2024/06/21 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
流行とは常に時代の最先端を行く開拓の心である。
そう定義するなら流行の先取りは即ち近未来の世界。
文明の灯りで未来を照らす歓楽の街は不夜の城。

SNSで注目を集めたスイーツの出店が乱立しては
賞味期限切れで姿を消し、キラキラした流行りの
ファッションを喧伝するアパレルショップの広告は
古くなった場所から新しい宣伝に上書きされる。

違法ギリギリを攻めた店をも退屈を紛らわせる
スパイスとして受け入れるこの街にあっては、
夜の訪れさえも帰宅を促すリミット足り得ない。
退廃という果実は熟れるほどに甘くなるのだから。

「……なるほど、なーん」

ベンチにも座らず店の壁にもたれかかり、
スチール缶を揺らして残量を確かめる少女も
健全とは言い難いこの街の空気を甘受する1人

……では、ない。

昼間の煌びやかな喧騒の中では息が出来ず、
然りとて夜の街の甘美には身を任せられない
ただの日陰者だ。

黛 薫 >  
季節は夏のはしり。暦は夏至に程近く、
日頃なら夜と呼べる時刻になっても薄明るい。

太陽は乱立するビルに隠れて光を届けるのみで、
陰が暑気を遮っている。然りとて日中灼ける程の
陽射しに炙られたコンクリートとアスファルトが
蓄えた熱は未だ冷めやらず。

流れた汗の分だけでも補給しようと手にした缶の
中身さえ、飲み切る前に生暖かくなる始末。

「……なるほど」

夜の街に入り浸るにはやや幼く映る彼女が
此処にいるのはさしたる理由がある訳でもなく。
ただの買い物帰りだ。

黛 薫 >  
流行り廃りで絶えず形を変えるこの街のように、
彼女──黛薫を取り巻く環境は常に変わっている。
食うにも困る懐事情をどうにかしようとこの街で
仕事求めて彷徨った日々も今や遠い昔のよう。

(あーし自身は変われてもねーのになぁ)

真新しいパーカーのフードを目深に被って
道行く人々の『視線』をやり過ごす。

ついさっき、迂闊にも値札を取り忘れたまま
出歩いてしまった所為で生暖かい『視線』を
集める羽目になり、歩く気力も残っていない。

黛 薫 >  
長い間、騙し騙し使ってきたパーカーが
最早どうにもならないレベルで擦り切れて、
買い替えを余儀なくされたのが今日のこと。

フードなしでは『視線』飛び交う街を歩くことも
ままならない彼女は、服を買いに行くための
服が手元にないデッドロックに陥ってしまった。

人の減る時間を見計らうことでどうにか買い物を
済ませられたは良いものの、アパレルショップの
活気は日陰者には些か辛かった。今は帰宅のため
充電中。

「だる……」

何であれ、道具は使えばいつか壊れるもので、
服だって例外ではない。寿命が来ただけの話。
ショックを受けたのも、気が塞いでいるのも、
ただの考え過ぎだと内心で言い訳を繰り返す。

黛 薫 >  
行き交う人々から目を逸らすように視線を下げ、
心労に青ざめた顔を隠すようにフードを引っ張る。
"たかがこの程度" で気を悪くするのは贅沢では
あるまいか。

兎にも角にも、落ち込んだ気分をどうにかせねば
帰る気にもなれない。缶コーヒーのついでに買った
シガレット様の駄菓子を咥えてみるも、不要な
贅沢をしている気分になって逆に気が塞ぐばかり。

着るものに困らない。生きるのに必須でない
嗜好品を口に出来る。裕福とは言えないなりに
それらを買うだけのお金がある。

これ以上何を望むかと問われれば、答えられない。
恵まれ過ぎている。分不相応を噛み締めるほどに。

黛 薫 >  
息が詰まる。ありもしない『視線』の幻覚が
心身を苛み、足元が不確かになっていく錯覚。

(ああ、やっぱダメだ) (人のいない、とこへ──)

ふらり、覚束ない足取りで路地裏に逃げる。
寮へ帰るには遠回りだが、いっそその方が良い。
結局のところ、自分を動かすにはネガティブな
動機を用意した方が手っ取り早いのだ。

夜が来る。街の熱気が遠ざかっていく。
対照的に頭の中は煮えたように熱を帯びて。

(明日も) (登校しなきゃ) (なのに)

現実的な思考が水を差すように浮かんでは消える。

「……しんっど……」

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から黛 薫さんが去りました。