2024/06/07 のログ
■シャンティ > 「あぁ……」
考える。
その問いは、ひどく――
「そう……焦がれ、た……もの、ね。
それ、は――」
ああ、なんとも酷い問いかけだ
なんとも、恐ろしい問いかけだ
「私、は……ね。
ず、っと……本、さえ……読め、れば……いい、と。
そう、想って、いた、の……」
一途で 歪で 行き詰まった理想
それ以外に、何もいらない
それ以外に、何も求めない
それ以外に、何も期待しない
「えぇ……それ、が……私……
路傍、の……石、で……すら、ない。」
ただ、そこにあって
ただ、本と在ればいい
「……そう、いう……こと」
ぽつり、と小さく 小さく つぶやいた
「ね、ぇ……あなた、は……うつく、しい……?」
■ノーフェイス > 「…………」
足が停まった。
「キミの理想は」
そして僅かに、声に苦いものが混ざった。
「かつてのキミ自身か……」
空洞の正体は。
すでにそこにあった理想。喪失してしまった、理想の女。
永遠のあこがれ。
「程遠い」
うつくしいのか。問われた言葉に、かえった言葉は明瞭だった。
うつくしいものには、程遠い。
一切の迷いがなかったのは、基準が明確だったからだ。
ふたたび、歩を、進める。
「いまのボクのあらゆるものが、理想に及んでいない。
天上の美をその理想とするならば、キミの問いには否とこたえるしかない」
前だけをむいて。
「理想と違う自分を、自分は許してこなかった。
恋い焦がれているのかとキミはボクにきいたよな。それも、否だ。今はね。
あこがれは指向性に過ぎない。この胸の羅針が示す方向を悟るための指標だ。
それを自覚した時点で、あこがれは目標になった。目標は達成するものだ。
実現と証明。進化のための挑戦――ボクにとって生きるということは、その連続だ」
飢餓感の導くままに。
「これは、さっきのキミの問いへの解答だ。
そのために、キミの理想を問わなきゃいけなかった……
そう生きると決めたとき。それまでのわたしをボクが破壊したときに、恋わずらいは終わった」
■ノーフェイス > 「……、あれみて」
不意に。
その肩を抱き寄せて、指さした。いや、見えるのか。
岩のむこうがわで、なにかが光っている。
まばゆい。
ともすれば、真昼かとさえ思う、蒼い光が、岩山のむこうで。
なにが発光しているのかもわからない。未知が、そこにある。
「シャンティ」
そこに。
理想の女は、いなくとも。
「理想を言語化できる、キミの自我は……路傍の石なんかじゃない」
そうせざるを得なくとも、ここに来た意志のかたちは。
「取り戻すか。
破壊して、新たな自分を捜すか。
……どんなかたちであってもいい、でも」
息を吸った。
「征こう」
生きている限り、現在に留まることなど出来はしないのだから。
■シャンティ > 「……あぁ」
盲た眼に眩しい何かが映る。
見えてはいないはずだが、確かにある、それ
「そう……まぶ、しい……こと、だ、わぁ……
あぁ、あぁ……」
かつて
そう かつて
眩いばかりの人たちと道を共にし
彼らは輝きの中、それぞれに舞台を去っていった
「……」
眩しい
眩しすぎる
「それ、が……あな、た……なの、ね?
顔《かつての己》を打ち砕いた者」
なんとなく、わかってはいた
それとなく、察してはいた
路傍の石が 惹かれていくもの
そんな女の肩をソレは抱き寄せて
輝きを示す
「……わか……って、いる、くせ……に」
ぽつ、と
珍しい 気怠くも どこか ひねた 声
「……いく、しか……ない、で、しょう……?」
深い吐息
気怠げな 重苦しい声
そして
■■■■ >
岩の塔のむこう。
そこには、財宝があった。
■■■■ >
島の東西端より、刀のように鋭い弧をえがいて天へと伸び上がる、長短二本の岩。
その中心に、丸々とした巨大な蒼き月を戴く。
注いだ透き通る光が照らすのは、無数の光が泳ぐ楽園だった。
■■■■ >
おおきく円形に窪んだ陸地が、まるで抱くように海水を湛えている。
深きまで覗き込めそうな、澄んだ水を我が世と舞い踊る、魚に、海月に、微生物――珊瑚に至るまで。
陸地を飾る花々に守られて、遍く発光していた。
■■■■ >
剣の一閃のごとくに、底より突き上げる影。
海面を割って飛び上がり、姿をあらわしたのは真白き巨躯をもつ勇魚だ。
頭上より遥か高きまで飛び上がったそれは、青金石の瞳で二者を見下ろし――
ふたたび水飛沫をあげて、水底へと潜っていく。
■■■■ >
目を瞠り、まっすぐに――その風景をみつめる紅の影の傍らにて。
この風景が、ここに導いたもののすべてであるならば。
――読むものの封心演義は、遍く記録するだろう。
■■■■ >
誰も知らない場所をみつけた、名もなき冒険者の人生を。
シャンティ・シンでしか読めぬ、ここに辿り着くまでの孤独と苦楽。
そして、人生最高の風景を手に入れたのだという凱歌。
ふたりが導かれたこの文脈は――
■■■■ >
――シャンティだけがその真意を読み解ける、遠大なる自慢話。
■■■■ >
■ >
朝焼けが、水平線の彼方を淡く照らしている。
旅は、終わる。
切り取られた過去は、しかしそこにあるばかり。
現在を生きねばならぬものたちに、そこに留まることはしかし、能わなかった。
―――シャンティ・シンは果たして。流れ着いた。
潮騒の寄せては返す、静かの砂浜に。
■シャンティ > 「……」
果たして、それは
――夢か
――幻か
――現か
しかし、確かに砂浜へと辿り着いていた
「……」
記録を顧みることはしない
それを確かめることに意味はない
なんであろうと
今
此処に在る以上
歩んでいくことだけが、道なのだから
さあ、立ち上がり征こう
傍らの相手を確認しようとして
「……ふふ」
思わず、微笑が漏れる
傍らの人物を超えて、注がれた視線の先には――
機馬
「……本当、に……妙、な……話、ね……?
ま、あ……でも……」
くすくす、と笑う
「私、たち……あの子、に……好かれ、てた、みたい、ね?
で、も……ロシナンテ……なん、て……いった、ら……機嫌、損ね、ちゃう……かし、らぁ?」
無謀と勇気を引き連れて
前へと歩むもの
その相棒は、はたして……
■ノーフェイス > いつ、ふりかかるかわからない。
記憶にしかない。記録に残すことはかなわない。
人生とは得てして、そういうもの。
「……振り落とされても知らないぜ。さすがにくたくただから、あいつなしだと大変だ」
声をかけれられれば、もぞり――
ずぶ濡れの紅い髪の隙間から、紅の双瞳がみあげた。
「……いつものビーチだな。どういうふうに流されたんだろ。
ティルナノーグ帰りみたいに、何十年も経っちゃいないだろうな」
傍らに漂着したそれもまた、違った尺度で、あの光景をみていた。
砂浜に仰臥して、夜明けを遠く。
上体を起こした。
「…………」
遠く水平線を望む。
目を輝かせる、なんてことはしない。夢は、みない。
理想は、願っていれば叶うようなものではない。
現実の延長上に存在する、実現性のあることだけが。
「なぁ」
――――
■ノーフェイス > ――その告白は、初夏の風にとけて。
立ち上がる。
「行こっか」
帰る、という言葉は、すこし不適切だ。
「ドン・キホーテの伴でよければ。
帰り、なんか食べてこ。すっーごいおなか減ってる。
公演終わったばっかりだし、好きなものいっぱい食べたい気分……そいや、食の好みも知らなかったっけな。ご希望は?」
いつもの調子で。機馬のもとへゆっくりと歩き出す。
足元を、青金石のヤドカリがすれ違う。
■シャンティ > 見えない眼で、水平線を望む
「……そう」
ただ一言、それだけを告げ
その声は、儚く消えていった
笑みだけが 張り付いたように
「……そう、ね……」
此処に至れば
あとは、進むのみ
行くより道はなく
「……食、は……さほ、ど……興味、ない……の、よ……ねぇ
薬、に……走る、ほど、じゃ……ない、け、どぉ」
立ち上がる
「……故郷、の……味、なら……カレー……み、たい……だ、けれ、ど……ね」
歩き出す
そうして……刻はまた動き始めた
ご案内:「洋上」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「洋上」からシャンティさんが去りました。