異邦人街に設けられた、信仰のための地区。
異邦人たちが携えてきた信仰などを守るため、異邦人たちの信仰に合わせた宗教施設が立ち並んでいる。
また、この世界の宗教施設もここに多く並んでいる。
その宗教や信仰によって当然ながらその礼拝の仕方なども異なるため、施設は多種多様である。
祭祀の実行などは信仰を持つ者たちに任されている。
参加者(0):ROM(1) 
Time:18:34:22 更新
ご案内:「宗教施設群」から幣 美奈穂さんが去りました。
■幣 美奈穂 > 部屋の掃除も兼ねて、竹ぼうきで神様の周囲を払います。
ぺしぺしぺしっ、遠慮なく神様を叩き、頭の辺りではしつこく掃き叩きます。
繰り返すと、埃もあり、大きなくしゃみと共にうっすら目を開ける神様。その神様ににっこり美奈穂。
「神様。なんでまだいらっしゃるのですか?
この前、お伝えしましたわよね?
荷物も纏めましたわよね?
なんで葛籠が開けられているのですか?」
にっこり圧です。
身を起こして言い訳する神様を、だまらっしゃい、と何度も箒で叩きます。土下座する神様のお尻を箒で叩いて、身繕いに向かわせます。
その間、美奈穂は部屋を片付け、葛籠を確認。
乱雑にされた中身を整え直します。お土産のお酒は、もう買いに行く時間はありません。仕方がないので、自分のおやつのイモケンピを納めておきます。
身繕いをしてきた神様に、
「はい、これを首に巻いてくださいませ」
取り出したのは、どこにでもあるチョーカーリード付き。
しぶしぶと首に巻く神様、それを確認して、リードの先は神使の狛犬さんに。
「しっかり、飛行場までお願いしますわ。
筋斗雲便がすぐに来ますように、お伝えしておきます」
空港まで連れて行くのは神使さんにお願いします。
だってーー。
「――次は、どこの神様ですかしら?」
そう、後ろに浮いてきている、鶏さんな神使さんや、狐さんな神使さん。
他にも、まだ出雲に出発していない神様はいるようなのです。
美奈穂の戦いはこれからなのです。
■幣 美奈穂 > 毎年、出雲である神様の宴会。
そろそろ始まる神在月・神無月の時期。
そう、もう出かけてなくてはいけない時期であり、先日、毎年遅れる可能性が高い神様に、念には念をと口頭でも強く「もう時期です」と伝え、そして旅支度をさせ、荷物詰めも手伝ったのです。
ーーそれなのに、その神様の一部が、あろうことかまだお住いの神域の中に!
ちゃぶ台に茶碗、そしてお供えされた一升瓶!
そしてだらしなく酔いつぶれている神様!
お土産にと詰めてあげた、島の名産日本酒。出掛ける前に飲み始めてしまったようです。
きりりっと眉が上がる……気はしていますがへにょりとしたまま迫力がない美奈穂。ため息を付く狛犬さんに力強く?頷きますと。
手にした竹ぼうきを構えまして。
「もう出雲行かないとだめなのでしょう!
早く着替えてっ、荷物纏めておきますから!
起きてくださいませっ!」
竹ぼうきでぺしぺし神様を叩きます。
これが、美奈穂に力があれば痛いのでしょうが、所詮は美奈穂の振るう竹ぼうき。それでも素手でべしべし(ぺちぺち)するよりは威力があります。
邪の力だとそれでもよく払えるのですが。
煩わしそうに寝たまま手を払う神様。
流石、現役神様。手を振るだけで強い神聖な風が生まれますが、神使の鶏さんが飛ばされそうになりますが、ぐっと美奈穂は耐えます。
ここで頑張らなければ、"常世島の神がまた遅刻した"なんて言われてしまうのです!
■幣 美奈穂 > 今日のお仕事は、宗教的なものです。
きりりとしたお顔つき、頭には鉢巻きで気合を入れています。そして手には武器を携えます。
今日の美奈穂は本気なのです。
「もうっ、まだぐずぐずしてる方がおられますの?」
ぷくっと少し膨れるほっぺ、先週に回覧板でお知らせをきっちり回したのに、まだ居座っている輩がいるそうです。そんな美奈穂の斜め前歩むお供は、少し怖い顔のおっきな狗さん。美奈穂が小柄なだけに余計に大きく見えます。
もしかしたら乗れるかもしれません。
その頭にはノラ猫さんが乗っています。
後ろには狐さんや鶏さんも付いてきています。
「こっちですの? あれ? もう出発した方ではないのですか?」
宗教施設群、その建物、の少しずれているところ。
どう見ても何もない所。そこで美奈穂を見上げる狗さんが頷きます。
首を傾げさせて、それから改めて呼吸を整えますと。二礼二拍一礼をしまして――空間に手を伸ばせば、横にずらします。
そうすると、空間がずらされて入り口が。
神聖特化な美奈穂、運動神経などはまるでないのですが、気軽に結界に入り口を作ってしまうのです。
「おじゃましますー……あ~っ!?」
ご案内:「宗教施設群」に幣 美奈穂さんが現れました。
ご案内:「新トリニティ教会 - 全世界大変容追悼式」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「新トリニティ教会 - 全世界大変容追悼式」から藤白 真夜さんが去りました。
■藤白 真夜 >
「……そっか」
問い掛けが正解しただとか。
はじめて見るやられ顔にしてやったりだとか。
それでもやっぱり挑むことを続ける精神性だとか。
そのどれも、ヨかったけれど。
一番は、やっぱり……ここにはもう無いなにかを、想う姿。
それが誰かとか、なにかとか、聞こうとはしない。知ろうとも。
ひょっとしたら……世界と時をも飛び越えた先の、だれか。
その想いは……決して、永遠に、届くことはない。
……だから、綺麗に思えるのだ。
少し、羨ましいくらいに。
真夜ならともかく、わたしじゃこうはいかない。
交わらない認識。だからこそ見えるキレイなものを、わたしは信仰しているのだけれど。
「……へ?
うわぁ~……それ結構タイヘンだ……。この島に閉じ込められてるから、なんだけどなぁ。
……まぁ、いいや。鎖を外す──とはいかないけど。いざとなったら悪いコトするから」
そっちのほうが大事……とは言わないけど。それくらい、魅力的な罪のりんごであることにはまちがいなかったから。
「……ん。
よく生きてて、えらい。……次の一年も、ね?
踏み外したくなったら、いつでも待ってるから」
あれだけの熱量で、死を覚えている。ずっと、意識してる。じゃあ、あるはず。まだ、その願いが。
永遠に届かない別離。それを終わらせる唯一の方法は──
……まあ、目下島を出る方法を慌てて考えるくらいには、その線は望み薄なんだけど。
「ちょっと早いんだけどなあ。
でも、ぼんやりふんわりなつもりだったのに……すごく、綺麗なものが見れたきもち。
……ありがとう」
手と手を重ねる。ほんのすこしの、熱。でも、もっと熱いものを確かに感じた。
「──おやすみなさい。
あかい川の底まで、夢が届きますように」
一年も、あとすこし。
でも、そんなお目出度いものはわたしの中に無かった。
いつか見れる、その夢を……心待ちにして。
■ネームレス >
問われてみると。
「……………………」
眉根を寄せて、瞼をさげて、黄金瞳がじっとりとその顔をみつめる。
端的にいえば……ものすごくいやそうな顔をした。はじめて見せる顔だ。
そして、肩をわかりやすく上下させて……ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
正解だと、このうえなく正直にその顔が語っていた。
美味しくいただかれると考えると、ちょっとおもしろくない。ふんだ。
「いまのボクならと思うケド、その反面。
まだ、理想には届いていないだろうから――どうだろうね」
あのとき。
はじめて歌った、路地裏の記憶。
そのとき問いかけたこと。求めたもの。この存在の根幹ともいえる餓え。
「けっきょく、ずっと埋まらない空白だ。
後悔と痛み――絶望もまた、ボクを形作る構成要素なんだ。水のように。
その大切なひとたちのかたちをした虚から、ボクは力を引きずり出してる。
……なにせ、キミが尊ぶ死に様すら、ボクは知らないままなんだから」
気づかぬうちに、離れているうちに、死んだという事実ばかり。
慰霊碑に刻まれた他人事のように、事実が伝えられただけ。
交わしたい言葉も、聴かせたい歌も、問いたい疑問も、もう届かない。
死は永遠の別離であり、剥奪だった。
決着などつけられようはずも、ぬぐえようはずもなかった。
傷口から血が流れ続けて、停まらない。生きているから。血はめぐるのだ。
殺し甲斐のある人間でありたい。そのために磨き続けられた魂だった。
ずるいよ。
そう、誰かに向かって、叫ぶような。
ずっと、ずっと木霊している。
その有り様が、より愉しませてしまうのか。
食まれるばかりのリンゴであるのは、悔しくもあった。
「………そういえば。あっちで一位獲ったから。
死に様を観るためには、海を超える覚悟が要るよ」
さらりと。まぁ別に不安はなかったけど?当然の結果ですけど?みたいな顔をして、
差し出された手に対しては、どこか得意げな様を見せるものの。
それを問うのは、殺人鬼にだけ。
どこまでも追いかけてきてね、という我が儘だ。鎖に繋がれている相手に。
「うん、また会おうね。
あれからいつでも死を感じてはいるけれど……
やっぱり、ホンモノには敵わない」
手を、――重ねた。
手のひら同士をあわせる。ぐっと押しやって、指と指を組む。
いまはそれをつなぐナイフはない。サイコなシュミは、ちょっと場違いだから。
「おわかれの言葉は、あれがいいな」
とても優しい、あの言葉。
この殺人鬼をみて生まれた歌。
きっとそろそろ、おねむの時間だろう。
■藤白 真夜 >
「……ふふ。わたし、少食だから。
メインだけあれば十分なの」
叫ぶような沈黙。聞こえない怒り。照れ隠しみたいな微笑。
その全部、立派にメインディッシュだった。
「……そっかぁ。ちょっと意外だったの。
嫌な言い方だけど……あなたに、そんな余裕あるのかな、って。
死者を悼むような、余白」
もっと……前だけを見て、進んでいく存在に成れている。
ノーフェイスの、……名前を捨てた彼女を、そう信じていた。……強いところばかりではないことくらい、わかっているつもりだけれど。それを押しやる完全性を、身につけていると。
でも、違った。
「でも、違ったんだね。
……当てよっか?
──『ボクのうたを識る前に死ぬな』……じゃない?」
想像よりも、もっと前を向いているからこそ、その喪失を悔やむことが出来る人間。
ただ、過去を振り返るような追悼ではなくて。前を向きながら、どうしようもなく切実に、自分の世界だけをみれるひと。
死を、終わりではなくて、機会の損失と捉えられる強かさ。それだけならただの冷血漢だけれど、あの怒りがそれを否定する。
「…………あ」
一瞬、きょとんとした。──今、別の女のこと考えなかった? なんて、詰め寄りそうになるくらい、硬直してから。
……酷く、親しんだ感情に触れた、気がする。
やわらかい微笑みと、全く別のもの。でも、ちがう。……わたしにそれは、酷く甘いものとして届くから。
「……ほんとぉ? 葬式で再会を祝うなんて。ほんとにホラー映画みたい。サイコパスが出てくるやつ~」
だから、ちょっと拗ねた。
だって、それ別の女宛てだから。ふくざつなきもち。
素直に嬉しいのと、露骨にうれしいのと。
なのにわたしに届いてないのも、それをカンジれることも。……ぜんぶ。
──だから、見つめ返した。
優しさとか甘さとか、どこにもない。す、と目を細めて。
あの微笑みは、ただの“煽り”。さっきの意趣返しだもん。
「ううん。また会おう、よ。
……でしょ?」
それは、ただ求める瞳。
自分の知らないものを、自分の求めるものを。
……私に無いものを、与えてくれるものへの感情。
「……ほら。やくそく。
再会の」
そんな感情は、す、と引っ込めて、……代わりに、握手を求めるように手を出した。
……にっこり。受けてくれるでしょ? って。
■ネームレス >
「さてね」
なんのことだか、と誤魔化した。
――可能性には思い至っても、あのとき殺人鬼は自分に語りかけてきたが、
自分からは、そうした干渉をした覚えも、覗かれた自覚もない。
なにが視えた、と問い質す藪蛇は、すくなくともいまではない。
……つねに頸を狙われてるとわかったうえで、晒している。いまはタイをきっちり締めてはいるけれど。
狡猾な蛇よろしく、その牙が剥かれた時に応じられるかは――いまは、判らない。
「現地人だよ、ボクは」
そりゃ詳しいさ。
いまでもメモリアル・デーはあるだろう。
戦没者のなかに、第三次大戦と電流戦争の兵役のぶんが書き加えられた違いはあれど。
――明らかな韜晦だった。
「近代国家、なんてモノになってからはデメリットのほうが明らかに大きい。
成すならばテーブルの上で――なければ、ならなかったんだけど。
まあ、やりたくてやる戦争ではなかったんじゃないかな、どこも、だれも」
それでも無為にせぬように、人々が歩んできた時が今なのだろう。
そのあたりは、わからない。戦争についてはともかく、当時のことは想像で推し量るしかない。
いま悲しい顔をしたって、それはきっと、傲慢で白々しいものだから。
「…………今晩のおかずにでもしてくれるの」
覗き込まれた顔は、いつもほど演技がうまくなくて。
つくったような冷静さが張り付いていたから、傘をさしていたのだ。
まだ、未熟だった。十代のこどもは、割り切れない感情を武器にするモノは。
少しだけ、沈黙のあとに、くく、と肩を震わせた。間髪入れず、
「ずっとだよ」
遅れて、さっきの問いに応えた。
「忘れたことなんてないよ」
だから、思い出すということもない。
視線は、葬列に。静かに、しかし、現在を見つめていた。
憤懣もなにもかも、その益体のない感情を蓄積し続けながら。
「ボクにとって死や喪失は公平でも平等でもない。
いまこのとき、どこか遠い国で誰かが死んでも、どうでもいいことだ。
第二次世界大戦のときだって―――第三次世界大戦のことだって。
けっきょく、ほとんどの死者が、他人だから。
ただボクは、ボクが想うのは、ボクの認識から……
永遠にいなくなってしまったひとたちのことだけ」
きっと、誰かが忘れて押し込んでしまっているもののような。
きっと、今すぐ忘れて前を向いて生きていくほうがずっと楽なこと。
でも、自分はきっと、そうして失うまでは――あの葬列のなかにいる者たちと同じだった。
多くの現代を生きる者たちと同じだった。
そして、久しく。
「また会えて嬉しいよ」
無事でいてくれてよかったと。
柔らかく、優しく、甘く。
藤白真夜に、微笑んだ。
■藤白 真夜 >
「……ふふふ。たのしみ。
そっか。……キミにも視えてたんだね」
あの、水底での回想。
それは、忘れてたなんて言ったらそうもなる。
楽しみだけど、それこそ、真夜の問題だ。わたしは、愉しむだけ。
己の過去から来る喜悦が、何をもたらすのか。
絶望するか、超克するか。そのどちらだとしても。
(てことは、わたしが視たことバレてないのかな。
……結構気まずいんだよね、あれ。……相手に倣うか。一番イイとこで──)
悪企みは、そこで途切れた。
まるで歴史の教科書みたいな喋り口に。
「……なんか、詳しくない?」
特段疑うわけでもなく、純粋な感想。実際、この女なら有り得る。とにかく人間としての標準機能がいいところ。素で覚えてる、が説得力を持ってしまうから。
「……でも。そこが人間の……醜いけど、いいとこなんじゃない?」
目前の、細雨にぼんやりした葬列を眺める。
葬式、なんてシステムがそうだ。
そのときだけ、都合よく死を思い出して。ハレとケで、日常と非日常で分かつ──その傲慢さ。
「死を踏み越えていく傲慢さ。
戦争なんてやらなきゃいけないときには、そういうものでも使えてしまえる。
……確かに、綺麗とは言い難いけどね。
醜くても、前に進もうとしてるの。わたし、そこはやっぱり好きかもだ」
生き残ることの意味も。死んだ人間の沈黙も。
死をどう評価して値踏みしようが、気にせず色の無い瞳で見下ろした。どうあったって、過ぎたものだから。
人間の生き汚いところ。そんなとこを見せられるから、すぱっと終わらせたくなる愛しさを、見出していた。
「……ぼんやりしてるのが嫌なんだね。
だから戦争なんて良いことないって言われるんだ」
正直に言うなら、嫌いじゃない。
粗雑に散りゆくそれを、それでも嫌とは言えなかった。言葉のない数多の悲劇があったはずだった。そのどれも。目に見えないほど、小さくなってしまうくらい、遠いものでも。
……想いを馳せるには、十分すぎるほどの華だった。
「……」
目を閉じたカオを、ちらりと見やる。瞳が見えないのに、燃えてるようだった。
「あなたには、ピントがあってるんだ、たぶん。
……今日は、思い出す日なんだよ。死んだなにかを。
あなたのそれも、……わたしからみると、好き」
まるで、焼きごてを押し付けるみたいな、思い出し方。
怒りとともに、刻みつける感情。
何が出てくるかな、なんてつついてみたくもあるけど、……きっとその感情も、いつか音楽に載って聞こえてくる。
だからただ、その燃え立つ祈りのような回顧を、愛でた。目を閉じてるのを良いことに、じ、とその顔貌を覗いて。
■ネームレス >
「……………」
ゆるし、というよりは。
まるで煽るような、蠱惑的な物言いだ。
冷たい炎が、じっとその様子をみつめていた。
「そりゃ、ね――いきなり突っ込もうなんて考えてない。
公演直後くらいブッ飛んでなきゃ、段取りも雰囲気もちゃんとするぜ、ボクは。
普段はしっかり、反応をみたいタイプだもの。
だから、真っ暗なのはあんまりスキじゃなかったりするんだ。
息遣いも音も、それだけでいいものだけど――そうじゃない」
ふ、とこぼれた吐息が、未明の冷気に白く凍った。
「いちばんイイとこを突かなきゃ――」
二度も、三度もやれることじゃない。
そして、他の誰にも譲るつもりはなかった。
藤白真夜は、この手で――
「……さすがにボクもだよ」
苦笑した。もう百年以上前に終戦した大事件である。
文字でだけだ。歴史の授業で習う過去、まさしく歴史だった。
「大変容のずっと前から、合衆国には――
五月の暮れに、戦没者を悼む日がある。ちょうど今日みたいな。
たしか、もっとむかしの……南北戦争が興りだったかな。
……その追悼の日には、式典の会場に真っ赤なポピーをたくさん飾るんだ」
まるで実際に見てきたかのように。
綺麗だったな、とでも言いたげな述懐だった。
視線は、ふたたび弔問の葬列へと。
「……きっと。
第二次大戦から50年以上経った、大変容直前の世界も。
こんなふうに――白々しく悼んでたんだろう。
ずっとむかしに戦没した、多くのひとのこと……
なんとなくそうだったんだろう、って、遠いむかしに、思いを馳せて……」
眼を瞑った。
思い出したかのようにあの事件を悼むのだ。
何の了解もなく間引かれた、世界の半分を。
未来へ歩もうとするこの世界の人類にとって、尊い犠牲だと言わんばかりに
ふざけるな。
「だから……なにも、言えないよ」
あの葬列に対して、好きも嫌いも。
ここで、確かな言葉として、紡ぐことはできない。
だがそれでも、今日が初めてではない――きっと、この島に来てから、毎年。
まるで自傷行為のように。傷をより深くして確かとするように。
瞑目は祈りではなかった。煮立つような感情を、押し留めようとした。
解き放つ場所は墓碑ではない。
それでもまだ、沈黙を雨音に晒してしまう程度には、腹中におさめるには熱すぎる。
■藤白 真夜 >
「──。
……ふふ。
わたしは、こんなだから、単純に考えちゃう。
どうすれば、一番鮮烈になるか」
聞こえた言葉に、不思議な合点がいく。でも、それこそ確証は無い。今のわたしには。だから……、
「ずっと、ずっと、大切に……想って、しまい込んで、大事にしていたものを。
……気づかず、忘れて、足蹴にしてたとき。
それが、一番効くとおもうんだ」
いつか来るとき。……きっと、そう遠くないとき。
その鮮やかな過去までの時間は、彼女に何を与えてくれるのか。
想像したら、口元が緩まずにはいられない。
……どう転んでも、わたしは愉しめるから。
「──花を摘むように、ね。
戦争は……それこそ、義務でしょう?
だからこそ見えてくるものも、あるかもしれないけど」
途切れた言葉の後を繋ぐように、囁いた。
失われるものの美しさと意味を、……。
また、ふと思いに耽りそうになって、我慢する。今はそうではないのだ。
「ん。知ってるよ。
……それこそ、文字として、だけど」
真夜はそういうのをかっちりやるタイプだ。基本、忘れようとしない。
今のわたしは、そういうのをついでに見てるだけであって、ただ情報として知っているだけだった。
■ネームレス >
「忘れもせずに?」
にじみかけた失笑を、乾きかけた喉に飲み込んだ。
……あの記憶が、事実なのだと確証もないのに。
胸に滾る嫉妬と羨望。それを核とするのは、自分の唯一の友人のほうであるのに。
どうしても、この顔と声に掻きむしられる。藤白真夜に。
「キミの芸術だったな」
彼女の、彼女自身――あるいはその死との間にある、もの。
自分だけの灰色の空間。殺人鬼の抱く美しさ。
今はシャツの襟に閉ざされた首に、僅かばかり意識が行く。
「個人の死に様を思い浮かべるには大きすぎる。
戦争の実録も、キミ好みじゃなさそうだな。
まるで草を刈るようなものよりは――なんだろう。
ひとつひとつを大事にするタイプだろ。じっくりと、じゃなくて――」
軽妙で浮薄な色のようでいて、存外重たい女と感じていた。
ある意味でまっすぐではある。歪みも徹すればそうなる。
「キミは」
言葉を遮るように、こちらもまた視線を向けて声を重ねた。
「ええと」
そして珍しく、視線が泳いだ。
言葉を探したのだ。気遣いや、言葉遊びのためではなく。
そう、日本語だとなんて言えば伝わるのかな――……そういう間だ。
「キミの片割れなら、授業でやってるとは思うんだケド」
やがて、そう前置きして。
「第二次世界大戦を、知っている?」
世界中が巻き込まれ、これも1億人に迫る勢いの人間が死んだという。
――――たった1億人、といえるだろう。
それまではあまりに大きな事件であり、戦争であり、歴史の大きな転換点だったが。
今や歴史の授業では、大変容の、第三次世界大戦の前座に追いやられてしまっていた。