2024/10/10 のログ
麝香 廬山 >  
「ハハ……」

思わず漏れたのは、失笑。
廬山が立ち上がり、ゆらりと見下ろす。

「隣人のことを明日の死人なんていうのに、
 人との出会いが楽しみなんだ。ということは、
 こうして"おトモダチ"になったボクは死んでしまうのかな?」

こうして隣同士の友人となってしなえば、
それこそ向こう側に誘われてしまうのか。
それとも、生者と死者の境界が曖昧なのか。
自らの矛盾に、彼女は気づいているのだろうか。

「そう、今でもその目的は変わってないと思うけど、どうだろ?
 最近は色んな子が増えたしね。ボクは、学園が出来た頃からずっといるから色々見てるよ。
 ……ご覧の通り、監視対象として監視が解けないから、卒業さえさせてもらえないけど」

故に四年の留年生。
それは即ち、麝香廬山は、未だ更生したとみなされていない。
彼女の頬に両手を添え、ゆっくりと顔を近づける。

「キミは、不思議だな。茉璃ちゃん。
 けど、キミが監視対象になったのは、必ず理由があるんだろうね」

吐く吐息が掛かるほどに、鼻先がかするほどに近く、
その曖昧な境界を、女性(ナニカ)を覗き込むようだ。
そこに根付く何かしらの破綻。或いは、能力。


興味が出てしまった。どんな事をすれば、嫌がるのか


爛々と好奇心に、悪意に紅が輝く。
その頬に添えられた両手は決して力強くはない。
振りほどこうと思えば、簡単に振りほどける。
だが、振りほどこうとしないであれば……指先が"輪郭"に沈む
境界を、空間を操る廬山の異能。その何処か曖昧な存在を、
定まらぬ女性(ナニカ)の境界を超え、覗き込もうとしている

ふれるべからず。
おこすべからず。

道の外れた人間に禁忌など、何の意味なさない。
さながら接吻のように徐々に、その内側(ナカ)へと───────……。

崛葺 茉璃 >  
「はい。いずれは / いつの日にか
 それは今か、明日か、遥か遠くか / 何時になるか
 私にもわかりません / 我にもわからぬ」

淡々と日常のように口にする
そして、はたと気づいたように

「ああ……言葉足らずですみません / 拙き言葉にて失礼
 死の予告などではありません / 死の知らせなどではない
 死とは、常に傍らにある……そういうお話です。」

此岸と彼岸。それは遠くて近い。
気づけば、足を踏み入れてしまうことなど容易にある。
今このとき、この瞬間にも、命を落とすものはいる

「そうですね / 然り
 学園には、様々な人が増えてきました。異邦人然り……
 賑やかなことですね」

何処か楽しげに口にする
相変わらず、曖昧なままであるが

「えぇ、まあ……お恥ずかしながらのことですが」

監視対象になった理由。
当然のことであるが、それは存在する。
風紀委員会も、祭祀局も、お遊びで選定しているわけではない。
監視を決めるだけの必要がそこにある

「?」

覗き込んでくる
覗き込まれている

覗いて、見えるのは暗い、昏い、落とし穴のようなナニカ
否 見えない 見えていない

「ロダン様?
 貴方は――」

麝香 廬山 >  
此方(こなた)彼方(かなた)の距離感はよく知っている。
世界が変容する前からずっと、隣り合わせだった
傍らにあることもよく知っている。それを奪い続ける感触も。

「─────────……」

ぞわりと腹の底を撫でられるように感じた。
肝を冷やす、という言葉があるが、成る程。
随分と久しいようで懐かしい感触だ。
覗き込んだその女性(ナニカ)の先は昏く、
どこまでも広がる真っ暗闇。底なし。
否、底そのもの。底の国と思わしく暗闇を、
何一つの躊躇もなく手を伸ばす。
一介の人間でもあるが、其処に一切の恐れはなく。


人間だからこそ、その悪意だけで行動出来る


女性(ナニカ)の底を確かめるかのように、奥へ、奥へ。
更に奥へ───────……手を、伸ばす。

崛葺 茉璃 >  
どろり、と人型が溶けた気がした
触れた手が、覗いた先が
どろどろと汚泥のような暗黒に満たされたように感じる

「あぁ……いけません

見えない 見えない 見えない
曖昧な女は 曖昧に黒ずんでいく

「お戯れはその辺りで」

どろりどろりと、ナニカが滴り落ちていく
目だけが、不気味に紅く光る

「そうしましょう?」

麝香 廬山 >  
泥土が暗闇を満たしていく。
見えない底を更に隠すように、涅槃の帳が落ちて来る。
警告だ。彼方の向こうで、ナニカが語りかけてくる。
(あか)()が交錯し、くすりと微笑む廬山の口元。

「成る程……キミが選ばれる理由もよく分かる。
 けど、思ったよりもカワイイね、茉璃ちゃん」

此れが何なのかは察しが付く。
彼女がどうして曖昧なのか、名を呼ばぬのか。
確証こそ無けれど予測は脳裏に留まっていた。
この先、踏み込めばそれこそ……。

「……茉璃ちゃん。言ったよね?」

泥土の向こうで、悪意(ヒト)が嗤う。

「ボクはね、人の嫌がることが好きなんだ

崛葺 茉璃 >
「…………」

汚泥の塊は、考える
しばらく、黙りこくった
その間にも、色々なものが滴っていく

ややあって

「そうですか。そうでしょうね。
 やむを得ません。」

その声はやけにはっきり聞こえた。
遠巻きにしていた監視員たちが凍りつく。

どろどろになった人型が、かたまる
紅い目が、ギラギラと光り……

廬山様、お手をどうぞ」

そのとき不思議なことが起こる
廬山の腕が、何者かに絡まれたかのように引き戻されようとする
茉璃の手がそれを掴め、とでも言うように差し出された



麝香 廬山 >  
「……名前っていうのは、その人の生き様、証。
 "名は体を表す"っていうのは、案外嘘じゃない。
 呪詛も、祝福も、その名を以て完結する」

だからこそ、今やそれが表に出た世界では、
名前の重要性は人が思うよりも高いのだ。
事実、呪詛師から身を守るために一時的に名を変える生徒もいる。
そんな名前を、女性(ソコ)から呼ばれた。

周囲から感じる監視員の視線。
戦慄、焦燥が伝わってくる。楽しいね
その後、より監視が厳しくなるだろうし、きっと色々あるだろう。
でも、その程度でやめれるなら、監視対象なんてやってない

「刺激的だな。悪くない。
 ……ああ、はいはい。こうかな?」

見えない何かが、自らの手に絡みつく。
それが何かは定かではないが、今更何も怖くはない。
薄ら笑いを浮かべたまま、何の躊躇もなく先導(エスコート)を受け、掴む。

崛葺 茉璃 >  
「良い講義ですね。そのとおりです。
 名とは、縛り。名とは、軛。
 此岸に染み付いた存在証明」

汚泥の中のそれは、にこやかに微笑んでいるように見えた
我が意を得たり、とでもいいたいのだろうか

それが、廬山の手を取る

「ふふ」

笑い声がした
童女のような、老女のような、奇妙な声

「では、踊りましょうか」

くい、と腕を引き、見えない椅子から立ち上がる
軽やかな足取りで、更に腕を引いてーー
言葉通り、舞おうとする

それは、ダンスとも、舞踊とも異なる
奇妙な、しかし、なんらかの意味のある動き……であることは予想できるかも知れない

「さあ、いかがですか?」

麝香 廬山 >  
「そうでしょう?だから、光栄なんだよね」

その意味を理解し、
生者に取って身の毛のよだつ行為でも、
今の廬山にとっては此れほど楽しいものはない。
わかっていても、その先の快楽を求めて火遊びをする。
人間の性だ。だから、楽しい。火傷する瞬間でも、した後でも。


だからやめられないな、この世界は


「そんなに嬉しいかい?それとも……」

まぁ、何だっていいさ。
その手を引かれ、立ち上がり、足取りを合わせた。
実に奇妙な動き、ダンスのようなものだった。
とてもではないが、傍から見ればもしかしたら無様かも。
だが、廬山は理解している。此れ自体に、意味がある。

「茉璃ちゃんって思ったよりダンスのセンスないんだなって。
 実は結構インドア派?今度僕が教えてあげようか?」

泥土の中でも、未だに軽口を叩く余裕はある。
紅に微笑み、ああ、と何か合点が言ったようだ。

「ああ、此れってもしかして────────……」

麝香 廬山 >  
 
                              バチィッ!!
 

麝香 廬山 >  
不意に、自信の首元に痛みが走った。
異能制御用、特に監視対象(ジブン)用に特別にチューンされたものが、迸る。

「おや……」

境界が、閉じた
無理矢理引き戻されたらしい。
伸ばした先も、泥土の向こうも、既に此処は墓標の中心。
どうやら流石に此れ以上の"接触"は認められないらしい。
彼等も名ばかりの監視員ではない。
その名の通り、自分達を見張り、止める役割を持っている。
はぁ、と漏れたため息は至極残念そうだ。

「ちょっと怒られちゃったみたいだなぁ。
 こりゃ、今夜は色々と長そうだ。ねぇ、茉璃ちゃん?」

崛葺 茉璃 >  
くすくすくすくす

「あらあら あらあら」

くすくすくすくす

「今夜は長そう? そうですか
 だって」

くすくすくすくす

踊っていただけでしょう?」

くすくすくすくす

思ったよりもカワイイのですね」

くすくすくすくす
童女のような笑いが響く

崛葺 茉璃 >  
「ロダン様?」

いつの間にか、汚泥は消え去っていた
いつもの曖昧な女が、曖昧に笑っている

「此処はまだ此岸ですから / 此処は未だ彼岸にあらず
 そういうことです」


麝香 廬山 >  
向こう側から監視員が何名か向かってくる。
接触だけならまだしも、深入りはこれ以上許されない。
一級と二級。階級に差はあれど、お互い監視対象。
必要以上の行為は、何が起きてもおかしくはない。
やれやれ、と落胆に肩を竦めた。

「わかってるよ。でも、いいものは見れた。
 確かにキミは……取り扱い注意かも」

ヘラリと笑みを浮かべれば、そっと少女の体を抱き寄せる。
曖昧な輪郭をなぞるように、大事な恋人でも扱うように、
何処か扇情的に指先が腹を、胸を、その口先をなぞった。

「ねぇ、茉璃ちゃん」

その名を呼んだ。その顔が耳元まで近づいた。

麝香 廬山 >  
「あーあー、ごめんて。そんな怖い顔しないでよ。
 ホラ、もう何もしてないったら。このとーり!」

気づけば監視員達に囲まれている。
随分と険しい顔をしているが、当然だ。
これには廬山も苦い笑みを浮かべて、両手を上げた(ホールドアップ)

「……また遊ぼうね?茉璃ちゃん」

小さくウインク。

崛葺 茉璃 >  
「思ったよりも、色々ありましたね」

監視員たちが、まるで保護するかのように引き離しにかかる
そのまま、両者は分かたれる

「また、なんて……監視員の皆さまが怒りますよ?」

のんびりと、曖昧に女は語る。

「それでも、はい。
 機会がありましたら」

崛葺 茉璃 >  
「……流石に、少し疲れましたね。
 参りましょうか、皆様。」

監視員に声をかけて、周りを固められながら離れていく

麝香 廬山 >  
無間山脈は笑ったまま、不朽祭器と引き離された。
今夜は長そうだなと思いながらも、最後の言葉で充分だ。
これ以上言葉を交わすことは許されない。
厳重な拘束、監視体制のまま、二つ(フタリ)はその場を離れていくのだった。

ご案内:「常世島共同墓地」から麝香 廬山さんが去りました。
崛葺 茉璃 >  
 

ご案内:「常世島共同墓地」から崛葺 茉璃さんが去りました。