2024/06/07 のログ
シャンティ > 「あぁ……」

考える。
その問いは、ひどく――

「そう……焦がれ、た……もの、ね。
 それ、は――」

ああ、なんとも酷い問いかけだ
なんとも、恐ろしい問いかけだ

「私、は……ね。
 ず、っと……本、さえ……読め、れば……いい、と。
 そう、想って、いた、の……」

一途で 歪で 行き詰まった理想
それ以外に、何もいらない
それ以外に、何も求めない
それ以外に、何も期待しない

「えぇ……それ、が……私……
 路傍、の……石、で……すら、ない。」

ただ、そこにあって
ただ、本と在ればいい

「……そう、いう……こと」

ぽつり、と小さく 小さく つぶやいた

「ね、ぇ……あなた、は……うつく、しい……?」

ノーフェイス > 「…………」

足が停まった。

「キミの理想は」

そして僅かに、声に苦いものが混ざった。

「かつてのキミ自身か……」

空洞の正体は。
すでにそこにあった理想。喪失してしまった、理想の女(ベアトリーチェ)
永遠のあこがれ。
 
程遠い(・・・)

うつくしいのか。問われた言葉に、かえった言葉は明瞭だった。
うつくしいものには、程遠い。
一切の迷いがなかったのは、基準が明確だったからだ。
ふたたび、歩を、進める。

「いまのボクのあらゆるものが、理想に及んでいない。
 天上の美をその理想とするならば、キミの問いには()とこたえるしかない」

前だけをむいて。

「理想と違う自分(ボク)を、自分(ボク)は許してこなかった。
 恋い焦がれているのかとキミはボクにきいたよな。それも、否だ。今はね。
 あこがれは指向性に過ぎない。この胸の羅針(コンパス)が示す方向を悟るための指標だ。
 それを自覚した時点で、あこがれは目標になった。目標は達成するものだ。
 実現(・・)証明(・・)。進化のための挑戦――ボクにとって生きるということは、その連続だ」

飢餓感の導くままに。

「これは、さっきのキミの問いへの解答だ。
 そのために、キミの理想を問わなきゃいけなかった……
 そう生きると決めたとき。それまでのわたしをボクが破壊したときに、恋わずらいは終わった」

ノーフェイス > 「……、あれみて」

不意に。
その肩を抱き寄せて、指さした。いや、見えるのか。
岩のむこうがわで、なにかが光っている。

まばゆい。
ともすれば、真昼かとさえ思う、蒼い光が、岩山のむこうで。
なにが発光しているのかもわからない。未知が、そこにある。

「シャンティ」

そこに。
理想の女は、いなくとも。

「理想を言語化できる、キミの自我は……路傍の石なんかじゃない」

そうせざるを得なくとも、ここに来た意志のかたちは。

「取り戻すか。
 破壊して、新たな自分を捜すか。
 ……どんなかたちであってもいい、でも」

息を吸った。

「征こう」

生きている限り、現在に留まることなど出来はしないのだから。

シャンティ > 「……あぁ」

盲た眼に眩しい何かが映る。
見えてはいないはずだが、確かにある、それ

「そう……まぶ、しい……こと、だ、わぁ……
 あぁ、あぁ……」

かつて
そう かつて
眩いばかりの人たちと道を共にし
彼らは輝きの中、それぞれに舞台を去っていった

「……」

眩しい
眩しすぎる

「それ、が……あな、た……なの、ね?
 顔《かつての己》を打ち砕いた者(ノーフェイス)

なんとなく、わかってはいた
それとなく、察してはいた

路傍の石が 惹かれていくもの

そんな女の肩をソレは抱き寄せて
輝きを示す

「……わか……って、いる、くせ……に」

ぽつ、と
珍しい 気怠くも どこか ひねた 声

「……いく、しか……ない、で、しょう……?」

深い吐息
気怠げな 重苦しい声
そして

■■■ >  
 
 
岩の塔のむこう。

そこには、財宝があった。
 
 
 

■■■ >  
 
 
島の東西端より、刀のように鋭い弧をえがいて天へと伸び上がる、長短二本の岩。
その中心に、丸々とした巨大な蒼き月を戴く。

注いだ透き通る光が照らすのは、無数の光が泳ぐ楽園だった。
 
  
 

■■■ >  
  
 
おおきく円形に窪んだ陸地が、まるで抱くように海水を湛えている。

深きまで覗き込めそうな、澄んだ水を我が世と舞い踊る、魚に、海月に、微生物――珊瑚に至るまで。
陸地を飾る花々に守られて、遍く発光していた。
 
 
 

■■■ >  
 
 
剣の一閃のごとくに、底より突き上げる影。

海面を割って飛び上がり、姿をあらわしたのは真白き巨躯をもつ勇魚(いるか)だ。

頭上より遥か高きまで飛び上がったそれは、青金石の瞳で二者を見下ろし――
ふたたび水飛沫をあげて、水底へと潜っていく。
 
 
  

■■■ >  
  
 
目を瞠り、まっすぐに――その風景をみつめる紅の影の傍らにて。

この風景が、ここに導いたもののすべて(・・・)であるならば。

――読むものの封心演義(ちから)は、遍く記録するだろう。
 
  
  

■■■ >   
  
 
誰も知らない場所をみつけた、名もなき冒険者の人生(ものがたり)を。

シャンティ・シンでしか読めぬ、ここに辿り着くまでの孤独と苦楽。
そして、人生最高の風景(・・・・・・・)を手に入れたのだという凱歌。

ふたりが導かれたこの文脈(ものがたり)は――
  
  
  

■■■ >   
 
 
――シャンティだけがその真意を読み解ける、遠大なる自慢話(・・・)
 
 
 

■■■ >  
 
 
 
 

    >  
朝焼けが、水平線の彼方を淡く照らしている。
旅は、終わる。

切り取られた過去は、しかしそこにあるばかり。
現在を生きねばならぬものたちに、そこに留まることはしかし、能わなかった。

―――シャンティ・シンは果たして。流れ着いた。

潮騒の寄せては返す、静かの砂浜に。

シャンティ > 「……」

果たして、それは
――夢か
――幻か
――現か

しかし、確かに砂浜へと辿り着いていた

「……」

記録を顧みることはしない
それを確かめることに意味はない

なんであろうと

此処に在る以上
歩んでいくことだけが、道なのだから

さあ、立ち上がり征こう
傍らの相手を確認しようとして

「……ふふ」

思わず、微笑が漏れる
傍らの人物を超えて、注がれた視線の先には――
機馬(モトサイクル)

「……本当、に……妙、な……話、ね……?
 ま、あ……でも……」

くすくす、と笑う

「私、たち……あの子、に……好かれ、てた、みたい、ね?
 で、も……ロシナンテ……なん、て……いった、ら……機嫌、損ね、ちゃう……かし、らぁ?」

無謀と勇気を引き連れて
前へと歩むもの

その相棒は、はたして……

ノーフェイス > いつ、ふりかかるかわからない。
記憶にしかない。記録に残すことはかなわない。
人生とは得てして、そういうもの。

「……振り落とされても知らないぜ。さすがにくたくただから、あいつなしだと大変だ」

声をかけれられれば、もぞり――
ずぶ濡れの紅い髪の隙間から、紅の双瞳がみあげた。

「……いつものビーチだな。どういうふうに流されたんだろ。
 ティルナノーグ帰りみたいに、何十年も経っちゃいないだろうな」

傍らに漂着したそれもまた、違った尺度で、あの光景をみていた。
砂浜に仰臥して、夜明けを遠く。
上体を起こした。

「…………」

遠く水平線を望む。
目を輝かせる、なんてことはしない。夢は、みない。
理想は、願っていれば叶うようなものではない。
現実の延長上に存在する、実現性のあることだけが。

「なぁ」

――――

ノーフェイス > ――その告白(・・)は、初夏の風にとけて。

立ち上がる。

「行こっか」

帰る、という言葉は、すこし不適切だ。

「ドン・キホーテの伴でよければ。
 帰り、なんか食べてこ。すっーごいおなか減ってる。
 公演終わったばっかりだし、好きなものいっぱい食べたい気分……そいや、食の好みも知らなかったっけな。ご希望は?」

いつもの調子で。機馬のもとへゆっくりと歩き出す。
足元を、青金石のヤドカリがすれ違う。

シャンティ > 見えない眼で、水平線を望む

「……そう」

ただ一言、それだけを告げ
その声は、儚く消えていった

笑みだけが 張り付いたように

「……そう、ね……」

此処に至れば
あとは、進むのみ

行くより道はなく

「……食、は……さほ、ど……興味、ない……の、よ……ねぇ
 薬、に……走る、ほど、じゃ……ない、け、どぉ」

立ち上がる

「……故郷、の……味、なら……カレー……み、たい……だ、けれ、ど……ね」

歩き出す

そうして……刻はまた動き始めた

ご案内:「洋上」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「洋上」からシャンティさんが去りました。