2024/10/11 のログ
ご案内:「万妖邸 霽月之室」に緋月さんが現れました。
ご案内:「万妖邸 霽月之室」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
大型単車が、獣の唸り声のようなエンジン音とともに乗り付けた。
流線型のボディ。スモークされたブラックとサンセット・レッドのカラーリング。
スタンドを立てて自立させ、施錠と魔術防護を働かせて盗人らの跳梁を阻止。
「Wow! 近くで見ると雰囲気あるぅ~」
たどり着いたのは、秋の夕焼けに照らし出される万妖邸。
遠目に見るばかりだった噂の幽霊屋敷を前に、楽しそうに声を弾ませた。
ひょいと降りるとフルフェイスを取って、長い髪が流血のように広がった。
闇のなかに浮かび上がるような、怪人の妖貌である。
「ほら着いたよお嬢。酔ってなーい?部屋まで案内できそぉ?」
シートを上げて、高機能収納からドラッグストアの袋を取り出しながら
同乗していた相手に声をかける。
高性能単車は、ちょっと飛ばしても乗り心地は快適――のはず。
ちょっと飛ばしたりちょっと傾けすぎたのも事実。
■緋月 >
「酔う程ではないですが、少し耳周りがくらくらします…。
多分、音のせいだとは思いますけど。」
同乗していたのは書生服姿の少女。
予備のヘルメットを取りながら、ちょっと頭を傾けて軽くこめかみを叩いている。
乗るモノがモノゆえ、いつもの外套も畳んでシートの中だ。
「後は…ちょっとこれ、頭が締め付けられる感じで苦しかったです。」
はぁ、とようやく楽になった心地でヘルメットを荷物と入れ替わりにシートの中へ。
どちらかというとヘルメットの異物感の方が堪えたらしい。
慣れない人にはよくあること。
■ノーフェイス >
「それかぶらないと風紀委員につかまっちゃうからね。
ロードノイズも、乗ってればそのうち慣れる。
……転移荒野だと、ノーヘルでブッ飛ばせるんだケド」
ほんとはやっちゃいけないんだけど、なんて。
悪い遊びだが、秋風のなかともなれば気持ちの良い遠乗りだ。
具体的に言わずとも、今度行こうのお誘い。
「…………」
両手に袋を提げる。引っ越し直後、色々入り用の結果だ。
収納と脚。密談ついでに、それのお手伝い。
様子をしばらく眺めてたが、ひょいと近づいて腰を折る。
「Pain,pain,go away~♪」
耳に吹き込んでやった。上書きついでに。
■緋月 >
「走った方が早く済みそうな気がするのは、私だけでしょうか…。」
ようやっと締め付けられる感覚が取れて来たのか、ぐるりと首を回して一息つく少女。
ついでに外套も羽織り直し、パチンと留め金を止めた所で、耳に不意打ちの一撃。
「わっ……いきなりはやめてくださいよ!
びっくりして手が出るかと思ったじゃないですか…。」
相変わらず、こういうところは困った人である。
そんな事を考えつつ、
「――それじゃ、部屋に行きましょう。」
先に立って、幽霊屋敷・怪異屋敷の名を恣にする集合住宅の中へ。
最初にチェックを忘れてはいけないのは、ロビーの案内図。
これを確かめ忘れると、全く別の部屋に向かう事になってしまう。
「えーと……良かった、今回は割と近い所ですね。」
霽月之室、という部屋名を探し当て、指差し確認。
階段でも良かったが、エレベーターの方が近い。
荷物もあるので、横着してしまうことした。
「じゃ、乗りますよ。部屋の場所が変わらない内に行かないと。」
一緒に来ている血の色の髪の麗人に声を掛ける。
集合住宅の会話とは思えない、奇妙な内容である。
■ノーフェイス >
「並走してマラソンしてもべつにいいケド、絵面が問題だね。
ていうかもしかしてキミ、普段から走って時短してるの……?」
そりゃ確かに交通費も浮くだろうけども――
並んで市街を疾走するの、ちょっとどうなのと思わないでもない。
肺活量とスタミナにはとみに自信はあるが、文化人としての体面があった。
「隙だらけー。許可をとればイイんだー?
善処しますよって――……なに?今回は?」
ロビーを見た。やはり外から見た以上に広い。なんなら階層も高い。
そういう物件はこの島では珍しくはないものの、先導する少女の物言いが引っかかった。
「場所が変わる……?」
なに言ってんだ……?と不思議そうにオウム返し。
木板の床を踏みしめながら、おのぼりにならない程度に周囲を伺う。
これまた和の雰囲気漂うエレベーターに乗り込みながら。
「変なトコに連れていかれない?コレ。
このまえみたこわーい映画でなんかこういうの見たよボク」
■緋月 >
「何だ、聞いてなかったんですか?」
こういうのには詳しそうだな、と思ったので、首を傾げつつ、エレベーターに乗り込むとぽち、とボタンを押す。
年代物らしい音を立てながらゆっくり動くエレベーターに乗りながら、お話の続き。
「ここ、部屋や階が突然増える事があるらしいですよ。
部屋の位置が変わる事も珍しくないそうで。
私も…さっき含めて3回位ですけど、部屋の場所が変わってるのは確かめました。
流石に最初は驚きましたが、二回も体験すれば「そんなものか」と思えるようになります。」
と、そんな間に小さなベルの音と共にエレベーターが停止。
からから、とドアが開けば先に降りて歩を進める。
変な所に連れていかれないか、という問いには、軽く首を傾げる。
「そんな事になったら風紀委員会の方々あたりが黙ってないんじゃないですか?
ここのエレベーターも何度か使いましたけど、別に変な所に止まる事もありませんでしたし。
慣れですよ、慣れ。」
慣れてはいけないものに慣れてしまっている感がつよい。
そうして少し歩けば、達筆で「霽月之室」と書かれた札の下がった部屋の扉に。
かちゃりと変な猫のマスコットがくっついた鍵で開錠し、扉を開けば、その先は和風な造りの
一人で暮らすには少しばかり贅沢そうな間取りの部屋。
「ただいまー…っと!」
部屋に入ると、寛いだ雰囲気でうーんと伸びを一つ。
少々狭い玄関から、ドア一つで隔てられたリビング兼寝室はベッドとちゃぶ台、テレビの他には、
部屋の隅に置かれた刀掛け台に大切そうに置かれた白い鞘と白い柄巻、金の鍔の刀。
それに、まだ解かれてないダンボール箱がいくつか残っている。
「荷物の整理は…少し休んでからにしましょうか。
適当な所に座って下さい。」
そう声をかけながら、自分も荷物をちゃぶ台に置き、寛いだ雰囲気。
■ノーフェイス >
「不思議なおうちだってことくらいだよ。
ここの知った顔は、馴染みのバーで用心棒やってるやつくらいだし。
管理人たちが建物全体使ってパズルでもやってんのか?
大変だけど、刺激的でもあるね。ちょっと楽しそうかも。
……あ、遊びに来た時に迷っちゃったら迎えに来てね?」
どの足から部屋を出て/入って、どう歩いて外に出る/中に入るか。
ルーティンワークは、自然と染み付いて、帰巣本能と結びつく。
それが一定しないのは明確に脳に干渉され続けること。不思議な場所だ。
「密室の閉所なんて、ロマンチックなだけじゃないからね……」
レトロな金属製のインジケーターの針が動くのを眺めながらぼやいた。
こういう和風なスピリチュアルスポットは不慣れのようだ。
怖がってはいないように見せてはいる。
――が、こういう状況でちょっかいかけてこないあたり、
少し警戒が出てるのは見えるかもしれない。
「なんて読むのコレ」
果たしてたどり着いた居室で入口からつまずいた。
西洋人、霽月之室が読めない。達筆だし。
「お邪魔しまー……す……わぉ、思ったより広いじゃん!けっこう綺麗だし。
畳だー♪ いい匂い。 イイね、これで家賃安いんだろ?
くじ運が試されるってのは聞いてたケド、いいとこ引いたんじゃなあい?
――なんかそういうときハズレ引きそうなイメージがあったし」
こそっと顔を出してみると、なにやら上機嫌にぱっと顔を輝かせた。
靴を脱いでひょいと器用に揃えると、鍵を閉めておく。
そのままガサ…と畳に荷物を置いて……
「……ううん!お風呂見ちゃお!ついでに洗面用品置くから!」
美容液やら乳液を買う買わないで店頭で大モメした結果の、
どうにか買わせたシャンプーとリンスと洗顔料。
それにかこつけてフェイントかけながら浴室に突撃するのだ。だって気になる!
■緋月 >
「ああ…確かに難しかったですか。
霽月、ですよ。 雨が上がったあとの月という意味です。
光風霽月――心が澄んで蟠りがなく、爽快だという熟語にも使われている言葉です。」
こちら純日本人。
そういった四文字言葉には詳しい方である。
「はい、割と当たりの部屋だと言われました。
その分家賃が高めだと言われましたけど、それ程大きな差がある訳でもなかったので。
――って、今なんて言いました?」
耳聡い。ばっちり聞こえていた。
そしてまさかのフェイントである。
「あーっ! 勝手に入ったらダメですよ!!」
お風呂はプライベートな空間という認識。
止めに入るが間に合わない!
尚、肝心のお風呂は壁こそ時代がかったタイル貼りだったが、浴槽や床は現代的なアパートで
よく見られるタイプのものだった。何ならシャワーまである。
「――これもちょっと家賃がお高めな理由です。
前の住人が改造したんじゃないか、って。」
尚、浴槽そのものは流石に狭い。
そして、置かれていたのはリンスインのシャンプーだった。
■ノーフェイス >
「……雨上がり、ね……」
咀嚼するようにして。美しいもの、その語感も含めて。
こうふうせいげつ、とくちのなかで転がしてはみたものの。
雨、という言葉に興味をそそられたのは確かだった――特別なものだ。そうなった。
「……いや、なんか"うわーん!"って変な部屋つかまされてそうだなーって……
なんだよボクんちのも使ったろ!なんならボクも使うトコだろ!」
不運をよく引く印象だったらしい――そして飛び込んだ。
ほぉー、と改造された浴室を見やり、棚に買わせたものを並べようとして。
上機嫌な顔がすっと険しくなった。溜め息。
「檜風呂ー、とはいかないか。
……まったくもう。悪いモンってわけじゃないだろうケド」
文化圏も感覚も、なにもかもが違うような二人だった。
苦笑しつつ棚に並べると踵を返して。
「緋月。 手、出して?」
■緋月 >
「なんですかその理屈は!?
使うって、どう頑張っても一人が限界なんですよ此処!
…あそこみたいに大きな浴槽じゃないですし…。」
流石に浴室の小ささについては気になってたらしい。
こればかりは仕方なし。何しろ家賃激安の幽霊・怪異物件である。
現代的浴室に加え、トイレが別なのが贅沢といっていい位だ。
「?? なんですか? 手?」
そして、こちら全く分かっていない様子の少女。
言われるままにすっと手を出す。
■ノーフェイス >
「……………なんで一緒に入るの前提なの」
入れ替わりに使うってコトだよ?って首を傾ぐ。
……遅れて、にやりと笑った。引っ掛けたワケではなかったが。
「ああ、そういう――うん、そういうのはボクんちでね。
髪の手入れも肌の磨き方も、まだ教えきってないしな。
でもイイじゃない。ドラム缶みたいなお風呂じゃなかっただけさ」
案外清潔そうで、住みやすそうだ。
やらかさない限り路頭に迷うこともなさそう。
そして懐から中央が細くなった宝石を取り出すと、パキ、と折った。
収納の魔道具だ。長方形の小さい木箱。表面には秦織物店、とある。
「あげる。引っ越しじゃないほうのお祝い。開けていいよ」
秋の日。そろそろだった。当日渡しとはいかなかったが。
中身は丁寧な内張りにおさめられた、深い紅の細織りのリボン。
入れ替わりに畳へ戻ると、ジャケットを脱いでくつろぎの姿勢。
■緋月 >
「………言いそうじゃないですか、一緒に入る?って。」
ちょっとむすっとした顔で、そう一言。
まあ、要はそれで弄られるのがちょっと癪だったようで。
結局自分が墓穴掘ったのだけれども。
「…まあ、正直この型の浴槽は居候生活で慣れてしまったので、
続けて使えるのは正直有難いです。
トイレも清潔ですし、手を入れてくれた以前の住人の方には感謝です。」
と、渡されたのは織物店の箱。それも木箱。
促されるまま開ければ、これまた随分とお値段の張りそうなリボン。
入れ物も中身も、手間をかけているというのがすごくよく分かる。
「え…えぇっ!? これ、随分お値段したんじゃ…!」
流石にびっくりである。むしろびっくりするな、という方が無茶。
「……その、有難く、いただきます。
…出来ればあんまり驚かせるような品は…私の心臓がちょっと…。」
如何なる理由とて、贈り物は受け取らぬが無礼。
しっかり受け取って置く事にした。
とりあえずは大事にしまって、然るべき時にでも。
普段着に合わせるには、少々優美に過ぎる。
(……バイトが見つかったら頑張って働いて、これに合う服を仕立てて貰わないとですね。)
こちらも畳のリビングへ戻り、箱の方は刀掛け台の隣に。
大事な物を置く仮スペースなのか、周囲に余計な荷物はない。
「買い出し、色々手伝ってくれてありがとうございます。
後は残った分の荷解き位で、此処の引越しもおしまい、ですね。」
外套を脱ぎ、畳みながらこちらもくつろぎ。
背負っていた大剣と腰に差していた刀袋は手近な処に置いておく。
■ノーフェイス >
「……………」
前の住人ってどうなったんだろう。
言わぬが華である気がした。こういう想像が働くのも外観のせいだろう。
「すーぐおかねのハナシ……浴衣一式贈るよりは全然ソフトだったでしょ。
いいかなーと思って仕立ててもらったんだ。原産の絹糸でさ。
……普段遣いにと思ったんだケド。最初に浮かんだ刀袋の帯のが良かったかな」
ちゃぶ台に頬杖ついて、ちらりと掛けられている彼女の愛刀を盗み見る。
つけてくれないの……?と改めて向いた視線が訴えているが、
明らかに鮮やかな色合い。様々な寓意が籠もった贈り物なのは間違いないが、
「おめでと」
伝えるべき言葉は、それだ。柔らかく微笑んで、寿いでおく。
「……こっちもおめでとう、かな?
ボクは島に来てから独り立ちまでに一年くらいかかったし……
随分早いんじゃない? 立派、立派!
……いちおういいお肉買ったけど、すきやき……だっけ。
作り方は調べながらかな……」
そっちは、引っ越し祝い。
「どう?ここまで色々あったろ」
振り返ってみて、感慨もあるだろうか。
出会ってから四ヶ月ほど。随分長い時間が経った。
■緋月 >
「どうしたって気になりますよ…浴衣一式も最初はびっくりでしたけど。
まだアルバイトの先も見つかってない、何ならこっちに来た時は無一文同然だったんですし。」
自分でも気になってはいるが、こればかりは如何ともしがたいという雰囲気。
しっかりお金を稼いでいければ、少しなりともマシになるのだろうか。
「う~ん…それもそれで、使うのを躊躇ってしまいそうな…いや、服とかに比べればそうでもないのかも…?」
疑問形。まあ日用品である。装飾品よりは使い易いか。
声を掛けられれば、
「――ありがとう、ございます。」
伝えられた言葉には、シンプルにそう一言。
ああ、早い所貰ったプレゼントに見合う位の、ちょっと贅沢なお洒落ができるようになりたい。
その煩悩が口から洩れる事は防げたが、普段着である書生服に視線が向いてしまうので、
あまり隠せているとは言い辛いかも。
「まあ、そうですね。本当に色々あって、夏の休みが終わって正規に学生として通学するように
なってから、一人暮らしについては考え始めてました。
ご厚意は有難かったですけど、仮の身分じゃなく名実とも一人の学生となった以上は、
いつまでも寄りかかって居候生活…というのは、よくないでしょうし。」
ただいまやおかえりなさいを言う相手が居なくなったのは、少し寂しいですが、と、締め括る。
それ位には長い、共同生活であった。
――軽々しく口に出せないような事も、随分と色々あったが。
■ノーフェイス >
「…………」
遠慮して、図々しくなれない。
そんなもだついた様子を、どこか――そう、懐かしげに眺めていた。
微笑ましい、というよりは……少しだけ、胸を締め付けられるような感慨。
お金が自由になって、今や衣食住に困らない。
安くて丈夫なオーバーオールでなく、シルクにもレザーにも手を出せるようになって。
……心が満たされたかといえば、
「……楽しいよ、じぶんで服選ぶの。
キミがいろいろ選べるようになったら、いっしょに行こうか。
それとも、こんどはキミがボクを驚かせてくれる?
けっこう浴衣姿にも、ドキドキしてたんだケドな」
お見通し、かどうかはともかくとて。
洒落者である自覚はあるし、それが仕事だ。
穏やかなままに微笑んで、そっと言い添えた。
「その服。……キミの、故郷とのつながりなのかと思って。
正直すこし羨ましくて。脱がせてやりたかったのもホント」
そして目論見通り、あの白い浴衣の夜があった。二ヶ月も前の話。
「……居心地いいんだよね。
いつまでもいていいって言われてても抜け出せなくなりそうで。
ボクは曲とか作り始めたら、ひとりの時間が欲しくなったのもあるケド。
……そしたら、外で逢えたときがもっと嬉しくなるね」
似たような状態、ではあったらしい。
でもそのぶん、おひさしぶりやこんにちはが、その代わりになる。
ひとときの別離は、きっと新たな始まりのこと。
「まぁボクはそいつとはほとんど会ってないケド」
よろしくないお別れをしたらしい。苦笑して。
「――で、……この部屋の防音は?」
そういうコトのお誘い。
……では、ない。口の前にかざすのは、オモイカネ8。
いざとなれば文章のやり取り。
楽しいお食事の前に、苦い話題は済ませておきたい。
件の話についてなにか進展があるのかと。
■緋月 >
「そうですね…じゃ、その時はご一緒頂けますか?
まあ、まずは働き口ですけど。下に売店があって、そこでアルバイトを募集してるそうなので。」
採用されて働ければ住居と働き口で一石二鳥。
実においしい。
「まあ、それはありますけど。
どっちかというと、里に居た頃は浴衣に近い服装が主でした。
稽古の時に、道着に着替えるので――里を出て歩く時は、これが一番道着の感覚に近いですし、
動きやすいというのもありましたし。」
色気も何もあったもんじゃない返答。
これは自分で服を選ぶのも難儀そうな。
「――まあ、それはそう、ですね。
何も死に別れでも今生の別れでもない。
学園でも会えますし、約束して会いに行ったっていい。
…此処に慣れるまでは、少し寂しさが残りそうな感じですけど。」
長く続いた習慣。下手をすると、以前の居候先に足が向きそうになる事もある。
それを思い返すと、あの共同生活が本当に「日常」になってたんだ、となるものだ。
「……………。」
防音の確認と、オモイカネ8について見れば、無言で部屋の四隅を指差しながら窓にカーテンを引く。
よく見れば、天井近い場所にお札のような紙が一枚ずつ貼られている。
「――万妖邸、色々と「起こる」らしくて。
入居の時に、そういった事を抑えて貰える「処置」をしてるんです。
その中に、「防音」も入れて貰いました。
お陰様で何事も起こらず、隣の部屋の騒動も聞こえない。
快適な一人暮らしです。」
暗に、防音はバッチリと示唆する一言。
自身も無言で懐を探る。
取り出したるは、青白い八面体。
■ノーフェイス >
「お嬢に接客できるかな~。でもキミ、けっこう愛想はイイもんな……」
にまにまと笑いながらも、同道の申し出には一も二もなく頷いておく。
楽しみがひとつ増えた――が。
「僭越ながら、ボクがいろいろ教えてしんぜよう。
でも、そのどれも忘れないほうがいいよ。つながりも寂しさも。
忘れたらなくなっちゃうから、心のどこかに残しておくといい」
逢えたときに、その寂しさも少し蘇るかもしれないけれども。
あるいは、いつか逢えるかもしれぬ人たちのものに。
「ボクはそういうのないからなぁ。
背も一気にでっかくなったから、昔の服とかあっても入らないし。
……これでも、キミよりうんと小さかった時期があるんだぜ」
くっくっ、と笑いながら、彼女の視線を追った。
「それじゃあ、いろいろ遠慮はいらないね。
泣こうが叫ぼうが―――、……?」
そこで示されたものに、訝るように目を細めて……
これ、どこかで見たような――そう、確か、あの――
「……ばっ、何でッ、キミこれ……!
放射性物質みたいなモンだぞ! 変な幻覚見てないだろうな……!?」
大慌てでそれをひったくろうとする。叶えば。
こっちが叫ぶハメになった。
■緋月 >
「しー…ですよ。」
大慌て状態の血の髪のひとの様子をちょっと揶揄いたくなったが、流石にそこまで空気読めなくはない。
指を口に当て、しー、のモーション。
「……前置きしておきますが。
これからの質疑応答一切、録音は勿論、メモもだめです。
「それ」をくれた方から、強く釘を刺されました。
言葉を知ってるだけで、とても危ないと。」
まずはそれを伝えて置く。オモイカネ8を使ってのメモや録音、一切禁止。
頭にしっかり叩き込む事。勿論、余人に口走るとか厳禁だ。
取り出したものをひったくられるのは敢えて見逃す。元々、彼女に渡す筈だったものだからだ。
「――第二方舟で、それと同じか、よく似た何かを見たんですね、紅音は。
安心して下さい…というのも変ですが、それは私が「預かった」ものです。
渡し主は、あーちゃん先生です。あなたになら、きっと何かに「使える」だろう、と。
しかし…その反応では、それと同じ「何か」を見たか触れたかで、怖い思いをしたんですね。
幸いというか…私は、そういうのがありませんでしたが。」
ふぅ、と一息。
放射性物質が何かは知らないが、恐らく一部の者には危険な代物なのだろうというのは納得できた。
■ノーフェイス >
「記憶力には自信があるケド……」
怖い思いをしたんですね、と言われると。ぴくっと反応して。
少しすねたように唇を尖らせる。否定しようにも、先日会ったとき、
自分の弱さと心のきしみが顕在化してしまったのも確かだ。
戻ってこられなくなる――そんな感覚を覚えたこと。
否定する言葉は出てこなかった。
「…………こいつは。
EV-00神山舟は、第二方舟の前身の連中が造った兵器だよ」
少し持て余しながらも、顔の横でぷらぷらと揺らして。
「特殊な金属の外装に、ジュースよりも更に圧縮した神様を核として埋め込む。
まさに、神の器……神器だな。連中は《星の鍵》って言ってる。
そのジュースになった神様に侵食される感覚があったから……正直怖いよ。
……ん、あいつ、ボクが使うことを前提にしてたの?」
少し意外そうに、視線を緋月に向けて。
「……つづけて」
他言無用、記録禁止の情報。
だいぶ落ち着きはしたので、手元にその立方体を休めた。
まだ、ポーラのように、形を変じたりすることはできない。
その状態であれば侵食影響はないようだが――まだ、自分は条件を満たしていない。
■緋月 >
「神器、ですか…。
それにしては、随分と…何と言えばいいのか、冒涜的な作り方ですね。
……私が持っていた神器とは、何と言うか、真逆の代物です。
あーちゃん先生からそれを預かった時、言われたんです。
紅音ならそれを「何に使えるか分かる」、と。
同時に、もしかしたらちょっと怖い思いをするかもだけど、とも。」
ため息。
「……紅音は、「あの名前」を知ってるんですよね。
だったら、「第一方舟」については…知っていますか?」
まずは其処から。それが全ての開始点といえる。
それを確かめねば、始まらない。
■ノーフェイス >
「ボクの肢体は、神様と親和性が高くてね。
それを示すパラメータに、高い数字が出てた。だからだと思うんだケド」
いまいちしっくりこない。使うのであれば、むしろ。
武器としての形質。刀としての形状で扱っていた記録。
いきなり斬りかかられた、という言葉からして、使い方はむしろ緋月のほうが知っている筈。
――なのに、自分にだけ用途が示されている、ということは。
「…………わかった」
少しだけ、深刻な顔をして頷くと。
頬杖をついていた手を前に出して、掌を上に向ける。
そこに満ちるは、わずかながら、しかし確かな――
――黒き神の気配。今や緋月が持ち得ぬ、貴き神器と同じ反応。
現れたのは、無地の革張りの表紙の、分厚い書物だ。
それをテーブルの上において、彼女のほうに差し出した。
表紙の革張りは、とてもすべすべしてて触り心地がいい。緋月も知っている感触だ。
これが、この前会ってから今日までの、こちら側の大きな変化。
「……第二方舟で見た資料をボクが得た情報で再現した書物だ。
ボクが読むのに4時間強かかった。きょうと明日で頭に叩き込んで破棄しとけ。
間違っても持ち出したりするなよ。危険物なのは間違いないから」
情報共有にはうってつけの権能だ。
ただの本を即座に製本できる。こんなに便利なものがあるか。
「前身の研究所。主導していたメビウス・コアトリクエの……
……なんらかの"失敗"と失踪。そして"彼女"の精神が崩壊した、ってのは」
記録上は、確認できている。
ポーラ・スーの主観情報はいざ知らず。