2024/07/17 のログ
■橘壱 >
鉄板一枚の先で、ぽつり、ぽつりと何かがぶつかる。
大鷲のものではない。もっと自然的な超常現象。嵐だ。
『……!』
風が吹きすさぶ、雨が狂い乱れる。
閉ざされた鉄の大空が荒れ狂った。
一人の魔術師が起こした奇蹟が、奇跡を生む。
大空の支配者の動きが"鈍った"。挑戦者と同じ目線。
この嵐の中でさえ動じること無く、驚異的集中力が動作を安定させた。
それは僅かなチャンスではあるだろうが、@全てが噛み合った@。
蘇り、重なる。現役時代からずっとモノにしていた動きが。
チャンピオンの必勝パターンの戦術動作。
<Assault Combat Pattern:ONE>
COMの音声が響かせる、チャンピオンの奥の手。
■橘壱 >
Fluegeleの全身のバーニアがフル稼働する。
青白い炎が翼のような軌跡として散っていく、蒼白の残光は正しく彗星。
驚異的に掛かるGの影響下すら、その驚異的集中力の前では意味をなさない。
ゲームの景色と、あの実況席の熱狂と世界が重る。
左背部の垂直ロケットが高速で全弾打ち出される。
空中を高く舞い、一直線に大鷲へと向かっていく。
だがその全ては直撃動作ではない。
全て大鷲の周りで爆発し、爆煙が視界を…いや、一瞬でも動きを止めさせた。
「『まずは標的を中央に固定。』」
脳裏に反響する実況と声が重る。
その動きを止めた一瞬、本来ハッキングように使うケーブルが射出され、大鷲の体に突き刺さった。
当然、そのような強大な存在をハッキング出来るわけではない。これは、"軸"だ。
「『円の動きで標的を追い込む。』」
大鷲を中心に遠心力を活かした超回転。
その最中にお見舞いされるライフルの嵐。
鉄鋼弾の嵐が目標に惜しみなく注がれる。
確実に逃げ場をなくし、足を止めさせるための動き。
「『更には火力を集中させ──────。』」
その止まった動きにダメ押しで連射されるグレネードキャノン。
今度は爆炎が轟音を立てて大鷲を包み込み、暴虐的な熱が、破壊力が空気を振動させる。
何度も、何度も、何度も。弾切れになった瞬間にライフルとキャノンが排除される。
空を覆い尽くす黒煙の中、蒼の翼はまだ羽ばたいている。
両腕のレーザーブレードを展開し、最高速。蒼の彗星が一直線に黒煙を斬り裂く──────!
「『トドメは中央を突破!』」
ワイヤーの回収の加速をプラスし、限界加速でその胴体をブレードで、全身で撃ち貫く。
舞い散る羽根の残光を背に、まさに流れるように一瞬の動作が行われた。
「『コイツはチャンピオンの十八番なんだ────。』
クセだ。ゲーム内でのシステム。台詞によるバフ効果システムだが、此処では最早シメの口癖だ。
かつての記憶、栄光の瞬間。彼が現役時代玉座に居続けた理由。
何故、企業がたった一度の戦闘で見せた少年の動きに目をつけたのか。
齡17年の短い人生の中で、人としての可能性を、その拡張性を持つAFによって
その才覚が現実でもゲームの動きを可能とさせた。
その一連の流れを見ていたものならわかるだろう。
本来であればこの戦術動作は、6人で行うものだと。
それも中央の標的相手に、動く標的を追い詰め、かつ円陣を組むという事は"誤射の可能性"が高い高難易度の陣形。
それを、たった一人でやってのけたのだ。
現役時代だった頃の動きを、忠実に現実に持ってきた。
VRだからこそでもあったろうが、そのような人材を企業がほうっておくはずはなかったのだ。
■『空を統べるもの』 > 自分の爪が、か弱きものに当たらない。
『―――――――ッッッ!!!』
はじめて、吼える。
嵐のなかでも耳を劈くような、鋭い嘶きで。
しかしそれは、爆炎に途切れた。
炸裂した弾頭と爆炎による包囲。
それでも回避は問題がない。すぐに相手の攻撃範囲から脱出すればよい。
しかしその翼は、轟、と吹きすさぶ暴風に、一瞬――絡め取られた。
――空へ、
ギィ、と苦しげな呻きは。
はじめて、その肉体に直撃を受けたからだ。
蔦のような、一本の触腕。不愉快な衝撃。致命には至らない、切断して――
『!!』
体が振り回されるように、回転する。
引っ張られて、制動を失う――視線が遅れて、追いかける。
羽の弾丸を解き放つ。彼我の間で、鉛玉と魔力の羽が小規模な遭遇戦を引き起こす。
それでも、術中。既に後手に回ったことで、次なる動作が――間に合わない。
――空へ、
着弾。
黒煙に呑まれた巨鳥は、衝撃と熱炎に巻かれる。
それでも、苦しげに呻きながら、闘志は消えない。
譲らない。
死したるさだめでも。
ついていける。
この風にも、慣れてきた。
――――空へ、
■『空を統べるもの』 >
最後の一合。
王の飛翔は、若き王者と相すれ違い――
――適合には。
ほんの一合、いまだ至らず。
その身を通り抜けた蒼い閃光に。
かつて栄冠を掴み取った、その一撃に。
だがそれでも絶命せずに。飛翔して、旋回して。
王者の背後から、掴み殺そうとして――
――墜落する。力尽きたのだ。
今や、見果てぬ理想と化した……
蓋をされた空の王座から、放逐されるように。
雨水に濡れた草原の上に、倒れ伏した。
■ノーフェイス >
「わぷ」
水しぶきを総身に浴びて。
雨と風でひどい様相だ。
「……おー」
見上げた。
嵐が引いていく。
サムズアップをして、出迎えた。
■橘壱 >
勝負は常に残酷だ。
敗者と勝者、光と影が必ず生まれる。
どちらが空を統べるものか、ついに決着は付いた。
レーザーブレードの収納し、鉄仮面の中でふぅ、と一息。
『……お前の危険性は看破出来ないが、誇りは一緒についれていく。』
それが、王者の矜持だ。
ゆっくりと振り返り、低速で地面へと着地すれば白煙を巻き上げて排熱行動。
そして、やがてその鋼鉄が溶けるように剥がれ落ち、一つのトランクへと形を変える。
残った少年の顔は、何処となく清々しいものだ。
「ふぅ……助けられたな。またアンタに。
しかし、こんな事もできるんだな……本当は一人でもやれてたんじゃないか?」
無貌に一つ訪ねてみる。
■ノーフェイス >
「証明されたことがすべてさ」
後から実はどうだった、などとは。
無粋窮まる文言だ。
ここで起こったのは、どうにかできたか、じゃなくて。
なにをもって、どうしたかの記録。
「キミにのこったものが、すべて。
ボクがキミになにかを起こせたのなら、それで十分」
貫かれた肩が、変色――石化していたが。
力尽きつつある大鷲の影響か、白肌に戻りつつある。
浮かび上がった紋様も消え失せ、いつものそれに。
「……ん」
世界が、薄らいでいく。
周囲を閉ざす鋼鉄が、砂のようにさらさらと崩れ、風に消えていく。
■橘壱 >
「多くは語らず、か。カッコつけやがって。
……いや、実際普通にカッコよかった。違うな。アンタのとこで言うんなら……。」
「最高にロックだった……って、言うべきか?」
少なくとも最後の瞬間まで付き合ってくれたんだ。
理由はどうあれ、過程はどうあれ、最高の僚機だった。
ふ、と小さく笑みを浮かべた途端、強烈な脱力と激痛。
「ん……!?げほっ……!」
……思い出した。
初めての出撃もそうだった。
最大稼働のGによってぶっ倒れたんだ。ああ、全くあの時と同じだ。
鋼鉄の檻が消えていく最中、彼の足元に倒れ伏してしまう。
起き上がる気力も、力もない。強烈な吐き気と、前後不覚の状況。
肉体の限界、精神の限界。漫画やアニメのようにはいかない。
現実、ただの17歳のオタクにしては充分以上にやったほうだ。
「はっ……僕は、僕で……カッコ悪いな……。」
最後まで立っていられないなんて、閉まらないな。
引きつった笑みで吐き捨てるのが限界だ。そこで意識を手放してしまった。
■ノーフェイス >
「フフフ。受け取っとく。そう映ったのならなによりだ」
識りたきゃ聴いてくれ、のスタンスは変わらないけれど。
そう笑って、途絶した意識を追いかけることはない。
やれるだけのことはやった。
「確かな達成だ。
でも、これは最初の第一歩。
理想に続く長い途に、どうか祝福を」
たとえ、どこかで膝を折れて崩れるとしても、だ。
――すべての鋼鉄が、ほつれていく。
残ったのは、巨鳥の亡骸と。
どこまでも広がる草原と、無辺の蒼穹。
どこか、孤独で、さみしい空間だった。
すべてを踏み越えた王が行き着く、心の風景。
たったひとりの空。
じりじりと夏の陽射しが戻ってきて、手をかざす。
異界は、主を失っても、残り続けるものもある。
そういう場合、祭祀局が"祓う"ことで、消失する。
でも、ここは。……残しておいてもいいだろう。
ずっと。
「キミが目指す理想は……」
どのように変わったのだろう。
――その件に。大鷲の存在も、紅いまぼろしの介在も。
証す証拠はしかし、何処にもなく――
ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」からノーフェイスさんが去りました。
■橘壱 >
──────次に橘壱が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
ある意味見慣れた天井だが、満身創痍のまま常世渋谷スクランブルに倒れていたらしい。
機体の方も損傷が激しく、現在は修理中だ。とは言え、長期入院することにはならない。
例の異界の残滓は、後は祭祀局の方がなんとかしてくれるようだ。
となると、もう此方からやることはもう何も無い。何気なく、天井へと手を伸ばす。
「…………。」
しかし、確かに掴んだもの、進んだ一歩の実感がある。
この先歩むべき先がどうなるかは、自分にもわからない。
ただ、忘れはしない。一度見たこの世界の向こう側。
必ずアイツ等も連れて行く、約束だ。
「それが、僕の……王者の矜持だ。」
清々しい顔付きのまま、ぐっと作った握り拳。
漸く全てを向き合い始めた少年の物語は、これからだ。
ご案内:「裏常世渋谷『鋼鉄の檻』」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に天川 コウハさんが現れました。
■天川 コウハ >
ここは常世渋谷でありながら常世渋谷ではない場所。
景色は限りなく似ているが夏休みシーズン特有の街の活気はなく人だけ切り取ったようにシンと静まりかえっている。
現世ではないが限りなく近い?いや、どちらかと言えば黄泉の国の方が近いかもしれないが
そんな極めて不自然な街模様ながらも平然と歩く少年がいる。
彼は齢にして13程だろうか?背丈は140中盤と年相応にしてもやや華奢で小さく育ちが悪い。
彼の異常性が見えるとしたら身の丈を超える大鎌だろう。
死神を連想させるソレは間違いなくホンモノ、ついでに言うならば少年…改めコウハ自身に死神である。
「ああ、可哀そうに」
歩みを止め、同情を口にする。
目の前から怪異の気配。
だがいち早く察知したコウハはその正体も看破した。
いや、最初から狙いはソイツだったからだろう
■天川 コウハ >
可哀そう…そう少年は言った。
彼の前には大量の怨霊の群れ群れ。
それらは非常に小さい。怪異としてもあまりにも力が弱すぎる。
それも当然、この怨霊の群れの正体は「捨て猫の怨念そのもの」だ。
「本当に可哀そうな事だ、こんなに大きくなるまで…沢山の怨念がいるだなんて」
哀れむ。
その視線の先には小さい小さい猫の怨念の魂が徐々に一つの塊へと集まっていく
その姿はさながら孤独にして死んだ猫たちが互いの寂しさを埋めるように
コウハは持っていた鎌に力を込めた。
「ですが…死に囚われたままの魂を開放するは我が死神たる役目、その苦しみごと解き放ちましょう」
目の前に黒い怨念の集合体で出来た全長5~6mはあろうかという化け猫が顕現した。
■猫の怨念 > 「う”~」
大きさにして6m程だろうか。
元は怨念やら怨念が宿った魂に過ぎないがそれらは固まって集まり一つの猫の形になった。
見た感じ、全部の怨念が互いに足を引っ張ることはせずむしろ強化しあっている。
つまるところ一つの怪異として完成された形であり相手取るのは非常に困難である。
目の前の少年を見る。
鎌を持っているといえどこちらから見ればネズミのようなサイズ比だろう。
どう考えても怪異に分がある戦いだ。
■天川 コウハ >
「一刻も早く魂を開放してあげますか」
大鎌を右側、刃を地面につける或いは引きずるように低く構える。
巨大な怪異相手では上から下に振り下ろすという重力落下による攻撃力の増加は期待し辛い。
つまりは薙ぎか下段からの掬い上げになる。後者を選択。
地面を軽く踏み、軽やかに戦闘を開始。
此方が間合いを詰める。
しかしながらリーチはあちらが上だ。
■猫の怨念 >
「シャァァ!」
巨体でもあるにも関わらず流石は猫だ。
怨念の集合体であるにも関わらず猫元来の体のしなやかさを利用してコウハの右側に跳躍して回り込む。
爪が出た左前脚が伸びる。
その巨体から繰り出される重量による破壊力は勿論、爪もしっかり出ていることから太い刃物が突き刺さったような傷ができるだろうし、そして最悪の場合はそこから押さえつけられて肉食獣が持つ牙でトドメを刺されるリスクすらある。
つまりこの怪異は戦闘力は猫を巨大化させたものに過ぎないが逆に言えばそれこそ脅威だ。
体躯で優っているうえに運動性も怪異屈指だろう。
■天川 コウハ >
「強い…ですが」
そのまま真っすぐ突っ込む。
バカな、直撃コースだ。
押し切るにしても無謀と言わざる得ない。
それもつかの間、コウハの身体が黒い羽根を残して消えた。
「僕は怪異退治の専門家ですので…残念でしたね、この攻撃もそして生前も。……今度生まれ変わるときは」
気が付けば上空にいた。
これぞ黒い法衣の能力だ。
幻影のような突進こそが能力であり死神の権能の一つでもある。
「素敵な飼い主が見つかるといいですね」
終わらせた。
猫の怪異を頭から真っ二つに、大鎌を振り下ろした。
その瞬間、一つの怪異となっていた怨念の数々はコウハの鎌に一時的に吸収される。これらは後に輪廻の輪に加えるだろう。それが死神としての仕事でもある。
こうして一連の事件は幕を下ろした。
次の仕事の依頼も思い馳せつつ
学園での立ち振る舞いも考えていかないと…
ご案内:「裏常世渋谷」から天川 コウハさんが去りました。