2024/12/28 のログ
■芥子風 菖蒲 >
「主導権?仲良くないの?なんか、ヘンな感じ。
……、……やっぱりペット?なんか、飼い主みたい」
あながち宿主って意味なら間違いじゃないかも知れない。
身体で好き勝手させないようにしっかり躾中。
……やっぱり犬に何じゃないんか?少年はちょっと訝しんだ。
「ままならないことばかかりだけど、それでもオレ達は生きてる。
生きてるなら、進める内に進まないと、死んでいった皆に顔向け出来ないから。
それに、死んだからってずっと会えないってワケじゃない。一緒に歩いては行ける」
「目には見えないかもだし、いる場所も違うだろうけど、
オレはずっと、隣にいる気がする。そんな気がするんだ」
生者と死者は決して交わることはない。
神秘が当たり前であり、死者が蘇る世でも変わらない。
住むべき場所が違う以上、交わることはない。
けど、何時かまた出会う。そして、死者は隣人でもある。
だから決して、寂しくはならない。死神の神器の一つ。
「鋏」を手にした少年の生死観。死者とともに歩む者そのものであった。
「……それだけ先輩も、歪んじゃったからさ。
うん、そうだよ。同じことは互いに繰り返しちゃいけないんだ」
死は近しい者であれど、不条理に与えるものではない。
力を持ちえる側だからこそ、そう考えずにはいられない。
ぐ、と握りこんだ手を開けば、じ、と青空が彼女を見た。
「緋月?うん、聞いた通りでよかった。
オレは菖蒲、芥子風 菖蒲。菖蒲でいいよ、緋月」
「……オレはそろそろ行くよ。
緋月も、先輩と離したいこともあるだろうしね」
■緋月 >
「――まあ、ちょっと、色々ありまして。
私が少し、精神的に大変だった頃に、長時間私を眠らせて主導権を取っていたせいか、
身体の主導権を取るのが得意になったようで…。」
ちょっと気まずそうに、そう語る。
――まあ、事情は兎も角、その間、「友人」は彼女の意識を「友人」なりに守る為に頑張っていたのだろう。
「――前向きですね。
私は…私にとって、死は――――
いや、やめましょう。死した人が何かを遺したなら、それを忘れずに置く事は出来る。
それで、今は充分です。」
ふぅ、と死生観議論については流して置く事に。
――「禁忌」を犯し、信仰は戻らぬと決別を決めた以上、生と死は己の路で、答えを見つけねばならぬ。
あまり口にする事でもないし、秘とする事にした。
「……先輩の生と死について、私からとやかく言う事はありません。
敢えて口出しが許されるなら――先輩は、「誤った」御神器の使い方をなさらぬように。
……罪を犯した咎人からの、せめてもの忠言とでも思って下さい。」
強い力であるからこそ、誤った使い方をしてしまう事もある。
だが、死神の神器に限っては、「過ち」は許されない。
「管理者」がそれを犯した者に与えるモノを、身を以て知るからこその、先んじての言葉であった。
「ご配慮、痛み入ります。
菖蒲先輩も、風邪など引かれませぬよう、暖かくして下さい。」
別れの挨拶には、そう言葉を返し。
去り行く背を、暫し見送るだろう。
■芥子風 菖蒲 >
青空はじ、と緋色の月を映したまま。
曇りはすれど、淀むことは決して無い。
今はすっかり澄んだ青がそこにはある。
「……オレは緋月の事をよく知ってるわけじゃない。
咎人って自称するくらいだから、思う所があるんだよね。
椎苗が仮面は託すんだから、何か思う所はあったんだと思う」
「オレを気遣ってくれるのは嬉しいけど、
それじゃあ、気遣いにならないよ。緋月。
緋月が何時か話してくれるならそれでいいけど、
多分、人様の墓標の前で話すようなことじゃなさそうだしね」
誰かを気遣うなら、先ずは自分の問題を片付けてからだ。
少なくとも誰かに忠言を解くには、咎人では説得力がない。
自らが業を背負うというなら、それを洗い流してからだ。
「もし、話したくなったら今度聞くよ。
後、オレは別に前向きなんかじゃない。
皆を守るためにも、進んでるだけだよ。必要なら、立ち止まるくらいはする」
何時だって青空は、皆の傍に広がっている。
嫌となるほどに、何時だって誰かの頭上に広がっているのだ。
「オレが間違った時は多分、鋏に斬られるから大丈夫だと思う。
それよりもそれは、自分のことを心配したほうがいいよ。"友人"って言うけどさ……」
「友達の身体を無遠慮に乗っ取ろうとするの、おかしいよ。
……二人の友情を疑ってるんじゃなくて、友人同士で主導権云々はヘンな話だよ」
それこそ本来、"対等"であるべきだ。
ゆっくりと歩み始めれば、すれ違いざまに横目で見やる。
「まぁ、今度落ち着いたときにでもまたね。
それじゃあね、二人共。先輩に宜しくね」
こうしてまた、寒風とともに黒い風もまた去っていくのであった。
ご案内:「常世島共同墓地」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
■緋月 >
かけられた言葉には無言で。
去り行く黒い背を、赤い瞳は静かに見送る。
「――中々、痛い事を言ってくる人ですね。」
『……だから我は彼奴を好かん。』
「そう言うって事は、あなたも薄々思ってる事ではあるんですね?」
『その訊き方は意地が悪い。』
再び、一つの口から洩れだす二人の言葉。
『大体、奴は距離感がおかしい。踏み込み方が激しすぎる。
それと、物言いに遠慮がない。』
「全く…何だかんだ言って、気にはなるんじゃないですか。」
『個人的見解だ。それよりも、帰ったら今日は肉だぞ。』
「はいはい、分かってますよ。」
そうして、一人の口を使った二人の言い合いが終われば、改めて視線を墓標に。
「――――約束は、守る事が出来ましたでしょうか?
知る術がない以上…こうして、一方的に語り掛ける事しか出来ませんが。」
再び瞑目し、手を合わせる。
「……交わした「約束」が、どうか守られていますように。」
例えそれが地獄での出会いでも。
それが、彼の者に少しでも安らぎとなったのならば。
暫しの祈りの後。
外套と、真新しいマフラーを靡かせながら、書生服姿の少女もまた、墓標を後にする。
後に残されるは、手向けられた花々ばかり――。
ご案内:「常世島共同墓地」から緋月さんが去りました。