2025/09/20 のログ
ご案内:「異邦人街」に大神 璃士さんが現れました。
■大神 璃士 >
異邦人街、昼といえる時間を過ぎ、夕方に近くなり始めた頃。
独り、道を行く、風紀委員の制服に黒いジャケットの青年の影がひとつ。
「……異常、なし、と。」
視線を動かしながら、小さく口の中で呟く。
単独での巡回任務である。今日の担当は異邦人街の一区画。
意外と人出もあり、道は賑わっている。
もう暫くすれば夜にもなり、恐らくは夕食を取る者たちが食堂やレストランのある通りに繰り出し、
更に人出は増えるのだろうな、などと考える。
「健全な賑わいなら、良い事だ。」
軽く息をついて、そんな言葉を口の中に。
――比較的、という言葉が頭に付くが、異邦人街は、学生街よりは居心地がいい。
同族意識というもの、ではない。だが、何処となくだが、居心地の良さを感じられる。
人間ばかりの他の街や施設で、引き締めていないといけない精神を、多少だが緩める事が出来る、気がする。
勿論、それで巡回に支障を出す訳にはいかない。
油断だけはしないように、異変などがないか、気を張り巡らせながら、それでも道行く人々を警戒させぬように。
黒いジャケットの青年は、独り静かに巡回を続ける。
■大神 璃士 >
突然、大通りから悲鳴が聞こえて来る。
その悲鳴を耳にした瞬間、黒いジャケットの青年は一息に走り始める。
走る合間に更に同じ声の叫び声。「泥棒」という声だった。
それらの言葉から、走りながら状況を推測する。
(叫び声は、突然上がった。聞こえてくる声は、今のところ一人のものだけ。
――恐らく、引ったくりの類か。)
短い思考と同時に大通りへと出ると、声を上げながら走る女性らしき姿と、その先を走る
フードに黒いパーカーの人物。体格からして、男か。
小さな呼吸と共にギアを上げ、スピードを上げる。
人混みに紛れて逃げようとしているようだが――
(――そうは、させない。)
殆どスピードを落とさぬまま、人混みの間の僅かな隙間を潜り抜け、黒いジャケットの青年は
フードを被った逃走者へと迫り――
『……ぐえっ!?』
「――大人しくしろ。風紀委員だ。窃盗の容疑で連行する。」
フードの逃走者が抱えていたバッグを潰さないように気を払いながら、逃走者を掴み、
地面に叩きつけて動きを封じ込める。
耳につけていた通信機を起動させ、連行の為の応援を呼び寄せる。
■大神 璃士 >
十数分後。
駆けつけた応援の委員達に、フードの男は連行されていく。
それを眺める黒いジャケットの青年の耳に、届くのは控えめな謝礼の声。
振り向けば、ボブカットのヘアスタイルに、エルフのような長い耳を持つ少女が頭を下げている。
先程少しだけ見えた、フードの男を追いかけていた人物と同じ服装。
という事は、この少女が被害者か。
「――盗られたのは、このバッグで、合っていますか?」
フードの男から取り戻したバッグを見せると、長耳の少女は目を見開いて何度も頷く。
どうやら、被害者で間違いないらしい。
黒いジャケットの青年はそっとバッグを返しながら、言葉を選びつつ話しかける。
「…監視カメラなどの映像から、状況確認は可能だと思われるが、当事者の証言も可能ならば欲しい。
すみませんが、最寄の風紀委員会詰所まで、ご同行願えませんか?」
その言葉に、長耳の少女は数回首肯を返す。
自分の証言でよければ、いくらでも、と。
大事そうにバッグを抱える少女を連れて、黒いジャケットの青年は風紀委員会の詰所へと足を向ける。
今日は、思ったよりも業務が長引きそうだ、と、日が落ち始め、色が変わり出した空を眺めながら。
ご案内:「異邦人街」から大神 璃士さんが去りました。