2024/06/23 のログ
■シャンティ > 「……」
とおくを とおくをみていた
とおい くるおしくも うつくしいものを
だから きづくのがおくれてしまった
「……あ、ら……」
近づいてきたのは、偉丈夫、という言葉がふさわしいような男
掛けられたパーカーのように、温かみのある男
冷えた女は、くすり、と笑う
「えぇ……綺麗、な……月……ね」
見えない眼にも、確かに映っている月はほの明るく輝いていた
これは、美しい……というものだろう
「……久遠、は? なぁ、に?
夜、の……散歩、では、なさ、そう……ねぇ。トレーニング?」
小さく首を傾げた
■杉本久遠 >
「む、ああ、本当に綺麗な月だな!」
綺麗と呟いた先が彼女に向けてだった事を誤魔化すように、慌てて空を見上げた。
まさに、本当に見事な月だった。
「ぬ、トレーニングというほどじゃないさ。
軽く走っていただけ――って」
空から彼女に視線を戻す。
隣から彼女をのぞき込んで、やっと気づいた。
彼女の腕にギプスが嵌っていることに。
「な、なにか事故にでもあったのか!?
他に怪我はないか!?」
慌てた様子で彼女の前に回って、他に怪我をしていないかと焦りながら彼女の身体をあちこち見ている。
ここで、知らせや連絡がなかった事などに、言及しないのは久遠の性格か。
連絡がなければ心配もするが、それでも彼女の自由を尊重したいと思っているのだろう。
彼女のやりたい事や好きな事の邪魔をしてしまうのは、久遠の本意ではないのだ。
■シャンティ > 「……」
男の慌てる様子が伝わってくる
しかし、読心術があるわけでもない。その真の胸の内は識れず。
ほんの僅かに首を傾げるのみ
「あ、ら……そう? それ、だけで、も……大した、もの、だと、想う……けれ、ど……?」
元々、そこまで強い体はしていない
鍛えてきた経験もない
それゆえに、脆弱な体を考えれば軽く走るだけでもそれなりの運動になる
それゆえに、感心してしまう
「……ああ。
そう、ね……腕、だけ……
ちょ、っと、折れ、た……だけ、だし……平気、よ?」
そういえばたいしたことではないので、伝えていなかったか、と女は思い返していた。
多少不便なのは否定しないが、不便なことなども今更の話である
■杉本久遠 >
「腕だけ、って、あのなあ」
少しだけ、ほんの少しだけ青年が困ったような怒ったような様子を見せるだろう。
眉根に皺が寄っている。
「普通は、『ちょっと折れる』なんてそうは無い事だぞ。
でもそうか、他に怪我がないならそれはよかった。
もう痛みはないか?
ちゃんと、綺麗に治るのか?」
心配そうに、どこか不安そうにも彼女を見ながらたずねる。
彼女が自分から理由を言わないのなら、それを追求はしない。
けれど当然、心配はするのである。
■シャンティ > 「……ぁぁ」
小さく、吐息をついた
そろそろ、頃合いだろうか
あちらも、こちらも
「あら。そう、ねぇ……
でも……骨、くらい、なら……折れ、ること、も……ある、わ?
それ、と……痛み、なん、て……元々……ない、し?」
困ったような様子を見せることは、それなりにある
しかし、男の怒ったような様子は珍しい
それこそ、少し前の荒れた試合のときぶりだろうか
なるほど、気に障るようだ
「……そう、ね。
なん、で……折れ、たか……知り、たい……?」
小さく、首を傾げ顔を覗き込むようにして、問うた
■杉本久遠 >
「む――」
知りたいか、と問われて、難しそうに腕を組む。
知りたくないと言えばウソとなる。
けれども、久遠にとってはそれを知ったからと言って何が出来るでもない。
「――いや、いいさ、痛みもなくて、ちゃんと治るなら。
もし君が、自然と話したくなって、自分から色んなことを話してくれるなら、真剣に聞く、
だが、オレは君が自ら語ってくれるまで、待つと決めたんだ」
彼女が久遠の知らない世界、知らない事情の多くを知っている事はわかっていた。
しかし、久遠は彼女を待つと決めたのだ。
ならばこそ、ここで無理に聞き出すつもりはないのである。
「だから、腕の事は、とりあえず、な。
もちろん心配もするし、気にもなるけどな!」
そう腕を組んだまま、ニカ、と笑う。
そして改めて、視線を空や海へと移し。
「それで――今日はなにを読んでいたんだ?」
彼女が見ている世界は、久遠にとっては不思議なものだ。
同じものを見る事は出来ないが、少しでも共有できればと思うからこそ、なるべくこうして、気になった時はたずねるようにしていた。
■シャンティ > 「へ、え?」
彼は、己の強い意志を持った男だ
待つ、と決めたのなら、待つのだろう
それこそ、いつまでも
そういう強い意志だからこそ……が、見たい
「あら、久遠――
ちが、う……わ? わたし、ぃ……痛み、なん、て……感じ、ない……の、よ?
ほ、ら」
ギプスで固められた腕を振る
といっても、彼女自身の膂力の問題か。さほど大きく振り回されてはいない
けれども、スポーツマンなら
そして、骨折を一度でも経験したことがある者なら、わかるはずである
折れたばかりの腕を動かす痛みを
「ふふ……あぁ、それ、は……知り、たいの、ね……あ、は」
自分が、今見ていたもの
それは、超常によって此処から遥か離れた場所を見れる眼であり、記録であり
そして、それは――
「そう、ね……ふふ……あ、は。
私、が……骨、を……折った、原因……かし、ら?
もう、終わ、って、しまった……みた、い……だけ、れ、どぉ……」
くすくす、くすくす、と笑う
どこか、満足げな笑いを浮かべて
■杉本久遠 >
「うむ――ん?」
ちょっとまて、なにかまた知らない事を聞いた気がするぞ、と。
久遠は珍妙な表情をして。
「――――――」
あんぐりと口を開けた。
「だああっ!?
痛みを感じないのはわかった、わかったから動かすんじゃない!
治りが遅くなったらどうするんだ!?
それに腕の骨は綺麗に治癒しないと大変なんだぞ!」
ひどく慌ててその動作を制止するだろう。
彼女右側に回り、肩を抱くようにしながら、余計な動きをしない様に支える事にした。
目と耳の事は理解していたが、また彼女の不安なところを知ってしまったようである。
――久遠が出来るだけ彼女の傍に居たい理由がまた増えてしまうのだった。
「はあ――まあ、それは。
ああ、知りたいさ。
君が見て、感じている世界を、オレは何時だって知りたいと思ってる」
そんな事を、肩を抱いて寄り添ったまま、今度は落ち着いた声で言う。
ただ、それが骨折の原因と聞けば、やはり眉は顰めてしまうが。
「むう。
まあ、君が楽しそうならいいんだが。
そう、だな。
よかったら聞かせてくれないか?
ここのところ、君はどんな物語を読んできたんだ?」
彼女と同じ場所へ視線を向けて。
満足げな様子に、困ったような笑みを向けながら。
■シャンティ > 「あら……?」
男が動揺して、制止にかかる。
抱きとめるような形で、しっかりと固められてしまった。
そこまでするほどのことでも、と少し首を傾げる
「ふふ、だい、じょうぶ、よぉ……
指、くら、い……な、ら……よく、折れ、て……た、しぃ?」
折れ慣れてるのでさほど問題はない
そういって、女は笑う
指と腕では多少規模は違うが、大差はないだろう、と
「ふふ……知り、たい……のに。
我慢、して……待った、り……我慢、強い、の、ねぇ……久遠?」
知りたい。分かち合いたい。
そういった気持を強く抱きつつ、それでも辛抱する。
女が口を開くまでは、と。
頑なともいえるその固さを、女はいつものように笑って受け止める。
「ん――そう、ね。
いく、つか……ある、けれ、どぉ……
いま、ほぼ……終わっ、て、しまった……今、みて、いた……物語は。
ある、オトコノコ、の……モノ、よ?」
地を這う人から、天翔ける魔人にまでなり得た彼も、今やまた地に堕ちてしまった。
その物語を、儚くも美しい、と女は想っている
「吹き、出る……想い、に……耐え、きれ、なく……て……
溢れ、出る……気持、ちを……形、に……した、くてぇ……
つい、に……人、を……害、する、に……至った……魔人。」
彼が行動を始め、いま終わるまでにそれなりに日は経っていた。
その間、噂も報道もあちらこちらで広まってはいるだろう。
「久遠、も……識って、る……かし、ら?
機界、魔人……テンタ、クロウ……彼、の……名前。
ふふ。見て、た……のは、彼……なの」
見るものが見れば、こう想うであろう
まるで、憧れのアイドルでも語るかのように――
女は怪人のことを口にした
「この、腕、も……ね?
ふふ、折って……もら、った、の……よ?」
■杉本久遠 >
「はあ。
大丈夫じゃないんだ、女の子に、後々まで残るような怪我をしてほしくない。
オレの我儘なのは、わかってるんだが」
君、ではなく、女の子、というあたり。
それは彼女にだけ思っている事ではないのだろう。
ただ、彼女に対しては特別強く思っているのは違いないが。
「あんまり、その、怪我をされるとだな。
オレが、君の手を繋いで、離れなくなったりするかもしれない、だろ?」
自分でも、絶対そんな事できないなあ、と思いつつ。
彼女を心配する気持ちを不器用に言葉にした。
「そりゃあ、君の事は何でも知りたいさ。
だが、知らなくちゃ一緒に居られないわけじゃない、オレはそう思うだけだ」
別に我慢をしてるわけじゃない。
全てを知らなくちゃ一緒に居られない、そんな風には考えていないというだけなのだ。
だからこそ、彼女が自ら話してくれるまで、いつまでだって待っていられる。
とはいえ、それと愛しい女性を案じる気持ちは別問題なわけだが。
「むう――」
そして、彼女が読んでいた物語を、黙って聞いた後。
久遠は一言だけ唸った。
「もちろん、その名は知っている。
オレも生活委員の見回りや、登下校の見守りに協力していたしな。
風紀委員が走り回っていたのも知ってる。
重傷を負ったオレや妹の知人も、少ない訳じゃない」
かと言って、久遠自身にその『彼』に恨みがあるわけではない。
なにせ、直接会ったわけでもなければ、犯罪者としての話や根拠の怪しい噂程度しか、一般人の耳には入らないのだ。
『彼』に対して脅威は感じても、どのような感情を抱いているかとなれば。
「――オレはその、君を傷つけた『彼』を恨むべきなのだろうか。
それとも君を楽しませてくれた『彼』に感謝すべきなのか。
難しいな――どんな感情で、どう受け取っていいか、まるでわからん!」
言葉通り難しそうに表情を顰めて、再び唸る。
内心は非常に複雑だが、かと言って、彼女の話す『彼』は、善悪で判断できるものではない、そうも思った。
そう、久遠はここまで一度も、『彼』を悪人とも犯罪者とも、怪人として名乗った名前でも呼んでいない。
一度も出会った事もない、話した事もない相手に、それらしいラベルを貼って断じるのは傲慢に思えた。
ただ、まあ。
「――君は良かったのかもしれないが、君を傷つけた事だけは一言、文句でも言ってやりたいところだがなあ!
だが、うん。
君は『彼』の物語に、満足できたのか?」
たずねるのは、結局、そんな事だけなのだった。
■シャンティ > 「ふふ……そう、なの?
あ、は……わが、まま……ねぇ? でも、覚え、て……おく、わ……ね?
……あら?」
怪我をしてほしくない。その気持ちは伝わる。
それが、自分だけではない、のかもしれないが。
それはいかにも、この男らしいところである、が
「それ……なに、か……問題?」
手を繋いで離れなくなる。多少不便であろうが、不自由など今更の話である。特段、気にする必要はない。
だから、いつものように首を傾げた
「そう。それ、は……そう、ね?
ふふ。それ、にぃ……たと、えば……そう。日本、の……民話、だ、った、かし……ら?
識って、しま、った、から……一緒、に……居ら、れ……なく、なって、しまう……そん、な……話、も……ある、わ……ね?」
くすくす、といつものように笑う女。
その姿は、本当に常と何も変わりがなかった。
「そう……ね。たと、え……ばぁ……久遠、は……
必死、に、なにか、を……頑張、って……いる、人を……みた、ら……どう、想う?」
恨むべきか、恨まぬべきか
そして、満足したのか、どうか
その問いを前にして――
一瞬、右腕を上げかけるが、やんわりと止められている腕は動かず。
諦めて左の腕を上げて唇に人差し指を当てて、語り始める。
「そし、て――もし。
その、人、が……燻、る……炎、は……ある、のに……なに、かで……それ、を……やめ、かけて……しま、った、のを……みた、ら……?どう、する?」
誰かのように
自分の限界を感じて 自分の先行きがもうないと実感して
「……ね?」
■杉本久遠 >
首を傾げる彼女に、久遠は頭を抱えた。
「問題と感じてくれない事が、問題かもしれん――!」
彼女と四六時中手を繋いだ生活を一瞬考え。
不便さより安心感を感じてしまって、この後、少々久遠の脳内で議会が開かれる事になった。
「世界各地にあるおとぎ話の典型だな。
オレは――君に雪の様に儚く消えられてしまったら、非常に辛いぞ」
少しばかり、彼女を強く抱き寄せてしまう。
青年がどことなく不安げなのは、簡単にバレてしまうだろう。
そして――
「――そうか」
それだけ、久遠は言葉にして、彼女に笑いかけた。
いずれにせよ、彼女の読んでいた物語は一先ずの結末を迎えたのだろう。
なら、読者ですらない久遠に出来るのは――
「そうだ、シャンティ。
この後、よかったら、うちに寄っていかないか?
久しぶりに君が来てくれたら、きっと母さんたちも喜ぶ。
それにその――泊って行ってくれるでも、な。
もう遅い時間だし、な!」
――いつだって、今日は、完璧な物語ではない。
それでも、少しだけ、明日を望む物語に近づける事は出来る。
結局のところ、杉本久遠は。
『杉本久遠の物語』しか紡げないのである。
■シャンティ > 「そ、お?」
頭を抱える久遠に、女はまた首を傾げる。
手を繋ぐこと自体はもう何度もしているはずなのだけれど。
「あら、あら……」
抱き寄せた女の体は、細く柔らかく、少し冷たかった。
それでも、抱きしめれば確かにそこに在ることは実感として伝わってきた。
「あ、ら……いい、の?」
女は小さく、首を傾げる
女は問を発しただけだ。女は謎掛けをしただけだ。
彼の悩みの答えも、彼の問の答えも。
そして……何を成したのかも。まだ口にしていない。
それで、よいのか、と
「ん……そう、ね……特、に……予定、も……ない、しぃ……
あら、あら……お泊、り? いい、の……かし、ら?
久遠、の……お部屋、とか?」
くすくす、と本気か冗談かわからない笑いを浮かべる。
いつもといえば、いつもの女であった
人は、完璧ではない
ゆえに、それぞれがそれぞれに足掻いて、それぞれの物語が生まれる
そこに現れる喜怒哀楽のすべてが、物語の醍醐味なのだ
極上のそれを味わうためなら、骨身の一つ、捧げても惜しくはない
他人の人生こそが蜜の味、なのだから
■杉本久遠 >
「ああ――良いんだ。
十分に、答えは得たさ」
彼女の問いと謎かけが、十分すぎる答えだった。
そして成された結末は――やはり彼女だけが知りえるべきだろう。
登場人物でも、ましてや読者でもない久遠には、彼女が今ここにいる、それだけで十分なのだから。
「む――オレの部屋でもいいが。
そのだな、なにも面白い事はないぞ?」
その台詞、男側が言う事なのだろうかと思われそうだが。
「――あ、いや。
オレがドキドキして眠れんかもしれん!」
いや、やっぱり久遠も男ではあった。
それでも若干枯れてると言われそうだが。
「それじゃあ、行こうか。
月の下を歩くのは、気持ちがいいぞ」
そう笑ってから、抱き寄せた彼女を放すだろう。
ゆっくりと、彼女の歩調に合わせて、月夜の帰路を、他愛もない話でもしながら歩いていく。
彼女と共に紡げる、穏やかな時間を楽しみながら。
■シャンティ > 「あ、ら……ざぁ、ん……ねん。
いう、ことは……こぉ、ん……な、に……あった、の、にぃ……」
両手を広げて大きさを示そうとしたが、相変わらず右手は動かせないので左だけで。
巨大な塊らしきものを空に描く。
「あ、ら……おもし、ろい……本、とか……さが、して……みた、か、ったの、にぃ……
……あら?ふふ」
言うだけ言ってから、気づきを得て訂正する男
いつものようなやりとりで、代わり映えはないかも識れない
しかし、そのひとつひとつが、輝きを帯びている
「あ、ら……ランニング、は……いい、の?」
構わない、と男は言うだろう。それよりも一緒に歩くほうがいい、と。
こんなにも美しい月夜を
こんなにも穏やかな一時を
共に過ごすために
それなら、女も星が満開に咲く下を男と歩み往くことだろう
ご案内:「浜辺」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からシャンティさんが去りました。