2024/11/10 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に汐路ケイトさんが現れました。
汐路ケイト >  
……世界が変わる。

一瞬にして価値観が激変し、世界の見え方が変わるできごと。
汐路ケイトは、幼少期に一度それを経験している。

迷える子羊を導く者あり、神は常世に在りと。
薄暗闇の生まれを経た少女の世界に、一筋の光が差し込んだのだ。

太陽と月の区別のつかぬ、幼きケイトの原風景だった。

汐路ケイト >  
……世界が変わった。

だから、人生において二度目の激変だった。
既存の価値観を打ち壊す経験を経て、少女は女になった。

スクランブル交差点の中央、行き交う人々のあり方。
どこかぼんやりと羨み、そして見送っていた自分以外の存在の見え方。

世界はなんと、まばゆいことだろう。

汐路ケイト >  
(だめ……)

ここから黒街(ブラック・ストリート)を抜けて、落第街へ。
ハロウィンの取りこぼしを探り、保護するか祓魔の準備を整える仕事。
二週間分の薬やら生活費が賄える俸給はかなり割がよく、
普段であれば垂涎ものの案件であるのに。

ぽつんと立ち尽くしたまま、震える手で学生手帳を取り出した。
通話機能を立ち上げ、2コールでつながった。

「……ごめん、なさい。体調がすぐれなくて……。
 帰って、休みます。引き継ぎは第四課の今藤さんに……」

――え、でも。そう言い淀んだ通話先は、日頃の自分を知っているからか気を使ってくれた。
天には冷えた太陽が電灯のように忽然と浮かんでいた。
でも違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。

汐路ケイト >  
通話が終了する。
足がうごかない。
まるで真夏のコンクリートに、靴底が融けてしまったかのようだ。

だらりと体の横に腕が垂れる。
不審げに横目で見てくるものがいた。
半開きの唇に気づいて、ようやく閉じた。
その感覚に違和感。

(朝、のんだのに……)

代替食である血液製剤が、いよいよもってヘドロ以下の何かにしか感じられなくなっていたが、
どうにか飲み下して出てきたのに、まるで効果がない。
ここにくるまでのバスも電車も地獄だった。扉の向こうは更なる苦しみのるつぼだった。

(おなかは、すいてない……)

――だとしても。

汐路ケイト >  
他人を認識するにあたって、まずそういう眼で見てしまう。
若い欲望を抑えきれないように。

心臓が早鐘を打つ。血液が巡る。血液――

「ッ!」

慌てて身を翻し、駆け出した。

「どいて……!」

人混みをかきわけて、ああ、肌がふれる、においがする――
いけない。このままではいけない。

宿泊施設なり、ひとりになれるところ。
痛いどころでない出費だが、そんなことを言っている場合ではない。

――どん、と誰かにぶつかった。

汐路ケイト >  
「あっ、ごっ、ごめんなさ……っ!」

尻もちをついた女生徒に、あわてて手を差し伸べる。
だいじょうぶ、と笑ってはくれたけれども、
視線は、そのシャツから覗く首に、まるで磁性をまえにした金属のように吸い寄せられて――

「……~~~ッ!!」

ぶわ、と全身に高揚感。
かっと熱くなる体を冷やす場所を求めて、失礼を承知で駆け出した。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

何度も口のなかで繰り返せど、あふれるのは涙ではなく餓えたる唾液ばかり。
でも、べつに――がまんなんて、しなくてよくない?

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から汐路ケイトさんが去りました。