2024/08/13 のログ
出雲寺 洟弦 > 「……ああいや、ううん、何でもない、何でも。
カミヤは多分、俺の次に凛霞に会いたがってるだろうし……今度もし会ったら少し話を聞いてやって欲しいな」

肩を竦めて苦笑い、アイツは決して見た目ほど怖い奴じゃない。
何を隠そう、アイツは凛霞を違う意味で……そう、
実に仁義の世界の人間として、なんでか知らないけど尊敬している。

……だからこそ、許嫁の話がいよいよな最近、なんだか時々会う度に目じりが天井に突き刺さるくらいつり上がってたりするんだが。


――まぁ、そんなのも含めて変わってない部分という話に戻すと、凛霞の変わってない部分、というのは、胸の奥にある物。

「……はは」

ほら、変わらない。
――学校で、それはそれは男女共に大人気で、
やることなすこと完璧に出来る超人、だなんていう評価を聞いたりはするけれども。
……何てことはない。出雲寺洟弦から見た伊都波凛霞は、
あの頃からずっと、幼馴染の、普通の女の子だ。

こうやって、りんご飴に釣られるくらいには。

「おー、賑わってる賑わってる……、……なんか買ってくか?
アルバイト結構頑張ってるし、今日は割と沢山遊ぶつもりで来たんだけど……」

ずっしりどっしり。お持ちのがま口はみっちみちにしてあるし。

伊都波 凛霞 >  
「そんなに私に?そっか、じゃあ近い内に洟弦にセッティングしてもらおうかな?」

会いたがっている、なんて聞けば、偶然のエンカウントに任せるのは申し訳ない。
自分も彼の成長した姿を見てみたいし、お話もしたい。
洟弦とカミヤくんはきっともう繋がっているんだろうから、会わせてもらうのが一番!

「人がいっぱいだねー。
 はぐれないように、しっかり繋いでてね?」

色とりどりの露店。
子供に戻り、はしゃぐのも今日は良い。
ヨーヨー釣りに輪投げ、射的。
焼きそばたこ焼きお好み焼き。
ひとくちカステラに串焼きに──。

人一倍、笑顔を見せるほうではある。
けれど今日振りまく笑顔は隣りに彼がいるからこそ。
取り繕わない、無邪気な笑顔で夏のお祭りを楽しむ様子はきっと、子供の頃と何も変わらなくて──。

………

……



「あー!はしゃぎすぎちゃった!足つかれたー!」

少し、祭り囃子の喧騒から離れた場所。
神社の境内に差し掛かる階段の前にて、一休みすることにした。
履き慣れない下駄というのもあるけれど、近くに備え付けられた椅子に座ると鼻緒を緩め、脱いで素足をマッサージ。

──遠くであがる花火を見ながら、なんとなく、良い雰囲気である。

「お金、結構使っちゃったね」

その分楽しんだ。
凛霞の両手首には景品やら、何やら。
沢山夏祭りをエンジョイした証が連なっている。

出雲寺 洟弦 > 「え」

えってなんだ。

「……まぁ、構わないけど。もしあいつと話す時があったら、ちょっと相談……いや、いいか。多分見れば分かるだろうし……」

……ちょっと気になる物言いをしれりと。
そんなわけで後日、アイツと凛霞のご対面が叶う事になる訳だが。

「……ああ」

――まさか凛霞とこうして手を繋ぎながら、縁日デートをしてました、とか聞いたらどんな顔するか。
土産話を聞いたアイツはまずどっちの手で殴りかかってくるのかなんて苦笑いしながら浮かんだものの、
今は取り敢えず、目の前の沢山の思い出造りに励むことにしよう。

はしゃぐ凛霞の笑顔一つ一つを目に焼き付けるために、
その笑顔一つ一つ、その全部が自分の宝物であることを刻むように。
……あの頃楽しかった時間が、今此処に、止まっていた針が進みだす。


………

……




「……はは、すっごいはしゃいで……」

――境内の階段前、その近くの椅子で二人並んで腰掛ける。
人波が生む熱、そもそも今もそれなりに暑い訳。
昼間ほどではないにしろ、屋台から出る鉄板の熱波とかもあって、
いくら鍛えあげられた洟弦でも、そこそこ汗もかいてしまった。
ついぱたぱたと甚平の胸元を引いてあおいで、
彼の内側から溢れた熱を外に放熱する間、逞しい胸板だとかが見えるけれど。

「……」

――とうの本人は素足が見えてちょっと視線が逃げていた。
その逃げた先から顔を見て、一杯身に着けた祭り屋台の沢山の宝物が。

「んまぁ、その為に隙間でのバイトとかもしてた訳だしな。
……稼いだ甲斐が報われましたとさ」

屋台の値段って言うのはインフレしているのだ。
りんご飴とか焼きそばとかびっくりするほど高いし、
射的だとかヨーヨー釣りだとか輪投げだとか。
ありとあらゆるものが二、三回で一時間分の時給を吹っ飛ばす。
――その甲斐を感じるくらい、凛霞が楽しんでくれたからよしだが。

「……花火、綺麗だな」

――――夜空を飾る千変万華。
囃子に歓声、沢山の人の、今この瞬間が、
誰かにとっての一頁となる光景。
……それは、自分にとっても、……凛霞にとっても、
そうであったらいいという、想い。

伊都波 凛霞 >  
──なんとなく、良い距離感。

「バイト、忙しそうだったもんね。
 あんまり放っておかれると、他の男の子に連れ去られちゃうよー?」

なんて冗談めかして笑えるくらいには。
ちゃんと隣にいてくれるんだという安心感をもっていられる…。
せっかく動き出した時計の針。こんなの他人には渡せない。

「子供の頃は打ち上げ花火の良さはあんまりわからなかったな…。
 みんなでさ、手にもったりして遊ぶ花火のほうが───」

遠くの空を彩る花火。
遊び疲れて隣り合って座って眺める、風情のある景色。

「(……いい雰囲気じゃないでしょうか!?)」

そ…っと。
花火を見上げてるんだろうな、と思いながら、隣へと視線を向けてみる…。

出雲寺 洟弦 > 「……それは嫌だから。絶っ対、連れてかせない」

……小さな声だったけど、一瞬。
とても真剣な声だった気がする。
――或いは、ちょっと、男子らしい嫉妬だったのかもしれないけど。
はっとして口を押さえた辺り、そんな面は自分の思ってもない所だったか。



「……あー、それはそうかも。
なんか遠くで上がってるなーってなったら、それとなく見上げたりして。
半分くらいは道場の中で聞いてる事の方が多かったけど、改めて見ると……」

――風情に浸る横顔がある。

ちょっと遠くを見て、目を細めた緩い微笑み。
汗でちょっとくしゃっとした髪が額に掛かって、不思議な陰影があって。

それがふっと視線を横に逸らし、偶然、視線を重ねてしまうもので。
……想ってか、思わずか。
椅子についてた掌、その指先が、ちょんと凛霞の手に。

伊都波 凛霞 >  
ちょっと、びっくり。
そんなに独占欲?見せてくるイメージがなかったから。
あ、でも…‥これ、大切にされてる。
そんな風に感じて…。

風情に浸る横顔は、なんかしゅっとしてて、
正面からみた時よりも少しだけ大人びて見えた。

「(…あ、目が合っちゃう)」

なんとなくそう思ったけど、逸らすのもヘンだし、そのまま視線は重なって。
……触れた、指先をするりと絡ませてしまうのもしょうがない。

だって、なんだかそういう雰囲気だったから。

「ね」

「誰も見てないよ」

花火に照らされる頬が、きっと少しだけ朱が差して…紅い。…気がする。

出雲寺 洟弦 > 「――……」

重なった視線、結ばれた指先。
……す、と動いた掌は、そのままぎゅっと重ね合わせる。
そのふれあいだけでは、きっと物足りない。

全て、夏と、花火の熱が浮かせた、蜃気楼のような、
恋と愛の揺らぎ。

「……、俺は、お前を見てるよ」

――花火はもう、じきにピークというか、フィナーレ。
大空を飾る数多の花火よりも……今。

「今は、凛霞を見たい。ずっと」

――――結んだ手から、距離を縮めて、細めた眼で顔を覗く。
そういう距離で、そういうタイミングだ。


此処に来た時、その浴衣姿を初め見た時、
浴衣を見せつけられた時、思い出を振り返る時、

その全部の姿が、洟弦にとって、一生忘れられない姿で、笑顔で。
――変わらない部分があって安堵出来て、
変わった部分があって、自分の変化に気づいて。


その答えは――――――。

出雲寺 洟弦 >                   「やっぱり、ずっと」
             ぱ
               ら   ぱ
                      ら

      ぉ
     ど ん
              ど ん
               ぉ


     「……隣に行きたくて、傍を歩きたくて」

             ぱ
               ら   ぱ
                      ら

      ぉ
     ど ん
              ど ん
               ぉ


                  「あの頃から、俺は凛霞が、好きだったんだなって、さ」


             ぱ
               ら   ぱ
                      ら

      ぉ
     ど ん
              ど ん
               ぉ

出雲寺 洟弦 >             ど   ぉ    ん

                     ぱ
                        ぁ
                            ん

   ぱ   ぁ   ん             



              「凛霞」

出雲寺 洟弦 >          ど

             ぉ



                     ぉ



                             ん






――――唇を重ねる後ろで、ひと際大きく、華が咲く。

伊都波 凛霞 >  
「───私も」

多くの言葉はいらない。
だってきっと、伝わっているから…。

互いの距離が近くなって、互いの顔が、近づいて…。

「(……あ、すっごいドキドキしてる…私)」

自分の心音が相手に伝わってるんじゃないか…なんて思ってしまうくらい。

でも、誰も見てないよ…なんて切り出したのは、自分。

これはきっと確かめるための行為でもあるから。

眼を閉じて

花火に照らされた二人のシルエットが重なる───。

柔らかいものと柔らかいものが重なって…自然とそれが離れるまで、ずっと……。

「───」

何秒?何十秒…?

互いの顔が離れて、瞳を開く。
わかってる、絶対自分の顔は真っ赤になってる。

出雲寺 洟弦 > 「……」


初めてのキスの味は、夏祭りの屋台を振り返っていくような。
鮮やかで、甘くて、彩の中を揺蕩うようで。

……一度のキスが、余りにも長く感じる。

……と、言うよりも。

本当に長く、してしまってたかもしれないけれど。


                    静かな世界の中の、夢が終わる。

「……っ」

――唇が離れて、目の前に。
真っ赤な顔の、少し強張った顔の洟弦の顔。
そして、洟弦も、真っ赤な顔の凛霞の顔を見ていることになる。

「…………花火、キス、してる間に、終わっちゃったな」

なんて、先に笑ってしまったのは彼からなんだけど。

「……、……綺麗だったから」

伊都波 凛霞 >  
「…お、終わっちゃったなら、しょうがない、ね……」

心臓の鼓動が鳴り止まない。
自分の指先で、唇に触れる。
たった今までくっついていたのが、眼の前の彼の…という実感が沸々と湧いて…。

眼の前には真っ赤な顔、きっと自分も一緒。
終わっちゃった、かもしれないけど……。

「………」

「──、もー1回」

もしかしたら、彼も気づいているかもしれない。
他人を甘やかすことの多いお姉ちゃん、だけど。
本当は誰よりも、自分が一番の甘えたがり。
ただ、そんな相手がずぅっといなかっただけ、っていう……。

その広い背中に両手を回して、きゅっ…としがみつく、みたいに。
今度は自分から、唇を重ねる……。少しい不意打ちみたいになっちゃったかもしれないけど…。

別にいいはず。
一回だけしかダメなんて、言われていないから。

出雲寺 洟弦 > 「……、」

どく どく どく どく。
この躰を動かす為の心臓は、それはそれは脈動も大きい。
自分で自分の心臓の音が、鼓膜を震わせるくらいには。

嗚呼、今、好きな女の子とキスしたことで、こんなに自分の心臓は高鳴るのか、と。
いっそ初めての感覚に、変な方向に感慨を感じてしまっていたのに。

「へ」

ああ、いや、これはむしろ。
……考えるより先に、もう唇は重なっていた。
隣り合うだけだった凛霞とは、もう躰を向け合って、
しがみつくような躰を、こちらは支えてあげるように優しく受け止め、
柔らかい躰を優しく包むには、ちょっと硬くて太い腕だけど。

「……いいよ」

「今まで、出来なかったこと」

――重ねる。

     重ねて、  愛おしくて

             何度も。


「……全部、俺にぶつけていいから」


――――なんて言っても。
自分だって、一度のキスじゃあ足りなかったなんて、恥ずかしくて言えないが。

何度も、何度も。満足するまで。柔らかいキスを、何度も。
夜の帳が落ちて、星空の彼方の月が照らす。

「……凛、霞」


――今まで満たされなかったものを満たす、一杯の口付けを。

伊都波 凛霞 >  
もう1回、なんて言ったくせに。
一体何度重ね直したのか……漸く離れると、さすがに恥ずかしくて、俯いて。

こんなに甘えて、はしたない女だと思われたんじゃ。
なんていう、無駄な心配ばかり湧いてくるけど…。

「これからも…」

とくんとくん。
跳ねるように鼓動は高まったまま。

「いっぱい色んなことしようね」

顔をあげて、目一杯の笑顔。
ちゃんと隣にいてくれて。
向き合ってくれて。
ちょっとくらいの我儘も聞いてくれる…。

もう一度、互いの手を繋ぎ直して…少しだけ、昼間の熱が冷えた夜の風が心地よい。

「よ、っと…」

疲れた足もすっかり元通り。
下駄を整え治して、椅子から立ち上がって。

「遅くなっちゃうし、そろそろいこっか」

手は、繋いだまま。
帰りもエスコートよろしく、なんて我儘…。

出雲寺 洟弦 > 「……ん」

――こっちも、最後の一回の後、離れ際のキスは、少しだけ気まずくなりながら。
顔を真っ赤にしきったお互いが視線を逸らすけど。
……小さな"甘えん坊"の、大きな笑顔に、目をもう一度向けて。


「あぁ、これから、沢山、一緒に色んなことしよう。
そうしたいし、してあげたいし、……一緒に居たい」

――その笑顔が、愛おしくて仕方ない。


「……、って、ああ、こんな時間か」

そちらが下駄を履き直すので、こちらも準備。
立ち上がるのを支える手は繋いだままで。
そしてこれからたどる帰り道も、まだまだ祭りの続き。

「ああ、帰ろっか。それだけお土産一杯だと、ちょっと大変そうだし」

あんなに一杯はしゃいで、沢山買っていたわけだし。



それに、家に帰るまでが、この思い出の一区切りなのだから――。

ご案内:「常世神社」から出雲寺 洟弦さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から伊都波 凛霞さんが去りました。