2024/06/06 のログ
ご案内:「洋上」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「洋上」にシャンティさんが現れました。
■ノーフェイス >
ぼろぼろの船はゆく。
波にまかせ。風におされて。
しかし出立の意志はそこにあった。
静かな船室は、ゆりかごのように揺れる。
「キミの――」
設えられたテーブルに、向かい合って座る。
時間はゆるやかだ。ほんの数分といえばそうかもしれない。
千の夜を超えたかといえば、そんな気も。
記されない文脈。時の流れから隔絶されていた。
「――心がはじめてふるえたものは、なんだった?
どんな本だとか。それともお芝居」
ひびわれた窓の外、ひたすらに広がる青空と海を横目に。
それとなく振ってみた。幼少の思い出がたりなど、こういう時でもなければしないような話だ。
■シャンティ > 「ん……」
問いかけとしては、とてもありふれていて
だからこそ、重要であり、根源的な、なかみ
「いま、さら……な、問、ねぇ……?
こた、え……たら……あな、たの、も……聞か、せて……もら、える、の……かし、らぁ……?」
小さく首を傾げる
別に語ること自体はやぶさかではないが。
自分だけが語らされるのは、好まない
「……そう、ね……
はじま、りは……本……だ、った、わ……?」
世にありふれた本
誰もが一度は聞いたことがあるかも知れない
そんな、子供向けの本の一つ
それが、原点……といえるかもしれない
「気づ、けば……家、中……の、本を……読ん、で……
劇、は……その、途中……」
たまたま好きな話が劇になっていた
それだけの理由だった
「そん、な……ありふ、れた……話、よ?」
■ノーフェイス >
「ボクから話しだすほうが卑怯だろ?
なんでも応えるさ、応えられるもの――言語化が可能なものなら、になるケド」
肩を震わせて、笑った。
一方的にアドバンテージを取ろうとするような、アンフェアなふるまいは。
相手との距離が近くなればなるほどに、望まざるものだった。
相手に望んだ分だけ、自分も応える。
一方的に与えられることも――与えることも、好みではない。
「家族の本かな……」
肘をついて、指を組み、そのうえに顎をのせた。
赤みを帯びた金の双瞳が、興味の視線を注いだ。
「読んでもらうのではなく、じぶんで読んだ。
本……平面と文字の世界。児童書なら、挿絵もあるか。
自分の指でさぐって、自分の歩幅であるいた。
キミが読んだ、キミだけの物語が……」
すこしだけ、身を乗り出した。
「どうだった?
劇というかたちで、自分のペースでは読み解けない。
別の解釈で切り出された、お気に入りのおはなしを――観たとき。
そのときのキミに宿った、ナマの感情が知りたい」
■シャンティ > 「ええ……そう、で、しょう、ねえ?」
眼の前の相手は、付き合いこそさほど長くはないがそれでもそれなりに付き合い、と言っていい
その間に、なんとなくの性格、傾向などは見えてきている。
「えぇ、そう……ね。家族の本」
相手が肘をつき、手を組めば……
こちらは膝に手を乗せて、楚々として座る。
「読んで、もら、った、こと、も……あった、けれ、どぉ……
自分、で……読む、のが……格別……だ、った、わぁ?」
虚ろな目は、盲たまま、どこか遠くを見るように虚空を見る。
当然ながら、そこには何も映らない
ただ、どこか感慨深げに見えたかも知れない
「……劇、の……方……?
そう、ね……最初、は……そう……不思議、だった……わ、ねぇ
わざ、わざ……役者、を……立て、て……まで、ヒトに……拘った、理由
わざ、わざ……非日常、を……現実で、あらわ、そう……と、する、意味。
で、も……」
どこか、遠くの世界を見るようにして、ほんの少し、考えてから答える
「……で、も……その、うち……
気に、なら、なく……なった、わぁ?
そ、う……新、しぃ……世界、が……開け、る……の、だ、もの。」
くつくつ、と女は笑う。
■ノーフェイス > 「そういうの、必要としないタイプのヤツもいるしな」
読んだ本、すなわち原作――あるいは活字という形態のみを好むタイプ。
あらゆる発展型を好まない、原理主義とでも言うべきか、そういう人間も珍しくはない。
他者が介在した世界観。自分の認識や解釈との差異。刺激そのものに毒性を見るもの、など。
「キミは劇のほうだろ」
大道具。その道を歩んだ理由。
過去を問うても、過去を問うたのではなく、現在、と認識できる時間軸を補強する連続性を問うていた。
本狂いであるというパーソナルと、現在地はまた別の話に思えていた。
本だけで十分なのであれば、あの劇場は必要なかったはずなのだから。
「………………。
まず、どうしてからはじまったんだ。
てっきり、きらきらと目を輝かせていたものだと思ってた。
本にも舞台にも」
へえ、と感嘆の吐息が弾む。
組まれた長い脚は、いつしか退屈を紛らわせるための揺れも忘れていた。
「その疑問は、いまはほどけたのかな――……なるほど。
じぶんのなかに綴じるものの範囲がひろがった感じ……なのかな、ああと」
話を続けようとして。
「そろそろボクの番か?」
納得いくまで根掘り葉掘りしてしまいそうだった。
興味はつきないが、上目遣いで伺ってみる。それだけ彼女の内面に食いつくのも、そういえばはじめてだ。
■シャンティ > 原理主義、と言われれば……確かに、この女もそういうケはある。
本は手に取ってみるべし、本は自ら読むべし、本は……
ただ、受け入れる皿だけは広く……広くできていた。
ただ一点。カノジョ自身が面白い、と思えば……それで十分だった
「……」
劇そのものに傾倒するようになったのは
……実に、ほんの僅か前の話。
この女が、自分を失ってから
「あ、ら……まる、で……私、が……夢、も、希望、も……
無邪気、さも……なか、った……みた、い……に、いわれ、るの……は、心外――だ、わぁ?」
くすくすと笑って、そんなふうに思われていたのか、と嘆くふりをする。
少なくとも、本心からそう思っているのかは、よく伝わっただろうか。
「えぇ、そう……ね。
私……が、本……な、ら。
あな、たは……音……か、しらぁ……?」
上目遣いの相手を無視するかのように、正面を向いた楚々とした姿勢で問いかける。
まるで、そういう形の彫像であるかのように
「あな、た……の、熱、の……元。
あな、たの……原初……しり、たい……わ、ね?」
■ノーフェイス >
「逆だよ」
苦笑した。
「ボクにはいまだって、キミがお姫様に見えてるよ?」
深い寓意をそなえた言葉で、彼女を誂った。
ベアトリーチェであり、イヴである。女の元型。
「んー……」
腕を解いて、片手で頬杖。視線が横にそれた。
ふたたび、窓の外。
青い空に白い雲がソフトクリームのように積み重なり、無限に続く海原が波音をさざめかせる。
「………………」
黙したのは、ともすれば。まるで眠ってしまったかのような沈黙。
ふたつの彫像のあいだに、沈黙という白紙が差し込まれる。
あったことをただ並べ立てるだけのことは簡単で、しかし、求められたことは。
「音は」
やがて沈黙を砕く、音は。
「……あこがれ」
郷愁を思わせる、つぶやく声は、そう。
すこしばかり、むきあって話すのは気恥ずかしい話だった。
「自覚したのは、しばらくしてからだケド」
■シャンティ > 「お姫、さま……ね、え?
だい、ぶ……盛られ、た……よう、な……氣もする、け、どぉ……」
自分はただ、自分好きなようにするだけで
そんな大層なもののように思ったことはない。
否定するわけでもないが、肯定もできない
「へ、ぇ……」
しばしの沈黙の空間。
それを打ち破った言葉に、関心を寄せる
それもまた、納得がいくような
「……あな、たの……出会った……
その、音……は。何……だった、の、かし、らぁ……?」
あこがれ
遠く、思うもの
近く、願うもの
そうまで、この相手を揺さぶったのは、一体何だったのか
■ノーフェイス >
「テレビとか、ラジオの……流行りのやつも、往年のやつも。
いまでいうと……、そうだな、戦前歌扱いになるのか……?
生演奏は、さいきんまで聴いたことがなかったから……その程度だよ」
本や、舞台。
火をつけた音は、能動的な意志が必要となる形態ではなかった。
どんなご家庭にもある、身近な受信機で、受動的にうけとるもの。
たとえ自宅になくったって、店舗や街頭にいくらでも。
何も選ばない。
何も変わらない。
ソト側にばかり期待して、身動きできない。
自分を壊す勇気もない。なにかを引き換えにする決意ができなかった。
そんな子供でも、耳を傾けることができるのだ。
雑多でカジュアルな音楽が、なによりも遠いような境遇の子供でも。
「いまも、ボクは――……あこがれたもので在ろうと、成ろうとしている。
どこにでもあるような、ありふれた人生だよ」
人々にとって、遠いもの。
反骨心に満ち溢れ、色を愛し、混沌の坩堝を巻き起こす、誰よりも熱い存在。
胸に刻まれた音楽家は、そういうものだった。
神との合一を目指す、神学者は。
■シャンティ > 「へ、ぇ……?」
声に、ほんのわずかに熱が入る
ある意味、破天荒、とでも言うべき相手の原点
それもまた、平凡極まるそれであった
「あぁ……そう……そう、なの……ね、ぇ?」
なにもかも、受け身だった人間がアコガレたモノ
それが、原点
「……あ、はぁ……」
くすくす、と笑う
からから、と笑う
「……たし、かに……あり、ふれ、て……いる、わ、ねぇ……
苛烈、さは……普通、では、……ない、けれ、どぉ……?」
くつくつ、くつくつ、と女は笑った
「そ、う……
その、恋、わず、らい……は、なが、い……の?」
面白げに、問いかけた
■ノーフェイス >
「…………? いや」
問いかけに、視線を向けて、首を傾げた。
「えっと…………」
問われた言葉の意味。シャンティ・シンが可笑しそうに語りかけた言葉の意味を。
愚鈍な子供よろしく、その意味をはかりかねていた。
「キミにとって、あこがれるという情動は。
恋わずらい……そうした苦しみ……、に、似てるの……?」
認識の擦り合わせ。
不思議そうに、シャンティ・シンを見た。
そんななか、ふい、ぐわん、と船体が大きくひとつ揺れる。
返事をまたず、シャンティの背後へと意識を注ぐ――横側の窓ではなく。
窓のソトは、気づけばすっかりと陽が暮れていた。
「停まった」
立ち上がってテーブルを迂回する。
その真横に立って、どうする、と、彫像のごとき彼女を見下ろして、問うた。
■シャンティ > 「あこ、がれ……とい、うの、は……焦が、れる……こと。
それ、を……患、い……つづ、ける……な、ら……
ふふ。それ、は……かな、わぬ……恋、を……おい、かけ、るの、と……似て……」
そこまで言いかけたところで、船が止まる。
唐突な停ではあったが、それはいつか訪れるはずの約束のときでもあった。
「……どう、も……こう、も……
停まっ、た……船、に……篭城、する、気は……ない、で、しょう?」
小さく首を傾げて、問に答える。
それ以外に、答えはないだろう、とでも言いたげに
「それ、な……ら。
この、先……を……求め、る……しか。
ない、わ……ねぇ?」
まだ見ぬ先か。
平凡なる日常への回帰か。
はたまた……何が、待っているのか
■ノーフェイス >
「………………」
彼女の言葉を。どこか、呆然としたように――聴いていた。
何を言っているのか理解できない。
こういう顔は、あまり見せない。少なくとも、シャンティ・シンには見せてこなかった。
いつも、わかったような顔を見せていた。内実はともかくも。
「……うん」
気を取り直し――ぎ、と船室の扉をあけた。
甲板に出る。空は満天の星空。そして、宙空には――月は望めない。
「どこだここ」
船は、孤島の浜辺に漂着していた。
とても狭い島だ。砂浜から続く陸部は岩肌がうず高く積み上がり、向こう側を覗くことができない。
月は塔のような岩にかくれていて、大きく迂回すれば島の奥をのぞめそうではある。
当たり前のようにその腰を抱くと、砂浜にひょいと降り立った。船は――停まったままだ。
彼女を下ろす。自分は、少なくとも征くつもり。
「……こんどはボクが質問する番か」
顔は向けないまま、歩き出す。
■シャンティ > 「ふ、ふ……」
呆然とする相手に、くすくす、と普段の笑いを見せるだけ。
通じようが、通じまいが、女には関係はない。
ただ、思うままに、するだけだ。
「……ん」
”見える”範囲では、狭い、どこかの孤島。
ただ、相変わらず、どこか靄がかかったのようなはっきりしない雰囲気がある。
しかし……進むか、引くか、といえば
進むしか、選択は ない
「……一体、どこ……まで、いく……の、か。
楽しみ、では……ある、わ……ねぇ?」
浜に降り立った女は愉快げに笑う
「……あ、ら?
まだ、なにか……いい、け、れ、どぉ……」
自分の番だ、という相手に小さく首を傾げながら
しかし、先を促した
■ノーフェイス >
さくり。
ブーツの底が白浜に、足跡をつける。
「うつくしいものを好むキミは」
潮風をうける。
風はむこうがわから吹いていた。
「いまの自分を、うつくしいと思えているのか?」
前を進む。
一歩ごと、確実に。
■シャンティ > 「……」
小さく吐息を漏らす。
それは、久しぶりに地に足をつけて歩いた疲労から、ではなく
「微妙、な……質問、ね……ま、ぁ……いい、わぁ」
小さく、肩を竦める。
不愉快、というわけでもなさそうだが
普段の気だるさが、どこか一層、増したようにも見える
「……そも、そも……
私、は……私、が……うつ、くし、い……な、んて……
思った、こと……は、一度、も……ない、わ?」
気怠く、重く
淡々と
その言葉は紡がれた
それ以外は、さくさく、と砂を踏む音だけが響いていた
■ノーフェイス >
「……それじゃあ?」
どのように、自己を認識しているのか。
続きを促すようにして、肩越しにふりむいた。
シャンティ・シン――そのあしもとに、横切った。
青金石が、あるいている。
輝く巻き貝を背負ったヤドカリが、彼我の空気も知らぬ顔で。
■シャンティ > 「あ、ら……知って……いる、はず……よぉ?
私、は……」
輝く巻き貝が、砂の上の小さななんでもない石を乗り越えて
女の足元を横切っていく
「路傍、の……石」
気づけば、歩みの遅いヤドカリもどこかへ消えていく
「それ、に……価値を、見る、ヒトも……いれ、ば
見ない、ヒト、も……いる、で、しょう。
うつく、しい……か。そうで、ない、か……は。
石、は……測ら、ない」
語るべきことはもうない、とでもいうように
小さく首をふる
「……不満?」
代わりに、そう問いかけた
■ノーフェイス >
「……不安にさせちゃった?」
不満かと問われると、すこしだけ表情が和らぐ。
優しく、甘く。子供に応対するような声音で。
それまで、ずっと真顔だった。考えていた。素の顔をしていた。
「そうじゃない。
ただ、美を好む路傍の石に出会ったことはなかったから。
……キミは、路傍の石で在りたいのか?」
歩みはとまらない。
「どう在りたいか。
うまれてからずっと、キミは路傍の石で在りたいと願っていたか。
あるいは、そう思わざるを得ないから、そういうコトにしているのか。
……迂遠だな。ハッキリ聴こう」
空を見上げる。岩の塔が月を遮る。
「うまれてから、いままで。キミが抱いた最高の――」
あこがれ、恋い焦がれるような。
それが正体のない、曖昧な幻想でも。
「――理想の自分は、どんな?」
それも、路傍の石なのかと。
あこがれを口にした存在は、そう問うた。