2025/04/22 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にミアさんが現れました。
ミア >  
薄暗く濁った空。
パースが歪んだビルの上。
ここは異界、裏常世渋谷。

時間としては17時程度なのに、さっきから空の明滅が激しい。
何か大きい力を持った存在がいる。

単眼鏡で慎重に周囲の様子を伺う。
すると、離れた交差点に異形を見た。

3メートルほどの球形のボディ。
無数に生えた細い手足に支えられ、キョロキョロと周囲を見る顔。顔。顔。
球体にはびっしりと顔が並んでいた。
その顔もまた、(ひず)んでどれも顔のパーツの整合性が取れていない。

禍津神か。
どこから流れてきたかわからないけど。
なにかのタイミングで封印か、お帰り願うしかない。

神は死なないのだから。

禍津神 >  
交通標識や無人の車両を薙ぎ倒しながら歩く。

「ほのやっ! そとにうまれしかぐつちのおとしご」

そのまま黒い手足を蠢かせて歩く。
破壊を伴う歩み。

ミア >  
ここからじゃ聞こえないけど。
何かを喋っている……ちょっと手に負えないかも知れない。
古い神なんか相手にできる手段はない。

今日はできるだけ情報を収集して、
シュエットさん伝いに祭祀局祓除課《祓使》に報告か。

嫌な汗が出てきた。
見ているだけでこれだ、接近遭遇だけはできない。

ショルダーバッグから適当な甘味を取り出して食べた。
月餅だった。コンビニのスイーツもなかなか良い。

こういう状況じゃなきゃもっと楽しみたかったところだけど。

禍津神 >  
「かみなるほうへ! かみなるほうへ!」
「かやっ! かやっ! かやっ!」

無造作に歩く。それだけで周囲の空間が歪み果てていく。
異界に住まう禍津神の力はその意思に関係なく環境に影響が出る。

その時。
遥か彼方の少女を見る。

「くっ………」

「くらみつはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫。神の周囲のガラスが全て破砕されて降り注いだ。

ミア >  
「………っ!! まずい!!」

目が合った!? この距離で!!
慌てて単眼鏡を畳むとバッグに入れ直し。
月餅の包み紙をポケットに押し込んで逃げ出す。

何かを叫んでいたけど、人間の可聴域を超えている!!
意思の疎通は不可能だ!!

禍津神 >  
叫びながら直線に少女に迫る。

「ほのかがびっ! うみだしひのこ!!」
「かやっかやっ! さかさよもつのひとのにえ!!」

直線上に。
壁や、看板や、段差や、あるいはたまたま存在した怪異を蹴散らしながら。
贄を求めて異形の疾駆。

ミア >  
追いつかれる!!
イチイチ走ってたら死ぬなぁこれ!!

「エトランゼーッ!!」

影がヒトの形を取る。
単衣を着た女性は重力を操作し、私の体を浮かせる。
これが私の異能。

「汝の名は、キクリヒメ!!」

ビルからビルへ、ふわりと浮いて飛び移りながら逃げる。
異界の入口……一番近いところまでッ!!

禍津神 >  
「ごぉぉぉぉぉぉ!!!」

少女がビルに着地すると同時に。
全ての目が怪しく光る。
少女の足の神経に障る呪詛。

そして同時に、そのビルに体当たり。
破砕されるビル、揺れる世界。

ミア >  
「な!?」

足が動かない!!
邪視で神経を灼かれたの!?

そのまま怯んだ隙に足場を崩され、落ちる。

「くっ……お願い、キクリヒメ!!」

重力操作でふわりと落ちていく。
でも、今はこれが限界。

古き神の前に落ちていく。

禍津神 >  
「くっ───」

眼の前にゆっくりと落ちてくる少女に。
全ての顔が口を開く。

「闇御津羽……」

それきり、何一つ動かず静かになった。

ミア >  
足が動かない。
眼の前には巨大なる神。
死んだか。

どうせならメタラグのストーリーモード、追加分まで全部見てから死にたかった。

どうしようもない。
異界のビビッドカラーをしたアスファルトに座り込む。

禍津神 >  
「にえ……」

数多ある手の一本を動かし、人差し指に当たる部分で少女のバッグを指す。

「にえ」

ミア >  
「………?」

ショルダーバッグに入っているものはあまり多くはない。
それでも、怪訝な顔でバッグの中を探る。
まんじゅうが一つ見つかった。

取り出して手のひらに乗せる。

禍津神 >  
「くらみつは、ひとのいずるばにありしにえ」

まんじゅうをゆっくりとした動きで手に取ると。
顔の一つが貪るように食べた。

「でりーしゃす」

そう呟くと少女に背を向け。
元いた場所へ、轟音に等しい足音を立てながら去っていった。

ミア >  
呆然と禍津神を見送った。
気がつけば、足が動く。

「怖かった」

まだ危険な異界であることに変わりはない。
それでも踏みしめるように自分の足で立って。

「本当に終わるかと思った」

そう独りで呟いて、異界を出るために歩を進めていった。


シュエットさんにはこう報告しよう。
彼の古き神は黒餡のまんじゅうが好みだ、と。

ご案内:「裏常世渋谷」からミアさんが去りました。