2024/11/21 のログ
ノーフェイス >  
「プロを雇うとどうしてもヤラセ感出るしな。
 興味もってもらうんだったら、"よし自分も"って思えるカンジのがイイ。
 要するトコ、キミくらいにあんまり関心ない層も開拓していきたいワケ」

慣れてる相手とだけ商売してもいいが。
高級路線ではあっても、名だたるハイブラのように一見さんお断りな空気はない。

「もちろん、ガチでモデル目指したいなら素材の味を出してもいいケド……?」

どうする?なんて解答のわかったような問いかけを、くっくっ、と楽しそうに。

『ああー、オッケオッケ。でもこれ痛くない?大丈夫?』
『痕ではあるっぽいけど、ちょっと素材も考えたほうがいいかなー……』
刺青(タトゥ)ならむしろチラ見せする感じがいいけど、これはな……』

隠したい、という意向ならそうするつもりらしい。
たぶん見せたいと言われれば見せる方向でやる連中でもある。

「服装てーのは、まぁザックリ言っちゃえば自己表現(エクスプレッション)対話(コミュニケーション)
 まあわかりやすく言えば、学生服着てれば学生ですってアピールになるし」

なにやら姦しくどう料理するか悩んでる者たちに対して、
刷りたての部誌(カタログ)をめくりながら、のんびりと語りかける。

「金はあるけど拘りじゃなくてなんとなく制服、というのは無頓着ですというコト。
 ……所属と礼式の格好だからな。そもそも。
 シンプルに言やあ、なに着るかでキミはなんなのか、ということを表すワケだ。
 どういうの着たい、どういうのが好き、ってのでもないんだったら――さいしょにこう尋ねようか」

カタログから顔をあげて。
つくりもののような微笑を浮かべて、問いかける。

「蘇芳那由多。キミは何者だ?」

蘇芳 那由他 > 「…新規層の開拓の為の試金石…と、考えればいいんですかねぇ。」

成程なぁ、と相槌を打つ。先ほどから目に光が無い死んでる眼差しだが、あくまで目付きだけらしい。
あと、彼女もスタッフも既に分かっているだろうその問い掛けには「ご遠慮します」ときっぱり即答。
今回のモデルはここまで来たら引き受けるが、モデルなんて自分には荷が重すぎる。

(…いや、でも冬物の宣材モデルも僕にしてはチャレンジャーだけど…)

まぁ素人だし今回限りではあろうが、少年にとっては結構劇的な出来事ではある、現在進行形で。

「…治療しようと思えばできるんですけど、ちょっとした”戒め”でわざと残してるんですよ。
見方によっては炎みたいに見えなくもない傷跡なので…メイクの応用とかでそう見せる、とかも出来そうでは…。」

と、そこまで言ってから口を噤んだ。彼、彼女達はプロだ。自分みたいな素人が口挟む事じゃあない。
ちなみに、痛みは無いが今の季節とかは古傷が疼く、みたいな感じでちょっと痛いときもある。

「自己表現に対話…ですか。僕にはピンと来ないですけど…うーん…。」

自分が知らない世界、価値観、考え方だが出来るだけ自分なりに納得、把握できるように今の言葉を反芻する。
知らないから無知のままで通すのではなく、自分なりに落とし込んで理解はしたい。

「――僕は『凡人』ですが。」

カタログから顔を上げて、作り物みたいな笑顔で問い掛けて来る赤毛の女性に対して。
淡々と、死んだ眼差しのまま…けれど別に死んでいないし枯れても居ない視線で即答。

「…まぁ、こう答えるとつまらない扱いされたり、凡人の定義云々の話になったりしがちですけどね。
あくまで僕の心構え的なものです。当たり前の、普通の、取るに足らないもの。
――ありふれたものだからこそ大事にしたいんですよ。
一度失ったモノは二度と戻らない。…僕はそう思っているので。」

ノーフェイス >  
「あんまりムズく考えなくてイイぜ。
 着てるモンで自分は何者か。どういう人間でありどういう感性の持ち主か。
 そこまで先鋭化しなくても、どういうのが着たいとか、何色が好き
 そーゆートコから考えてく……ああ、着るモノがわからないんだったらな」

組んだ脚をぷらぷらと揺らしながら、蘇芳那由多を黄金の双眸が見つめる。
好奇だが、そこまで入れ込んだ様子は見せない。
あくまで素材として見ているのは、周囲からああでもないこうでもないと言う部員たち。

「対話ってどういうトコから始まるかな。
 お互いの共通点だったり、あるいは相違点から話がふくらんだり。
 興味をそそったり、好感を持たれたり。
 
 あるいは、その逆で。
 着慣れない服を着たり、背伸びしすぎたり、周囲の目を気にしなさすぎたり。
 逆に、気にしすぎていたり、とか。
 TPOをわきまえてるか、人目をきちんと意識してるか……?
 そこらへんブン投げて、表現に全振りしてるヤツもいる。
 まあ要するに、なに着るか・どう着るかってのにけっこう人間が出るワケ。

 極端な話するケド……ほら。
 動物にも、羽を広げて求愛する鳥とかいるだろ?孔雀(ピーコック)とか」

見てくれがすべてではないが、見てくれがまず第一に来るものだ。
あえて学生服を着ることと、学生服しか選ばないこと、選べないことはまた違う。
なにも選んでいない、ということにおいても、人間が出る。
が、続いた言葉には少しだけ、興味の色が増したように目を見開いた。

「思ったよりはっきり、自己を言語化できるんだね。イイんじゃない。
 "凡人"という表現を卑下ではなく――
 喪失という不可逆の変容を基準に、あらゆるものを蔑ろにしない、
 そういう感性の持ち主をそう形容してるワケか。
 キミは『そういう凡人』であり、且つそうありたい、と」

ふうん、と頷くなりに、考える。

「人目を引く、際立つようなモノではないほうがイイだろう。
 言っちゃえば、常世渋谷を学生服でプラプラしてるのは『凡』じゃない。
 でも、そぉだなー。『凡』のなかに、確かに自己を表現するものがそこに欲しい。
 アクセントをすこしだけ差そう。何色がいいかな……」

視線が僅かにそれて、少しだけ思案の色のあとに、少年へ戻った。

「――は、好き?」

彼の、槍の穂先の如く鮮やかな。

蘇芳 那由他 > 「…まぁ、難しく考える程の知識も地頭もありませんので。
ただ…うーん…好きな色…ですか。」

そういえば、考えた事も無かった…好きな色、逆に嫌いな色は?…即答はおそらく出来ない。
なら、今の自分には好きな色も嫌いな色も無いのだろうか?

(…いや、でも自分にこの色は合わないだろう、とか派手過ぎるのは似合わない、とかそういうのはあるから…)

即答は出来ないが、朧げにはあるという事なのだろう。
普段、その辺りを――なまじ私服を着ていないからこそ尚更に…疎くなっていたのかも。
黄金の双眸を、何の変哲も無い…ちょっと眠たげな黒瞳で見返しつつ。
周囲の男女のスタッフ達はまだ少年の服装やメイクの方向性で議論しているようだ。

「…つまり、僕が常世渋谷を学生服姿で…まぁ、ここに限らずずっとそうですけど…。
それで出歩いている、私服に興味を示さないでその姿のままなのも、僕の人間性が垣間見えている、という事ですか…。」

自分自身ではそこまで深く考えた事は無い。
私服に関心が無く、じゃあ制服は予備も何着もあるしこれでいいや、学園にもそのままま行けるし…と。
それではただの無頓着で済んでしまう話だが、裏を返すなら…自己主張を好まない、という風にも取れる。
地味、凡庸、目立たない――常世渋谷では逆に目立つ結果になってしまってはいるが。

(…つまり、僕自身が自覚や意識してないだけで僕の気質とか考え方が滲み出てるのかな…)

改めて考えてみると、矢張り割とつまらない人間ではないだろうか?と思う。
だが、それはそれだ。考え方――スタンスの話になるが、『凡人』でありたいと自分がそう思っているのだから。
こちらの言葉に、多少なりあちらに響いたものはあったのか、少し好奇の色が強まったように思える。

「…目立ちたい、活躍したい、その道のトップになりたい。
勿論、それは凄いと思いますし僕は尊敬します。
けど、それはそれ。僕はだからこそ『凡人』らしく当たり前の、目立たない、地味ーな人間で構いません。
それは、誰に言われたからでも影響されたからでもなく、僕がそうありたいと思っているからです。」

本当に凡人とは言い難い――ある人からは『非凡人』と呼ばれているし。
それでも、心構え…『凡人』である事を忘れない。当たり前のモノを当たり前と切り捨てない事を。

「…色…アクセント…ですか。派手な色彩は正直僕自身はあまり――」

と、言い掛けた所で『青』という言葉に一瞬、ほんの一瞬だが少年の動きが止まる。
僅かに、己の内側の【槍】が疼く感覚。それを感じながら少しの間だけ目を閉じて。

「好きか嫌いかでいえば好きですね――あと、青い色彩には何度も助けられたことがあるので。」

なんて、婉曲に答えながら小さく笑った。この人は”分かって”口にしたのだろうか。
もしくは、純粋に彼女のセンスや考えによるものなのかもしれないが。

ノーフェイス >  
「たとえ『凡人』だって言っても、そこにいるひとりの人間なワケだろ。
 目立たなくて取るに足らないものだとしても
 だからこそ、視られる。認識されるし、かけがえのないモノなワケ」

ひょいと立ち上がって、肩をぽんぽん、と叩いてみる。

「どこかの誰かに大事にされ得る存在なんだろ、キミも?
 それが『凡人』の価値観であるという論理に則るならさ。
 そう考えるならばこそ、自分に無頓着なのはいただけない。
 キミにとって『凡人』というのは、キミの人間性を指す事実ではなく、
 そう在りたいという理想像――……なワケだろ?」

自己に無頓着な存在は、果たして『凡人』であるのか。
哲学的な問いであるけれども。
なにかを罷り間違えば、そして気づかぬうちに、
人間は、その『凡人』から逸脱する。してしまう。

「ボクはおそらく、キミのいう基準からすると『非凡』だケド。
 蘇芳那由多個人をこうして認識し、興味という感情を向けている。
 そしてボクがこの感性で認識するキミは、果たして。
 キミが在りたい『凡人』に、映っているだろうか――そういうコトさ。
 表現(エクスプレッション)対話(コミュニケーション)。ちょっとは伝わったかな」

指をぱちんと鳴らして、数階立ての店舗を示す。
ファッション求めるなら、金さえあれば困らない品揃え。

「その、守り神のような青色を差して――『凡人』をここでコーディネートしてみなよ。
 アドバイザーもいるワケだし、キミ自身が練り歩いて選んでもイイ。
 その保護者さんが呆れないように、セルフプロデュースしてごらん。
 今回は初回サービス。つぎからは……お勉強かな」

凡人になるのも楽じゃないね、なんて。
愉快そうに笑ったのだ。んははは。

蘇芳 那由他 > 「――まぁ、結局は…そうですね、『誰か』には見られているのは間違いないでしょうし。」

凡人であろうが非凡人であろうが。目立とうが目立つまいが。
そこに居て、認識できる限り『誰か』の目には留まるもので。

立ち上がった赤毛の女性に肩をぽんぽんと叩かれれば、全くその通り、とばかりに軽く降参ポーズ。

「――人間性ではなく理想像ならば、『凡人』であろうとするのも楽じゃあないって事ですね…。」

理想は理想だからこそのものであり、実現しようと手を伸ばすのなら艱難辛苦は幾らでもある。
そして、少年の基準からすれば赤毛の女性は『非凡』だとして。
逆に赤毛の女性の基準から見て少年は『凡人』であると言えるだろうか?
…そもそも、常世渋谷で普通に学生服姿で歩き回って平然としている時点で…少し”ズレ”がある。
その時点で、彼が重んじる『凡人』からは外れていると言わざるを得ない。
つまり…無頓着ではいけないという事だ。何事にも、そして服装にも。
『凡人』ならば、せめて溶け込むように目立たないように、最低限のコーディネートはして然るべきなのかもしれない。

「…こう、何となくは理解出来た…気がします。
…セルフプロデュース…うわぁ…滅茶苦茶難題じゃないですか…。」

彼女が指を鳴らして示した店舗を改めて見渡して…溜息交じりに苦笑を漏らす。
「青」を取り入れた、あまり派手に過ぎない冬物…セルフプロデュース?その道のプロとも言える人達も居るのに?

「…それを言うなら、ただ生きるだけも案外楽じゃないと思いますよ。」

愉快そうな赤毛の女性に、肩を竦めてみせながら…議論はもう終わっただろうか?と、スタッフに視線を向けて。

「…あの…すいません…何かこの人からセルフプロデュースしてみろ、とか無茶ぶりされたので…。
ちょっと店舗の商品を見て回っても…?それと「青」系の何かアクセントがありそうなのを教えて頂けると…。」

などと、スタッフに声を掛けていく。地味で控えめだが社交性は普通にあるのだ。
少年は、スタッフのアドバイスを取り入れつつ、方向性は自分で決める事にしたらしい。
完全にセルフプロデュース、とは言えないかもしれないが…誰かの助けを借りる事は恥でも何でもない。
むしろ、今だからこそその道のプロのアドバイスほど信頼できるものはないのだから。自分みたいな素人には特に。

ノーフェイス >  
「『保護者』サンがキミのなにを見てそう言ったのかはわかんないケド。
 ボクがキミのコンセプトを提案するなら、そうなる。
 プロデュースまで行くと――ま、ボクがそもそも『凡人』から遠いからな?」

道は正しく真逆。この世で唯一かつ頂点を目指す存在だ。
なによりも、そうして周囲に着飾らせるよりは。
目指すべき理想(モノ)がある人間に、自発的に思考させて歩ませることを望むから。

「どうしても派手になっちゃうから、自分で選びな。
 ――青を差したのは、自信がないと黒一色に逃げがちだからだよ」

すれちがい様に、とん、と背中を肘で小突いて笑って。

「両腕に炎のパターンを見せるメイクも、イイんじゃないか?
 キミ自身の、自発的な提案だ。
 ……それが許される場所。許す相手。そして見合うだけの装い。
 それが揃う場所や季節なら、それもいい。対話(コミュニケーション)さ。OK?
 ――じゃ、女の子ひっかけてきまーす♥ Bye(じゃね)~」

そう言って、自分は帰るつもり。
那由多を取り囲む者たち、あるいは店舗で接客している部員からも口々に見送られながら。
彼自身のセルフコーディネート。自ら願う『凡人』の自己表現を期する。
それがこの部活の部誌(カタログ)宣材の一枚を飾ることになる。

「せっかくなんだから、楽しみなよ。『凡人(ひと)』並にね!」

ノーフェイス >   
――果たして。
道行く者たちで、少年を選んだのは決して無作為(アトランダム)ではなく。

「ああいうタイプもいるのかぁ」

吐息が白く凍る季節。
掌に、手帳タイプの革張りの本が。記されたるは図式、槍が描かれた頁。
白黒(モノクロ)の具象に、しかし、青い穂先を視るのだ。

「生と死に対する感性――むしろ模範的ともいえるのかも、な」

黒き御方の意向の委細は判らぬとも。
担う者がいなければ迷わず手を伸ばしただろう、あの槍の所有者がどんな人間なのか。
ある程度、興味は満たされた。彼もなにか得るものがあればいい。
そんなことを考えながら、歩き慣れた若者の街を、非凡が往く。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からノーフェイスさんが去りました。
蘇芳 那由他 > 頂点を目指す人と、凡庸を地で行く人。道は限りなく正反対であり、だけれど――…

「っと……まぁ、僕も確かに黒とかは無難だと思ってる所はありますけど…。」

軽く通り過ぎざまに彼女に背中を肘で小突かれて。僅かにつんのめりつつも苦笑い気味に。
無難に、冒険しないように、目立たないように。どうにもそこは性分になりがちだ。

「…あ、ハイまた何処かで――…って、ナンパ行くのかあの人…。」

そのくらいの気軽さとか僕にもあればいいんだけどなぁ、とか変な所で羨ましがりつつ。
だけど、あの人はあの人、自分は自分なので。
スタッフに促されて取り敢えず色々と試着、というか商品を見てから決めようか。

そうして、蘇芳那由他――『凡人』を目指す少年が四苦八苦して臨んだ結果。


【Adam et Eva】の今冬の部誌宣材の一ページに少年がモデルとなったソレが掲載される事になる。

――青い炎が見え隠れする、小綺麗で目立たず…だからこそ”浮いていない”。
きっと、少年だと気付く学園の知人友人も居るかもしれないが、それはそれである。

蘇芳 那由他 > ――【槍】は呆れたように少年の内側で薄っすらと蒼く輝く。

少年は気付いていなかったが、【槍】は気付いていた。
――そして。

恐怖を感じないからこそ、何処までも死を当たり前に捉えるという少年のソレに。
――彼女か、使徒か、あるいは別の誰かが気付くのも遠くはあるまい。

最初から『非凡』だった少年が『凡人』を目指す。これはそういう物語だ。


蘇芳 那由他 > それはそれとして。

後日、宣材写真を先に見せて貰って謎の羞恥心に悶えたのは言うまでもなかった。
あと、後に部誌が出た後にクラスメートとかに質問攻めにあったのも言うまでもない事である。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から蘇芳 那由他さんが去りました。