2024/07/12 のログ
ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」に橘壱さんが現れました。
『鋼鉄の檻』 >  
そこは確かに常世渋谷(トコシブ)であるといえた。

常世渋谷駅に背を向けて、中央街(センター・ストリート)の入口に立てば、
建物の配置や距離感がそう感じさせるはずだった。
配置と距離感だけが。

明るい日光を受けていたビル群はすべて、窓のない銅色の塔になっていた。
冷たく硬質な、闇のなかに築かれた光景は、大変容以前に描かれたSF映画のディストピアのようだ。
一切の生物的欲望を排し、質実な都市機能だけを求められたメガロポリスの一角。
華々しいはずの若者の街は、夜闇を鼈甲色の灯りでどうにか打ち払い、
塔の群れを地上から照らし出している。

なぜか――空がないからだ。
そこは、鋼鉄の天井と壁で囲われた、巨大な建造物になっていた。
センター街の向こう、大型ファッションビルがあったはずの場所には、
地上から鉄板で蓋をされた空までを繋ぐ、巨大な一本の柱が、
せわしなく動くサーチライトに撫でられながら、まるで世界を支えるように佇立していた。

背を向けば、迷宮のような臓腑を備えていたはずの駅は厳重に封鎖されている。
交通機関など機能していないように見えた。

スクランブル交差点の先はそんな場所だった。
瞬きのうちに、ごっそりと世界の構成要素が塗り替わった。

きみは、そんな世界の、交差点の中央に、ぽつんと立たされている。

橘壱 >  
常世渋谷、某日。
なんてことはない、ただ何時も通りそこを歩く有象無象の一つだった。
日照りの続く夏の人混み。さっさと常世渋谷分署まで行こう。
そう思っていた矢先、世界の目つきが急激に変わった。

「……?何だ……?」

あれだけいた人が消え、周囲を見渡せば似て非なるような景色。
かつて、VR空間のステージで見たようなディストピア空間。
無数に織りなす銅の塔はまるで監視塔。あれだけ扱った空気が一気に鉄のように冷え込んだ。
忙しなくサーチライトが世界を見渡す、空のない世界。
不意に出来事だと言うのに冷静なのは、本人の気質か、或いは馴れか。

「……迷い込んだのか、誘われたのか。噂にだけは聞いていたんだが……成る程。」

なんとなく重苦しく肌に粘つくような空気感。
非現実性を帯びる此の世界は恐らく噂の裏常世渋谷という場所なんだろう。
話だけは聞いている。だが、常世渋谷(ココ)に仕事で配備されることは滅多になかった。
此の目で見る初めての異空間に不思議と胸は高鳴り、口元はニヤリと笑みを浮かべる。

「にしても、中々悪くないロケーションだな。
 あれだけ広かった街も、人がいなくなると物寂しく見えるものだ。」

さて、鬼が出るか蛇が出るか。
交差点の中央で少年は一人佇んでいた。

『鋼鉄の檻』 > 風すら吹かない静寂。
反響のない声も、さみしく、じっとりとした熱のなかに溶けていく。
夏の盛りの湿気ではなく、工場の内部のような籠もった熱。

街のレプリカの中に、そのまま取り込まれてしまったような。
しかしその非日常をこそ求めるような少年の頭上より――

『鋼鉄の檻』 >  
『生命反応を確認。中央への接近を試みる可能性がある』

無機質な機械音声が頭上から降り注ぐ。
独逸(ドイツ)語だった。

そこには、大型犬ほどの大きさの蜘蛛――多脚型ドローンが塔の壁面に張り付いている。
二十メートルほどの上空から、赤々とした単眼(モノカメラ)が冷たくきみを俯瞰している。

『速やかに殺処分せよ』

声と同様の冷淡な下知とともに。
塔の壁面にぴしりと枠が現れ、(ハッチ)が展開。
跳ね跳ぶようにそこから現れたのは――前方、左右それぞれの斜め後方より。
鋭い実体剣を構えた、人型兵器(オートマトン)

コンクリートに罅を入れぬ柔らかな着地。
くすんだ黒鉄色の機体は2メートル前後。
現在となっては旧式ともいえる型式の見た目だが。
かといって、その性能は現代の兵士の平均程度の身体能力を備えたモデル。

生身の人間(・・・・・)相手には、過剰ともいえる三本の刃でもって。
人工筋肉とスプリングによる鋭い踏み込みとともに、逃げ場のない殺傷を敢行する――!

橘壱 >  
頭上より聞こえるのは聞き覚えのある言語だ。
ロシア…いや、多分ドイツ語だ。医学を学んでいる関係上、多言語に理解がある。
と言っても、読み書きのコミュニケーションは違うものだ。
その無機質な機械音声の意味はわからない。
ただ、張り付く冷たい光の視線から見て、恐らく歓迎はされていない
その証拠に言わんばかりに、開かれた(ハッチ)から飛び出した謎の機影。
黒鉄の機人。ギラつく殺意が文字通り刃となって形に現れている。

「パワードスーツ……でも有人兵装でもない。無人機だな、そういう動きだ。」

その統率され1ミリの狂いのない動きが、直感的だがそう感じさせた。
此処は空無き鉄の世界、人は生きれぬ鋼の殺意。
御丁寧に逃げ場をなくすように取り囲んできた。
少年には焦りも、おそれもない。この展開でさえ、望む所だと目を大きく見開いた。
アスファルトを蹴り砕き、スプリングを軋ませさっそうと迫る鉄の殺意。

「やってやるさ……!」

力いっぱいにトランクを交差点へ叩きつける。
轟音とともに、トランクがひしゃげ、流水のように鋼が広がる。
瞬く間に広がる鋼が少年の全身を包み込み、その姿を青と白の鋼人へと姿を変えた。
刃がその鋼の体へと触れる瞬間、装甲から発せられる薄緑の稲光となってそれを止めた。
全身より発生させられる電磁パルスシールドを"一瞬"だけ展開して弾いた(パリィ)のだ。

Main system engaging combat mode.(メインシステム、戦闘モード起動します。)

COMの音声が響き、青白いモノアイが光る。
両手の甲から青白いレーザーブレードが展開され、全身のサブバーニアを一瞬だけ吹かした急加速。
青白い機動を描き、危険領域(デンジャーゾーン)の敵を薙ぎ払う回転斬りだ。
高出力のレーザーブレードは、いとも容易く周囲の鋼を斬り裂く威力を誇っている。

『鋼鉄の檻』 >  
パルスシールドの効果は、果たして覿面である。
完全なる先手の優位を持っていた筈の三機との趨勢は瞬く間に逆転し、
その体勢を立て直す前に、蒼白の機人(・・)の反撃を許す。

前方。構え直す暇すら与えられなかった一機は光剣によってあっさりと溶断。
断面から火花を散らしつつ、ずるりとふたつへ泣き別れになるその姿。

しかし、二機目。それは胴体を半ばにてその刃を留める。
その迷いなく剣を捨て、それはレーザーブレードを振るった腕を抱え込んだ(・・・・・)
感情を与えられない、殺傷のための人工知能に、命を惜しむという無駄はない。
おそらく動力部まで食い込むその一撃を甘んじて受けて、みずからを動きを封じるための機能とした。

そして、一切の傷を帯びない三機目――上空。

機能停止、半壊、二機分の損耗を前に一切の躊躇なく跳躍した三機目は、
鈍く光る実体剣の刃を、断頭台のごとくその脳天へ。
大型単車ほどの重量を誇る肉体の自由落下。
それに加え、強烈な振り下ろし(スイングダウン)の勢いを伴った――唐竹割り。
相手の剛性の一切を甘く見ない必殺の一撃が、非情にもその鎧ごと両断せしめんとする――!

橘壱 >  
鉄仮面の奥のモニターが外の景色と忙しない程にあらゆる情報を羅列してくれる。
周辺の兵器の既存の該当項目無し。裏渋の怪異の類だろうか。
それこそドンピシャにまさか充てがわれることになるとは、何の因果か。

『それこそメタラグみたいなシチュエーションだ、な…!?』

その動作の最中衝撃、動きが止まる。
レーザーブレードのを展開する腕を抱え込まれた。
あの一瞬で一機がやられたと見るや否やの判断。機械だからこそ出る合理性。
命なきものだからこそ、無機質に己の身を犠牲に出来るのだろう。
しかし、それをこの一瞬でやってのけた。
恐るべき情報処理能力に少年も目を丸くする。

『連携手早い。だが……運が悪かったな。』

更に頭上から迫る実体剣。連携も(ラグ)だって存在しない機械らしさ。
今日の装備(アセンブル)は何時ものような対異能者用の鎮圧兵装ではない。
腰のハンガーにマウントされた大小二丁のライフルとサブマシンガン。
両肩にストックされたボックス型のロケット砲に背中にマウントされた二対の折りたたみしの兵装。
兵器としての本来のスペックを生かした実戦用の兵装だ。
裏渋での活躍を見越して、コレのまま運搬したのが功を奏した。

その腕を抱える無人機にはお望み通りと言わんばかりにブレードの出力を上げ
放出されるレーザーの本流で文字通り焼き払わんとし、同時に両肩のボックスの銃口が上空を向く。
装甲を甘く見ずに一撃必殺を狙ったようだが、逃げ場のない上空は判断ミスだ
ボックスの銃口から放たれる二連想のロケット弾。
戦車を位爆散させられる爆発力を持った最新鋭のロケット榴弾だ。
AFに搭載された思考による分割行動。無動作(ノーモーション)で撃てる兵装であれば腕を取られていても関係ない。
もろとも爆散してしまえ─────!

『鋼鉄の檻』 >   
離さない。
それは相手の動きを封じるという、役割に徹した無機質な動作(もの)
対象を抹殺できればそれでよい。明日なき鋼鉄の骸。
だがそれも時代を隔てた技術力に対し無力。内外から光熱によって溶解し、形を失していく。

振り下ろされた刃は――しかし。
放たれた榴弾はその胸部へと着弾。貫通したかのように炸薬と機械の内腑が飛散する。
腕部の動力を担っていた関節部、人工筋肉はもろともに破砕。握力(グリップ)を喪失。
爆炎に呑まれ、下半身だけのが作りかけの模型のようにぐしゃりとコンクリートへ落下する。

間もなく轟音とともに炎に撒かれ、蒼白の機体に橙の照り返しを与えながら。
三体の刺客は、およそ二合のうちに機能を停止した。
遅れて、きみを両断するはずだった刃が、離れた地面に墓標のように突き刺さる。

――ただ。
離すまいと、がっちりとその腕に食いついた(マニピュレーター)だけが、
感情がないまでも、なにかの意思を示すように残っていた。
引き剥がせばあっさりと外れる程度の、何かの残滓でしかないが。


『――――。 該当の生命体の脅威判定を更新。
 損耗は三体。情報の集積を終了する』

監視を担当する蜘蛛型の多脚ドローンは、それを見届けて体を壁面から上空へと踊らせた。
背部から飛び出したレトロなプロペラで飛翔し、あまり鋭いとはいえないまでも、
それなりの速度で、天井を支える巨大な柱の方角へと翔んでいく。

橘壱 >  
爆炎が間近で弾け飛びフラッシュと爆煙が視界を埋め尽くした。
高度な映像処理、索敵(スキャン)技術により爆煙の中だってくっきりと見える。
崩れ落ちるくず鉄をモノアイが一瞥し、墓標となった刃が虚しく刺さった。
ボックス型のロケット砲が半回転し収納さて、無造作に手部位(マニピュレーター)を振り払う。
モニターに映し出される情報、マップ、周囲の地形状況。
地形状況は立体マップと成って表示されるが、座標等は全てエラー表示になる。

『……本当に異空間か。いや、現実の被害を気にしなくていいのは助かるがな……。』

他ならぬ、普段鎮圧用の兵器は当然非殺傷の為もあるが、何よりも周囲の被害を考慮してである。
人は簡単に死ぬ。兵器とも成れば、それは当然のように命を奪える。
加減の問題ではない。弾丸一つ、人体を抜ければ大怪我だ。
だからこそ、兵器だからこそ加減しなければ無い。
非異能者なのに、更に加減しなければいけないのは、壱からすれば割に合わない話だ。
異能者たちだって、変わらないはずなのに容赦なくそれを行使する。理不尽だ。

とは言え、人道(ルール)に反する事こそ望まない。
だからこそ、本来のスペックを発揮できるかも知れないという高揚感に、少年の胸は高鳴っていた。
口元は不敵に笑っているが、飽くまで頭はクールに、だ。
少なくとも、浮ついた空気感では次は自分が鉄くずになるだろうからだ。

『情報係の無人機(ドローン)と尖兵の人型兵器……
 ……統率する大元がいるのか?面白い。だったら、尚の事逃がせ無いな。』

モニター映る多脚ドローン。
腰のハンガーに装着されたライフルを手に取り、背面バーニアを吹かし空へと舞う。
青白い炎を吹き出しながら、飛翔する多脚ドローンへと迫る蒼白の鋼人。
モニターのロックオンマーカーがドローンに重なると共に、銃口が破裂音と共に火を吹いた。
人が携行するライフルよりも大型で、26m口径の貫通弾を放つAF(アサルトフレーム)用のライフルだ。
機関砲用弾薬よりもやや大型であり、その貫通力の信頼性は高い。
空中でもAIの補助制御により、弾丸は真っ直ぐとドローンに飛んでいくが────。

『鋼鉄の檻』 >  
ライフルが撃発した、その瞬間である。
狙いは正確だった。しかし、その弾丸はドローンの脚部を掠め、二本ほどを貫通し、鉄くずを散らしただけだ。

よく視ていれば。

その寸前に、なにか(・・・)が。

ドローンの駆体を、真横から貫いていた。
右側から、左へと()ける破片。
光学センサにも映らない何かはしかし、確かにそこに何らかの質量があることを示している。
金属質の、熱の失せたなにかは、ドローンの内部に充填されていた燃料を血液のように纏っている。

僅かな時間差、ライフルの弾丸が脚部を掠める。
ドローンが横へ移動した(・・・・・・)から、狙いが中央から逸れたのだ。
まるで放ったヨーヨーでも引き寄せるように。
鋭く、疾く、ドローンを貫いた何かは、早贄(はやにえ)のようになった機体を引き込む。
穴を掘って獲物を待つ、虫か深海生物かのように。
闇のなかへ。

地上――ビルとビルの隙間。
ちょうど細い路地のあたりに、生命反応がひとつ(・・・・・・・・)

橘壱 >  
弾丸は確かに狙いは正確だった。
避けられた…わけじゃない。動いた

『何……?』

回避運動じゃない。ドローン自体も何かに"やられた"。
センサーやレーダーにも映らない正体不明(アンノウン)
一度空中で静止し、機体の全身から周囲を波打たせる光波スキャン。
周囲の地形や状況を一瞬で確認できるスキャン兵装だが、正体不明(アンノウン)が何なのかはわからなかった。
姿はすでに闇の中へ、ドローンごと消えてしまった。
ただ、周囲にもう一つ反応がある。金属反応ではなく、生体反応。
モニターに照らされる少年も訝しげに眉をひそめる。

『……生体反応?民間人か……?』

此処には往々にして人が迷い込む。今自分が身を以て体験している。
本当に民間人なら大変だ。急いで向かわねまなるまい。
すぐさまバーニアの火を吹かし、生体反応の方角へと急接近した。

ノーフェイス >  
「や~ほ~」

手を掲げた姿がカメラに映る。
民間人。
では――ある。
否、正確に言えば、正規の学生証は持たない。入島資格も。

貫かれ、射抜かれたドローンを足元に転がしていたのは。
場違いな――どこにいても際立つような華やかな空気。
流血のような紅の髪に、炎の如く燃える瞳。

かつてはAAA(トリプルエー)と名乗ったパーリーピーポー。
けれど風紀として動いていれば、嫌でもその真如に思い当たる。
真如を探ればするほどわけがわからなくなるような。
落第街にて王の如く振る舞う、自由なもの――

「こんなとこで何やってんだ、チャンピオン」

降下してくる彼を見上げ、バーニアの作り出す風に撒かれながら。
不敵な笑みを見せた。

橘壱 >  
無機質な建物群を抜け、向こう側に映るのは見覚えのある人影。
全体的に赤く、紅く、拡大されたカメラの姿がそれが知っている顔だと認識させる。

『……AAA(トリプルエー)……?』

そう、かつで自分の前に現れた謎の人物だ。
正体不明、神出鬼没。自由奔放な落第街に出没する謎の人物。
あの後風紀で活動している中で、色々と情報が入ってきた。
とは言え、壱自身はそういったものを積極的に追いはしなかった。
顔見知りの縁という生ぬるいものじゃない。別にAFを使う機械がなさそうだっただけだ。

こんな場所でも、その当人はあっけからんとしている。
あの時であった時と何ら変わりない風体だ。
彼の目に前に着地すると共に、全身のバーニアから白煙を撒き散らし排熱する。
青白く光る一つ目(モノアイ)がノーフェイスを見据え、その奥では訝しげな壱の顔。

『それはコッチの台詞だ、AAA(センス無し)
 アンタ、僕が思うよりも自由なのか?まさか、こんな場所にまでいるなんてな。』

敢えて、貌無し(ノーフェイス)とは呼ばない。
橘壱が出会ったのは、そのセンスのないあだ名だったのだから、そう呼ぶのだ。

ノーフェイス >  
「女のコと遊びに行く途中に呑まれた(・・・・)んだよ。
 損害賠償モンだぜー? ったく……」

裏渋(ココ)は初めてじゃないが――と肩越しに自分が来た方向を見た。
建物と建物の隙間。常世渋谷を歩き慣れたものが使う近道。
それでも、周囲を見渡す様子から、こういう裏渋(・・・・・・)に呑まれたことはないらしい。
こちらもあの時同様、ゆるい空気だ。というよりも、そんなこと言ってられる状態ではない。
遭難者がふたり(・・・・・・・)

「なにかしら、核っていうか……指揮官がいそうな動きしてたよな?」

大方、自分と同様に襲われたんだろうとたかをくくりながら。
よいしょと壊れたドローンを拾い上げて、矯めつ眇めつ。

「…………ん」

眺めていると、ボディの横面に何かを見つけたようで、眉根を寄せた。

橘壱 >  
遭難理由を聞けばますます眉間に皺が寄った。
なんともまあ、呑気なものだ。いや、これば"場馴れ"しているのか。
ある意味その自由な振る舞いは、力ある強者だからこそ許されるものなのだろうか。

『いいんじゃないかな?その女にとってはラッキーかもしれないね。
 もしデートの最中に巻き込まれたら、きっと忘れられない思い出になったろうさ。』

それこそ一生、トラウマものかもしれない。
ある意味民間人ではなく、巻き込まれたのが此れ一人で良かったと思う。
……まぁ、よもや女癖の悪さ的にラッキーとは思っていない。
生憎そこまで個人的な事は知らないし、チャンピオンは女っ気無いからわかんない。
壊れたドローンを拾い上げるその仕草も、なんというか様になっている。
あいも変わらず、見た目は非常に流麗で、動くだけ"様になる"というのだろう。
同時に、その得体のしれない美しさに何処か畏怖さえ覚えている。
一体この知っているようで知らない顔は、本当になんなのだろうか、と。

『データ収拾が目的の小型ドローンだな。何処かで"見ている"奴がいる。
 ……というか、ソレはアンタがやったのか?一体どういうカラクリで……聞いてるのか?』

随分と神妙にドローンを見ている。
一体何を見つけたんだ、と訝しげに見ていた。

ノーフェイス >  
「デートスポットとしちゃ悪趣味すぎるしなぁ……
 はぐれた先でゲーマーと遭遇とか、フラれてゲーセンに逃げ込んだみたいじゃん。
 あー!やだやだ!考えてるだけでユウウツになってきた……ほらコレ。コレ見てみなよ」

彼の思考は露知らず、さっきの術理(からくり)を伝えることもない。
興味を向けられて、あえてスルーしているのか、それとも素なのか。
認識の矛先をしかし、自分よりももっと重大なことがある――と誘導するように。

そのままするりと横に居並び、白い指先がトントン、と冷たい機体の側部を叩いた。
同じ視点で見てみれば、すこしクセのある筆致で刻印(エングレイブ)がなされているのがわかる。
 

"Drachen Staffel(ドラッヘン・シュタッフェル) 0(ヌル) "

  >  
空竜部隊(ドラッヘン・シュタッフェル)
大変容直後の時代、ドイツ空軍で活躍した選りすぐりの航空戦士(パイロット)たちの集団だ。
各地の威力偵察に始まり、時に危険等級の高い怪異の撃滅。活躍の枚挙に暇がないが――
ここまでは、第三次戦史、しかも航空の歴史を深めにかじってると識ってるちょっとマニア知識。

ここからはちょっとオタク入ってると識ってる知識。
0番機は、2009年。ついに戦争の集結を見ることなく、極秘任務の途中に太平洋上(・・・・)へ姿を消している。
部隊エースパイロットであるアイン・ヴァイニンガーは、複座の相棒とともに伝説と消えたのだ、と。

ノーフェイス >   
「なんかよくわからない事情と混ざった(・・・・)かもな」

裏常世渋谷――いまだ正体不明の異空間。
そこに、数十年前のエースナンバーの痕跡。
ぽい、と残骸を放ると、そのまま歩きだして。

「なー、チャンピオン」

背を晒し、紅の髪を揺らしながら。

橘壱 >  
『……フラれる事はあるんだな。
 まぁ、間違いなく遅刻で今日はフラれるだろうけど。』

女っ気はわからないけど、ああ言う美人でもフラれるらしい。(恐らく)
というよりも会話が思ったより陽キャだぞ。陰キャには微妙にきつい。
そもそも、そんなフラれるとか気軽に言えるくらい女遊びしてるのかコイツ。
なんかこんなのがモテるって考えると腹が立ってきたな。ちょっと悔しいぞ。
くっ…思わず鉄仮面の奥で奥歯を噛み締めた。表情見られなくてよかったー。
まぁ感情は丸出しなんだけどね。悔しそうに(マニピュレーター)はギギギ…と握り拳。

一旦それはさておき、刻まれた刻印(エンブレイブ)をカメラが拡大する。
戦術的優位(タクティカル・アドバンテージ)の為のものじゃない。恐らく此れは部隊名。

Drachen Staffel(ドラッヘン・シュタッフェル)……何処かで聞いたことあるな……。』

歴史に名を残した存在は、大抵何かしらの創作の元として使われる事がある。
特にゲームや漫画と言った空想物には顕著だ。これも何かのゲームで聞いたことがある。
確か何かしらのエース部隊の名前だった気がする。生憎、彼ほどマニアではないから詳しくはない。
その口ぶりからして、確かにそれは"存在"したんだろう。
つまり、この異空間にはそういう者が紛れ込んだ。自然とライフルを握る手に力が入る。

『要はコイツ等が僕等を攻めてきたわけだ。
 と言っても、その部隊そのものじゃなくて、怪異として名を借りたみたいな感じっぽいけど……。』

『……何だ。女遊びのコツならアンタからは教わらないぞ。』

ちょっと悔しがってるじゃんね。

ノーフェイス >  
「約束がブッキングしたりするとね。
 うっかり出くわしたりしたらもうわりとサイアク」

青息吐息。なんかめっちゃ怒られる。
ボクが悪いことしたみたいじゃん、釈然としない顔してる。

「極秘任務中に洋上に消えたエースパイロットの識別子だ。
 このまえやってた映画、見たことないか。けっこう脚色されてるみたいだケド。
 ヒロインの娘がおっぱいデカくてカワイイ。
 そう、太平洋上――もしかしたら常世島(ここ)の上空翔んでたのか……?
 死せる伝説の皮を被った機械の怪異、都市伝説。……ねえ」

うーん、と考える。でも、こたえは出ない。
血のような赤い髪をがしがしと掻いた。

「……迎撃、っぽくね?
 あそこに近づけたくない事情があるんじゃないか。
 ボクらは迷い込んだ側だ。なのに殺したがる。
 出ていってと言われりゃ出てくのにな。
 なんでだろうな。生命体が憎いのか、もしくは……」

視線を向けた。
ビルの隙間からでも望める、天地を支えるあの柱。

「SF作品だと、ああいうの。宇宙につながるエレベーターだったりするんだケド」

何だ、と言われれば。

ノーフェイス >  
組もうぜ(・・・・)

肩越しに、黄金の瞳が見やる。

「ディストピアを突っ切るよりは楽しい時間になりそうだ。
 キミという才能が、常世島という環境でどう磨かれているかを見たい」

甘い声で謳うのは、あの時と同じ。
激しく燃える、審判の瞳。

「理想の自分を、あのときよりもはっきりと思い描けているか?」

解答を待たぬまま、足を進める。

橘壱 >  
『……そうかそうか、成る程。つまりアンタはそういう奴なんだな。』

流石の未経験少年でもうわって表情が引きつった。
思ったよりも女遊びが激しいしかなり最悪。
そりゃ怒られるな。いっそ刺されてくれ。

『……、……まぁ、そのヒロインの娘はともかくエースパイロットの識別か。
 生憎インドア派だし、元々アニメ以外の映画はあんまり見ないんだ。』

『にしても、そんなエースの末路が異空間(ココ)なのは少し哀れだな。』

というかちゃんと映画見てたのかコイツ、ヒロイン目当てじゃないよな。
ちょっと邪念めいたものを感じるがそれはともかくとして
その伝説のエース達の成れの果てがこの鋼の牢獄だと言うのであれば哀れみも感じる。
自由に空を支配していた強者も、今や空もない鋼の檻の中と見た。
昔のことはわからない。だが、彼等は何を思って翔んでいたのか。
モニターに照らされる少年の顔は、何と言えない(アンニュイ)ものになっていた。

『それこそ黒幕は宇宙の邪神。本当に漫画みたいだな。』

それこそありえない、と鼻で笑い飛ばせば横目で紅を見やった。

『……成る程、共闘か。
 理由はともかくとして、此処を出るなら願ってもない話だ。』

『チームプレー自体は、僕も"得意分野"だ。』

鉄仮面の奥では、少しばかり顔は歪んでいた。
あの時と同じ。此方を試してきた雰囲気と同じだ
だからこそ、あの時以上に迷っていた。いや、迷いが生まれてしまった。
蒼白の鋼人もまた、そびえ立つ柱を見上げる。

『……頂点(めざすばしょ)は、今でも変わってないさ。』

今でも目指すべき場所自体は変わっていない。
だが、あの時以上にその道中が曖昧になってしまった。
それは多くの人の縁を知ってしまったからこそ、純然たる力による修羅になることへの躊躇にすぎない。
その歩調に合わせるように一歩、一歩。重苦しい鋼の足音が響いていく。

ノーフェイス >  
「宇宙の神様は自由(・・)なのかな」

道中は静かだった。
ビルの隙間から這い出して、大通りを歩く。
急ぐ理由もない。横並びになって、荒涼とした通りを進んだ。
曖昧な言葉には、目を細めども。

「―――まあそこ(理想)は今はイイか」

投資の話はしていないかった。
二人の共通の目的は、この辛気臭い世界からの脱出。

「キミの現在地(イマ)は……そうだな、漠然と、どう変わった?
 意識とか……前向きなことでも、後ろ向きなことでも。
 簡潔にでイイんだ。教えてくれるか?」

周囲に視線を彷徨わせながら。
静かだ。不気味なほど。
あの迎撃はなんだったのだ、と思うほどに。だからこそ油断なく。

橘壱 >  
『少なくとも神様って時点で、不自由な気もするけどな。』

神様だってただ人を見下ろしてるだけじゃない。
神話通りならそれこそ不条理なくせに変な律に縛られている。
今やその神様でさえ平然とこの世にいる時代だが、自由かと言われるとそれは怪しい。
モニターに表示されるデータから目を離さない。
戦地だからこそ、1ミリの油断もない。少年に従軍経験はない。
戦闘経験だって深いわけじゃない。それでも尚軍人として遜色ないピリついた空気。
それは天性のものだろう。だからこそ、企業は彼に目をつけたのだ。

『…………。』

わずかの間。数刻の沈黙。

『……アンタに言うことじゃないかも知れないが、初めて友人も出来た。
 アレから自分なりに人と色々関わって、知って……まぁ、色々"気を使われた"よ。
 此れが前に進んでいるのか、後ろ向きになったのかはわからない。』

『ただ、何もかもを踏み台にしてまで取った頂点に意味はあるのか、疑念はある。』

全てを踏みにじる、最後に残る一人の例外(イレギュラー)
今でも目指すべき頂点はそこに違いない。
だが、その道中は本当に全てを踏み潰さなければいけないのか。
かつでの傍若無人、チャンピオンであった頃の自らに陰りがあるのは確かだった。

ノーフェイス >  
「フフフ」

前を向いたまま、肩を震わせて苦笑した。
まあそうだろうと思った感じだ。あの時も、イマも。自分は彼の友人(・・)ではない。
では友人として接したものが彼をどう気遣うのかといえば。
 
「他人から見た自分がどう(・・)か、ってのは。
 結局のとこ、自分を磨くためには避けちゃ通れない現実だ」

人前に出ることをしているものは、そう語る。

なぜ(・・)

そして、一言。

「そこに意味合いまで求めだすってのは、キミにとって……
 頂点が目的(・・)じゃなく、なんらかの手段(・・)であるように思える。
 なぜ(・・)頂点(それ)がほしいのか?ベッドの上で、天井眺めながら考えてみるとイイんじゃない。
 わからなくなったら他人に訊きゃいい。もうわかってんだろ。他人の力を借りなきゃ無理だってのは」

独りで。あの時そう望んでいた理想像。
そんな勝利を求めていた橘壱はもういない。戻れない。
進んだからだ。望むにしろ望まないにしろ。

「……じゃ、キミからおトモダチへの意識はどう?
 どんな感じに変わった?接し方、向き合い方……」

謳うようにして。
その内面を、ゆっくりと彫り込んでいく。
無邪気に残酷な彫刻刀が踊る。 

橘壱 >  
流石に笑われると、少しばかりむっとした。
表情は見えないが、此の機械(マシン)はパワードスーツ。
特に思考まで操作にリンクする関係上、ちょっと動きにもそのぎこちなさが感情として現れる。

『煩いな、笑うことはないだろう。
 そりゃ友達なんてのは今までいなかったから、どうって言われてもなんともだけど……。』

輝かしき栄光の裏、少年の実態は17歳の引きこもり。
ネット上にさえ友人(フレンド)と呼べる人間はいない。
それはいたとしても、一期一会でパーティを組んだ共にゲームを遊ぶ人間位だ。
正直、言われれば経験豊富な相手の言うことは大体"その通り"にさえ感じる。

『……手段、か。まぁ、間違いではないかもな。
 欲しい理由自体は、今でも変わってはいないけど……アンタの言うことも、大体そうだとは思う。』

根底に潜む他者、ひいては異能者や超人達への嫉妬心。
奴らを見返してやる。そんな意気込みも頂点へ行く理由に含まれていた。
今でも、自らが扱うものにとっての一位、頂点への夢は諦めてはいない。
ただ、そう。そこを一人で目指すには……余りにも、遠すぎるし残酷すぎる

『…………。』

『友達、というよりは他人への興味、関心っていうのか…強くなった、気はする。
 ……あんまり言われても正直なんて言葉にしていいかはわからないよ。ただ、前よりは…なんだ…。』

『"他人のことは、好きになった"……とは、思う。
 ……こうして話してるアンタにさえ、どういう人間か知りたいとさえ思ってるよ。』

生憎とコミュ障なのでどうって…って困惑はある。
その変化の言葉の仕方はわからないが、人間的に前は着実に進んではいるようだ。

ノーフェイス >  
「才能や勢いだけに任せてちゃ、そのうち限界が来る。
 そういうときに、冷静に自分を見つめ返せる人間ってそう多くなくてさ。
 理想の自分からはあまりに遠く、ダサくて、カッコ悪い。
 でも、そこから目を背けるのは……それこそサイアクだとボクは思う」

必要な痛み(・・)なんだよ、なんて。
軽い調子で笑いながら、一歩を先に踏み出した。

「ボクのことは、スキに解釈(・・)すりゃいいぜ。
 能力も必要なら貸してやる。ボクに(メリット)がありゃな」

語り終えた彼に顔を向け、シニカルに笑う。
舞台上の芸能人。スーパースターなんて、そういうものだから。
その奥底まで識ろうとする、あの緋色の月とは違って。
必要なように、解釈すればいいと思う――でも。
でも。

「人付き合いのイロハを語るつもりはないケド――」

その知りたい、という感情は。

「相手のことを正確に知れる(・・・・・・)人間になれれば。
 こと、対人戦において――キミの強さは二段も三段も跳ね上がるだろう」

このように解釈(・・)できる。
だから、拒むことではないと。紅いまぼろしは、そう笑った。

「彼を知り、己を知れば……ってヤツ。
 本来のそれとは、ちょっとニュアンスが違うケドな。
 とはいえいまのキミは、彼を知る(・・・・)能力はまだまだヒヨコ。
 今回は、己のほうに焦点(フォーカス)をアテてみるか」

そして、塔の間近まで辿り着いて――

ノーフェイス >  
「うっ……わ」

物陰から伺いみたその先は、しかし。
想像を絶するものだった。

さっきがた、壱の戦った陸戦型の人型機械。
更に、空中を飛び回る球体浮遊ドローンには、様々な銃器が搭載してある。

なにより、異常なのはその数――総計すれば、悠に二百(・・)は下るまい。
塔に続く巨大広場。そこを埋め尽くす殺傷機械の群れに、思わず苦笑いが浮かぶほど。

「ちょっと想像以上だな」

橘壱 >  
「……まぁ、そうかも知れないな。」

それこそ、今まで信じていた道に疑念を持っているんだ。
痛みと言わず、なんというんだ。
今でもまだ苦い表情を浮かべるが、ほんの少しそう言われると心も軽い。
自らを見つめ返せる人間、省みる事のできる人間。
……思えば結構、ろくでもない人間なんだな、と改めて思う。

「好きに解釈は出来ないだろ。
 何を言ってもアンタは"個人"なんだ。漫画の登場人物とは違う。」

生憎とスーパースターなんて考えで付き合っていない。
人付き合いの意味を考え始めた意味では、ある意味純粋で真っ直ぐな付き合い方だ。
偶像や自身の解釈に任せたものではなく、そこにある個人と向き合う。
橘壱が知りたいのは、今目の前にいる"誰か"に他ならないのだから。

「……手を借りる事はあっても、能力まで借りるまでは御免被る。
 僕にはまだ、AF(ツバサ)がある。羽ばたける限りは自分の力で翔ぶさ。」

それだけは譲れない。

「…………面と向かって言われるとちょっとムカつくな。
 女との予定をダブらせる割には、いいこと言うよ、ほんとに。」

ただ、茶化すように言ってはいるが目の前の彼はそれほど前に他者への扱いに長けている。
知る能力、理解する能力、そして、取り入る能力。だから要するに"モテてている"。
その人間を、ひいては自分を魅力的に魅せる"何か"を持ち得ているのかもしれない。
言葉上手。或いは、ハッタリなのかも知れないが、事実人脈が出来ているなら侮れない。
その言葉が値千金になるかはわからない。そうこうしている内に、目の前には例の塔。

そして、既に"準備完了"と言わんばかりの鋼鉄の群れが其処には広がっていた。
レーダーを埋め尽くすほどの適性反応。冷たい機械の殺意がビリビリと装甲越しに広がってくる。
それなりの装備を用意してきたつもりではあるが、さて、弾数が足りるかどうか。
それでも尚臆することはない。寧ろ、こういう状況こそ"燃える"というものだ。

『まさか、ビビってるのか?大一番の舞台なのに?』

敢えて、隣人を揶揄した。ちょっとした仕返しだ。

ノーフェイス >  
「…………」

ビビっているのか、と言われれば。肩を竦めてみせて。
冷静な表情。口元に手をあてて、蒼白の鎧を見つめていた。
考えている。

「前提として、ここは記録機器(・・・・)が働かない。
 持ち帰れるものは、特殊な物品のみ――裏常世渋谷(ウラシブ)のお約束に従ってる」

あるいは、その形を借りているなにか――だ。大戦時下の亡霊が成した鋼鉄の墓か。

「ただ蹴散らすんじゃ意味がない」

ぐっと伸びをしてから、繊手を水平にすべらせる。
魔力計に反応。その手に現れたるは、黄金の輝きを持つ長槍。
それを肩にトンと乗せて、ちらりとふたたび物陰から戦端を覗く。

「壱、ふたつ聞きたい。
 ひとつ、あの地上の連中(・・・・・)、最大で何体まで同時に相手取れる?」

さっきまでは、連携含めて三体、肩武装を含めての――。

「ふたつ……、キミがもっとも得意な戦い方を言語化できるか?
 メタラグは動画勢(エアプ)だケド、なんとなくは視えてきている。
 でも、実際にAF(それ)で戦っているところは見たことがないから」

槍を持たぬほうの手で、ふたつの指を立てて。

橘壱 >  
『随分と詳しいんだな、アンタ。
 もしかしたら常世観光大使になれるかもよ。』

それこそあっちこっちフラフラと現れるんだ。
ある意味的人の人材かも知れない。
機体のバーニアは熱を持ち始めた。臨戦態勢だ。

『……さっきの奴と同じ戦闘力前提で話すけど、同じ位なら10、上手く立ち回れば20か、15。
 但し、弾が切れたらギリギリで5って所かな。こういう時、無限なんとかってのが欲しくなるな。』

漫画やゲームと違って弾は有限だ。
彼がどれほどのものかはわからないが、恐らく"これだけ"の戦力のはずがない。
此れ以上の重装備を"今回は"用意してこなかった。ちょっと後悔だ。

『(……魔力計に反応があった。黄金の槍、か。
 思ったより派手な武器を使うもんだと思ったけど、見た目以上に肉体派なのか?)』

『……高速戦闘に、後はカウンター……って言っていいのかな。
 武術とかの世界じゃ、"後の先"って言うのかな。相手の動きをいなして、その隙に一撃をいれる。』

『……高速戦闘に関しては、見ての通り僕の体は"貧弱"なんだ。
 必要以上にスピードを出すと、体が付いてこない。Gに耐えられないんだ。』

『情けない話だから、あんまり口にしたくはなかったけどね……
 これである程度、アンタの目論見に検討は付いたか?』

わざわざ自分に聞いてくるのだから、何か意味があるはずだ。
簡潔ではあるが、此れで伝わったかどうか横目で見やって確認する。

ノーフェイス >  
「強がり言われても困るよ。自己申告通りに受け取っておくとしからな――
 要するところ、脳とAFの性能に肉体(カラダ)がついてこれてないって話だな」

脳と動体視や反射が秀でていなければ、戦闘経験の浅い彼が後の先(みてから)で戦えるはずもない。
マインドスポーツの世界で王座を獲ったこともある、その根拠として頷けた。

「相手にするのは、同時に5体まで。
 常に5体を相手取るように(・・・・・・・・・・)想定して立ち回ってみてくれ。
 そして、相手を見切っての後の先を取る――要するとこ。
 質を重視してみよう。そうできる状況は」

そのまま、ふらりと歩み出る。
物陰から、直線。機械ひしめく広場への通路へ。

「ボクが創り出す。
 録画も記録もできない裏常世渋谷(ココ)でなら、サービスしてやるよ」

ちょいちょい、と自分がいまいる場所へ来るように指で招いてから。
その姿がかき消える。

ノーフェイス >  
紅の残影を引いて、瞬く間、機械の群れの前へ躍り出る。

豹のように低くかがめた姿勢で駆ける。
一歩目から最大速度へ入る天性の撥條(スプリング)
常人のそれを軽々と凌駕する、超人の俊敏性。

一斉にカメラアイの視線を惹きつけた瞬間には、二歩目ですでに群れの只中へ。

密集地に飛び込み、二百の殺意、空中から無数の銃口を向けられても。
その速度は緩まない。一切の減速も停止もせずに疾走する。
まるで鋼鉄の群れのなかをすり抜けているかのようにして、地上の兵士たちを障壁(カベ)にしながら、
浮遊ドローンの大群の銃口をかいくぐるその姿は、生身にしてすべての銃口の囮となる。

視線は前だけを見ている。目に頼らずに戦場を把握する。
処理速度、頭脳、肉体、経験――……
あらゆる根拠(・・)の上で行われる、その無謀の目的は。

統一意思は判断する。
――であれば地上戦力が潰すべきは。

モノアイが一斉に、蒼白の鎧を見据えた――狭い道路の先にいる、もうひとりの生命体。
百を超える地上戦力が、群がるように壱へと押し寄せる。

――広場から(・・・・)道路へ(・・・)なだれ込んでくるのだ。
侵入経路と対応方向を限定することが出来る、後攻で立ち回るための有利(・・)を取れるロケーション。

最善手を選び続ければ――否。
一手でもしくじれば死ぬ、壱にとって達成可能な最高難易度(・・・・・・・・・・)の状況を創造(・・)する。

橘壱 >  
『強がりのつもりは……、……いや、いい。わかった。
 そう言われるなら、そうすることにする。要するに講習(セミナー)と受け取った。』

少なくともこの装備ならそれくらい可能だ。腕に自信だってある。
だからこそ少し不服ではあったが、これは恐らく"そうじゃない"。
此処は先ず、彼の目論見に従ってみるとしよう。場は整えてくれるらしい。
モニターに映る無数の敵影と紅の相方。瞬間、紅の残影が空を切る。

『…!(速い……!瞬間移動?それとも俊敏力か?アイツ……伊達に人に何か言うだけはあるな。)』

一足、二足、あっという間にそれは鉄の海に飛び込んでいく。
一切緩むことのなく生身で、それこそ大会を優雅に泳ぐ紅。
そういう異能か、或いは超人なのかはわからない。
ただ、逐一先人めいたものいい、そして"自由"の振る舞いをする上での"説得力"がある。
何者にも縛られない、それだけの力を持っていることを今の一瞬で理解してしまうほどだ。

だが、人に見とれている場合じゃない。
その無数の大海の内の半分は、此方に向かってくるのだから。

『来るか……!』

バーニアが青い炎を灯し、大群と距離を取るように後退する。
生憎だが、ただ突っ込んで無双できるというのは本当にゲームの世界か、超人位だ。
橘壱はそのどちらにも該当はしない。悔しいが事実だ。
だが、そんな事は"昔から知っている"。だからこそ、あるべき戦い方を実行する。

先ずは両肩のロケット弾が直進で飛び発射される。二発、四発、八発。
直撃目的ではない。広場から通路に雪崩込んでくる陣形を更に崩す。
ロケット弾が地面へと直撃し、爆風と成れば無秩序な機械の波も大きく揺れて崩れていく。
更に背面パーツの左側。円形の長身の筒が開けば垂直に発射されるミサイルの雨。
高高度、遠距離から敵を爆撃するためのAFの垂直ミサイルだ。直撃すれば御の字。
これの狙いも陣形崩しだ。建物に、波に、地上が無数の爆煙に呑まれ、"波が決壊する"。

『此処だ……!!』

そこが狙い目だ。反転する急加速。
Gを全身に受けながら一気に前進すれば、両手のライフルとマシンガンが爆音を上げた。
弾ける薬莢が宙を舞、鉄くずが弾け飛ぶ。
急加速による接近、不意のバックブーストや横の急展開によるクイックブーストの細かい移動。
確実に"5体までを間合いにいれる"。一足でもずれたらキャパシティオーバー。
目を見開き、目まぐるしく変わる、景色、モニターの情報。
それはを脳が一瞬で処理し、動きに変えていく。
迫りくる反撃も一瞬の電磁バリアでいなし、無数に来る選択肢を何度も何度も何度も、刹那の間に手繰り寄せる。

ノーフェイス >  
地上戦力というバリケードがいなくなった広場は、弾丸の嵐が吹きすさんでいた。
対地掃射の隙間をしかし、最高速度を維持したまま息を切らさず紅が疾駆する。

「濃縮還元の戦闘経験(ジュース)を有り難く頂戴しろ。
 ――芸術家(ボク)が体張ってやってんだからなッ!」

夜に吼えた。
橘壱という人間の性能、可能性――試練を前にしてどう化けるか。
魅せてもらわなければ困る。そのために戦っているのだ。

言いながら、ノールックで斬閃。翻った槍が、ひとつ、またひとつ。
球体のドローンを達人もかくやという槍撃で仕留めながら。
それだけではない。その間合いの外にいるものも、着実に数を減らしている。

AFが小刻みに魔力に反応する。バグったかのように戦場を高速で疾駆する生命反応が。
まるで点滅するかのように、魔力のオン・オフを繰り返している。
その体から生じる、金属質の不可視の何か(・・)が神速で鞭のように振るわれていた。
敵性を切り裂き、貫き、削り取る。殺意をを受け止め、打ち払い、打ち返す。

戦士としての素養だけでなく――まるで指や視線を動かすように。
魔力を操ってみせる魔術師の才覚。
格別の才能、極限の研鑽。魅せるのだ。魅せつけるのだ。

――橘壱の反骨心(・・・)を育てるために!

ノーフェイス >   
追いすがる漆黒の荒波。それらはただ、高機動と武装に翻弄されるだけの木偶ではない。
あちらもまた、橘壱の頭蓋内にマウントされたそれには遠く及ばずとも。
学習し、判断する程度の知能を殺戮機構は備えていた。

陣形を崩されれば立て直し、全くおなじ戦い方はしない。
敵性体が常に最適な位置取り(ポジショニング)をしていることを理解するのは早かった。
こちらもまた、群れという強さを活かして立ち回る。
追い立てる動きのなかで、守り――壱により多く攻撃させるための駆け引きを見せ始めた。
弾数という限界がある"個"を消耗戦へと持ち込み、追い立てようとしている。
これは、狩猟だ――群れという生物の強さが、個を飲み込もうと進化(・・)しながら追いすがる。

驟雨のような銃声に、弾丸が黒鉄を削る金打音。
バーニアが空気を灼く音に対して、追いすがるは超重の軍靴。
火花がビルの狭間を明るく染め、鉄屑が嵐のなかの花弁のように舞い散った

――そこから(・・・・)だ。
弾切れになった後にこそ、人間性能の真価が試される――!

橘壱 >  
忙しくセンサーが、計測器が音を立てる。
それに重なる爆音と轟音の交響曲(シンフォニー)
常に状況が目まぐるしく変わる多数の実践経験。
過去に一度、島の外で起きた"初めて"の戦いを彷彿とさせた。
ただ、あの時と違い相手は心も命も持たない機械の軍隊。
アスファルトを滑走し、ターンとともに展開した砲身が爆音を掻き鳴らすグレネード砲。
爆炎で数を減らしても、ただただ弾数が減っていく。モニターに表示されるからこそ、より焦燥感が肌を焼いていく。

『……!』

どれだけ撃った。どれだけ破壊した。
それでも数が減ってないんじゃないかと錯覚するくらいには焦りが身を焦がす。
今は動きに一切の"ブレ"は出ていないが、自分でも冷静になるべきだと思うくらいだ。
それに比べて、"アイツ"は──────。

『チッ、何が芸術家だよ……!そんなに動き回っておいて……!』

どう見ても陰キャ(インドア)より陽キャ(アウトドア)だろうが。
悪態を吐き捨て、ロケット弾が風を切る。
しかし、どうだ。見せつけてくるじゃないか
槍一つで超人とも言える体捌き。余裕さえ魅せるような優雅さ。
汗一つ書いていないように、一つ、また一つと斬り伏せていく。

……バケモノめ。

内心、吐き捨てずにはいられなかった。
何時だってそうだ。コイツ等は何食わぬ顔で見せつけてくる。
いや、彼等にとっては"出来てしまう"からそうなんだろう。
異能者も、超人も、その裏に才覚に至るまでの背景(バックボーン)があることくらい知っている。
"それでも"、非異能者にとっては羨ましい事この上ない。
才無き凡人故に、ある手札でしか戦うしか無い。


──────カチッ。


<左腕武器、残弾数0>

『……!』

マシンガンの弾が切れた。予備の弾倉も無い。

橘壱 >  
此れまさに好機と思われるだろう。
だが、まだだ、まだ終わっちゃいない。

『余り気に入ってないけど、仕方がない。
 コイツの"能力(ちから)"を見せてやる……!』

咄嗟にマシンガンを群れへと投げ飛ばすと同時に、空へと舞い上がった。
青白い炎が空を焼き、一直線に機体が向かう先は周囲に浮かぶドローン。
黒鉄の波を追い越し、高速にすれ違いざまにドローンを左腕が捕縛した。
(マニュピレーター)ががっしりとドローンを掴めば、その手首からコードが飛び出し、ドローンを貫いた。
最新鋭試作型のAF(アサルトフレーム)、それに備わる特殊機能。
コイツ等も機械なら、或いは───────。

Grasping in(敵兵装、掌握完了)

『ヨシ……!』

COMの無機質な音声が辺りに響いた。
計算通りだ。ケーブル通して繋いだドローンの権限を掌握した
……往々にしてこういった戦闘において、弾切れ問題は切っても切れない関係にある。
そういった消耗問題を解決されるために造られた機体がこの試作機、Fluegele(フリューゲル)
特殊なケーブルにおける対象の機能掌握、即ち相手の機械(マシン)の機能を奪い、自らの戦力へと変える事。
Fluegele(フリューゲル)とは本来、対機械兵器用に造られたテストヘッドのAFなのだ。
異能者のみならず、あらゆる化学兵器や魔導兵器。それらを掌握し、自らの力に変える支配者の翼。

左手にマウントしたドローンについた機銃を構え、再び轟音と波の中へと飛び込む。
これでも、弾切れの心配は一切ない。一つ、二つ、三つ。確実に鉄くずの山を作り上げる────!

ノーフェイス >  
久しく、視線がそちらへ向いた。
聞きとがめた空撃ち音(ドライファイア)。いよいよもって進退窮まるその状況。
ずいぶんと数を減らした波の向こうから舞い上がる蒼白を見て、眉根を寄せた。

(撤退……)

おりこうな判断。想定の域を出るものではない。
柔らかな関節は大きく広場を迂回しながら取って返し、
地上の残敵の掃討へと乗り出そうとする。

「な、」

致し方なし――そんな感情が裏切られて目を瞠る。
いままさに、イケないケーブルをブチ込まれてあらぬ挙動をしはじめたドローンに。
なにが起こっているのか理解するまで僅かな時間を要した。

「……試作品(フリューゲル)の仕様書が公開されてないワケだ。
 ――いくらでも悪用できるじゃないかよ、こんなモン(・・・・・)

舌を巻く。不本意とは言え、橘壱の攻撃性に加担させられたドローン。
浮遊する対地ドローン。技術力でいえば、最新世代には遠く及ばない、シンプルな殺戮機械。
米国でも有数の技術力を誇る企業の、秘め隠された虎の子に抗えるはずもない。
即席の機関銃としてAFにマウントされた追加兵器(ドローン)の砲火に、波はついに隙間を生み始めた。

「白兵でもがいてるとこ見てやろうと思ったら隠し玉持ち出しやがって。
 ――出し惜しみしないとこ、けっこうスキだぜ……ッ」

であれば、踏み込んで、跳ぶ。
黒禍のなか、最後のひと仕事へと舞い戻った彼へと入れ違いに。
バーニアほどの空中制動力はなくとも、その身体能力は同程度の高度までの跳躍を行った。

――決着は、同時に着くだろう。

橘壱 >  
そう、この力はハッキリ言って忌避すべきものがある。
シンプルなハッキング機能ではあるが此れには地球外の技術が組み込まれたものだ。
内容は詳しく知らないが、完全にブラックボックス化された技術であり
こうして"二度目の使用"以前にも一度だけハッキングに成功している。
今はもう、なりふり構っていられない。残弾の残ったライフルを発砲しつつ、すれ違いざまにまた一体、また一体とケーブルが突き刺さる。

『──────貰った!』

最後の一撃。ドローンの波状攻撃により波が固まった所に打ち込まれた背部のグレネードキャノン。
轟音とともに巨大な爆炎が爆炎を呼び、決着は一瞬で付いた。
辺りを焼き尽くす炎が周囲を照らし、機体すらも染めている。
乱反射する炎の灯りを尻目に、ぐっと左手で拳を作ればハッキングしたドローンさえ次々と爆発していく。
自爆命令だ。一度掌握されてしまえば、こういうことだって出来てしまう。
正直、気分の良い機能ではないが、白兵戦で無茶するよりはマシだ。

『……グレネードとミサイルは40%、ロケット弾は30%、ライフルは10%……、か。』

残弾数はやや心許ない。
が、幸いにもエネルギーやダメージの消耗は軽微だ。
戦いに問題はない。まだ決着が付いたわけではないので、戦闘状態は継続だ。
ゆるりと地上に降り立てば、全身のバーニアから白煙が排熱される。

ノーフェイス >  
飛翔、錐揉みしながら、天地を逆さに。
紅の残影が竜巻の如く夜闇を舞いながら、ドローンの動きを惹きつける。
それぞれが鋭くランダムに飛翔する浮遊体の高度が、
完全に水平に揃うその一瞬に。

――――挑む。

来たれ(■■■■)

試してみたくなる。
見てみたくなる。
殺し合いの趨勢や、命の奪い合いに魅力を感じないこの存在にとって。
戦いに望むよろこびは、挑むものが高次へ駆け上がる瞬間と。

――――試練への挑戦。

魔力計が一気に大きくふれるとともに。
それ以上に、この存在の瞳に、みなぎる何か(・・)は。
今から起きる秘技よりも、それを扱う(ノーフェイス)状態(・・)のほうが。

橘壱に強烈な既視感(・・・・・・)を与える。
 
■■■■■■■(■■■■■・■■■■■■)

ノーフェイス >   
 美しき残響を、高らかに闇に残して。
 すべてのドローンが水平に両断される。

 遅れて、姿勢を制御。膝を深く弛めながら着地。
 乱れた髪を肩の後ろで払い、もとに戻った瞳で見返す。

「――お疲れ。ソッチのが早く終わったか。
 途中からは観戦に徹しようと思ったんだケドな」

 残骸まみれの広場にて、もはや守るものはない。
 塔へ挑むばかりのまま、槍を魔力としてみずからの体のなかに収納。
 ぐいっと伸びをしてから、脱力。

「どーよ。やりきってみせた感覚は。それなりに調子がアガってたように見えたケド」  

橘壱 >  
『……!?』

今のは一体何だったのだろうか。
強烈な既視感に、計測計が大きく触れ上がった。
魔術による奥義か。いや、そういうものでもなさそうだ。
それよりも今の一体何をしたんだ。アレが超人の類だということはわかる。
モニターを食い入るように見つめ、遅れながらにしてあ、ああと返事をした。

『まぁ、悪い感じはしない。
 使う気はなかった機能だけど、今は仕方ない。本命はこれからだろうけどね。』

少しは何か掴んだ気もする。
それ以上に今、衝撃を受けた出来事が気になって仕方ない。

『体に入ってるのか、それ。……いや、それよりもさっきのは一体……?』

初めてみたような気がするのに、余りにも既視感のある"何か"だ。
何よりもあの感覚、ずっと昔に体験した気もする。
戦いの中で、自らを煽るように一騎当千を見せていたが
これももしかしたら"敢えて"見せたのかも知れない。
だからこそ食い気味に、彼に問いかけを投げるのだが……。

ノーフェイス >  
 
 
【To be continued.】
 
 
 

ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」から橘壱さんが去りました。