2024/12/27 のログ
ご案内:「常世島共同墓地」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 > ────────藤井 輝が、死んだ。
芥子風 菖蒲 >  
曇天の空の下、少年は一人墓標の前に佇んでいた。
この時期は大変容等における追悼式のシーズンでもあった。
肌寒い風が肌を撫でても、少年は顔色一つ変えなかった。
表情は無愛想な仏頂面。但し青空の双眸は、同じくくもり空。

「……次会う時がこんな形になっちゃうなんて思わないよ、先輩」

少年はポツリと呟いた。

芥子風 菖蒲 >  
凡その事情を知ったのは、全てが終わった後だった。
その頃風紀の仕事として別地区を担当しており、テンタクロウと邂逅することはなかった。
少年は"働き者"であった。狭いようで広い島だ。
こういうことは往々にして珍しいことじゃない。

「……最期位顔、見たかったな。
 舞子、泣いてたよ。輝先輩。オレも……」

"同僚"が死ぬことは珍しくない。
ただ、怪人の発端を考えれば、思うことが無いわけじゃない。
小鳥の囀りが寒風と流れ、青空を細める。

「また、出来なかったな」

アイツ(ダスクスレイ)と同じで、生きてほしかった。

「……最期は、何を考えてたのかな……」

ご案内:「常世島共同墓地」に緋月さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
望んだわけではない。
ただ、それ以来死の匂いが纏わり付くようになった気がした。
皆に生きていてほしいのに、望みとは逆の結末が訪れる。
ちょきん、ちょきん。脳裏に小さく響く、金属音。
いっそ、全てを断ち切ってしまえば──────。

「……それは、ダメ
 きっと、先輩も望みはしない」

理不尽に対抗する(モノ)は持っている。
けど、死は絶対的な終わりだ。死者が跋扈する世界でも変わらない。
一度眠った相手を起こすなんて、それこそ理不尽だ。
静かに首を振り、自らの同居人(死神)を諭した。

「それに、寂しいけど、オレは大丈夫だから。
 オレがアイツ(ダスクスレイ)の分も、輝先輩の分も生きればいい」

「見えなくても、一緒には歩けるよ。多分ね」

ゆるりと伸ばした手を、寒風と冷気がなぞった。
それを握ることはしない。僅かに目を見開くも、ほんの少し微笑んだ。

緋月 >  
季節は冬。冷たい風が吹く。
吹く風に揺らされるように、かさかさと紙が擦れるような音。

その音に振り向いたならば、紙に包まれた花束を持った、ひとつの人影。
暗い赤色の外套(マント)にマフラーを巻いた、書生服姿の少女。
腰には刀袋を差している。

「――――――。」

そして何より。
少年には、分かる筈だろう。随分と薄くなっているが、少年の内にあるものと
「よく似ている」存在(神器)の気配。

先客がいたのが意外だったのか、小さく驚いたように少女は目を見開いている。

芥子風 菖蒲 >  
寒風に、かさりかさりと紙揺れる。
また違う何かを連れてきたみたいだ。
ただ、それは知っている気配。
多分、二人分って言い方があってるはず。

「……あ、ヘンな仮面の人」

振り返るとそこには以前、出会った少女の姿がある。
事件の全貌は知っているから、彼女の名前も知っている。
だが、名乗られない名を口にはしなかった。
代わりに、少年の覚え方は大雑把である。

「こんな寒い時期にどうしたの?お墓参り?」

じ、青空が緋色の月を映し出す。

緋月 >  
変な仮面、と言われた途端に、劫、と音を立てて蒼い炎が燃え上がり、
狼を象った仮面がハーフフェイスマスクのような形で少女の顔左半分を覆い隠す、が、

「――朔。」

小さく咎めるような少女の声と共に、渋々といった様子で、黒い狼のハーフフェイスマスクは
蒼い炎に燃えて消えるようにその姿を消し去った。
間違いなく、かつて遭遇した仮面の少女だと分かるだろう。

「……そちらに葬られている方に、用事がありまして。
まさか、あれからこんなに早く世を去られるとは…思いませんでしたが。」

恐らくは、既に情報が届いているかも知れない。
この少女が――此処に葬られている人に、最後に面会した人物であると。

「花のひとつでも、手向けようと思いまして。」

芥子風 菖蒲 >  
蒼い炎を共に、仮面(ソレ)は出てきた。
何だか怒りっぽい気もするけど、前より雰囲気が違う。
人間味が出てきたというべきなのか。ともかく、"柔らかい"。

「あの時より仲良くなった?仮面の人。
 仮面(その子)、朔って言うんだ。元気してる?」

尚、別に微塵も悪気はない。変なものは変だし。
ただ、あの頃よりも何処か変わったような二人の雰囲気に、少年の口元は緩んだ。

「そっか、先輩のお墓参りに来てくれたんだ。
 ありがと。……そう言えば、先輩と最後に面会したんだっけ?」

「……先輩は無茶してたからさ、もうボロボロだったってさ。
 結局オレ、最後まで顔を合わすことはなかったけど……先輩は、どうだった?」

思えば彼女はある意味、ずっと先輩に近しかった。
だからこそせめて知りたい。最期に映った、先輩の姿(こと)を。
トントン、と鞘で肩を叩き、墓標を顎で指した。
一つの墓標の前に先に添えられていた、一輪の花。
鮮やかな菖蒲色の、花菖蒲(はなしょうぶ)

緋月 >  
「ええ。自分の意志を持って、こうして人のように会話が出来る位には。
その結果…と言えばいいのか、神器としての力はほぼ失って、「管理担当」の方に
暇を出されてしまいましたが。」

気配が弱いのは、そのせい。
既に、彼の仮面は「死神の神器」としての資格を喪失してしまっている。
最も、失ったものがあると同時に、得る物もあったのだが。
――少なくとも、この少女が生きている間、この仮面が少女以外を主として認める事はあり得ないだろう。

「はい…最後に、少しお話を。
色々とあって、申し込みの受理が遅れてしまいましたが……まさか、あれから直ぐに
このような形で参る事になるとは…思いませんでした。
医師より来年は迎えられない筈、との宣告は受けていたとの事でしたが、
それほどに、「普通」の様子でしたので――。」

墓標を示されれば、そちらに向き直り、一礼。
手にした花束を、花菖蒲の邪魔にならないよう、そっと供える。
白い色の菊と、樒。

「科学の進捗とは凄いものです。
この寒い、草花に厳しい季節でさえ、このように故人に供える為の花が得られる。」

言いながら墓標に姿勢を合わせ、そっと両手を合わせ、目を閉じて祈りを捧げる。
特に、念ずる事はない。
既に彼の人は、往くべき所に逝ったのだろうから。

「――――最後に、悔いを口にされていました。
機界魔人として、対峙した…風紀委員の皆さんに対して。

斬奪怪盗を止めたいという志が曲がり、対象を失った復讐心と、
風紀への憎悪の炎が、燃えてしまったと――。」

そこまでを口にして、大きく息を整える。

芥子風 菖蒲 >  
「ふぅん。良くわかんないけど、懐かれたんだ。犬みたい」

そもそも菖蒲は死に対する価値観は独自に持っていた。
死神の神器。その内の一つを手にし、受け入れることはあれど、
神器だの神だのというのか、どうでもいいものだった。
そこに意思があるなら、それもまた"ヒト"である。
だからこそ、無遠慮ながら言葉に悪意はない。
そう、"子供っぽい"あどけなさだ。

「朔、でいいんだっけ?どう、この人とは上手くやれてる?」

徐ろに寒空に冷えた手を伸ばしたのも、そういうこと。
避けなければそれこそ遠慮なしにほっぺをぺたぺた触られる。
だって仮面だし、この辺にいるのかなって。

「"普通"、……そっか。最期は輝先輩だったんだね」

何処となく安堵した雰囲気だ。
最後の最後まで、歪んだままではなく、
自分自身、少年の知る姿のまま逝ったのだと。

「科学、とかはよくわかんないけど、便利だよね。
 オレも用意できたし、オレとおんなじ花。寂しくないかな、って思ってさ」

せめて名前だけでも隣にあればと思った。
何時か"再会"する時までは、それで埋め合わせれれば、と。

「……、……けど、最期は輝先輩だったんでしょ?
 アイツだって、ダスクスレイだって同じだよ。
 何かの拍子に、ちょっと歪んじゃっただけなんだ」

胸をチクリと自責の念が刺したけれど、表には出さなかった。
オレがちゃんと捕まえていれば、なんてものは"たられば"だ。
先に進むと決めた以上は、後悔に足を取られるわけにはいかなかった。

「輝先輩は、いい人だったよ。面倒見が良くてさ。
 何時もオレや舞子の面倒を見てくれたんだ。オレも皆も、好きだった。と、思う」

緋月 >  
『――無遠慮に触れるな、「鋏」の主。
如何に神器所有者とて、馴れ合いはせん。』

ぺたぺたと頬を触られれば、少女の声と同じ、しかし明らかに別人のような声。
小さく振り向き、ぎろ、と睨む瞳は――緑を帯びた青色に変化している。

「…朔、あまり刺々しい事は言うものじゃないです。
那由他さんには随分助言を上げてたじゃないですか。」
『「槍」の主とは話が別だ。我は此奴を好かん。』
「――もういいですから、少し静かにしていて下さい。」

独り上手かと思われそうな、一つの口から出て来る二人分の言葉。
最後に嗜めるような少女の声に小さく鼻を鳴らし、緑を帯びた青の瞳は元通りの赤い瞳に。

「すみません…以前の犬扱いが後を引いてるみたいで。」

割と根に持ちやすいのか。
兎も角、改めて話の方向を整え直す。

「そうですね…私は、ダスクスレイなる者については、機界魔人逮捕の報道に絡む形で、
多少しか耳目にしていないので、詳しくは知りませんが…元が「普通の者」だった、というのは、理解出来ます。」

只の一般生徒が、凶賊になってしまった原因。
その詳しい理由については…生憎と語られていなかったが。

「――藤井殿は、最後に、己が間違っていた、と。
償いきれるものでもないし、その為の手段も無いと…。」

もうひとつ、深い息。
小さく決意を込めて、腰の刀袋に軽く手を置く。

「――ですが、もしまた、第二・第三の機界魔人…斬奪怪盗の遺した傷跡から、
新たなる復讐者が現れ出でる事があるとするならば、」

気負う訳ではない。
己は、正義の味方などではないのだ。

「また、私がその意を問い質しに向かいましょう。
「命の終焉」という形で、決着が着く事がないよう、私なりに足掻いて見せましょう。

私の知人や友人、大事な人達に、その脅威が向かぬよう…そして、」

再び、墓標に目を向ける。

「――藤井殿が遺された、最後のエゴを叶える為。
「続く因果」が現れた時には、再び――――」

――それは、現れるかも知れないし、現れないかも知れない。
確証すら持てない、不可視の運命。

斬奪怪盗が遺した傷跡から、新たな脅威の因果が続く時、少女は再び…己のエゴで以て、
その因果から現れる者に、己のエゴで以て対峙するのだろう。

芥子風 菖蒲 >
彼女と同じ声がするが、それは彼女ではない。
多分、例の仮面の子だろう。威厳たっぷりの口調だが、
少年の頭の中ではすっかり犬っぽいイメージが定着してしまった。

「馴れ合いって訳じゃないよ。アンタのことが知りたいだけ。
 この人と仲良く慣れたんでしょ?オレは気にしてないからいいよ」

「仲が良いなら、そういう言い方も良くないよ」

認め合っているからと言って、ぞんざいに扱っていい理由にはならない。
自らが冷たく扱われるよりも、少年はそれが気に入らないようだ。
何処となくむ、仏頂面でじとりと見やった。

「オレも親しい間柄ってわけじゃなかったよ。
 殺し合った仲だけど、うん。生きたいと願う普通の人」

たった一つのボタンの掛け違い。
力に溺れ、欲に溺れた者の末路。
差し伸べた手を握った時には既に冷たく、今でもずっと手に残っている。
冷え切った感触の残る手を軽く握れば、白い吐息を吐き出した。
青空が移すのは、花々に彩られた墓標。

「オレは、死は終着だけど、続きでもあると思ってる。
 けど、生きてる内にしたことは、生きてる間にしか精算出来ない
 死んだ後のことは、また別換算、だと思ってる。……だから、二人には生きてほしかった」

良し悪し関係なく、生前は生前でのみ賄われる。
死の先に続く道はまた、別の物語なんだ。
だからこそ、償いきれないと嘆くくらいなら、
償い方を考え、向き合うために生きていてほしかったのだ

「……現れないのが一番ではあるけど……」

ふ、と口元が僅かに緩んだ。

アンタばっかりには譲れない
 オレだって、次があれば同じことは繰り返さない。
 今度は、ううん。此処から先はオレなりにいい形にしてみせるよ」

それこそ彼女ばかりに背負わせない。
今を生きる者としての責務は、己にもある。

「……そういえば、聞いてなかった。名前。
 あの時は断れちゃったけど、誰だっけ?アンタから直接聞きたい」

緋月 >  
「少し強く言っておかないと、身体の主導権を取られるんですよ…。
一度身体を取られると、私の方からは簡単には取り返せなくて。

――はいはい、帰ったら好きなものを用意しておきますね。」

少し疲れた声。恐らく既に何回かやられた事があるのだろう。
もしここで主導権をを取られたら話がグダグダになってしまう。
多少ぞんざいに聞こえてでも、しっかり押さえて置かないといけないという気持ちと理由があった。
そして、抗議があったらしく、軽く声をかけておく。どうやら美味しいご飯の要求だったらしい。

「……世の中というのは、ままならないものですね。
思い返せば…あの、藤井殿との最後の戦いの時。
決着の後、風紀委員の方が何かしらの薬と思しいものを注射しているのを目にしました。

――恐らく、藤井殿は「テンタクロウ」として活動していた際…命を削るようなものを…それが薬か、
他の何かかは私には分かりませんが、使っていたのでしょうね…。」

そうでなければ、あれから半年と僅かの間に――それほど短い間に、死の床に就く事などなかっただろう。
片や助けようとした側が力及ばず、片や当の本人が命を削りながら。
違いは有れど――斬奪怪盗と機界魔人、ふたつの脅威は共に、「死」という形で、その終止符を打ってしまった。

「……ならば、互いに互いのやり方で、足掻くとしましょうか。
もしも続く因果(新たな脅威)が現れた時は、せめて…このような苦い結末に、再び辿り着く事がないように。」

その言葉と共に、もう一度墓標に目を向け、瞑目。
名を訊ねられれば外套を翻し、改めて「鋏」の主へと向き直る。

「――緋月、と申します。
元・死神の神器「埋葬の仮面」の――今は、「友」です。

芥子風先輩…でよいのでしたね。
藤井殿からも、お名前だけは聞いておりました。」

改めて、一つ礼を。