2024/08/18 のログ
ご案内:「常世神社」に紅音さんが現れました。
■紅音 >
この日時、執り行われるハレの夜の宴に
印の示すクスノキの下でまみえましょう
この逢瀬は現し世のすべてに秘したままで
夕立に甘くにおいたつ白いドレスでいらっしゃい
わたしを愛してくれているのなら
ほかの誰にもあなただと暴かれませんように…
紅音
■紅音 >
「ごめんね。ひとを待ってるから」
声をかけてきた祭り客に、手慣れた調子で断りをいれる姿がひとつ。
浮かべ慣れた笑顔で、ときに雑談を交わしながらも、そこから動く気配はない。
闇に溶ける黒地に、光をあてねば見えぬような暗い菫の花が染め抜かれた地味めな浴衣。
すこしばかり洋の装いと混ぜた着こなしの異質さにも違和を抱かせぬ姿勢と、
透けるような白い首筋と貌。燃える瞳に、それらを暴くように結い上げられた鮮血の頭髪。
神木の楠の影に潜んでいても、否応なく映える艶美がむしろ際立つ。
時折舞う、見頃を過ぎた蛍に横顔を照らされながら、祭り囃子をどこか遠くに。
手紙の返事を待たぬまま、来るもわからぬ者を思い、待っていた。
ご案内:「常世神社」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
こつ、こつ、と、乾いたブーツの足音。
足音に目を向ければ、長いグレーの髪をうなじの後ろで一つ結びにした、小柄な人影。
白地に薄群青の梔子柄の浴衣が涼しそうな出で立ちである。
――その浴衣には、見覚えがあろう。
「…お一人ですか?
もしよろしければ、ご一緒、いかがです?」
脇に抱えた、藤色の長い袋を軽く抱え直す。
ちゃき、と、小さな金属音。
すい、と赤い瞳が金の瞳に向けられる。
■紅音 >
黄金の瞳が、新たな訪客を出迎える。
「『……夜闇は』」
いつもより低い声で、静かに諳んじる。
大きい手。女の細指はしかし長く、口の前で人差し指を立てた。
「『想像を目覚めさせ、煽り立てる。
静寂にふたり、美の甘受を妨げる鎧は脱ぎ落とされた』」
その手を、差し出した。
穏やかな笑みで、それに応えた。
「浴衣を纏った騎士さまとは、また風雅なことで。
……お手をとっていただける?
浮薄で揺れまどう歌姫は、しっかり捕まえておいていただかないと」
いつものように戯けた笑いだ。ハレの祭りは口をあけて誘っているから。
■緋月 >
「そのような、大層なものか…聊か、自信はありませんが。
…少しだけ、失礼します。」
手にした刀袋をす、と帯に差す――と思ったが違った。
よく見れば、刀を差すのにちょうど良さそうなホルダーが帯に着けられている。予め用意したのだろうか。
「片手に刃物を握っていたのでは、心穏やかに、とはいきませんでしょうし。
――お手を、お預かりします。」
す、と小さく微笑みを――穏やかながら、ほんの僅かに陰を感じられる微笑みを浮かべつつ、すいと伸ばされた手を取る。
「人手、多いみたいですからね。
少し強めに捕まえてしまったら、後で謝ります。」
今日はハレの日、祭りの夜。
今だけは――心に巣食う憂いと亀裂を忘れたい。
■紅音 >
「ええ~、頼むよ。
『あなたを、世界の最果ての片隅に隠してしまおう』とか。
それくらいノせてくれなきゃ、闇になびいちゃうかもしれないぜ」
自信なさげなご様子に、きゃらきゃらと子供っぽく笑った。
恋文を含め、最近、ホールで上演している演目のパロディだと。
タイトルなら誰もが知っているような、そんな悪ふざけだと、お祭り騒ぎの調子で伝えて。
「それなら、これを」
そっと重なった手のひら。
そうやすやすとほどけぬように、指と指を絡め合わせた。
すこしばかり甘酸っぱい名のついたつなぎ方で。
らしくなく甘えたように。
「失礼もなにもあるもんか。
身体になら、いつだっていくらでも触れてくれてイイのに」
そうして、参道を歩む。提灯の灯り、人々の喧騒のなかへ。
「……よく似合ってる。可愛いよ。
ボクの見立てが良かった――と、勝ち誇りたいとこだケド。
自分で帯刀もしてみせるなんて、やるじゃないか。
それなら更に、ワンポイント。お面買おーぜ。狐のヤツ」
まずは露店の軒先に、賑やかなる仮面の売り先を探した。
■緋月 >
「詩や歌劇の台詞の方は…簡単な詩の本を読んだ事はありますけど、生憎と私には
そちら側の感覚というか、作ったりする才能がなかったようで。
残念な空気になる事を避けたかったんです。」
ちょっとだけ憮然とした顔。
主に己の詩作の才や歌劇の台詞のセンスの欠如について。
「どうしても、これを置いていくのは我慢がならなくて。
商店街で、剣道道具の類を売っている店を覗いてみたら、こんなものがあったので、何とか
工夫して、浴衣につけられるようにしたんです。」
恐らく、似たような事情の生徒の意見があったのだろう。
でなければこんな需要が微妙過ぎる品を置いていたりはしないはずだ。
「……大胆ですね。
では、お面の屋台に行きましょうか。確か来る途中に見た気が。」
手のつなぎ方に軽く照れた様子を見せつつ、お面の屋台へ。
屋台につけば、色々なお面がかかっている。
定番と言える明らかに子供向けな、特撮やアニメ番組のキャラクターのお面に始まり、ひょっとこやおかめ面、
少しばかりお値段の張りそうな、割と造りの良い般若や天狗、顔の上半分を覆う猫の面もある。
「――あ。」
そんな屋台を見ていると、思わず一点で目が留まる。
売れ行きがよくないのか、忘れられたようにぽつんと飾られている、お面が一つ。
狐に似ているが、より険しい顔立ちの、顔の上半分を覆う形の、牙を持った黒いお面。
目の周りが歌舞伎のような金縁で飾られた、狼の面だ。
■紅音 >
「キミが背伸びするとこ見たかった」
視線をそっぽ向けながら、引っかからなかったか、なんて残念そうに。
「読んだり、観たりで楽しければ、いくらでもおすすめあるし、連れてくけどね。
そういう娯楽だけじゃなくても。
……こうやって賑やかで、明るくて、でもなんかすこしさみしい風景も。
受け止めてると、心が豊かになってくる気がしない?
ついついうっかり諳んじたくなったら、耳を傾けさせてくれると嬉しい」
ずっと地下にいたというときより。
そのときより、言葉は出てくるようになったんじゃないか、なんて。
そんな無粋なお節介は、口にはしない。
「……ひさしぶりになっちゃったから。
ほどかれないってことは、まだ愛想は尽かされてないってうぬぼれてもいいのかな。
寂しがらせたなら、ごめんね」
手を握り込んでも、血が滲むことはない。肌見放さずの、剣と不可分の人間の手は。
「――お、あるある。
どれがお似合いかな。狐面が、神楽にもつかうような、縁起のいいヤツなんだろ……、?」
彼女の視線を追いかけて。
それをみた。視線が吸い寄せられた。
「……これを」
すこしの逡巡のあと、しかし店主に注文した。
こんなところでも、学生証での決済に対応しているとは、すこし味気なくもあるが。
「ほら」
つけたげようか、なんて。
■緋月 >
「――はい。
お祭りは、離れた所から見る事はあっても、こうやって直接混ざるのは初めてなので、少し緊張してます。」
元居た里では、祭とは文字通りの意味――神や先祖を奉る祭事だった。
それにさえまともに参加した事はないが、僅かな記憶だと、此処まで華やかで人出の多いものではなかった筈。
「…知っているお祭りは、もっと、こう、肩肘張って、厳かな雰囲気でしたから。」
娯楽がついてくる祭りを見たのは、旅に出てからだった。
それも結局、離れた所から眺めていただけだったけど。
「――、いいん、ですか。」
買って貰ってしまった。
一つだけ仲間外れのように残っていた上、以前の既視感から、思わず目が向いただけだったのだが。
お言葉に甘えて、つけて貰う事にした。
「――似合ってますかね?」
顔を隠すと視界がちょっと心配になるので、横向きになるように。
「……久しぶりは、私もですから。大きなことは言えないです。
ちょっと――最近、色々、あり過ぎて…。
こうしていられれば、先送りにしか過ぎなくても…今は、色々を、少しでも忘れられるから。」
軽く、憂いを帯びた表情。
■紅音 >
「オトナたちのオシゴト、って感じのねー……わかるなー……。
秘跡だの典礼だの、神聖で大事なのはわかるんだけど、息が詰まる感じしてた」
苦笑した。なんとなく、通じるものがあるらしい。
伝統行事の古色蒼然たる美しさに惹かれるものはあるけれど、前向きに受け止めるのは難しかった。
「楽しい思い出、つくっていこうよ。
きょう、また逢えた。それがすごく嬉しくて。
ひっさびさにキミの声とか、心拍とか。
安心した。そもそも、そういう約束だったっけ」
――生存確認。
無茶しがちな彼女に、取り付けたのは、そんな色気のない動機だった。
「……イヌガミって、富の象徴でもあるけど、不吉だったり、執着の象徴だったりして。
嫌厭されがちなのかもしれないケド……ボクが単純に、狼がスキなの」
金色の縁を指がなぞって、頭の横にしっかりつける。白浴衣に、灰の髪に、厳かに力強く映える。
「群れの狩り、荒野の疾走、森林の眼光……なによりも、その声にすごく惹かれた。
知ってる? 子犬ですら、誰に教わってないのに、きこえると遠吠えでこたえるんだよ。
……遺伝子に刻まれてるんだ。共鳴を起こす儀式が……」
だから、あの名を負う。
「…………そういう出逢いで、関係だと思ってるから。キミにつけていてほしい。
お互いが惑ったとき、歩みが鈍った時、ここだよ、こっちだよ、って……教え合えるだろ」
分け合える重圧や重荷があるなら、支えられる。問いに、こたえることはできる。
今度はこちらが、かるく手を引いた。
■緋月 >
「私は殆ど参加しませんでしたけどね。
本当の本当に子供の頃、1回か2回くらいの記憶がある位です。」
それでも覚えているあたり、余程堅苦しいあれこれだったのだろう。
小さく苦笑する辺りに、そのへんの事情が滲み出ている。
「詳しいのですね。私は、犬神については名前位で、そんなに知識はなくて。
狼の習性となると、もうさっぱりです。
……暫く前に、退院からの調子を取り戻す合間の休みの日に、息抜きで選んだのが、偶然博物館で。
そこで――狼の、仮面を見たのが、印象に残っていて。
えっと…エジプト展、でしたっけ…。」
詳しい事情はぼかす事にした。
あまり余人に語る事でもなし、それに嘘は言っていない。
ちょっとだけ悪い気はしたけど。
軽く、付けて貰った黒い狼の面の縁をなぞる。
「――そうですね。今は、楽しい事を増やしておきたい、です。
私も久々にお会い出来ましたし。
…あ、あれ、お肉でしょうか?」
色々、の話題を今は忘れようとするように、指を伸ばす。
暫く離れた所から、いい香りをさせる食べ物の屋台。
炸鶏排を売っているようだ。
■紅音 >
「戦神か、死神……?」
エジプトで犬……オオカミといわれると、ふと浮かぶのはその二柱。
厳密には架空の動物であったはずだが、当時の壁画からそれをモチーフにしたのか。
あるいは、遺伝子の源流にそれらがいるのか、だ。
「死神か」
――死。
結局のところ、深いところに突き刺さっているもの。
「おなかすいて、食べられるならまだ大丈夫か。
おなかいっぱいになりゃ、ちょっとは気が晴れるかも。
……ボクの浴衣を褒め倒すくらいの余裕もないのは、最初からわかってたケドさぁ」
ちょっと悲しい、なんて、肩を落としてみせて。
苦笑しながら、食べよう、と。
ひとつ注文して、彼女にあつあつの紙包みを持たせた。
「フライドチキンっぽいケド、なんかその……サイズに容赦がねーな。
ひとくち、ちょーだい?」
自分の赤い唇を、ぷにぷにと触れてみせた。
■緋月 >
「あ、多分、アヌビスという方だと思います。
何とか解説の名前は理解できたので。」
――死。
己にとっての死とは、今も変わらず。
旅の道の果てに待ち受ける結末の片割れ。
否定も、逃避も、否定する事も無ければ恐れる事もない、『天命』。
「うっ…それはすみません。
それと、遅れちゃいましたが、浴衣、ありがとうございます。
私が買い物に行くと、どうしてももっと単純な無地のものを選んでしまいそうで…。」
服選びのセンスも残念だった。
「面積が大きいのでやたら大きく見えますが、厚み自体はさほどでもないですよ。
でも、確かに一人で食べ切るには少しお腹に溜まるかも知れませんね。
では、あーん、お願いします。」
催促されれば、あーんを要求。
あーんが来れば、勢い余って突っ込まないよう、注意しながら赤い唇にそっと巨大唐揚げを運ぶ。
■紅音 >
「牛丼吸い込んでたキミには一枚じゃ足りなさそうですケド?」
きゃらきゃらと笑いながら、はあい、と。
目を閉じる。長いまつ毛をふせて、唇をひらいた。
白い歯が上品にそれをかじって、口に含む。
「ぁ…………ん」
顔を離す。んむんむと咀嚼し、赤い舌が艶かしく、唇をちろりと舐めた。
「……あ、確かにちょっとアジアンな味付けだ。
五香粉……っていうんだっけ。あとなんだろ。
こんどつくってみよっかな、コレ。スパイスだけめちゃくちゃ増えるんだケド」
食べてみ、と促しながら、自分も食べたいものができたようだ。
きょろりと店を探しはじめる。
「アレあるかなー……あ、そーだ。
ちょっと、考えたんだよ。アレから。雨のバス停のこと、そこも踏まえて。
まだ、ボクのほうの……味気ない死神は、離しちゃくれないんだケド」
すこしだけ、握った手に力を込めた。
「きいてくれる?」
■緋月 >
「他にも色々おいしそうなもの、多いですから。」
尚も食べるつもりらしい。軽いジャブ程度の認識だろうか。
「んむ――本当だ、唐揚げっぽいから、味付けとかどうなのか気になっていましたけど、何かかけたり
しなくても、これだけで充分おいしいですね。」
さくさく、と、衣を落とさないように注意しながらかじっている。
栗鼠か何かみたいである。
「――ああ、あの時の。」
少し、思い出す。
確か、ある作家の水墨画の話から始まった、あれこれだったはず。
「――聞きますよ。
もしかしたら、私の方も…聞いて欲しい事を、お願いしてしまうかも知れませんし。」
ごくん、と、口の中に残った衣付きの鶏肉を飲み込む。
■紅音 >
「いっぱい食べて大きくなりなー? キミまだじゅうさん……よん、とかでしょ。
いろいろ育ってくれると、ボクもとても嬉しい限りで」
――なんらかの勘違いが覗いていた。
「いまは、スパイシーなお味がしそうですね?」
なんて、飲み込んだその唇を、そっと親指で拭ってやった。
艶めいた微笑で、がら空きの脇腹を刺してやる。
「……ずーっとまえに、大切なひとたちと。
ボクにとっては、大切なひとたちとね」
一方通行の想いであると。まずは、前置きをして。
軽い調子で、話していた。面をつけずに。常からつけているように。
「最悪なまま、別離をしたことがあるんだ。
それでもう……そのひとたちには、ボクの声は、ぜったいに届かない。
ボクの認識から、そんなところに出ていかれちゃってさー」
そこまで話して、不意に。
「――お、あったあった!これこれ。
ウチのとこだと、チョコとかキャラメルとかマシュマロとかで、
ごちゃごちゃってなってるヤツが主流なんだけど」
と、店先で注文したものは、棒に刺された真紅の球。
溶かした砂糖にコーティングされ、提灯の灯りに艶めいた。
「リンゴ飴。緋色の月だ」
彼女の唇に、それを差し出す。子供のように――年相応に、楽しげに。
■緋月 >
「――――――。」
ちょっとむすっとした表情で唇を拭われる。
「……17ですけど、これでも。」
意外かも知れない事実。そういえば年齢を教えた事あっただろうか。
なかったかもしれない。
それはそれとして、食べるものは食べる。
「――――それは、」
それは…何と言えばいいのだろう。
例え、一方通行でも、大切な人と、最悪なまま別れてしまって、もう絶対に…返事が欲しくても、届かないのは。
「……私には、何と言えばいいのか…。
私も――――もしかしたら、大事な友達と、お別れを、しないといけないかも……
それも、私自身の手で……。」
全てを語る事は、難しかった。
だから、何とか、それだけを言葉にする。
と、そこへ、
「――あ、」
丸くて赤い、きれいなお菓子。
随分と小さな、緋色の月だ。
「――――っ!」
ちょっとだけ、涙がこぼれそうになったのを、誤魔化したくて。
おもいきり、齧りつく。
小さな紅い月は、とても甘くて。
幸いにも、塩味は混ざらなかった。