死なねェ様に必死で殴り続けてたら強くなってただけだ」

かつて味わった地獄。
語る内容は凄惨だが、その口調は極めて軽い。
今生きてるからどうでもいい、そんな口調。

「うっし、終わりィ。
 手伝ってくれてサンキュな」

ピカピカになったバイク。
あとはチェーンに油を指せば終わりだ。
その前にすぐ近くの自販機に近付き、コーラを買う。
それを彼に投げ渡し、

「給料変わりだ。
 おらもう行け、学生が休みの日にセンセーの手伝いなんかしてんじゃねェよ」

武知 一実 >  
「……我流っすか」

本当か?と疑いを挟むよりも早く、先生は今に至るまでの経緯を話し始めた。
その内容はまあ、要約してしまえば素人が喧嘩して身に付けたものだという事になっちまうけれど。
どちらかと言えば戦火の中に放り込まれたのに近い、ある意味最も実践的な方法で身に付けたものだった。
……それこそ、武術の稽古が生温く思えるほどには。

「……そう、っすか。
 ああいや、別にオレも暇で買い物行こうとしてたとこだったんで。
 バイクも見れたし、貴重な話も聞けたし、先生のことも知れたし結果オーライっす」

バイクに興味が沸いたから手伝いを申し出ただけだ、それ以上に目的があったわけでもない。
けれど、軽い気持ちで申し出た以上の見返りはあった。だからそれなりに満足もしていた
だからコーラを投げ渡されれば、困惑と言うか、申し訳なさが先に立って

「えっ、いや給料貰うほどの事してねえ気が……
 それに、オレがしたいと思ったからしただけっすよ」

龍宮 鋼 >  
「学生がゴタゴタ言ってんじゃねェよ。
 センセーが奢ってやるっつってんだから大人しく受け取っとけ」

乱暴に吐き捨てる様に。
バケツの水を捨て、スポンジとブラシも軽く洗い、持ってきたものを全部まとめてバケツに放り込む。
それを玄関に放り込み、バイクにまたがりエンジンを掛ける。

「んじゃーな。
 勉強ばっかしてねーでちゃんと遊べよ」

などと教師らしからぬことを言い、メットを被ってバイクを発進させた。
ガソリンを食い散らかしてエンジンが唸りを上げ、マフラーから爆音を響かせてあっという間に走り去っていってしまった――。

ご案内:「職員寮 入り口」から龍宮 鋼さんが去りました。
武知 一実 >  
「……まあ、そういう事なら」

それなら水引っ掛けた詫びとして貰っておこう。
念の為に離して置いておいたお陰で濡れるのを免れたボディバッグを拾うと、コーラを中にしまう。
そうしている間に先生の方も片づけを終え、バイクにまたがっていた。

「遊んでるしバイトだってしてるっすよ。
 どこ行くか知らねえけど、気を付けてー」

メットを被った先生へとひらりと手を振って。
あっと言う間に走り去っていったのを見送ってから、さてオレも行くかと歩き出した。
……服、乾かすためにもうちょい遠回りして扶桑でも行こう。

ご案内:「職員寮 入り口」から武知 一実さんが去りました。