2025/01/11 のログ
ご案内:「裏常世渋谷 ギャラリー「The SEVEN SINS」」に龍 翠蓮さんが現れました。
■龍 翠蓮 >
「はぁ………。」
裏常世渋谷、霧の中のギャラリーにて。
ため息と共に一人退屈を持て余すオーナーの姿。
手にした黄金の煙管に火もつけず、ペンかバトンのように指先でくるくると回し、
無聊の慰みにしている。あまりよい態度でない。
「いつもの事とはいえ、お客様がいらっしゃいませんね……。
嗚呼…折角仕入れた素材も、磨いたはいいですが相応しいモチーフや形が思いつきませんし。」
つまるところ、閑古鳥の鳴く店舗事情と、創作意識に対する良い刺激の無さに苦しめられていた。
傍から見る分にはただ退屈を持て余しているだけだが、これでも本人は苦しんでいるし悩んでいるのである。
■龍 翠蓮 >
特に苦しいのが創作意欲を刺激する物事がない、という所だった。
偶然とはいえ、折角手に入れた希少な素材である。
満足のいく形に仕上げなくては勿体ないし、何よりも納得がいかない。
ギャラリーに人が入らない事は、まあまだ許容できる。
が、こちらに関しては割と深刻であった。
「折角の貴重な素材を…嗚呼、発想が湧かないばかりに死蔵とは……我ながら情けない事です。」
ため息を吐きながらエントランスの吹き抜けの階段へと寄りかかり、
くるくると回転する黄金の煙管はその速度を増していくばかり。
ここ暫くはこうして過ごす事が常になっている。
遠慮なく言うならば、割と重傷であった。
今、こうしている中でお客が来ようものなら、恥ずかしいとかそういうレベルではないだろうが、
それでも止められないでいるのである。
重傷と言わずして何と言うべきか。
■龍 翠蓮 >
「……掃除にでも行きましょうか。」
ふぅ、と憂いを残すため息ひとつと共に、回転させていた黄金の煙管を止めると、
まるで手品のように煙管はしゅるりと消えてしまう。
一度バックヤードに戻り、掃除の為の道具…といっても、使い古しの
拭き道具などではなく、綺麗なクロスや埃取り、掃き掃除用の道具を持って
チャイナドレスのオーナーは戻って来た。
そのまま、それぞれの部屋を巡って掃除を始める。
やる事は意外と多い。
ケースに積もった埃の掃除に床の掃き掃除、最後に丁寧な拭き掃除。
1つの部屋でも完了が大変な掃除を、7つもの部屋で行うのである。
だが、掃除を始めるうちに徐々に鼻歌が混じり、機嫌が良くなっていく。
特にアクセサリなどを収めるケースを綺麗にすると、実に良い笑顔。
「やはり埃取りは大事ですね。
塵が残っていては、ケース越しとはいえ折角の品の見栄えが損なわれてしまいますもの。」
収められたアクセサリ等を美しく見せるには、収める場も綺麗であるべき。
掃除のひと時は、オーナーにとっては心の洗濯でもあった。
発想は湧いてこないが、掃除が進むたびに精神がすっと純度を取り戻していく。
■龍 翠蓮 >
「――――――さて。」
一通りの掃除を終え、掃除道具をしまい終えて。
白いチャイナドレスのオーナーは軽く首を傾げる。
掃除作業は良い。
精神が掃き清められるような感覚がある。
創作意欲への刺激がなく、腐っていたしばし前が嘘のようである。
だが、それでも良い創作の為の案が出てこないというのは如何ともし難い。
首を傾げ、どうするかと悩み――ふと目についたのは、「第八の部屋」。
七つの大罪をその名に掲げた各展示室とは異なり、唯一名前を与えられず、閉じられた部屋。
ふむ、と頬に手を当て、かつん、と足を閉じられた部屋へと向ける。
「……久しぶりに、少しあの部屋の様子と、掃除もしておきましょうか。」
かつんかつんと、赤いヒールが音を鳴らし、無名の部屋へと歩みを進める。
扉まで辿り着けば、取手へと手を掛け、重々しい音と共に扉を開き――
「……嗚呼、皆、久しぶりですね――――」
重々しい音を立てて、名の無い部屋の扉は閉じられた。
ご案内:「裏常世渋谷 ギャラリー「The SEVEN SINS」」から龍 翠蓮さんが去りました。