2024/08/18 のログ
■シュエット >
「わ、私は大丈夫です――」
頭をさすりながら、立ち上がる長耳の女。
女の方が、少しばかり背が高い。遠目に見れば同じ金髪から、姉妹に見えるのかもしれない。
女は丁寧に腰を折った後、このように口にした。
「祭祀局祓除課《祓使》、コードネーム、アリスブルーと申します。
諸事情で本名はあまり表に出せませんので、このような自己紹介で失礼します。
……好きなようにお呼びください」
両手を臍の辺りに重ねて、にこりと微笑む女。
登場こそ少々危なっかしかったが、既にその色は消えていた。
「貴女、聡明ですね。そして、アレに詳しくいらっしゃるようで。
そう、アレの名は簡単に口にしない方が良いですから」
少女が言い淀んだことに対して、長耳の女――アリスブルーは、
人差し指をピンと立てて柔らかな笑顔を見せた。
「アレが出現したこと自体はこちらでも把握していまして……
私は討伐の為に出向いた、という訳です。
貴女は、どういった経緯であちらの方へ……?」
そこに何かを責めるような色はない。
全てを包み込むような笑みを浮かべながら、
穏やかな声色で尋ねるだろう。
■ミア・コレット >
祭祀局か。
それであの世界で人助けを。
「感謝します、アリスブルー」
頭を下げた。
あの助けがなかったら自分はどうなっていただろう。
あっちの世界で絶望と行き逢っていたのか。
長い耳。それは私の視線を引いた。
「ですね……倒すつもりで口にしたんですが、大失敗でした」
「無闇に実体化を助長してしまった……」
汗を拭ったハンカチを荷物に戻して。
「久那土会です、コードネームはマレビト」
「あっちの世界の調査中に尾行されて……」
「七巻半の大百足事件の時から積極的に裏に入って調査するようにはしているのですが」
「やはり人の力を大きく超えた存在はいるものですね……」
■シュエット >
「出過ぎた真似だったかもしれませんが、流石に放っておけなくて」
女神の如き笑み。
祭祀局に女神あり、と呼ばれるその包容力のある笑みは伊達ではない。
「久那土会。成程、それであんな危険な目に……」
久那土会。『裏常世渋谷』の調査及び、侵入の手引を行う違反部活。
命を落とす危険性もある活動であることから違反部活とされているが、
風紀公安、並びに祭祀では存在を黙認している部活だ。
故に、シュエットもそこを深く追求することはなく、寧ろそれなら納得だ、と
言わんばかりに優しく口元を緩めて見せたのである。
シュエットとしては、実際に久那土会として活動している人間と、
こうして話すのは、初めてだ。
耳をピンと立てて、眼前のマレビトの方を改めて見やる。
第一印象は、とても可愛らし見た目だ。
華奢で小さな身体に、整った顔立ちも含めて。
しかし、久那土会、というワードを聞いてから、
彼女への印象は再びがらりと変わっている。
先の様子も照らし合わせて見てみれば、戦闘の経験は豊富そうだ。
「あの大百足の。色々と事情は理解しました。
その……これは祭祀局の私としてではなく、ただの個人的なお願いではあるのですが。
あまり無茶はなさらないようにしてくださいね。
久那土会の皆さんは、かなり危険なことをされていると聞いておりますので」
祭祀からではなく、あくまでシュエットという一個人からのお願いとして、そう伝えた。
彼女には彼女の事情がある筈で、頭ごなしに活動をやめてくれ、とは言えなかった。
とはいえ、あのような状況を見て放って置くのもシュエットとしては難しく。
「せっかくこうして久那土の方とお話できたので……そうですね、
何か緊急のことがあれば、こちらまで連絡いただければ」
そう口にして、祭祀関連の紐づけがされていない、個人用のオモイカネを手に取って
少女に見せる。端末に設定しているアカウントのアイコンと、連絡先が記載されている。
ちなみにアイコンは、メタラグの初期機体の内の一機である。
■ミア・コレット >
「いえ、この恩は忘れませんよ」
命を助けてもらってすぐ忘れるような性格はしていない。
恩は石に刻め、恨みは水に流せというやつです。
「最近は救助案件ばっかりだったんで深くに行き過ぎたのかも」
「なんにせよ、アレがうろついてるならしばらくは裏には行けませんよ」
勝ち目のない相手がうろついている、というのなら。
尚更。
そして心配の言葉を向けられると、肩を落として。
「重ね重ね申し訳ないです……」
「単独行動は控えたほうがいいのかも知れませんね」
とはいえ、久那土会はあまり横のつながりがあるほうではない。
基本はスタンドプレーだ。
「はは……メタラグやるんですね」
「あ、すいません余計なことを…」
携帯デバイスで連絡先を交換して。
歩き出す。
「今日は帰って盛り塩して、半日くらい物忌みします」
「それではまた」
シュエットさんか。
ミア・コレットからのメール。
後で送ったら、読んでくれるかな。
■シュエット >
「えーと。これも、個人的な……独り言みたいなものですけど。
救助活動、いつもありがとうございます。
きっと神は見ておられることでしょう」
そう言って腰を折った後に、両手を合わせて祈りのポーズをとる。
祭祀の組織の一員として彼女達に感謝はできないが、個人としてならいくらでも感謝できる。
それならば、こうして顔を合わせた意義は決して小さくないだろう。
「アレについては、祓使で対処しておきます。
対処に何日かかかる可能性もあるので、そのように自粛していただけるのであれば、
それが一番かと」
困ったように笑う。
そう、アレへの対処はこれからだ。
審神者と連携しながら、この後またあちらに戻って祓わねばならない。
「え!? メタラグご存知なんですか!? いやぁもう私大っっ好きで……」
「……」
「……こほん」
暫しの沈黙。耳が、頬が、ほんのり赤くなる。
そうして、少女の今後の対応について聞けば、少し目を丸くして。
「流石に久那土会の方は慣れていらっしゃいますね。
そこまでご存知なのであればきっと大丈夫かとは思いますが、
くれぐれもお気をつけて」
そうして改めて深々と腰を折ってマレビトを見送った後、
また裏世界へと飛び込んでいくのだろう。
ご案内:「裏常世渋谷」からミア・コレットさんが去りました。