2024/09/22 のログ
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に『逃亡者』さんが現れました。
■『逃亡者』 >
まぶしさが失せつつある世界を、ひた歩く。
太陽がつくりだした影が、路地を這いずった。
表と裏の境界を、もぞもぞと蠢く、それは……しかし、生きた人間だった。
そうで、あるらしい。少なくとも誰かや誰かの言うことには。
逃げるために。
どこかへたどり着くために。
自分を受け入れてくれる場所へ。
たとえそんな場所が、この世のどこにもなかったとしても。
■『逃亡者』 >
(服を……着替えて……潜んで……それから……)
いまなお落第街に潜んでいるはずの逃亡者――なんて撹乱もそう長くは続かない。
急がなければならない。いよいよ大詰めだ。
ずり、と壁にもたれかかりながら、進む。体力の限界値が、日に日に下がっている。
いまや『氣』を行使せずともすぐ切れる息を弾ませながら、少しずつ。
(…………ここは……)
憶えている。通り慣れた路地だ。
そもそものこと、捜査のために落第街にもよく行っていたから。
二年も、前のこと。
なにもかもを間違えるまえの、あの時代にも。
■『逃亡者』 >
「……っ……」
壁に手をついて、膝を緩めて、息を荒げる。
今しばしの塒にたどり着くまでも、一苦労。
数十年分老いたような感覚だった。この、ほんの数十日足らずの逃避行で。
(だれか……来る……)
日陰に身を寄せ、陰に潜む。
ぞろぞろ、足早に進む一団。
忙しなくして通路を切る様は、しかしきらきらとして、……満たされているようだった。
■ > 『ここから先は危険地帯だ、なーんて。実感湧かないよね』
一団の中のだれかが、場違いなほど明るい声でぼやいていた。
『……せんぱいが聞いたら怒りそうだけどさ。
不思議なもんだけど、全然怖くないんだよ』
叱責に似た声も、飛ばされてはいたけれど。
とても、充実していそうな顔で。
『……だって、みんながいるからさ』
その誰かに、先導していた誰かがふりかえった。
■ >
『だめだよ、夏輝』
■『逃亡者』 >
弾かれたように、路地に飛び出す。
首をめぐらせて、過ぎ去っていった一団の背中を探した。
細い空から覗く忘れられかけた夏の光が照らすのは、
自分しかいない孤独な世界ばかりだった。
「……っぐ、ぅ……」
急に動いて、心臓に負担がかかった。
――戻るはずが、ない。戻れるはずもない。
まだやり直しが効く、結末の覆る未来。
知っていれば、わかっていれば、あんな間違いは犯さなかった。
……少なくとも、あのタイミングでは。
■『逃亡者』 >
「…………ううん……」
またどこかで、不安になれば。
また違う形で、わたしは、誰かに銃爪を引いたのではないか。
薄汚れた紙幣数枚。黄衣を纏った裏切り者のように。
彼は本当に、金銭を目当てとしていたのだろうか……知識の及ばない世界の話。
「…………」
過ぎ去った時に、もしもの妄想に逃げ込むための薬も、もう手に入らない。
離脱症状の苦しみを超えて痩せた体は、まだ動く。
汗じみた掌が、壁面に染みを残す。
過去からも、現在からも、未来からも。
逃げて、逃げて、逃げて――逃げ切って、みせる。
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から『逃亡者』さんが去りました。