2025/04/08 のログ
ご案内:「常世渋谷 底下通り」にセロさんが現れました。
■セロ >
夕暮れ。常世渋谷。
底下通りと呼ばれる雑多な街を歩く。
サクラ、という樹木に咲く花を見た帰りに偶然迷い込んだ場所。
異界人……ここでは異邦人、と呼ぶのだった。
異邦人たちが多いようにも感じた。
どこからか魚の焼ける匂いがした。
ユンタル(こちらの世界で言う移動屋台)も多い。
夕飯まで時間があるし、少し買い食いでも試みようか。
■セロ >
屋台でパンが売っていた。
その中でもナッツや干した果物が練り込んであるパンが目に入った。
美味しそうだ。故郷の味に近かったら嬉しいと思う。
ただ、その期待が枷だと感じた。
私は今、あのパンに期待しすぎている。
もし、ベル・エポックのものと全然違う味だったら私は失望するかも知れない。
それはこのパンを作った者に、引いてはこの世界に対して失礼だ。
私は食事と冒涜を同時に行う気はない。
ここは違う店を選ぼう。
■セロ >
そこから少し歩いて匂いに足を止めた。
なにかの動物のものと思われる大きな肉を挟んだ“マンジュウ”だった。
「これはなんですか?」
店主に聞くと、角煮まんじゅうと言う料理らしい。
トンポーローという味のついた豚肉を挟んだまんじゅう。
悩む。美味しそうだ。
けれど私の一口に対して明らかにサイズが大きい。
これだけで夕飯になってしまうかも知れない。
値段は……決して安くはない。
食べたいけれど、もう少し小さいサイズはないものだろうか。
空を仰ぐ。
ニュープロヴィデンスの仲間たちだったら。
ワイワイ言いながら結局買いそうではある。
■セロ >
隣の移動屋台は少し趣が違っていた。
ジドウシャという鉄の箱の表面がよく磨かれている。
高級路線だろうか、と身構えて値札を見るとそうでもない。
クレープ、という料理を売っているようだ。
薄く広げた小麦を焼いたものに甘いものや塩辛い食べ物を挟んで食べる。
ある程度、小さいサイズも売っているし良いかも知れない。
風が吹いた。
桜の花びらがどこからか舞い込んでくる。
それにしても……
ジャム?みたいなものはなんとかわかるけれど。
チョコバナナクレープ?
希少糖ストロベリークレープ?
味の想像がつかないものばかりだ……
これは少し躊躇する。
■セロ >
未知で溢れてる世界で既知に期待したり。
未視感に戸惑ってみたり。
存外にこの世界を楽しんでいるんじゃないか、セロ。
心の中で小さく嫌味を言って散歩を続けた。
空腹ではあるけれど。
自分が何を食べたら満足するのかすらわからない。
帰りたい。
帰りたい。
そう、突然思ったけれど。
それが異邦人街のアパートのことなのか。
元いた世界のことなのか。
今ひとつ確証が持てずにいた。
■セロ >
ふと、考えながら歩きすぎていたことに気付く。
どこまで歩いてきてしまったんだろう。
気がつけば、瘴気。
周囲には露店。
それも巨大なネズミや羽の生えたカエルを調理している。
ふと見上げた看板には。
『観光客は注意!! ゲテモノストリート』
と書いてあった。
「すいません間違えました」
踵を返してクレープのほうへ向かおうとする私の肩を掴む屈強な男の手。
お、押し売りだぁー!?
その日のオヤツは羽の生えたカエル『ピチュ=ッパイガヤ』の串焼きになった。
みんなも底下通りをぶらつく時には気をつけられたし。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」からセロさんが去りました。